聖剣から魔剣!
暇潰しにはじめました! 初心者です! よろしくお願いしまっす!
その男は世間では普通とはズレた感性で呪いの武具を身につけはじめ、やがて伝説となった。
魔法が存在し、魔物が蔓延り、魔王が君臨し、日夜人々が生き残るために武器を装備し、血にまみれながら争う。
そんな世界で当然、勇者は存在する。彼の名はグエン・クロウ。闇のような黒い長髪に深海のような暗い碧の瞳。
彼は普通の勇者ではない。手甲は漆黒の光沢の金属で指が悪魔の爪のような鋭利な形状であり、禍々しい黒いオーラにおおわれている。
鎧も同様に禍々しいオーラに包まれ、骸のあばら骨のような形状で防御力に優れているかは不明な有り様。それだけではない。兜にいたっても禍々しいオーラを元気に周囲に撒き散らしている。まるで、鬼の頭骨をそのまま頭にかぶっているようだ。
脚部の鎧も禍々しく鋭利な刺や足の指の部分は鋭い爪の形状になっている。そんなグエンの振るう自慢の身の丈同等の大きさの刀剣も黒い禍々しいオーラを周囲に撒き散らしている。彼が歩いた大地の植物は一歩踏みしめる度に朽ちてゆく。
グエン・クロウ。知らぬ者は彼こそが魔王であるとその目で見た者全て口をそろえて叫ぶだろう。だが、グエンは勇者だ。彼が呪われた装備を身につけた姿で世界に名を轟かせる戦いは旅立ちの時に勇者だけが引き抜ける聖剣をグエンが引き抜いた瞬間から始まった。
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オレはグエン・クロウ。オレの暮らす村マイケル・コースにも魔王グラビデ・バビロンの配下の魔物どもの軍勢が蹂躙する炎のブレスの熱気が迫ってきているのを村外れの小高い丘から目視出来た。丸い石に刺さった煌めく剣が遠く離れた蠢く魔物の軍勢の火炎の朱い、紅い光を反射している。まるで散っていった者たちの魂の光にオレは感じて。
「あいつら、許せねえ。」
ぼそっと一人呟いた俺は視界の角に入れていた目に痛い光る剣に背をむけ村長の住む村一番敷地の広い屋敷へ駆け出す。
魔物の軍勢から故郷を守るために。脅威が迫ってきている情報を伝えねばと走る。
「オレに力があれば。」
マイケル・コース村に伝わる古い伝承がある。
地上に大いなる災い訪れ天・地・海・空尽く破壊されし瞬間災いを打ち払いし黒衣の剣士が災いを切り裂くであろう、と。
「英雄の儀式は夕刻か。」
伝承では、黒衣の剣を振るう者を勇者と呼ばれている。
さらに闇でもって大いなる闇を制するとも。
だが、村の儀式で引き抜く聖剣は神々しく光輝き直視出来ないくらい自己主張強めだ。
ガキの頃憧れていた勇者にようやく成れる儀式を行う。
そんな日にオレはどうにでもなれとヤケクソになっていた。
17才で行うマイケル・コース村の成人の儀式。その名は聖剣の儀。
村の小高い丘に丸い石がある。その中心に刺さった自己主張強めのピカピカに光る剣を引き抜こうとする儀式だ。それを行った村人の男連中でないと魔物の軍勢に立ち向かう舞台に立てない。この儀式が行えるこの時まで歯痒かったから。3年前に死んだ幼なじみのリアラの骸をこの眼で直視して改めて勇者になると、そう心に決めたあの日から。
暗い復讐心と魔物に対する怒りと魔王に対する怨嗟に胸が張り裂けそうになりながら村長の屋敷の扉を叩いた。
「おい! 村長さん! 奴らが迫ってきている!」
バタバタと慌てて扉を開けた老人。彼の名はガレン・マイケル・コース。村の村長だ。片眼は眼帯で隠れ傷だらけの全身は村人たちをその身で守ってきた証。
「グエンか。もう、奴らが迫ってきているのか。」
「村で一番戦える戦士は村長さんだ! だから知らせにきた。」
樹海に周囲を囲まれ、辺境の村で救いを求めるのが容易ではないこの村で幾度も存亡の危機を乗り越えてきた歴戦の猛者。それが、目の前の老人ガレン・マイケル・コース。
「同年代の者たちは備えができとるのか?」
「あいつとオレだけしかいねえよ、村長さん。」
亡くなったリアラ・マイケル・コースの兄でライバルのスヴェン・マイケル・コース。ただでさえ戦力が、十分でない村の増員が僅か二人。誰がどう見ても村の存続より滅亡の足音が迫ってきていることがはっきりしている。
「ワシが魔物どもの軍勢を足止めするわい。」
「村長さん!」
村人たちのためにその身を自ら犠牲にしようとする歴戦の老兵を前にし、オレは無力な己を恨んだ。
「ワシが奴らの群れを引き付ける。じゃから逃げれる者は散り散りになり少しでも生き延びる可能性に賭けるのじゃ!」
魔力を放ち村に緊急の通達をする村長。その瞳にはギラギラした闘志を滾らせていた。
「じいさんばっかりに良い格好つけさせたくねえな」
「スヴェン…。」
村一番の歴戦の猛者ガレンの孫のスヴェンは血のように紅い髪に夕日のような色の瞳の爽やかイケメンだ。スヴェンの妹リアラとオレは恋人同士で将来を約束していた。オレの生きる目的そのものだった。
「グエン。リアラのことは忘れやがれ。」
「なんだと?」
天涯孤独であったオレの生きるための光であるリアラはもう、いない。
幼少期から、家族同然に暮らしてきたオレとスヴェンは3年前から本格的に始まった魔物の侵略によりリアラが犠牲になってから、さらに険悪な関係になった。
「聖剣の儀で勇者になるのはグエンじゃねえ、俺はだ! リアラをてめえに任せたのが間違いだったって証明してやるよ…。」
「…。」
スヴェンはまるでオレを魔物どもと同じ存在であるかのように睨みつけると聖剣の丘へ向かった。聖剣の儀は非常事態のため簡略し、個人的にやるようになった。3年前からだ。
オレは危機を知らせることを優先したからまだ行っていない。
「グエンよ、忘れろとは言わぬ。リアラの死を乗り越え強くあってくれ。ワシはいつも見守っておるからのお。」
「村長さん…。」
オレを見るガレン村長は幼少期の頃、孫同然のように扱った優しい微笑みを浮かべていた。
その村長の優しさをはね除けるように背を向け再び聖剣の丘へ駆け出していた。振り返った途端、村長の屋敷近くに雷鳴が轟き無数の紫色の落雷が迸り、周囲に破壊をもたらした。
有翼の魔物による魔法攻撃だった。空に数百の影が漂っていたから把握できた。だが、何もなす術がない。無力な己に絶望し、嘆き、恨み、憎しみ、怒り、呪い、嫌悪し、悲鳴を噛み締めありとあらゆる暗い感情を胸に秘め忌々しい光輝く聖剣へ向けただひたすら走った。
作者は豆腐メンタルです