飯テロ⑥にんにくは危険な香り
ステーキをあの手この手で食べたいと思います。
ハクシクス王国に戻ってみれば、ベジ族のみんながパニックになっていた。
なんとドラゴンがいなくなって目ざとく食いついたのは昆虫だけではなかった。突如空から巨大な鳥の魔物が襲ってきたのだ。今度こそ本当の、一難去って、また一難だ。
「分かる、分かるよ、野菜好き多いもんな。でも野菜は大切にするもので乱獲していいもんじゃねぇからな!」
ため息つきつつ急いで応戦に加勢する。まぁ、こだまとリアがいれば百人力なのだが俺だって頑張るよ?岩の影に隠れているトマト親子に狙いを定め、巨大な鳥が飛び上がる。白をベースに頭には赤いモヒカンのような毛、翼の先や尻尾にも赤い長めの羽を携えている。そしてワシを100倍いかつくしたような形相だ。何より俺よりもでかい。超巨大な紅白鳥だった。咄嗟に岩に飛び乗りボウガンで応戦すると、瞬時に危険を察知して動きを止める。でも、動きさえ止めてしまえば後は楽勝だ。
「こだま!」
こだまが雷のように電気を帯びた巨大な網を生み出し、魔物に向かって放つと縄に捕らえられ即感電、地面に落ちてプスプスと煙を上げている。
リアの方はというと弓矢で的確に頭を撃ち抜いている。魔物も馬鹿じゃないから巧みにかわすのだが、風魔法で巧みに矢の方向を操り、魔物の動きに合わせて確実に頭を狙い撃ち。めちゃくちゃ怖い、あの攻撃。
俺はというと、ボウガンで応戦しつつ逃げ遅れているベジ族を回収していく。因みに、俺だってたまにはしとめているよ?エティがいればもっと効率良かったかもだけど、俺のボウガン力もなかなかだからね。
そしてあっという間に駆逐した。
「命拾いしたわい…。」
疲れ切った様子で地面に座り込むティガルさんが呟いています。怪我人はそこそこ出てしまったが、幸い死者は出なかったようだ。早く戻ってこれて本当に良かった。しかし、疲れ切っているベジ族の人たちには申し訳ないが、メインのドラゴン対策が残っている。幸い大量の鳥魔物肉も手に入ったので、これも使おう。
「楽、お腹すいた。」
「いっぱい動いたしなぁ。じゃ、先にこだま達が仕留めてくれた鳥で食欲増進レシピ【シュクメルリ】作るか!」
「鳥食べる!」
「だなだな、ドラゴンに食べられちゃう前に俺たちも楽しまなきゃ。」
【シュクメルリ】
材料
・鶏
・にんにく
・バター
・チーズ
・牛乳
・塩
今回は大量に作りたいからバケツコンロ4つ並べてちょっと深さのある超巨大バットで屋台風調理だ。
鉄板にオリーブオイルをたっぷり入れて、大きめのぶつ切りにした鶏にフォークで穴を開け、塩を振り、皮目を下に置いていく。並べ終わったら火を入れじっくり焼いていく。鶏は火が入りすぎると硬くなっちゃうからフライパン冷たいところから火入れだ。皮目がパリッとしてきたらすり下ろしたにんにく&まるごとにんにくをたっぷり投入。すり下ろしたにんにくは焦げやすいしめちゃくちゃ跳ねるので大慌てで混ぜる。
にんにくの香りが立ってきたらバターと牛乳を入れて煮込む。取りにしっかり火が通ったらチーズをたっぷりかけて完成だ。
にんにくの強力な匂いが胃を刺激しまくりだ。
「あーたまらない匂いだ…。ちょっと食べちゃおう!」
「うまうまうまうま」
「なんてにんにくってこんなにお腹空く香りなの…。」
こだまもリアもいつも以上にがっついている。にんにくの食欲増進力って半端ないよね。
「パンをソースにつけて食べてもうまいぞ。」
「ほくほくのにんにく、うまい…。」
「茹でたブロッコリーとか野菜につけてもこのソースうまい!」
ベジ族の人も交えて大バーベキュー大会となる。ドラゴンに昆虫に鳥魔物にと緊張しっぱなしだったベジ族も、うまい飯でちょっと緊張が解れたようだ。なによりだ。食べながら【シュクメルリ】と合わせて用意しておきたい、ステーキを美味しく食べるための秘密兵器も作っていこう。
まずは、【アフリカンソース】【アイオリソース】【ハリッサソース】トリプルにんにくソースだ。【アフリカンソース】は文字通りアフリカで生まれた野菜とニンニクがたっぷり入ったちょいピリ辛ソース。【アイオリソース】はフランス生まれのガーリックソース。マヨネーズで作るものやサワークリームチーズで作るものなどアレンジもいろいろあるのだが、今回はマヨネーズで作ろうと思う。そして【ハリッサソース】はチュニジア 、モロッコ方面でお馴染みの辛い万能調味料。肉はもちろん野菜にも合う、好きな人はなんにでもかけちゃう系調味料だ。
今回の飯テロは、肉食べすぎちゃってやばいよ作戦。胃袋刺激系飯テロだ。しっかり食べすぎてもらって、また当分の間眠ってもらおう。
【アフリカンソース】
材料
・にんにく
・トマト
・ハバネロ
・赤ピーマン
・オリーブオイル
・パセリ
・生姜
・コンソメ
・塩
作り方は一瞬なので見逃し注意だ。すべての材料をミキサーで混ぜる。以上。
【アイオリソース】
材料
・にんにく
・オリーブオイル
・マヨネーズ
・レモン汁
・塩
これもそこそこ簡単。ニンニクをたっぷりめのオリーブオイルで炒める。いい香りがしてきてきたら、オイルごとミキサーに。マヨネーズ、レモン汁、塩も入れて混ぜる。これだけだ。
マヨネーズの代わりにサワークリームチーズでもさっぱり美味しいよ。
最後は【ハリッサソース】
材料
・キャラウェイシード
・コリンダーシード
・クミンシード
・パプリカの粉末
・唐辛子
・すりおろしにんにく
・オリーブオイル
・塩
キャラウェイシード、コリンダーシード、クミンシード、パプリカの粉末、唐辛子をすり鉢ですりつぶして粉状に。細かさはお好みで。すりおろしにんにく、オリーブオイル、塩を加えてよく混ぜれば完成だ。
ソースって味の決め手となる重要素材なのにどれも簡単。これも人類が開発したすごい発明品だと思う。野菜にも合うからとベジ族の人たちに教えながら作ったからあっという間に大量のソースが完成した。
すると理想的なタイミングでエティが降ってきた。
「楽!楽!ドラゴンがドラゴン捕まえたぞ!」
ドラゴンが着地するより早く頭から飛び降り、安定のヒーローポーズで登場するエティ。そして戦果を自慢げにアピールしています。帰ってくるなり全力で騒いでますよ。
「あ!ずるいぞ!!もうご飯食べてる!オラのは?オラのは?」
「あーはいはい、あるから。あるから。」
「ふむ。何かいい香りがするのぉ。」
遅れて降り立つドラゴン。足元にはドラゴンより二回りほど小さなドラゴンが2体転がされている。狩ってきたのはドラゴンのようだが、それ食べるの?種族的には同じには見えないので別種族のドラゴンなのかな?ワイバーンとかそういうことなのだろうか…。よくわからないけど。
「この香りは、鶏がいっぱいいたんで、前菜に作っておいた鶏料理さ。肉、食べる用意しておきますので、まずは【シュクメルリ】召し上がってみてください。」
「ふぅむ。よだれがとまらん。どれどれ…。」
そう言いながら【シュクメルリ】に向かうドラゴン。よく見るとエティはすでに食べ始めている。素早すぎる。俺はリアとベジ族に手伝ってもらいながら小さいドラゴンの解体&料理。と思ったら後ろから、
「う゛、う゛、う゛ーま゛ーい゛ーーーーー!!!!!」
地の底にまで響くような絶叫が轟いた。振り返ってみると、ドラゴンが物凄い速さで【シュクメルリ】を食べている。追加の調理を頼んでいたベジ族がものすごい焦っている。間に合うと良いが…、頑張れベジ族。
「なんなんだ!?これが本当に鶏か!?パサパサしていて味気ない肉のはずなのに!!!!」
喋りながらもガンガン食べていくドラゴン。気に入ってもらえたようでほっとした。でも、あの食欲凄すぎる…こっちも急いでステーキ作りだ。リアとベジ族の神業的解体でいつの間にかブロック肉に変わった肉を早速鉄板でどんどん焼いていこう。めちゃくちゃ新鮮な肉だから表面を焼き固めて肉汁を閉じ込め、中はレア。普段はそのまま、生、レストランとかではブルーって呼ばれる食べ方をしているようだし、焼きすぎない方がドラゴンの好みだろう。横でこだまがじっと見つめている。分かってるよ、こだまの分もこっそりステーキ作ってあげるから。目で訴えると、こくりとうなずくこだま。
「これが肉を旨くする3種のソースだ。」
【アフリカンソース】【アイオリソース】【ハリッサ】それぞれをかけたステーキを差し出すと、早速かぶりつくドラゴン。一口噛んだ瞬間目を見開き、ワナワナしている。
「こ、こんなにうまいとは…。」
その後は無言で、そして先ほどよりも速いスピードで肉を食べ始めた。
「なんだ、このソースは!?どのソースも食べれば食べるほど腹が減ってくる…。」
嬉しいやら嘆かわしいやらな言葉を呟きながら食べ続けるドラゴン。その横でこだま達もガツガツ食べています。【シュクメルリ】作りから解放されたベジ族達は、野菜でソースを試してみていて、そちらはそちらで食が進んでいるようだ。
「うまうまうまうま。」
「ドラゴン肉うまいぞ!」
「いや、これはうまいなんてもんじゃない!最高だぞ!」
「楽は料理が上手だからな!」
「材料の野菜が美味しいのもうまい理由ですよ。濃い目の味だったと思うので、ここで一瞬さっぱりはいかがですか?これはわさび醤油、そしてこっちはトリュフ塩です。」
結構食べ進めたところで、隠し球も投入。
わさび醤油とトリュフ塩は料理ではないが、お口の中リセットに打ってつけだから用意しておいた。リセットされたらまた3種のにんにくが無限に食べれるようになる。
作るのが早いか、食べるのが早いか、死闘がしばらく続き、
「も、もう食えん…。」
「こだまも。」
「オラもお腹ポンポンだぞ!」
デーンと倒れ込み、ドラゴンがついに満腹になった。その横にこだま、エティと続く。いつの間にか仲良しになってる肉食三兄弟。
「楽とか言ったな。確かにすごくうまかった。長く生きてみるもんだな。もう食えないのに、まだ食べたく感じてしまう。こんな経験は初めてじゃわい。」
「お気に召してくださって良かったです。どれもベジ族が作ったんです。ね、ここに戻ってきてよかったでしょ?」
「確かにな。もうしばらくここにいるとしよう。…というより…ふぁー・・・眠いわい…。」
あっというまに寝息を立て始めるドラゴン。眠りつくスピードも早すぎる。でも無事元の鞘に収まったのかな?
「楽さん、ありがとう。本当にドラゴンが帰ってきてくれて、しかもまた寝床としてくれるなんて…。お主らはワシらの命の恩人だ。」
「そんなこと…、むしろあなた達は僕の心の恩人ですから!また起きたら美味しいソース作ってあげてください。きっと良い共存関係になれると思います。」
心の恩人という言葉には、はて?という感じで首を傾げるティガルさんだが、何はともあれ飯テロ成功。再び平和が訪れた。
「楽、綿菓子は?」
こだま、綿菓子のこと忘れてなかったか…。クルもワクワクした目で見つめてくるし、エティは言葉の響きだけでワクワクしている様子。まだ俺の戦いはおわってなかったようだ…。