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虹の魔女の婚活事情⑧


 それからまた、ミトレットとアニスはいくつかの舞踏会に参加した。その頃にはもうずいぶんと慣れて、ミトレットは一人で舞踏会に出ていた。とは言え自ら売り込むなんていうのは無理で、求められればカードを渡す、というのを繰り返すだけだったけれど。

 女性の噂話というのはすごいもので、ほとんどカードを配っているだけだったというのにミトレットに声を掛ける女性は増える一方だった。アクセサリーの効果が誇張されて伝わって、着けたら男性に求婚される、という内容になっているのを訂正しなければならなかったが、それ以外は好調と言えた。配ったカードの枚数が七十を超えていて、ミトレットは驚きを隠せない。


「すごいね、アニス」

「ええ。いい調子ね!」


 アニスのその言葉に、ミトレットは眉を寄せる。


「でも、これ以上は作るのが大変だよ」


 アニスはそうなのよねえ、と頬に手を当てた。


「そうねえ。そろそろ制作に集中してもいいかもしれないわ」

「うん。じゃあそうするね」

「でも、まだよ」

「えっ?」


 瞬くミトレットに、アニスはぴらりとひとつの封筒を差し出した。


「実は、領主様から招待状が来ているのよ」

「りょ、領主様から!?」


 なんでまた、とミトレットは仰天する。目の前の封筒は確かにきらきらした装飾があって、封蝋もしっかりしたものだった。それだけで封筒を差し出した相手の格式がわかるというものだ。

 ここ、レジエーヌ領の領主様は若い。王宮の王子様と親しいともっぱらの噂で、二人で革新的な政策を次々と打ち立てている。この舞踏会も、そんな政策のひとつとして開くのだそうだ。婚活パーティーを貴族が主体で開いたことは意外とないらしい。


「これ以上放っておいて、無法地帯になるのを国が嫌ったんでしょうね」

「ふうん?」

「とにかく、これはチャンスよ!」


 力むアニスに、そうだよね、とミトレットは頷く。カードをたくさん配ったとは言え、その全員が購入するとは限らない。婚活向けアクセサリーだって何度も購入するものではないから、大勢にカードを配ることが大事だ。貴族ならば、特注で宝石を取り付けたりした意匠での依頼があるだろう。そうなれば加工費用をたっぷり頂けるという算段だ。

 拳を握り締めるアニスからは、壮絶とも言えるやる気を感じる。


「この舞踏会に全力を注ぎましょ! これで最後になるかもしれないし……気合い入れていくわよ。ちょうど一ヶ月後だから時間はあるわ。あたしは舞踏会の準備をするから、その間、ミトはアクセサリーの在庫を増やすようにね」

「うん、わかった。そうだ、この前言ったやつは作ってもいい? モチーフを花じゃなくて鳥にするやつ」

「あー、いいけど、ひとつ作ったらあたしに見せて。いい、絶対独断で量産しちゃダメよ」

「え? わ、わかった」


 ミトレットの肩をがっちり掴んで、真剣に言うアニス。あまりの気迫にミトレットはそう返して、絶対に従おうと、そう思った。





 クレスとあちこち周って、自分の家に戻ったアレンは、その足で金剛の魔女の工房へ向かった。工房はアレンの住む場所からすぐのところにある。子供の頃から入り浸っているから通い慣れたものだった。いつも通り道を進み、勝手に扉を開けて工房へ入ると、居間で鍋をかき混ぜる魔女の姿があった。魔女は入ってきたアレンを一瞥すると、すぐに興味を無くしたようにまた鍋をかき混ぜる。いつもの魔女の様子に笑って、アレンは椅子を引っ張った。


「お祖母様、こんにちは」

「今日はなんの用だい?」


 挨拶を返す事なく、単刀直入な物言いは相変わらずだ。アレンは、ふふ、と笑って魔女を見る。


「実は、お祖母様にお願いがあって」

「お前のお願いは、めんどうだから嫌だよ」

「そんな事言わないでよ。可愛い孫の頼みじゃない」


 自分で可愛い孫、だなんていうアレンを鼻で笑う魔女は、言葉とは裏腹に柔らかい顔をしていた。鍋を火から下ろして、引き続き中身を木べらで混ぜる。


「一応、内容だけは聞いてやろう」

「お祖母様にね、指輪を作って貰いたいんだ。とびっきりすごいやつを」


 それまでずっと動かしていた手を、魔女はぴたりと止めた。


「そう。お前が指輪を、ね。とうとうそれを渡したい相手が出来たようだね」

「実はその通りなんだ。お願いできるかな」


 アレンがそう言うと、魔女は彼の方を振り向いてにやりと笑った。


「いいよ、可愛い孫の頼みだ。やってやろうじゃないか」

「お祖母様、ありがとう!」

「おやめ、二十を過ぎたでかい孫にハグされても嬉しかないよ。それで、どんな指輪がいいんだい?」


 そう尋ねるのは、意匠が特別な意味になるからだ。金剛の魔女が作る道具は、使う宝石によって効果が異なる。アレンが強請った指輪は、特に相手に合わせることが大事だった。どういうものがいいのかを相談する前に、伝えなければならない事がある。アレンはまず、それを告げた。


「その子は虹の魔女なんだ」


 虹、と金剛の魔女は目を細める。


「そうかい。それは、難儀なことだね」

「お祖母様?」

「独り立ちをしているのに、属性で呼ばれる。二つ名を持たないのは未熟者の証だよ」


 アレンは息を呑む。それは知らなかった。秘匿されているというわけではないが、魔女の間のしきたりなので、人は知らないのが普通だと金剛の魔女は言う。


「師がそれを与える事ができなかったということだ。それでも魔女を名乗るということは、魔女としてしか生きられないのだろう、その娘は」


 その言葉に、アレンは俯いた。林に工房を構えるあの虹の魔女は、売れなくても低級の薬を作り続けていた。誰かに必要とされなくても、ただただ作る。彼女は、それでいいのだろう。けれどもアレンには、なんだかそれが寂しい事のように感じる。


「それは、辛くないんだろうか」

「辛いに決まってるだろう」


 今現在、最高と言われている魔女は、そう述べた。


「向いていないのに、それをやる事でしか自分を保てない。向いていないのに皇帝をやるようなもんさ、しかも、自分でそれを選んでね。あたしだったら嫌だねえ」


 心底嫌そうな顔をして、魔女はふんと鼻を鳴らした。


「アレン、お前にその気があるのなら助けておあげ。きっとお前にとっても助けになるだろうさ」

「うん。そのつもりだよ」


 アレンは即答する。すると魔女は、生意気だねと笑って鍋から木べらを引き上げた。


「そうと決まれば手伝いな。そうだ、とっておきの石を使おうかね。あれを持ち出す日が来るだなんて、長生きはするもんだねぇ」


 イッヒッヒ、と笑って、楽しげに金庫に向かう魔女を、アレンは追いかけた。金剛の魔女がこう言うのなら、とても良い物を作ってくれるだろう。これまででアレンはそれを学んでいた。


「着けてる相手の居場所が分かるような指輪って作れる?」

「……作れなくはないが、あんたそれをやると嫌われるよ。その効果だけはやめておきな」


 一晩考えたものをそう一蹴されて、えぇ、とアレンは不満の声を上げるのだった。


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