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飯テロ⑩イライラする人族達

さらにのんびり投稿となっております。

今回の飯テロの効果は…。

「くそー、ちょこまかとすばしっこい奴らめ…!」

「いた!西の方向だ!」

「いや北の方向!」

「違う東だ!」


人族は完全に楽達に翻弄されていた。

人族が食べていたのは、米に干し肉を入れて煮込んだ肉粥と漬物。量は十分あるとは言っても毎日代わり映えのない、もはや作業のように作り食べていた食事。もちろん偶には、贅沢とまではいかないが兵士達を喜ばす食事メニューが出ることもある。酒だって振る舞われる。だが、たまたま居合わせたノマディ族からもたらされた旨そうな匂いは刺激的すぎたのだ。大人気ないと思いつつ略奪すべく大勢が殺到した。ノマディ族は所詮は遊牧民族。遊牧しているが故に逃げるのは得意だろうが、戦う技術は遅れている。事実武器や防具は人族のものと比べれば何世代も遅れている。屈服させるのは造作もないであろう。しかも相手は30人足らず、対して人族は2000を超える。獲物の少なさはすなわち、捕らえた者、あるいは奪い取った者しかあの旨そうな匂いの食事を得られる権利がないことを物語っていた。つまり早い者勝ちだ。結果、我先にと襲撃した人族だったのだが、動き出した瞬間蜘蛛の子を散らすように散らばるノマディ族。不思議なことに、食べていた鍋までもがノマディ族を追いかけるように逃げていった。


「くっ…逃げ足ばかりの部族めが!」

「先回りしろ!挟み込むんだ!」


挟み撃ちにしようとしすると馬ごと巨大な岩を駆け上がる。あいつらができるならと、同じように駆け上がってみようとするがどうにもうまくいかない。仕方なく魔法を駆使して飛び乗るのだが、相手が魔法の詠唱時間を待っていてくれるはずもなく、上がった頃には他の岩へ飛び移っているか別方向から飛び降りた後だ。なら飛び移る岩が周りになり孤立した岩へと誘導し、挟み撃ちにしてやろうとする。すると一瞬岩陰に隠れたと思ったらいつの間にか姿が消える。気配すら感じられず、しばらく様子を伺ってみても出てくる気配がないのだ。そうこうしているうちに他のノマディ族を追いかけている仲間が気になって我慢できずにそちらに向かうことに。早い者勝ちという状況に辛抱強く待つことができないのだ。腹が立つのは逃げ回るノマディ族が手に持った皿から食事を続けながら逃げているということ。少し追跡の手を緩めれば、追づいするあの変な形の鍋からおかわりを装ったりしている。あのふざけたデザインの鍋も神経を逆撫でる要因となっていた。

人族はそのまま翻弄されっぱなしのまま追跡を続けていたが、時間ばかりが過ぎていきいつの間にか辺りが薄暗くなっていく。


「お前達、そこまでだ!これ以上無駄に体力を使ったら明日にひびく。」


夕食時の自由時間を使って追いかけ回していたが、流石に夜にまで食い込んでしまうのはまずい。リーダー格の騎士達の追跡を止める。その声に悔しそうな視線を滲ませるが、そこは訓練された優秀な騎士達。しぶしぶテントへ撤退し残っていた食事を掻き込む、あるいは片付けを始める。






そんな様子を楽とノマディ族の皆は嬉しそうに見ていた。


「今日の鬼ごっこは終わりかな?」

「どうやらそのようじゃの。ちと心残りじゃが、しかし悔しがる顔は見ものじゃったわ!これで保存食を奪われた村の皆の溜飲も下がるわい。」

「もう終わりなのか?オラもっと鬼ごっこしたんだぞ!」

「そうじゃな!わしらももうちっと奴らの悔しがる顔見たかったぞ!わっはっは!」

「エティ、明日もまた鬼ごっこできると思うし、今日のところは飯の続きだ。デザート食べたいだろ?」

「デザート!オラ、デザートの方が大事なんだぞ!」

「クルは?クルは?」

「もちろん、クルの好物もあるぞ!さぁデザートタイムだ!」


人族が諦めたことをいいことに再び付かず離れずの距離で食事の続きを始める楽達。辺りに漂う【ビリヤニ】の香りに加え、今度は甘い香りを漂わせ夢中で食べ始める様子に人族の顔が更に歪んでいることに気が付きながら。ノマディ族にとってはこの上ない愉快な夜となったのだった。






「お前達、何事だ?」


イライラを募らせながら休む準備を進める騎士達のもとになんと隊長が足を運んできた。


「コ、コウウ様…!いえ、大した事でなく…何も問題はありません!」


ビシッと敬礼し報告する騎士達。スイッチが入ったように、今日上を引き締めるあたり、優秀な騎士なのであろう。コウウは騎士達の言葉に、辺りの騎士の様子、表情や身につけているものなどをチラッと確認しつつ遠くに見えるノマディ族をみる。もちろん漂うスパイシーで胃を刺激する香りにも気付いている。


「この香りは、あの遊牧民達からきているものか?」

「はっ!そうであります!」

「その割にはここ一体に広がっているようだが…。」

「恐れ入ります!安全を期して追い払おうと試みたところ香りが広がってしまいまして…。しかし、一定距離を保ち近づこうとしない事、また敵意は無い事を確認しました故え追い払うまでは必要ないと判断しました。」

「…判断するまでに随分と広範囲に追いかけ回したようだな。」

「いえ、そんなことは…。奴ら慌てすぎてバラバラの方向に逃げ出したからでして…。」

「それに、あんな少人数、飯を奪ったとしても大して食べられるはずがないだろ。」

「い、いえ…奪っ…はい。」


コウウにはあの香りに我慢できず奪い取ろうとしたのは明白だった。しかし捕らえられなかったばかりか、あの香りを広範囲に広げて腹を空かせては世話ない。だがたとえ飯を奪えていたとしても、それはそれで仲間内で奪い合いが生まれて隊の雰囲気を壊しかねない。正直逃走に特化した遊牧民に救われたと感じざるを得ないコウウだった。


「よし、明日は久しぶりに英気を養う宴としよう。」

「え、英気ですか?」


少し考え、突然の明日の宴宣言。宴といえば偶に振る舞われる豪華な食事に酒。決戦の前、死闘の後、更には何か頑張って成果をあげたものが現れたときコウウは度々宴と称して部下達をねぎらってきた。ノマディ族の備蓄を頂戴した時も宴が開かれ、積極的に騎士隊の為に活躍してくれた騎士達が、その仲間思いの行いを讃えられ、宴をもたらしてくれた仲間達との絆を深めていた。しかし、ノマディ族が縄張りとする平原を越えてからは危なげなく軍行で来ていたこともあり久しく開かれてなかった。


「しかし、特に祝うようなことは無いようですが…。」

「何を言うか。皆があってこそのこの軍だぞ。私は常に皆に助けられている。偶には労わねばだろ?」

「なんでも無い日に贅沢してもいいのですか?」

「部下達のやる気を管理できてこその指揮官だ。飯で満足できれば今日のこんなイライラもすぐ忘れるだろう。」

「なるほど、流石コウウ様!おい皆喜べ!明日はうまい飯の日だ!」

「「「「うおーーーーー!!!!」」」」

「味噌たっぷりの肉を堪能しろ!」

「「「「味噌!!!!????ありがとうございまーーーーす!!!!」」」」」


味噌はまだまだ高価な調味料だが人族の自慢の調味料で、嫌いな奴はいない人気の調味料だ。この隊では肉に味噌をたっぷりつけて焼く、味噌焼きが流行っていた。味噌と肉の焼けるあの香ばしい芳醇な匂い。騎士達は思わず想像し涎をこらえる。いつの間にか辺りに漂う旨そうな匂いは気にならなくなっていた。一瞬で気分を取り戻した騎士達はウキウキしながら明日に備えて準備を進めていくのだった。

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