学友達
「…であるからして、この国は~」
今私は学院で座学を受けている。武器の訓練の後だからか居眠りしている生徒も見られるわね。
私が学院に入学してから半年ほど経った。
季節は暑い夏も過ぎもう秋の頃になる。そろそろどのコースに進むのかを決めなければいけない時期で、そこに対して頭を悩ませる生徒もちらほら見られる。
この学院は、最初の1年は簡単な武器や魔法、座学を学び、2年になれば武器、魔法、学問とそれぞれの専門的なコースのカリキュラムを各々が受けて研鑽に励み、やがて騎士や魔導士や学者になっていく…というのがこの学院らしい。そして王国の最高峰の学院なだけあって狭き門となっているようね。故に入学試験に落ちる人も少なくないみたいよ。ちなみに、私…というかユフィーアも国を治める貴族なだけあって質の高い教育を受けていたみたいで、そこを認められての入学になっているみたいね。現に魔力だって他と比べても遜色ないし。知識に関しては今は私だから失われたものも少なくないけど…。
この学院は元々は王国の王族や貴族が通う学院ではあったが、最近は優秀な平民や他国の王族や貴族、更には私みたいな魔族まで学院に通うようになっているみたいね。最も、魔族に関しては私が記念すべき最初だったみたいだけど。
それでも生徒の数は王国の貴族が中心で、やはりというか私たちのような存在に対してよく思ってない人たちもいるわね…。
「…そろそろ時間だな。今日はここまで。各自、復習をしておくように。」
終了のチャイムと同時に座学の終了が告げられた。そして、本日はもうこれで放課となる。
やっと終わったわ…。今日は武器や魔法の訓練が主だった日だからかなり疲れたわ…。
「お疲れですわね。ユフィーアさん。」
そうしてると、一人の女の子が話しかけてきた。
「あら、私はまだまだ大丈夫よ。ヒナの方こそお疲れでは?最近より一層鍛錬に励んでいるみたいだし」
「問題ありませんよ。これでも無理はしないように気を付けていますから。以前少し無理をしてクレハやネプトさんに注意を受けまして…。以降気をつけておりますよ。」
「はは…。まあ私としてもヒナに倒れられたりすると心配だからね。さて、私は同好会の方に行こうかしらね。」
「お心遣いありがとうございます。そうですね。本日は遅れそうな方々が多いですから、暫くは私たちで部屋で待っていましょう。」
そう言って私はヒナと呼んだ少女と共に同好会へ向かう。
このヒナ…ヒナギク・シラヌイという名の少女は私が学院に来た時に出来た初めての友達よ。白い和服に長くて美しい黒髪。小柄で少し目つきは悪いが整った顔立ちの和風美人だ。やっぱり私も日本にいた身だからか彼女と一緒にいると落ち着くわね。もちろん、落ち着くのは彼女の人柄によるものでもあるけど。彼女はエルドラド共和国出身と聞いて、エルドラドについてはあまり知らなかったけど、行ってみたいと思ったわ。
彼女と他愛ない話をしながら歩いていくと、同好会…遊戯研究会の部室に辿り着き、部屋にある椅子に腰かけた。
遊戯研究会とは言っても、実際はただの仲の良い人達のお遊びサークルみたいなものね。お茶菓子食べながらお話したり読書やチェスのようなゲームや他の国のゲームをしたり…まあ色々な遊びをするだけの同好会ね。職権乱用?知らないわよ。というかこの学院、同好会活動については自由だし適当に空き教室を使っているだけよ。
少し時間が経つと、2人の少女と1人の少年が入ってきた。
「お姉さま、ユフィーアさん。ごきげんよう。」
「2人とも早い。驚いた。」
「でも、まだ来てない方もいますよ。正直僕たちが最後になるかと思っていましたので予想外でしたね。」
「あら、私とヒナも今来たばっかりよ。これで…あとは3人ね。」
今来た3人もここで出来た私の友達よ。
1人目の少女はクレハ・シラヌイ。ヒナの双子の妹で、髪型や体型は同じだけど顔はあまり似ずに優しい感じの顔立ちなのよね。お目目がくりくりで可愛いわ。白と赤の巫女装束を着ているわね。似合っているしヒナギクと同様の懐かしみを感じるわね。
2人目の女性はレベッカ・イーゼル。青緑色のロングヘアの女性で青いドレスを着ているわね。シラヌイ姉妹よりは背は高いけど私と比べて全体的に小柄で線は細い。けど私程ではないけどそれなりにはあるわね…。正直同い年とは思えないくらい大人びている雰囲気だと思うわ。彼女は王国の貴族の中でもかなり位の高い貴族の娘で、そのおかげか彼女の交流関係は広いわね。そんな彼女だからか知らないけど、気疲れする面もあるみたいで私たちといると落ち着くと言っていたわ。私としてもそれは嬉しく感じるのよ。
3人目の男性はラファエル。黄緑色の短髪の眼鏡をかけた私より小柄な男子ね。彼はこの学院でも珍しい平民で、学力の高さや魔法のセンスによって入学した生徒ね。一方で、魔法や学力の才をあまり他人には隠したがる節があるのかしら?あまり目立たないようにしているように見えるわね…。
と、この3人については以上かしらね。
そして、この5人で少し話していると、今度は2人の男性が入ってきた。
「ネプトさん。カルドさん。お疲れ様です。ちゃんと質問は解決したのでしょうか」
「うむ。遅れた件に対して失礼つかまつる。そして、心配はご無用でございます。」
「あーわりぃな。って、俺たちが最後ではなかったか。てっきり最後だと思ったんだがな」
この2人も私にできた友達よ。
1人目の自分が最後かと思ったと言っていた男性がネプト・レヴィオよ。茶髪で海賊を思わせるようなワイルドな風貌の男で、エルドラド共和国の次期当主といわれている男よ。一応場をわきまえるとか言ってタキシードを着ているけど、はっきり言って似合ってないと思う。シラヌイ姉妹が和風であるのに対しネプトが海賊風であることに最初は疑問を持ったけど、どうやらエルドラドは複数の国が合併してできた国で、元の国の文化も残っているという国だった。面白い国だと思ったわね。1つの国で様々な文化が楽しめるなんてね。
もう1人の男性がカルド・ナーウィア。白髪の厳つい顔の大男で、鍛えられた肉体と剣の腕を持っているわね。反面魔法はからっきしというね。典型的な特殊系に弱い物理型…ってところかしらね。チョッキとか着させてみたいわ。これでもという言い方は失礼だけど、彼も下級とはいえ貴族で、そのためか言葉遣いや立ち振る舞いに気品を感じる面もある。このギャップからか女子からの人気も高いわね。
2人が席に着いた丁度その時に、1人の男性が入ってきた
「悪いな。色々あって遅れた。…そして今日も俺が最後か。」
「ノア様!本日もお疲れ様でございます!」
「ああカルド。出迎え悪いな。」
この入ってきた男性こそがノア・シーヴァ・マルミア。やや長めの黒髪で黒色のタキシードに眼鏡をかけた大人びた顔のイケメンね。王国の第二王子で、成績も同じ学年の中なら学院中トップだけど、彼の兄の第一王子のカインが彼以上に優秀で劣等感を抱いているからか、どこか冷めた印象があるのよね。まあ、そういうところがクールで素敵!と言う人も少なくないわ。
「これで全員ね。さて、今日は何をしようかしら。」
「久しぶりにこれとかいいんじゃねぇか?一番負けた奴が一番勝ったやつに菓子を献上するってルールで」
そう言ってネプトはカードの束を取り出した。そのカードには様々な数字やマークが刻まれている。まあ要するにトランプみたいなものね。そして、彼がやろうと言っているのも、このトランプを使ったゲームだ。そして、彼がお菓子献上と言ったら、まあ大体ポーカーのようなゲームになる。回数をこなせる上にチップが用意できるから結果がわかりやすいというのが主な理由ね。
「良いでしょう。負けませんよ。」
そういうことで、私たちの遊びという名の聖戦が始まった。
とまあこんな感じで私は楽しい学院生活を送れているわ。私は魔族だしその上現実世界でもあまり友達はいなくて社交性もあまりなかったから最初は心配だったけれど、結局それは杞憂に終わったわね。
成績は…魔法がからきしなのよね。今は風を出そうにも精々お誕生日ケーキの火を辛うじて消すことが出来る程度の風が出せるレベルなのよ。この前の魔法の授業の時も「ウインドスラッシュ!」って言いながら魔法を放ったら見事に爆笑されたのよ…。反面、武器の授業の成績の方は中々に悪くないのよ。
「よし!!ネプト殿。約束通りお菓子は頂戴致しますぞ。」
「ちくしょおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!!!!」
結局、カルドが勝ってネプトが負けた。言い出しっぺが負けるというのはここでも適用されるのね…。