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第2話

   

 周りを見渡しても、誰一人視界に入らなかった。

 インターネットの情報によると、ここは「知る人ぞ知る」という穴場らしい。よく釣れる割には釣り人が少ないという。

 毎年遭難者も出るので怖がられている、みたいな書き込みもあったが、それは怪情報の(たぐ)いに違いない。今この瞬間、私の周囲は完全に無人だが、一時間もあれば人里まで戻れる場所だ。深い山奥や雪山でもあるまいし、現代日本でそう簡単に遭難するとは思えなかった。


 ただ水の流れる音だけが聞こえる中、きれいな空気を味わいながら、しばらく釣りを楽しむ。なかなか釣れなかったが、川遊びで自然を満喫していると思えば、それだけで心が満たされてくる。

 二時間くらいして、ようやく一匹。さらにもう一匹釣れた直後、ふと人の気配を感じた。

 振り返ると、川原に一人の男が立っていた。私と同じような背格好で、持っている釣り道具などは、まさに私のものとそっくり。着ているフィッシングジャケットも、私と同じ緑色だった。

 無言でこちらに微笑みを向けていたが、

「こんにちは」

「……こんにちは」

 私が挨拶すると、少しボソボソした声で、同じ言葉を返してきた。

 基本的に私は、なるべく同好の士とは仲良くしたいと考えている。釣り場で他の釣り人を見かけたら気軽に声をかけるけれど、そういうのを嫌う人間がいるのも承知していた。

 目の前の男も寡黙なタイプなのだろう。一瞬そう思ってしまったが、一度挨拶を交わした(あと)は、男の口も(なめ)らかになった。


「見慣れぬ顔ですな。ここは初めてですか?」

 どうやら彼は、この釣り場の常連らしい。まるで鮎の縄張りみたいに「ここは自分たちの場所だ」と主張して、新参者を追い出したいのだろうか。

 そんな心配が顔に出たとみえて、私が返事する早く、彼は言葉を続けていた。

「いやいや、安心してください。あなたを邪険にするつもりはありません。むしろ、新しい仲間として大歓迎です。お近づきの印に、もっとよく釣れる場所をお教えしましょう」

 そんな好条件のスポットがあるならば、自分で釣ればいいのに……。

「まあ私はいつでも楽しめますからな。それより、初めての(かた)にこそ、この川の良さを味わってもらいたいのです」

 親切そうな雰囲気を醸し出して、彼はにっこりと笑う。

   

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