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九人はポンコツスキル持ち  作者: 須田原道則
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ジャック

 俺達の村は今、飢饉に瀕していた。それもこれも王国が政治的な内紛を何もしないからだ。王位継承者の派閥に入っている領主達が、その派閥の上位に躍り出ようとして、上納品を領土から巻き上げるせいで、俺達下々の民は自分の飯種さえも賄えない始末だ。


 俺たちのような勤勉に働く農夫はまだいい。農夫にもなれずに、力仕事や小売販売をしていた奴らは、犯罪者になる。王都は王都の警備で手一杯で地方に手を回す事は滅多にない。だから王都から離れれば、離れるほどに治安は悪くなる一方で、物乞いならまだいいが、野盗や賊になると更に質が悪い。


 そして最も質が悪いのがいる。


「今年もやってくるんかね」

「やってくるやろ、ここ毎年来とるやないか」

「もう出せるもんもないで、こままじゃわしら死んでしまうわ」

「やけど、逆らってもええことないやろ・・・」

「国は当てにならんしなぁ・・・このままやせ細って死ぬのを待つだけなんかね」


 村の会議で年寄りたちがそんな弱音を吐いていたのを、端で聞いていて耐えられなくなった。


「打って出ればいいんだよ!」


 俺は床を叩いて大声で叫んだ。


「何を言うとるんや。わしら一般人がどうにかできる相手じゃないのはお前も知っとろうに」

「じゃあ、ベンの爺様が言ったように、ただ搾取されて、侵害されていくのを黙ってるだけでいいのかよ!」

「ジャック、同じようなことを言ったお前の兄がどうなったのかを忘れたのか?」


 俺には兄がいた。ただ存在したのは二年前であり、今は土に還った。


 俺達の村には野盗や賊よりも質の悪い団体に目をつけられている。それは転移者を筆頭に置いた、野盗団だ。ただの野盗も質が悪いが、戦闘に慣れているという点を除けば、まだ対処はしようがある。だが転移者は違う。あいつらは人智を超えた力を持っているから、同じような力を持った人間か、それ相応の精鋭部隊でなければ太刀打ちはできない。


 奴らは二年前の秋頃に突然現れた。あいつらは自分たちで働きもせず、人の物を奪ったら、自分の物だと勘違いしている人種だった。話し合いでは埒が明かないのはファーストコンタクトで理解した。だから当時は村一丸となって戦うことを決意した。村の若者たちが総出で戦闘した。しかし、結果は惨敗だった。首謀者であった俺の兄は処刑されて、顔面が誰かわからないくらいに腐敗した姿で、胴体と離れて帰ってきた。


 国は何もしてくれない。辺鄙な村であり、丁度、王位継承の兆しが見えていたころであり、人員を回せる人がいなかった。らしい。本音は俺達の事なんてどうでもよかったのだろう。自分が当事者でなければ、それは現実ではなく、机上で起きた出来事という捉え方なのだろうな。


 ギルドにも依頼したが、ギルドは取り合ってくれなかった。抗議もしたが、やはり聞く耳もたずであった。後で知ったが、このギルドを統括している人間がちょうど変わった時期でもあり、ギルド内部がほぼほぼ崩壊していたかららしい。


 奴らは村からすぐの山間の中に陣を取っていたが、今ではそこに家を建てて、俺達の食料で暮らしている。すぐそこに憎き奴らがいると言うのに、俺達は二年間奴隷のように、国と転移者の野盗団に貢ぎ続けている現状だった。


「覚えている。だから、だからこそ、今度はあいつらを同じ目に会わせてやる」


 奴らは外道だ。人間だが、人の心を失った人でなし共だ。報いを受けさせてやらないと気が済まない。あいつらが死んで地獄に落ちるなんてのは生ぬるい、今生を一秒たりとも享受しているのが許せないのだ。


「打って出るって、どうやってする気や。もう村の若者はお前さんを含め、十数人しか残っとらへんねんで。年寄りや女子供も狩りだすっちゅうんか?」

「違う。ギルドに依頼する」

「何を言うとんねん。ギルドには門前払いされたやろ」

「それは一年前の話だろ! 今は体制が変わったって聞いた! だからもう一回依頼しに行く」

「それが本当として、依頼しに行くのはええが、わしらに報酬を支払えるような余裕はないやろ・・・」

「そうじゃ、そうじゃ。自分の食い扶持さえあるかもわからんのじゃぞ」

「全員家に貯めこんでる食料を報酬にする」

 

 俺がそういうと、どよめきが起こる。


「お前! そんなことをすればわしら死んでまうぞ!」

「ほうじゃ。孫が栄養失調で死んでまうわ」

「今のままでもゆっくりと死ぬだけだろ! だったら何か行動を起こして死んだほうがましだ! それにこれは破れかぶれに言ってる訳じゃない! ちゃんと生き残れる可能性があるから提案してるんだ」

「・・・その可能性ちゅうのは?」

「それは・・・」

「大変や~! 大変や大変大変大変や~!」


 俺が可能性の話をしようとした時だ、村長の家に悪友のジョンソンが息を切らして駆け入ってきた。


「なんや慌ただしい。ほれ水飲め」

「んぐんぐ・・・・ぷはっ、あんがとさん」

「で? 何が大変なんだ?」

「そう! 大変や! あいつらが来よる!」


 俺が村長へ目を配ると、村長は大きくため息をついてから、これからの話を話し始めた。



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