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第5話

   

 インターネットの噂にあった「毎年遭難者も出る」というのが、これなのだろう。釣り場の近くを歩くうちにここへ迷い込んで、この怪物に食べられてしまうに違いない。

 この状況で一緒にいた友達が消えたのだから、真っ先に頭に浮かんだのは「彼は私より先に消化されてしまった」という可能性だった。

 しかし、それにしては消え方が唐突すぎる。胃液などで溶かされるとしても、それほど一瞬の出来事ではないはず。

 ならば……。

「ああ、さっきの釣り人……!」

 先ほどすれ違った黒いジャケットの男の様子を思い出す。

 彼は私たちを不審げに見ていた。あの時は「私たちを」と認識していたが、本当は「私を」だったのかもしれない。

 私を案内してくれた親切な釣り人なんて最初から存在せず、(はた)から見れば、私は一人でブツブツ呟きながら歩いていたのだとしたら……。

 あの男の態度も納得ではないか!


 怪物の消化液には神経を麻痺させる成分も含まれていたらしく、だんだん体の自由が失われてしまう。

 意識も薄れゆく中で、最期に私は悟っていた。


 おそらく地元の人間は、危険だからこの辺りには近寄らないのだろう。だからこそ、よく釣れる場所なのに釣り人がほとんどいなかったのだ。

 そうなると、この怪物が捕食できるのは、何も知らずにノコノコやってくる釣り人たちだけ。美味しい鮎を釣ることばかり考えて、自分が美味しく食べられることなど全く考えていない、私のような者たちだ。

 そんな連中に釣り友達の幻を見せて、怪物自身の口の中まで(おび)き寄せる。偽物という意味では幻もルアーと同じであり、友達の幻ならば、それこそ友釣りと呼べるのかもしれない。

 鮎釣りのシーズンになれば、そんな獲物たちが川を訪れるのだから……。

 人間にとっての鮎釣り解禁は、怪物にとっての人間釣り解禁。いわば友釣り解禁だったのだ。




(「友釣り解禁」完)

   

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