最初にすべきこと
『強欲の代償』
この話をざっくり言うと、魔界デモンディアを治める魔族令嬢ユフィーア・フォン・テスタロトが、配下を従わせて人間界へ世界征服に乗り出すものの、魔界での内乱、兵の士気の低下、兵力の差、といったことが原因で戦争に敗北し、配下共々処刑されてしまう。という数話にかけて描かれた短編漫画ね。
それもこれも、ユフィーアの強欲さ故の先走りや民からの人徳の少なさ等が上記の原因となっているから、強欲の代償というタイトルになっているのだろうと考えられるわね。
ユフィーアの父であるガスパールが死んだのも、彼女の強欲さに拍車をかけたのかもしれないわね…。描写されているものから察するに優しいお方だったみたいだし、きっと大好きだったのでしょう。
そういった過ぎた強欲は、結果的に破滅を誘うといったような教訓が書かれてる内容だったわね。
正直耳の痛い内容や痛ましい描写である反面、漫画の内容の考察のしがいがあったり、話がそこまで長くない上にシンプルで読みやすいといった声もある賛否両論が分かれる作品だったわね。
ちなみに、私はこの漫画は気に入っていたわ。痛ましい描写はともかく、全体通して読むと中々に読み応えがあり、何より登場するキャラクターの絵柄やキャラデザが結構気に入ったというのがあるわね。
まあ、私好みの美少年君はいなかったからそこは残念だったけど…。
それに、ユフィーアの悪い面ばかりが目立つように見えるけど、侵略した国の武器を持たない民を殺したりはしなかったり、自分についてきた配下に対しての優しい一面など、良い面についての描写もあった点も私は気に入っている。
そして、今私の目の前にいるメイドのシエリィも、漫画内に登場するキャラクターで、彼女も私に付き従ってくれた配下だったわね。最も、彼女も私と共に処刑されちゃってたけどね…。漫画の中では確かユフィーアの身の回りの世話をしていたわね。
勿論、配下は彼女だけじゃなく、他にもいたわ。描写のないキャラもいるかもしれないけど…。
話は変わるけど、あの漫画の中では、世界観や登場人物に関しての掘り下げがいまいち行われていなかったのよ。まあ短編で描かれていたから尺がなかったのかもしれないけども、そこはもうちょっと掘り下げてほしかったわね…。この世界やシエリィ等の登場人物についてとかね。
というわけで、ユフィーアになっていた私は、この先破滅してしまう未来が待ち受けているわけだ。
私はアニメや漫画のキャラクターになりたいという願望はあったけれど、碌な末路を辿る悪役キャラになりたいとは言ってないわよ!
というか、元の私はどうなっているのよ!まさか死んでたり!?いや、でも死んだとは思えないんだけどなぁ…。もしかして夢を見ているとか…?いや、でも夢にしては妙にリアルだし…
そう思って試しに自分頬をつねってみる。………うん。夢じゃないわ、これ…。普通に痛みは感じるし、これは現実ね。
そうしていると、自分の腕をつかまれていた。
「いけませんよユフィーア様。美しいお顔に傷をつけては。どうかご自愛くださいませ。」
シエリィにそういわれた私は、思わずハッと手を離した。
…いけないいけない。焦ってはだめよ。こういう時こそ、冷静な思考が大事ね…。
「どうなされましたか?ユフィーア様。もしや、体調がよろしくないのでしょうか…?」
「い、いえ…。心配ないわよ。ただ…少し寝ぼけてたみたいでね…。それより、もうすぐ朝食の準備が出来るのでしょう?着替えるから、少し外で待っててくれるかしら?」
「承知いたしました。ユフィーア様。でしたら、私は外でお待ちしております。お着替えがお済になられましたら、朝食の方に向かいましょう。」
そう言ってシエリィは部屋から出ていった。
彼女が部屋から出た後、私は部屋のクローゼットにある服から適当に良さそうなものを一着選んで着る。
貴族のお嬢様が着るようなドレスなんて自分に着ることが出来るのかと思ったけど、ユフィーアとしての記憶がぼんやりと存在していて、無事に着ることが出来たわ。
それにしても、こんなドレスを着ていると、まるで私がお嬢様になったかのように思えるわね。
まあ現在進行形でお嬢様になっているんだけどね…。本当、なんでユフィーアになっているんだろう。
まあ、そのことに関しては今は考えたところでどうしようもないから、とりあえず今後どうするべきかを考えた方がよさそうね。
まずは、この世界について知ることかしらね。漫画の中では世界観についての描写はあまりなされていなかったから、この世界について調べなきゃね。
とりあえず、書斎で本や地図でも漁ってみようかしらね。そこで色々と調べて得た情報と、自分の中にある漫画の記憶と照らし合わせようかしらね。
あとは…。漫画の中で私の配下となっていた人達とも接触したいわね。
私の記憶では、シエリィを含めて主に3人の配下がユフィーアに付き従っていたわね。彼女たちの人となりについても詳しく描写されてないわけだし、何より実際に関わっていくとなるとまた違ってくると思うから尚更ね。
とりあえず、あまりシエリィを待たせるのも悪いから外に出て朝食に行かなきゃね。お腹もすいているし…。
「シエリィ。準備が出来たわよ。」
「かしこまりました。それでは参りましょうか。」
そう言って私たちは朝食へと向かった。