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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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八人はポンコツスキル持ち

「ほな、こうなったのも自己責任やな」


 蔵権はのびてしまった男に聞こえない言葉を吐いた。


「ルファさん遅いよぉ、噺家の兄ちゃんが危なかったじゃん」

「勝手に駆けだしておいて、遅いはないだろう。夕大」

「げっ、大将」


 入口から人垣をかき分けて、カエサルこと上益八常がいかり肩で入ってくる。


「玉枝は怪我人の手当てを、ルファニオスは部隊と共に犯人確保と現場の諸々を、他は私と共に来い」

「おん? この噺家の兄ちゃんは大将の知り合い? 」

「お前は玉枝やルファニオスから何も聞いていないのか?・・・・・・いや、いい何も言うな。彼は張磨蔵権。今度我々の部隊に加わることになった仲間だ。そしてこちらがもう一人加わる壬生奇礼だ」

「壬生奇礼です・・・よろしくお願いします・・・」


 肩で息を切らしながら壬生奇礼は自己紹介の挨拶をした。


「なんや、お仲間やったんかいな。ええ飲み仲間になれそうやね」

「そうだな!」

「お前らな! 奇礼が私達を誘導できなかったら、ルファニオスも間に合っていなかったんだぞ! 今回は助かったはいいものの、個人的行動は厳罰対象だからな!」

「「へーい」」


 反省の色のこもっていない返事に、一瞬手を出してしまおうかとカエサルは思ったが、市民の目もあるので渋々思いとどまった。


「あ、あんたら役人の人達だよな」


 無茶が過ぎる二人に釘を刺したカエサルが、現場の状況を待っていると、人垣を押しのけて一人の無骨そうな男が声をかけてきた。人々からは汚いとか、臭いとか、鼻つまみ者の扱いを受けていたが、男は気にしていなかった。


「そうだが? あなたは?」

「俺はファルガ村のジャックだ。あんた達に用がある」

「そうですか。ではもう少し落ち着いた場所で」

「いいや! ここで言わせてもらう! あんたたちは今まで俺達の救難信号を無視してきたんだからな。俺達の村は毎年、野盗団に襲われている。食料は取られるわ、上納するものまで取られるわで、もう村には健康的な人間はほとんどいない」

「そんなんギルドの正式な手続きを踏めばええやん。てか警備兵はおらんの?」

「警備兵は買収されたし、それを聞く耳も持たなかかった。ギルドは正式な手続きを受領しなかったから、現状がどうなっているかなんて誰も知らない。俺達はずっと助けを求めていたのに、お前たちは見ないふりしてきたんだ」

「まぁ落ち着けよ。野盗団ってどれくらいの規模なんだ?」

「三十人程度の野盗団だよ。そこらへんの荒くれ者を集めた野盗団だけど、三人だけヤバい奴らがいる」


 人数を訊いて、現在の隊を全部投入すれば死傷者は出るかもしれないけど制圧はできるだろうと、夕大は考えたが、ヤバい奴らと聞いて、これまでの経験上から嫌な想像をした。


「野盗団を牛耳っているのは転移者だ。そいつらは変な力を使って、俺達の村の逆らうやつらを全員見せしめに殺した。あんた分かるか? 目の前で肉親が首切られる瞬間の感情が。無念と恐怖が張り付いた顔で命乞いをする声を聞いたことあるか?」


 ジャックが語る内容はとても凄惨だった。ざわめいていた周りの人垣の一人が声を上げた。


「助けてやれよ!」

「そうだ何やってんだ!」

「助けてやれよ! そのために高い税を支払ってるんだろ!」

「誰のおかげで飯が食えてんだ!」


 その一声でジャックと同じように、この国の現状に不満を抱えていた人間達が鬱憤を晴らすためだけに同調したように、カエサル達に向かって馬頭を口々にさらけ出す。


 カエサルはジャックがファルガ村の出身と聞いて、こうなることを予期していたが、無理やりにも静止してはまた反第五騎士団の人間達に難癖をつけられる可能性があるので、静聴するしかなかった。


「皆さん、落ち着いてください」


 そこに声高々に男の野太い声が辺りを劈いた。全員が何事かと一斉に声のする方を向いた。時代背景に似合わないような黒い背広を着た長身の男と、その隣に筋骨隆々の不愛想な男が護衛のように立っていた。


「シマント様だ」


 群衆の誰かが呟いた。


「彼の住まうファルガ村は悪辣な野盗団に襲われています。なぜ国は何もしないのか、なぜ助けを出さないのか。それはこの事実が伝わっていないからです」


 四万十の一言で群衆がどよめき始める。


「はぁ! 俺は国に申請して無視されたんだぞ! 伝わってないわけないだろ!」

「そうなのです。彼、ジャックさんは確かに嘆願書を書いてくださった。ですが、それがよからぬものの手によって消されてしまった。この街に住まう皆様ならば、薄っすらと理解できるのではありませんか?」


 この街はエヴァンス領の中核であり、政争のあおりをくらう当事者たちが多い。王位継承で荒れた国、派閥違いの領主が敵派閥の領主の足を引っ張りあう。内政が荒れに荒れている時期。エヴァンス領の住民は、対立するゴバス領主の仕業だと勝手に理解する。


「またあの領主の仕業かよ」

「許せないわ」

「えげつねぇな」

「ですが安心してください。エヴァンス領ギルド総括の私が、正式に受領し、ここにいる王国第五士団の皆様と共に、悪辣な野盗団を討伐してまいります! 国民の皆様の安全安心安寧があってこその国、皆々様が栄えてこその国です。私、四万十はそれを約束致します!」


 天に拳を掲げて宣言すると、群衆から拍手と歓声が沸き上がった。


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