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飯テロ①ヒエラルキーなんて脆いものです

じゃがいもは食感の宝石箱や。

やってきました翌朝。いよいよ飯テロ本番だ!

今日は朝から大忙し。なんとか昼前に孤児院外で【ホットドッグトルネード】を揚げ始めた。

パチパチパチッと小気味良い音が鳴り響き町ゆく人たちの気を引く。そこに追従してにんにくの食欲そそる匂いが立ち込める。じゃがいもがカラッと揚がればあっという間に完成だ。待ちきれない様子の子供達に手渡していく。


「ご飯の時間だよ?」


こだまの合図で一斉にかぶりつく子供達。


「○&%!!!!!!(うめー!!!!!!!)」

「▲◆π(外カリカリ!!)」

「&%α(中ホクホク!!)」

「%&⌘(肉ジューシー!!」


大声上げつつ実にうまそうに食べていきます。その様子に思わず唾を飲み込む町の人たち。


「□◉⊆∮▷▼△(なんだそれ!うまいのか!?俺にも1つくれ!)」

「π$#%&(すげーいい匂いだ。俺にも1つ!)」


子供達の100点満点の食レポをきっかけに【ホットドッグトルネード】が飛ぶように売れる。

見た目のインパクトと子供達のリアクションの宣伝効果抜群。

ガーリックの香りに我慢できず購入に踏み切る。

串の持ちやすさで、お土産に何本も買ってくれる人もいた。

狙いは大成功だ。


「中でご飯系もたべれる。」


すかさずこだまが宣伝すると、興味本位でちらほら人が入ってきた。

そう、ガッツリ食事系も用意したのだ。

【ポテトスキン】と【じゃがいものニョッキ】だ!


【ポテトスキン】


材料

・じゃがいも

・ベーコン

・チーズ

・ネギ


これも超簡単。茹でたじゃがいもを半分くらいスプーンでくり抜く。くり抜くのは子供達の仕事にした。

くり抜き終わったら細かく切って焼いて細かく切っておいた豚バラと、細かく切った青ネギ、細かく切ったチーズを入れる。後はまたオーブンで15分焼くだけ。やばいくらい簡単。やば単だ。


続いて【じゃがいものニョッキ】


材料

・じゃがいも

・片栗粉

・塩

(ソース)

・牛乳

・バター

・塩

・胡椒

・チーズ


さっきくり抜いたじゃがいもを潰してマッシュに。そこに片栗粉、塩を入れてよーく捏ねる。

これも子供達主導だ。粘土みたいな生地にすごく楽しそうに作業に取り組んでいる。

因みに本当は片栗粉じゃなく小麦粉を使うことも多いのだが、今回は徹底的に小麦排除の方向で。

旨味は多少減るかもだけど、片栗粉でモチモチ度はあっぷするし、食べ応えは味噌なのでこちらでトライ。


しっかりまとまったら、直径2cmくらいの長い棒状に転がして伸ばして1cm 位に切っていく。

小さく切ったじゃがいものお団子をフォークで軽く潰して線の模様を入れていく。

こうすると見た目もいいし、この後茹でる時に火が通りやすくなるので一石二鳥。

後は、お湯に塩を少し入れ3分茹でる。浮いて来たら茹で上がりとなります。


さて、茹で作業は子供達に任せてソース作り。

フライパンに牛乳、バターを入れて火にかけて煮詰めていきます。

しばらく火にかけたらチーズを入れてよく混ぜ、少しトロッとして来たら完成。にょっきと和えるだけ。


お客さんに料理を見せると、物は試しとみんな各々気に入ったものを注文してくれる。

誰かが食べ始めれば続くお客さんも我先にと注文を始める。

あっという間に満席でご飯系メニューも飛ぶように売れた。

様子を見ていると味はもちろん、狙い通りじゃがいもの様々食感に驚いているようだった。

そう、じゃがいもでいろいろな食感を楽しめる。

これも狙いの一つだった。

【ハッセルバックポテト】【ホットドッグトルネード】のカリカリ食感、

【ポテトスキン】のほくほく食感、

そして【じゃがいものニョッキ】のもちもちツルツル食感。

コンセプトはじゃがいもを食べ尽くす食堂、です。

いろんな食べ方があることを知ることで一気に小麦粉の座を脅かす作戦だ。


そして、じゃがいもで飯テロは見事成功。

孤児院のじゃがいも食堂は連日完売御礼。じゃがいもの美味しさが見直され、さらに孤児院も主婦達にレシピを聞かれれば親切に教えてあげたことで、家庭でもじゃがいもが上がることが増えたらしい。

結果主食であったパンの消費が減り、あのガラ悪小麦やろうが「ぐぬぬ」と地団駄を踏む結果に。

じゃがいも販売を邪魔しようと乗り込んできて、町の人たちに追い返され、2度目の「ぐぬぬ」顔もしっかり拝ませてくれた。


それから3ヶ月。


孤児院のじゃがいも食堂は完全に軌道に乗った。

裏の新しい畑にはりっぱなじゃがいもがたくさん育ち、元々の畑で育てていたトマトとピーマンも豊作だ。

売り上げも好調を維持し孤児院の借金返済も順調に減っていっている。

対する町の小麦消費は完全に失速した。


ちなみにこの村の平均月収は5万くらいらしい。つまり1日1500リロ。でもそれはあくまで平均で、1日5~600リロって人が多いらしい。中央値が5~600リロなのかな。

そう考えると子供24人とシスターを抱える孤児院。少なくとも1人1日500リロ稼げるようになりたい。経費も入れたら目標1日2万リロ。いや、収穫のなくなる冬場は食材も高くなるし2万5000リロかな。

当初はそう考えていたのだが、今は1日3万リロを維持している。もはや町一番の食堂と言えるのではないか。


そして、お喋りな子供達に揉まれ俺の異世界語もかなり上達した。面倒くさいのかこだまが通訳放棄してからは特に上達が早かった。


さて、順調に売り上げを伸ばし、人気が出れば舞い込んでくるのがトラブルというのが世の常。

3ヶ月たったある日、孤児院にお役人ぽい人が怒鳴り込んできた。


「販売許可証はあるのか?」


そりゃそうですよね。勝手に商売していいはずがない。


「孤児院は許可なしで商売をすることが認められているはずくま。あんたたちは今年に入って突然孤児院への援助を打ち切ったくま。自分たちで自分たちの生活の糧を稼がなければならなくなったのはそちらの所為ともいえるくまよ。」


え、孤児院そんなことになってたの。偶然とはいえ、俺が現れたのはよいタイミングだったようだ。


「確かに、援助は打ち切りになったが、こちらも財政的に厳しい状況なのだから仕方のないことだったんだ。

確かに孤児院は許可なしに商売することが認められている。だが、聞くところによると偉く稼いでいるらしいじゃないか。そうなれば話は別だ。売り上げの6割をきっちり払ってもらう。」


6割って結構エグいな。でも江戸時代の年貢、確か採れた米の半分だったって読んだことあるからこれも普通なのかな?


「流石にそれは多すぎくま。他の店でも売り上げの2割なはずくま。孤児院差別くま。」

「くまくまくまくまうるせーな。売り上げが大きいんだからいいんだよ。今まで援助してやってたんだから文句は言わせねー。」


稼げば税収が大きくなるのは当然かもだけど、孤児院だからってのは確かに納得がいかないな。2割が6割になるのは流石にやりすぎだ。

鼻につくからふんだくってやろうって感じが明け透けですね。

ってか、語尾くま気になってたのは、俺だけじゃなかったんだな。

シスターオリジナルなのか?


「町一番のレストラン“きこりや”も売り上げの2割だくま。」

「うるせぇ!“きこりや”はれっきとした獣人族の店、ここは孤児院と人族の店だろ!?知ってるぞ人族が奥に隠れてるんだろ!?」


あら、孤児院差別かと思ったら人族差別でしたか。カチンと来た俺は久々に表に出る。


「だれだ!俺を糞人族と間違えてる奴ぁ!!!」


ドアをバンと開けて飛び出し、ボーガンを打ちっぱなす。すると矢は役人をカスめ後ろの木にブスっと刺さる。「ヒッ」と木の後ろに潜んでいたガラ悪小麦野郎。やっぱりお前の差し金か。


「その野蛮さ、やっぱ人族じゃねぇか!それに散々援助してもらって恩を仇で返す気か!?」

「雀の涙みたいな援助で恩着せがましいくま!それにその資金は町の人たちの寄付なはずくま!本当に全額援助に回してくれていたのか甚だあやしいくま!」

「なんだとー糞熊!!」


ハァ、不毛な罵り合いに発展しようとしています。


「まぁまぁ、シスター落ち着いて。そちらの言い分は分かりました、キッパリお店辞めますわ。」

「「え!!!!????」」


俺の突然の辞める宣言に両者呆気に取られてしまいます。


「楽さんそんな…。」

「だってそちらは税収を2割に下げたくない。こちらは税金を2割以上払いたくない。完全なる平行線ですので、払わないためには辞めるしかないでしょ?まぁ、喜んでくれた町の人たちには悪いけど、店たたみますわ。」


わざとらしく町の人にも聞こえるように残念がる楽。すると騒ぎを聞きつけた野次馬達の中から声があがります。


「それは困る!!!」

「そうよ!うちの子の大好物なんだから!」

「俺だって、食べに来るの楽しみにしてるんだ!」

「援助ってそもそも私たちの寄付じゃない!」


町の人たちが次々孤児院を擁護する言葉を投げかけてくれます。子供達とシスターはこの3ヶ月間一生懸命働き、その甲斐あって町の人たちからも愛される店へと成長しました。


「おじちゃんは人族じゃないもん!」

「そうだそうだ!おじさんは魔法も使えない弱弱なんだぞ!」

「人族は女好きって聞いたぞ!結婚もしてないおじちゃんが人族なわけないぞ!」


ぐぬぬ…援護射撃は嬉しいが俺の心を的確に抉るな子供達!

どんどん勢いを増す援護射撃に、ついに逃げるように役人たちは去っていった。


「店やめないでくれよ!困ったら俺たちすぐ駆けつけるからな!」


町の人たちも役人が帰ると頼もしい言葉を残しつつ帰っていった。


「町の役人はずーっと孤児院の土地を狙ってたくま。資金援助カットしてうまく回らなくなったらこの土地を取り上げるつもりだったみたいだけど、そうはさせないくま。」


逃げ帰る役人を見つめながら呟くシスター。でも今は町の人たちも味方についてくれる。もうきっとこの孤児院は大丈夫なんだろう。

そうなってくるともう俺たちはお役御免、長居は無用かも知れないな。

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