図書館とポルシェ
読書好きのとある金持ちが次に興味をもったのは私だった。
その金持ちは私の勤めている図書館にブルーのポルシェでよく本を借りに来ていた。
どうせ金持ってんだから本くらい買えばいいのにと思いながら対応していた。
やがて顔馴染みとなり、顔を合わせれば他愛ない言葉を交わすようになったある時
「良かったら結婚を前提にお付き合いしませんか?」と言われた。
特別好意を抱いていた訳ではないけれど、見てくれは悪くないし金持ちとの交際は良い思いも出来そうだと思ったので受け入れた。
一緒に歩く時は私と手を組みたがった。
バーにいくとモヒートを好んで注文していた。
実は喫煙者でブルーのIQOSをいつも持っていた。
でも私といる時はセックスの後しか吸わなかった。
ある時「一番好きな映画を教えてほしい」と言われたのでリチャード・ギアの「愛と青春の旅立ち」のDVDを一緒に観た。主人公の友人が死ぬシーンで涙を流し、映画が終わると「あの手の嘘は女が吐く嘘の中では最低だと思う」と言っていた。
誕生日には私のイニシャルが印字された高価そうなボールペンをくれた。「図書館での仕事で使って」と恥ずかしそうに微笑みながら言う顔を見た時、すべてを愛しく感じてしまった。
軽い気持ちで付き合ってみたのに、いつしか本当に好きになってしまっていた。
そして私は今とても悩んでいる。
お金持ちの恋人の誕生日には何をプレゼントすれば良いのだろう。
値段じゃなく心だと言うのもわかっているけど、そうは言っても悩んでしまう。
しかし散々悩んだ挙句、何を買うかはあっさり決まった。図書館勤務の収入では少しせのびだが迷いなく購入した。
とある決心と共にこれから待ち合わせ場所に向かう。
いつものバーでモヒートを片手に私を待っていた。私を見るなり「遅いよ。主役を待たせないでよ。」とわざと怒った口調を作って言ってから笑った。
それを見るなり、私は片膝をついて胸のポケットから指輪を出した。
「お誕生日おめでとうございます。プレゼントいろいろ考えたんだけどこれしか思いつきませんでした。俺と結婚して下さい。」
彼女は一瞬驚いたように目を見開いた。
そして「私を養うつもりなの?」と涙目で微笑みながら私の手を取った。