食事会と旅立ちの時
漸く寄り道的なドワーフの国終了です。
完成したワンハンドフードを運ぶのに、早速ホバーボードを使ってみることにした。
「荷物を運ぶってどうするの?」
「お、いい質問だリア。こうするんだよ。」
俺は4枚のホバーボードを繋げていく。繋がったらその上に大きい板、さらに絨毯を重ねていく。この状態で浮かべれば…空飛ぶ絨毯の出来上がり。
「これだけ大きければ、荷物をいっぱい乗せても十分乗るスペース確保できるだろ?性能チェックも兼ねてこうやって移動しよう。」
絨毯に机を置き、その上に食事を並べる。机の下には椅子兼飲む用のお酒の樽もたくさん積み込む。そしてみんなが樽の上に座ったら出発だ。
「おぉ!すごい、動き出したぞ!」
「うまうまうまうま。」
「こだまもう食べてるの…?」
「あ!こだまずるいぞ!オラも食べる!!」
「クルも!」
予想通りエティは空飛ぶ絨毯に大興奮。こだまは机に並べられたご飯に早速手を伸ばした。たっぷり作ったからどんなに食べても大丈夫さ。どうせハンバーグも欲しくなるだろうからバケツコンロを出して焼きながらいきますか。マーラさんがクラッグさんを引きずってきて、移動手段にひとしきり興奮した後、漸く出発。
「へぇ、これすごく食感いいねぇ。美味しいよ。」
「おぉ!すごいうまいじゃないか!」
「気に入っていただけたようでなによりです。こうするとパスタもまた違った味わいですよね?」
「片栗粉のザクザク食感もいいけど、私は小麦粉のもちもちが好きだねぇ。クラッグあんたはどっちが好き?」
「俺はお前の作ったいつものが一番なんだがなぁ。もちもちの方がいつものに少しだけ近いから、もちもちを食べてるぞ!」
何サラッと惚気を入れ込んでるんだこの夫婦。無視して俺はこだま達のご飯作りに集中することにしよう。
「この【テキーラボール】そのままだと私にはお酒がきついですね。でも潰して紅茶に少し入れると美味しい。」
「リア、私達もそれ頂戴。クラッグ、あんたきっとこれなら気にいるわよ。」
「おぉ、うまい!うますぎる!!楽、お前天才じゃないか!」
イチャイチャしながら【テキーラボール】を褒めるクラッグに完全に無視を決め込んだ俺はホバーボードの操作をリアに任せてせっせとハンバーグを焼いていく。
「うまうまうまうま。」
「やっぱりご飯には肉だぞ!楽、白いご飯も欲しいぞ!」
「楽、あのね、きのこのハンバーグも作ってくれる?」
「しゃーない、こうなったら全部作ってやるか。」
料理をしながらの移動。当然ながら香りに街の人たちが寄ってきます。
「お前ら酒持って広場に集合だ!リア、広場に急ぐぞ!」
「え、俺達クアワさんのとこに行こうと…」
「広場に集合かければあいつらも絶対来るから安心せい!」
どうやらまた広場の宴会になりそうです。これは本気でいろいろ作らないと食べ物が足りなくなりそう。慌てて食材の仕込みをしているとあっという間に広場に到着してしまった。
「よぉお前達!遅かったじゃないか!?」
「え、クアワさん、早!!」
クアワさんはとっくに到着していてしかも既に何杯か飲んだ後のようだ。
「クアワさん見てください。ホバーボード快適に動いてますよ!」
「ん?そうだろそうだろ!さぁ飲め!」
道具より酒のクアワさんは話半分で酒を薦めてきます。やれやれと思いつつ【スパゲティドーナツ】と【テキーラボール】並べていく。
「クアワさん、こちら片手で食べれる【スパゲティドーナツ】と食べれるお酒【テキーラボール】です。魔石のお礼に作ってきたんでぜひ召し上がってみてください。」
「お、つまみか?気が効くじゃないか!」
片手で【スパゲティドーナツ】を掴み豪快にかぶりつくクアワさん。
「うまい!しかもこりゃいい、酒を離さず食べれるじゃないか!」
「クアワこっちの食べる酒もうまいぞ!」
「あぁ、この【テキーラボール】だったか?酒に入れてもまた格別だ!」
「う、うまい!楽お前天才じゃないか!」
新宿ホストバリの喜びよう。まぁ喜んでもらえて良かったのだが…。笑顔を引きつらせていたらクルが頭をペシペシたていてきた。
「クルのハンバーグは?」
「はは…じゃークルのハンバーグ作りますか…。」
盛り上がるクアワさんはほっといてご飯作り再開といきましょう。街の人たちもだんだん集まってきていろいろリクエストが入ったので即席屋台は大繁盛だった。まぁ、お金は取ってないんだけどね。途中もちろん食材が足りなくなったのだが…
「おぉ盛り上がってるな!俺たちも混ぜてくれよ!食材もたっぷり持ってきたぜ?」
「ビットさん!いいんですか?助かります!」
宴会を察知して集まってきたハーフリング達も加わり、そこからは大料理大会&大宴会だった。思いつくままビットさんとご飯を作ってはドワーフとハーフリングのみんなに味見してもらったり、いろんな味のお酒を作ってみたり、実に楽しいひとときとなった。
いつの間にかドワーフとハーフリングも意気投合。もちろん宴は朝まで続いた。
前回までの朝まで宴会と違って充実した気分で迎えた朝、俺達はそろそろジクロブ・ハフナを発つことにした。
「なんだ、もう行くのか?」
「えぇ、移動手段も手に入ったことだし、長い道のりになりそうだからなるべく早く出発しようかと思って。」
「そんなに急ぐ旅なのかい?」
「早く人族の悔しがる顔みたいですからね。あと、いい加減自分の国に帰る方法も見つけないと。婚約者が待ってるんで。」
「婚約者?またつまらん冗談を。ま、折角荷物を家に運ぶの手伝ってくれたんだ、朝食ぐらいは食ってくだろ?」
「いや冗談じゃ…」
「楽、なんか家の方から声が聞こえる…。」
人より耳が良いリアは家の方から声が聞こえるという。
「誰かいるのか?」
「ううん。人の気配はしない。」
「そうか…。クラッグさんマーラさん、荷物ここまででいい?そろそろ出発した方が良さそうなんで。」
「ん?そうか?荷物はここまで運んでくれれば十分さ。」
「いろいろ楽しかったよ。またジクロブ・ハフナに寄っておくれよ。」
「はい。ぜひ寄らせていただきます。」
「楽、家の中で変なのが叫んでる。」
「こだまシー。あ、では失礼しまーすー。」
家の方を気にするこだまのを捕まえて慌ててホバーボードの板に載せる。続いてエティとリアを乗せ、クラッグさん達に礼を言って急いで出発した。頭の上で手をふるクルに顔を綻ばせつつ手を振りかえすクラッグさんとマーラさんに見送られ、ついにドワーフの国ジクロブ・ハフナを後にした。
実に長く思い出深い街だったな。
「面白いやつ達だったなぁ。」
楽達を見送った後、家に戻ったクラッグとマーラは、工房で不思議な光景を目にすることとなる。
「遅かったではないか、お前達。妾を置き去りにして出かけるとは、罰当たりな者よの。」
「マーラ、俺まだ酔ってるかな?剣が喋ってるように見えるんだが…。」
「クラッグ、私も酔ってるみたい。私も剣が喋ってるように見えるわ…。」
「とりあえず寝るか…。」
「そうね、寝ましょう…。」
「お、おい!妾を無視するでない!」
「煩いから箱にでも入れときましょうかね。」
クラッグの家では出来たての剣が捲し立てるように喋っていた。実は家の方から声がすると聞いた楽はピンときていた。クリスタルスカルを焼べた張本人である楽の感の良さが冴え渡り、無事このイベントの回避に成功したのだった。焼べたクリスタルスカルのせいで魂を持ってしまった剣、もし楽達も一緒に遭遇していたら押し付けられていたことだろう。
しかし、大雑把な夫婦が改めてこの剣と向き合い、頭を抱えるのはもう少し後になるのだった。




