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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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九人は自己紹介する

 ファルガ村へは近隣の村まで馬車で移動し、それから九人と村人二人と共に徒歩でファルガ村への道中、誰も口を開くことはなかった。それは四万十が作戦が大まかに決まった後に自己紹介後に取った行動のせいだというのは誰もが理解していた。


 四万十はルファニオスを含む第五師団を会議室から退出させて、転移者九人だけを残し、口を開いた。


「皆さんの事は資料で理解しています。カエサルさんに、高取さんに、出町柳さんに、青空さんに、張磨さんに、壬生さんに、デイモンさんですよね。しかし、先程の通り、私は小心者なのです。これから仕事を共にする人間の事を資料だけでなく、仲間として知りたいのです。皆様はこの世界に来た時にスキルを持たされたと思います。私のスキルは開示。私と契約をした人たちの情報を知れるスキルです。カエサルさんは、既に契約しています。どうか皆様も私と契約してもらえないでしょうか」


 四万十は革の鞄から契約書を取り出して、会議室の丸テーブルの上に置いた。


「開示ね。言わせてもらうけど、それっておれら側のメリットなくない?」

「と、言うと?」

「四万十はんはスキルの内容しか言うてへんやん。なのにおれらはスキル以上の情報を四万十はんに握られるんやろ? 五分五分の取引とは言えへんなぁ」


 京介と奇礼が契約書を取ろうとしていたところに、蔵権の言葉で慌てて、二人はテーブルの真ん中の元の位置に戻した。


 カエサルも契約しているという文言が入っているだけで、じゃあ契約してしまおうと気を緩めさせたが、口八丁に長けている蔵権には大きい餌過ぎて看破されてしまう。それも四万十の予想の範疇であった。 


「確かにそうですね。これは失礼しました。私の事を知ってもらいたい欲と、小物が顔を出してしまいました。では契約は置いておいて、全員の自己紹介と共にスキルも説明してもらいましょう」


 既に場は四万十が動かしているが、カエサルか四万十しか場を掌握できないので、蔵権も提案を飲むしかできない立場だったので頷く。


「張磨蔵権や。スキルは言霊や。まぁ難儀なもんで、言ったことを実現するんやのうて、落ちありの話すれば、そのどこかの内容が実現する癖のあるスキルやな。あんま噺振らんといてな、何が起きても責任は負えへん」


 軽く自己紹介したところで、次は奇礼が口を開いた。


「壬生奇礼です。オレのスキルは発火です。だけど一度燃えたものは炭化するまで、次の対象を燃やすことはできません・・・」


「わーはデイモン。転生前の名前は南部晴政じゃ。スキルは模倣じゃ。相手を模倣するのではなく、わーの名前になっとる南部晴政の模倣しかできん。おんしらが南部晴政を知っとるなら、もそっと強うなれるかもしれんの」


「雁金來亞。スキルは変身。一度変身したら変身した時間から一日はそのままだからよろしく」


「カエサルもとい、上益八常です。スキルは切断。この鋏で何でも切断できます」


「高取玉枝です。スキルは造幣です。日本円を作れますが、触れると何らかの不幸が起きます」


「出町柳京介・・・です。スキルは静止です。僕が視界に入れている対象は動けなくなります。僕が動くか、視界外に出ると解除されます」


 最後に残ったのは夕大だったが、夕大は腕を組んで目を瞑っていた。


「夕大さん?」


 京介が夕大にか細い声で声をかけてみても、珍しく夕大は無反応だった。京介は寝ているのかと思って近づくが、寝息を立てている訳もなく、本当にただ腕を組んで目を瞑っているようだった。繊細な京介は、ようやく夕大が腹を立てているのだと理解し、夕大から離れて極力目を逸らした。


「どうした夕大」


 今度はカエサルが訊ねた。するとようやく重い口を開いた。


「すまん。大将」


 最初の一言はカエサルへの謝罪だった。何の事だとカエサルが思っていると、夕大は組んだ腕を解いて徐に契約書を取って、契約者名を記入した。


 四万十と意味を理解したカエサル以外の全員が夕大の行動に驚いてしまう。


「おいおいおーい。おれの話聞いとった?」

「あぁ聞いてた」

「だったらなんで」

「知っといて欲しいからな」


 蔵権に視線を移さず四万十を見つめながら夕大は言う。そこで蔵権とデイモンと來亞が理解した。


「俺は青空夕大。スキルは製作。物を作り上げるんじゃなくて、図面を制作する。素材と組み立てるのは自分でだ。あんた、四万十って言ったか? あんたに質問がある」

「なんでしょう?」

「あんたは神か?」

「いえ、私は人間です。神は皆様がこの世界へ来るときに出会ったアレでしょう」

「じゃあ性分か・・・よく分かった。あんたも俺の事をよく理解してくれよな」


 夕大は怒っていた。ルファニオスも、この場の全員を試した四万十に怒っていた。吐く言葉と裏腹に感情の色がない薄っぺらな言葉は癪に障るが、そこではない。人を試し、目の前にいる人間を、肉塊の消費物としか思っていない精神にだ。


 だから契約して、自分が四万十に対してどう思っているかを開示させた。感情的に言葉で言いたいことだけを言うのは大人として反しているから、心に住まう童心が最低限の抵抗を見せた。


「えぇ。青空さんも私の事を理解して頂きなによりです」


 跳ねっかえり者。恭順する者。支配される者。四万十はどんな人間が来ようと、全て自分の手で掌握できると思っている。それを見透かすものがいたとしても、じゃじゃ馬程乗り切った時が力になると知っているから。


 夕大以外は誰も契約書には触れようとせずに、意気消沈のまま自己紹介を終えて、出発したのであった。



一週間休み

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