表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/10

お飾りと劣等感と仲間と

「…何よ貴方達。相変わらず暇なのね。」


嫌な奴らに声をかけられた。王国の貴族たちのグループだ。

やはりというか、魔族に対してよく思ってなかったり他国民や平民を見下したりしている貴族たちはいるみたいで、特にそれらが集まっている私達は彼らからすれば馬鹿にするにはいい対象なのでしょうね。それに、自慢ではないけれど私達の成績は一点特化型が多いとはいえ良い傾向にある。彼らからすれば不愉快なのかもしれないわ。


「おやおや、魔族の令嬢は我々王国貴族に対しての礼儀というものを知らんようだ。エルドラドの猿姫共でもわかるというのに…所詮は魔族か。」

「おいおいよしたまえよ。ここには仮にも王子がいるんだぞ。まあ、王子とは言っても所詮は兄の劣化版よな。」


私だけじゃなくてノアにまで飛び火した。ノアも黙っていて一見毅然としているけど、よく見ると目は笑っていない。


「おやおや、違うというのなら言い返してみれば良いのでは?それとも、お飾り王子は言い返すことすら出来ん腰抜けであったか。ふん。所詮はお仲間がいなければ何も出来んのだ。無理もないか。」

「さっきから聞いていれば…。腰抜けや礼儀知らずはどちらでしょうか。私ならまだしも、ノア様やユフィーア様にまでそのような発言。私は許しませんよ。」

「大丈夫よ。私は気にしてないから。ノアも、気にしなくてもいいわよ。」

「そうですよクレハにノアさん。そもそも、人間に猿の言葉はわかりませんから彼らが何を言っているのかわかりませんもの。あ、それではお猿さんに失礼でしたわ。」

「なんだと貴様っ!!我々を猿だと愚弄するか!!」


とまあいつもこんな感じで煽ってくる。正直聞き飽きたわ。しかもヒナに煽り返されてるわよ…。


「ふん。少し落ち着き給えよ。貴族たるもの、余裕というものは肝要だ。」


貴族グループのリーダー的な男が窘める。


「それにしても、貴殿らのグループはいつ見ても滑稽だが、やはり足らぬな。そう。本日の座学で取り扱った邪神の眷属とかな。」


邪神の眷属…。私の少し聞いたことがあったわ。かつてこの世界を恐怖に陥れたと言われているスキュリテという邪神がいて、その邪神の加護を生まれながらに受けたと言われている者のことね。この加護は一般的には邪神の呪いと言われているわ。なんでも、これを受けて産まれた者は生まれながらに顔に禍々しい痣のようなものととんでもない力を持っているといわれているわ。何故生まれるのかというと、この邪神から血を分けてもらった者たちの血を濃く受け継いだ者が邪神の眷属と呼ばれる存在として生まれるって聞いたわ。この眷属たちは痣による外見の気味の悪さ、とんでもない力への畏怖、邪神という概念によるものからの偏見で迫害されることが多いわね。生まれた時に捨てられる子供も少なくないそう。正直くだらないなと思ったわね。彼らが迫害されるようなことをしたわけでもないし。それに彼らは外見や能力が他の人と違う上にただ先祖たちや邪神が悪いことをしたってだけのことなのよ差別するのは正直馬鹿らしいと思ったわ。


「くだらないですね。気にするものではないと思いますが。」

「そうですわね。結局彼らも本質的には我々と同じでしょうに。」

「ふん。やはり平民や猿共には理解を出来ぬものであったな。」

「さっきから猿とかなんとかうるさいですな。貴殿ら、少し黙るがよいのですぞ。」

「我々に黙れと?そうですわねぇ。ではそれ相応の態度を示してくださること?」

「…はっ!てめぇらに相応の態度とか笑わせる。そうして欲しいのならまずは俺を倒してみることだな。」

「望むところ。我々に対する無礼。ここで誅す。いや、猿共への躾だな。」


結局ヒートアップして今にも喧嘩が始まりそうになっている。私も持っている剣の持ち手を握っていつでも剣を抜けるようにすると、私たちに対して声が向けられた。


「あー君たち?何をやっているのかな?この場での争いはご法度であること、知らないとは言わせないよ。」


声のした方を向くと、数人の男女が立っていた。その男女組の一人、生徒会長のヨームがそう言っていた。


「全く、そろそろ学院を閉めるというのに余計な仕事を増やさないでくれ給えよ。確かに君たちが相容れないのも理解が出来ないわけではない。しかし、やってはいけないラインというものがあるだろう?

特に国の統治者の跡継ぎまでいるとは…冷静になったらどうだい?上に立つ者が冷静さを失っては、適切な判断が出来なくなる。そうなれば、国や民を殺すことにも繋がると思うが。」


確かに彼の言う通りね…。正直少し熱くなりすぎたわ。


「おっしゃる通りでございます。生徒会長。」

「ふははっ!!先ほどまでの威勢はどうしたのかな魔族よ?」


私達が謝罪すると、貴族グループのリーダーが煽ってくる。


「君達もだ。そもそもこの国では魔族や平民、他国の民への偏見や差別をなくす試みがあるのを君達貴族は知っているはずだろう。民の手本となるべき貴族がその様では、いずれ痛い目を見ることになるぞ。」

「ちっ…。」

「確かに一理ありますな。しかし、我々が民の上に立っているのも事実だ。それを忘れてはならぬよう。…では、我々はこれで失礼しますよ。」


そう言って貴族たちは帰っていく。


「君達ももう帰りたまえ。時間をとらせて悪かったな。以後気を付けるように。」


会長がそう言って戻っていく。すると、この男女グループの中にいた生徒会メンバーで同じクラスのミーヌに小さく声をかけられた。


「ユフィーアさん。あまりお気になさらぬよう。」

「そうね。お気遣いありがとう。」


ミーヌとそう話したら彼女は戻っていき、私達も学院寮に戻る。












夜、私が食事を待っている間に外を散歩していると、物陰から物音がした。

気になった私はこっそりと見に行ってみると、そこには剣の素振りをしていたノアを見かけた。


「くそっ…これでは駄目だ…。これでは…」

「これでは…どうかしましたの?」


妙に焦っているノアが気にかかり、私は彼に声をかけた。


「…ユフィーアか。いや、気にするな。こっちの話だ。」

「いえ、見てしまったもの。貴方が素振りをしていたのを、そして何かに焦っているように見えたこともね。」

「…なんだ、わかってしまったか。」


そう言ってノアは座り込む。私はノアの隣に座る


「俺に兄がいるのは知っているだろう?昔からどれだけ努力しても兄には敵わなくてさ…。」

「でも、ノアだって成績はトップじゃない。兄の方が出来がよかったと言われているにしても、成績トップなんでそう易々と出来るものではないと思うわ。」

「だが、それでも兄の劣化でな…。実際、俺がお飾り王子って言われてもなにも言い返せなかった。実際その通りだからな。」


まあ、気持ちはわからなくはない。私も兄や妹と比べて出来が悪かったし、そこについて一時期劣等感を抱いて家族を避けていた時期があった。


「だけどさ、お前やクレハ、ラファエルはちゃんと抵抗出来ていたしネプトやヒナギクはしっかりと反発していただろ?それに比べて俺は何も言い返せなくってさ…。お前達が物凄く輝いて見えた。強く見えた。そして、自分が本当に弱い人間だなってさ。王子なのにな。だから俺は…」

「私は、そんなことないと思うわよ。」

「…お世辞は結構だ。お前だって、内心は馬鹿にしているんだろ!?兄の劣化だって…悪く言われても結局他の奴等に言い返してもらわないといけないような1人では何も出来ないような奴でそんな奴が王子だなんて笑わせるって…」

「…私からすれば、ノアだって私に比べたらなんでも出来るし、それでいてそれを鼻にかけることもない。自慢やマウント取りもしない。いいところが沢山あると思うわよ。」


…うん。余計なお世話なのかもしれないけど、正直放っておけなくなったわ。


「そもそも、なんで他人と比べて自分はダメな奴だって思わなくちゃいけないの?私はそんなことをする必要なんてないと思うわよ。私と貴方が違う種族なように、人それぞれ得意なことや苦手なこと、あって普通だと思うわ。一人で完璧な人もいるけど、皆が皆そうである必要はないし、至らない部分は他の誰かに支えてもらって補えばいい。それが仲間だと思うし、貴方にもいるでしょう。素晴らしいと思っている仲間が。そんな上に立つ者だっていてもいいと思うし、実際にいると思うわよ。比較して色々と言ってくる人たちもいるでしょうけど、言ってくる人たちも貴方とは全く別の人間よ。独断や偏見は入ってくるし、的外れな考えになっていることだってあるわよ。」


そう、上に立つ者が一人でなんでも出来なきゃいけないなんて決まりはないもの。私も後に跡取りになるはずだけど、きっとこれからもシエリィやアズールやエムレイ達に助けてもらってなんとかしていくのでしょう。というか、私は彼らに助けてもらわないと貴族の当主なんてできる自信なんてないわ。海賊の船長だって、一人で航海術や料理や医療や大工全て出来るわけではないし、実際自分一人で全て完璧に出来たら仲間なんていらないでしょう。


「お前………。…そうか…お前も…そうだったんだな…。」

「それに、ノアは強い人よ。だって、ちゃんと自分の弱い部分に向き合えているじゃない。本当に弱かったら、きっとそんなこと出来ないわよ。」

「そう…か…。」


ノアの目から涙が流れている。やっぱ、相当参っていたのかしらね。




「…すまないなユフィーア。」

「気にしなくていいわよ。ノアの方こそ大丈夫かしら?」

「正直すぐに切り替えろと言われると難しいな。だが、楽にはなったさ。」

「そうね。楽になったならよかったわ。また明日から、頑張れそう?」

「問題ないさ。では、また明日な。」

「そうね。また明日。」


ノアが暫く泣いた後、私は食事に行った。これ、明日はどうなっているのかしらね。


翌日私は学院に行くと、ノアは登校してきたわ。でも、以前より心なしか雰囲気が明るくなった気がするわ。他の貴族に何か言われても、ちゃんと反発したり動揺が見られなかったりと、彼曰く憑き物が取れてきた感じがするとのことらしいわ。

もちろんこれは彼が少しずつ立ち直った結果なのでしょうけど、私としても嬉しいわね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ