虹の魔女の婚活事情①
——数年前、長く続いた隣国との戦争が終わった。
きっかけは国王の崩御だった。すぐに跡を継いだ王の弟が、停戦を持ちかけたのだそうだ。元より隣国は争いを厭っていたそうで、こちらから侵略を仕掛けたのが発端だからと賠償金をたくさん支払ったら、快く終戦に応じてくれたとか。先の王とごく一部の側近だけが戦争を望んでいたこともあり、終戦となるまでは早かった。寛大な隣国と、長引くと思われていた戦争を終わらせてくれた新国王に、民は感謝を捧げた。
それからは両国の協定の下、二国間で交易が増えた。なにしろ戦争が長く続いていたから、こちらもあちらも色々なものが不足していたのだ。お互いに不足するものを送り合う事で、わだかまりは少しずつ解消されていった。
隣国との境から離れたこの村でも、終戦の流れは確かにあった。村には男手が戻ってきた。男手が増えて農地の手入れが行き届くようになり、収穫が増えた。それでようやく生活が安定するようになった。
生活が安定するようになるとより多くの収入を求める者が出始めた。大きな街の方が仕事があるし、給料がいい。これまでは村に残り家の畑を手伝っていた娘達が、街に出るようになったのだ。それを追うようにして家を出る男もいた。様々な物が不足しているし、それを補うのに人手が必要だった。人も物も、いくらあっても足りなかった。
そうして人々が新たな生活を始める中、それに取り残される者も少なからずいた。
ミトレットも、その取り残された一人だった。
「え〜っ、また返品!?」
「悪いなあ、ミト」
大柄な男は、立派な手で自らの後頭部を掻いた。
「戦争が終わってから、こういう類いのもんは需要が減っちまってねえ」
ミトレットの前には、彼女が作った様々な道具が置かれている。
ミトレットは魔女だ。魔女が作る物には不思議な力が込められている。使うのは簡単だが、作れるのは魔女しかいない。効果はとても高いけれど、数が出回らないので高額になりやすい。需要は減ったかもしれないが、皆が皆裕福になりつつある。だから少しくらいなら売れると思っていたのだが、返品に次ぐ返品で、在庫は溜まる一方だった。
大柄な男は、村唯一の商店の店主だ。彼はずっとミトレットの作った道具を店先に置いてくれていた。
「虫除け、傷薬、魔除けのハーブなんかはまだ売れるんだ。でもこういう物騒なもんはなぁ」
「むう……」
獣用の爆薬仕込みの罠、暴漢避けの痺れる棒、忍び込んだ泥棒に向けて投げつける劇物入り卵。ミトレットに返却されたのはそういう物だった。
「なんかこう、もっとマイルドな物なら、売れると思うぜ」
「そうは言っても、どういうのがいいか……」
「なら、アニスに相談してみたらどうだ?」
アニス、というのは店主の娘だ。ミトレットとは姉妹のように育った。彼女は家の手伝いをしており、小さな村では珍しく流行にも敏感だった。なるほど彼女なら、相談相手にいいかもしれない。ミトレットは頷く。
「アニスは二階?」
「ああ。多分自分の部屋にいると思う」
「じゃあ、お邪魔するね」
「なんか出来たら見せてくれ。都でなら、売れるかもしれんしな。店に置けるものなら、扱ってやるから」
「うん。ありがとう」
ミトレットは慣れた足取りで居住スペースへの階段を上がっていった。階段の踊り場で、窓の外から賑やかな声が聞こえた。ミトレットはふと窓の外を見下ろす。
そこでは、村の年頃の女の子が二人、お互いに新しい服を見せ合っているようだった。
「この刺繍、自分で刺したの?」
「そうよ。街から図案を取り寄せて、とっておきの糸を使って」
「いいじゃない。さすがね」
「ふふ。そうでしょ? 自分の得意なことだもの。やっぱりそれは活かさないとね」
ミトレットはそれを聞いて俯いた。
(わたしには、関係ない)
胸の奥がつきんと痛んだが、気のせいだった事にして、ミトレットはアニスの部屋に向かった。




