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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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九人は村人と相対する

 ファルガ村は外敵からの侵入を防ぐための簡易的な木の柵に囲われており、入口以外はとても緩やかでなだらかな堀が作られており、見張り台の残骸が堀の中に捨てられていた。


 茅葺屋根の家が三軒四軒連なっており、また少し離れてると、同じような民家がまとまっていた。人の住まう部分から離れると、厩があるようだった。


 村へ入ったはいいものの、出迎えの一つもなく、全員が九人へ向けられる不審な視線を民間の中から感じていた。


 事前に村人が九人の素性を知ってしまえば、九人で中に入る意味が無くなるので、こういう反応になることは承知の上だったが、覚悟をしていても、心地よいものではない。


「村長の家へ案内するで」


 空気を察したジョンソンが、取り繕いながら先頭を歩きだす。


「なんかあんまり歓迎ムードではないみたいですね」

「警戒されるのも仕方ありませんよね。村の方たちからすれば、はぐれ者の一団にしか見えませんからね」

「そっ・・・そうですよね」


 奇礼は蔵権に会話を振ったつもりだったが、玉枝に言葉を返されて、どもりつつ返事をした。


「それだけじゃねぇけどな・・・」

「それだけじゃないって?」


 ジャックの呟きを、唯一ジャックと打ち解けている夕大は聞き逃さず、言葉を捕らえた。


「村の人間は俺達が助けを求めに行ったのを知ってる。それで俺達があんた達を連れてきたのにも関わらず、このありさまなのは、ユウダイは分かるか?」

「期待外れ・・・じゃないな。この風体だから期待されていない」

「第一印象は確かにそうだな」


 全員が村人と違いのない素朴な服装に着替えており、ギルドからの派遣員とも、国の兵とも見えない人員九人が、救援を求めに行った二人と共に帰ってきた。素性が知れないのもあるが、なけなしの低賃金で雇われた、盗賊とも変わらなそうな雰囲気を持った団体を警戒するなというのがおかしいものだった。


「他にもあると?」

「俺達は行政機関の人間を信用していないんだよ。この村には国境沿いなのに警備兵もいないし、ギルド員も派遣されてこない。行政機関が関与するのは税に関する事だけ。搾り取るだけして、与えてくれることはない。身を守るのも自分達の仕事、畑を耕すのも、家を作るのも、俺達は自給自足で成り立っている」

「・・・・・・つまり俺達が外から来た者だろうと、国の者だろうと、どちらにせよ信用には値しないってことか」

「そういうことだな」


 思うところがあったのか夕大はそれ以上何も言わなかった。


 石壁作りの年季の入った家の前にまで案内されると、その家主であり、村の長であろう、手も足も瘦せ細った老獪が、村人の噂に先に訊きつけたのか、家の前で待っていた。


「どうぞ、入りんさい」


 村長に言われるがまま、室内に入った。ジョンソンに続いて、眉を少しだけ顰めながらカエサルが九人の先頭となって入って行く。次に奇礼と蔵権が入って、四万十が入る。デイモンと京介が入った後に、玉枝が入ろうとしない夕大に声をかけた。


「入らないんですか?」

「・・・ここで聞いとく」

「そう・・・ですか」


 石壁に背中を預けて、腕を組んで動かなくなった夕大を一瞥してから玉枝もジャックと共に入室した。


「村長のマクノヒーいいます。おたくらは、どういった人達で?」

「私は王国第五師団の軍長カエサル・ヴァルスです。ジャックさんとジョンソンさんの要請を受け、この村にやって参りました」

「王国第五師団の軍長・・・?」


 マクノヒーはカエサルの姿を上から下へと選定するように見やる。筋肉質で健康体で、青年から中年に差し掛かろうとしている男。だが服装は師団服ではなく、みすぼらしい私服。ただ一端ならならぬ覇気は長年の直感からマクノヒーは感じられていた。


「服装については、師団員全員で村に入ると野盗団に警戒されると思い、私服で失礼します」

「はぁ・・・、しかし師団員さんにしては老若男女様々やが・・・」

「第五師団員の中でも、野盗団に対抗できるスキルを持った人選です。他の師団員達は待機させています」


 スキルと聞いてマクノヒーの表情が強張った。野盗団の中核もスキルを持った人間であり、異世界転移してきた人間達は畏怖の対象であり、畏怖は迫害と差別を生む。ファルガ村の人間は被害者であり、より一層、そうであった。


 カエサルとデイモンは理解していた。この家には村長以外に複数の人間が滞在している。扉の奥に、敵意を持った人間達。微かに聞こえる布擦れの音に、呼吸音。第五師団に長くいて、戦闘経験が豊富な二人だけ、入室と同時に気がついていた。


 カエサルはもしもの事を考えて、与える情報を絞っている。後備えの師団員の場所を明確にしないのは、もしも、この村が既に野盗団の手に落ちていて、自分達をおびき寄せる罠だった場合に備えて。仮に村人が自分達を野盗団の人間と思い込み、反旗を翻す場合に備えて。


 マクノヒーとカエサルは、指導者として、司るものとして、相手に百の信頼を置くことは無い。


 カン! カン! カン! カン!と、金属音が、村中に響き渡った。


 その場の全員が何事かと思い、外へと飛び出した。





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