ジョンソン
「今年もあの村に行く」
転移者の親玉がそう言っていたのを訊いた。おいらは耳が良い。だから相手が気配を察知しない位置から盗み聞きができるのが特技だ。山にこいつらがいるのを知っているが、腹をすかせた家族がいるんだ。その特技を使って警戒しながら山菜取りに来るのも、小慣れたものだった。
おいらは別に斥候でもないんだけど、聞いたからには、聞き耳をたてるしかない。これはおいらの私生活に関わることだしな。
「もうそんな時期かー、一年はえー」
奥にいる青と灰色の奇抜な髪色をしたショートカットの女がパンを齧りながらそう言った。
「この一年忙しかったですからね」
親玉の隣にいる優しい顔つきの男も会話に参加する。
「何言ってんだてめー、万年発情して女とよろしくやってっからだろうが。このサイコパスエロザルが」
「痛い御口だね。ヒミちゃんも俺の物にしてやってもいいんだよ」
「お断りだバーカ。てめーのちっせぇイチモツ腐らせんぞ」
「やってみようか?」
「やるか? あぁん?」
「やめろ二人とも」
一触即発の二人の間に冷たい言葉で割って入ったのは、そうなるまで黙って聞いていた頭領だった。頭領の姿は背中しか分からないけど、ぼさぼさの髪の毛に中背のような背丈しか判別できない。村に来ているのはいつもあの優しい顔つきの男だ。
「仲間に能力を使うのは御法度だってのは理解しているよな?」
おそらくきつい視線を向けているのだろう。二人はその視線に咎められて、女は舌打ちをして、男は大きく鼻でため息をついて、そっぽを向いた。
「俺達がまとめあげてんだ。それが喧嘩でもしてたら統率なんて無くなるだろうが。嵌めはいくらでも外してもいいが、仲間内での不和で壊滅したらたまったもんじゃねぇ」
「だから今年も統率力を高めるために行くんでしょ」
「まぁそれは団体を管理するためのモチベーションの維持措置でもあるが、実際問題、俺達が生きていくには物資を略奪するしかないからな。ここにいる奴らは暴れたい奴もいるが、迫害された奴も多い。これが自由だと謳歌する奴もいるな」
「へっ、そりゃそうだろ。せこせこ食料作るなんて馬鹿らしい。出来上がったもの貰って何が悪いってんだよな」
「ヒミちゃんは野蛮ですね」
「てめーは下種だけどな」
「ふっ、誉め言葉ですね。クシロはどう考えるのですか?」
「俺か? 俺は最初から変わらん。こういう枠組みを作った奴に感謝している。奪われる奴も、俺達も、アレの枠組みの中で動く人形のようなもの。与えられた役割を忠実に守る人形だ。意志はあるも、意志薄弱にされている。人殺しも、略奪も、全ては与えられた役割だ。だからお前らも、存分に与えられた役割を全うしろよ」
「やはり貴方に付いてきて良かった。では一週間後に下山しましょう」
「うーし、今回はあたしも降りるぞ。ちょっと疼くんだよね」
三人の話がまとまりかけたところで、おいらは息を殺しながら歩を後ろへと移動させていた。おいらの耳には会話の他に、パキパキと小枝を折るような音が聞こえていたから。それが四つ足の何か、恐らく魔物であろうと予測するのは容易かった。
こいつらは野蛮な人間をまとめているが、それ以外にも魔物を使役しているのだ。あの魔物が誰かに使役されているなんて、聞いたことも見たこともない。そのせいで抵抗すると対人の他に対魔物戦闘も課せられる戦闘になる。おいらの友達の兄貴は魔物に殺された。
こんなにも危険な奴らなのに国は何もしてくれない。領主も取り合ってくれない。おいらは危険を冒してでも斥候の魔物を凌いで山菜を取りにいかないといけない。あのクシロと言う男の言う通りに、これがおいら達の役割と言うならば、そんな役割はお役御免としたい。
おいらは気配を消しつつ、風下に臭いが流れない道を探しつつ、大慌てで下山したのであった。
おいらがこの事実を村に告げると、友達のジャックの鶴の一声で、ギルドに要請を出すことが決まったのだ。ギルドに向かうのはおいらとジャックの二人で、なけなしの食料を持って村を出発した。
一週間お休み




