難攻不落の城塞
旨いは諸刃の剣です。
………。
………。
………。
大変だ。大変な事が起こってしまった………!
なんと、
なんと、
なんと!
…………太った………!
40オーバーの脂肪は命に関わると言われているとかなんとか(嘘)。熊本城をも凌ぐ難攻不落の城砦が造られてしまった。主に腹回りに。
「つ、詰んだ………。」
新婚直前にこの醜態、結婚詐欺罪で捕まってしまう。
地球に帰って、幸せな結婚をまだまだ諦めていない楽は、この数日間の味噌、醤油に浮かれ切った自分に後悔しっぱなしだ。飢えていた味に自我を保てなかったのだ。自爆飯テロしてしまうとは。
ちなみに新婚生活を諦めていない彼だが、実は結婚詐欺師に騙されているという悲しき事実を彼はまだ知らない。なんと、地球にいた頃の彼は結婚詐欺師にまんまとはまり、婚約もまだだというのにマイホームを買わされ、いろんな金品を買わされ、程なく柄の悪い元彼に全てを奪われ追い出されるところだった。
もちろん、家の権利書などの類は彼女に渡す手筈となっていた。
一度追い出されれば億単位の借金だけが残る、地獄ルートだ。
結婚するまでは純潔を守りたいという彼女の意向でキスすらしたこともないのに。
「ひかりちゃん、俺、頑張るから…!」
年甲斐もなく山に向かって叫ぶ楽。尚、婚約者の本当の名前はようこだ。年齢も楽の9つ年上の50歳。若作りにお金を掛けまくって32歳に化けるメイクの方でもプロ中のプロ詐欺師である。
「なんで同じものを食べてるのにみんななんで太らないんだ…?リアもこだまもエティも…。………。おい、エティ、お前太っただろ?」
「オラ、太ってないぞ!ヒーローは太らない!オラは成長期なんだぞ!」
「いや、お前まん丸だぞ。ほら、掴み心地も悪いじゃねーか。」
「放すんだぞ!オラの頭は掴むものじゃないんだぞ!」
いつものようにワシッすると、バレーボールがバスケットボールになった感じ。
柔らかいから辛うじて掴めてるけど、これじゃあ投げづらいじゃないか!
「お前、今日から俺と一緒にダイエット決定。」
「こら!オラ育ち盛りなだけだぞ!」
有無を言わさずワシッして森へ。
そして、ひとりキャッチボールとばかりにエティを放り投げてはダッシュで追いかけはじめる。エディは捕まるまいと地面を魔法で凍らせて妨害してくる。負けじと縄を結んだボウガンを放ち、縄を引っ張って軌道操作、エティのいく先を妨害していく。大分激し目な鬼ごっこだ。
「これならどうだ!」
安易に妨害させないように投げ方を変えてみる。スナップをきかせて回転投げだ。するとエティも負けじと回転を利用して氷魔法の乱れ打ち。
「そんなの軌道を変えれば対処可能さ。」
縦回転から斜めの回転に変えれば、エティの魔法も俺とは関係ない方向に。しかし、エティも負けじと体を捻り、散布系魔法に切り替えると、広範囲が凍りつく。咄嗟に木の枝に矢を放ち、ターザンみたいに離脱でかわす。いや、現代風で言うとスパイダーマン?(それも大分古いことに楽は気付いていない。)
兎に角森の中でボウガンあり、魔法ありの鬼ごっこはどんどん白熱していった。
うわぁぁぁーーーーーーー
数時間に及ぶ白熱の攻防戦の末、夢中になりすぎて飛び出した先は崖。大人が悪ふざけすると必ず痛い目を見ると言うが、もれなく楽とエティにもバチが当たる。真っ逆さまに急降下を始めると、これはまずいと手を取り合う2人。ふと視界の先、崖の側面に妙に人工的な入り口を見つけた。
「エティ!」
「分かったぞ!」
叫ぶと即座に魔法を展開。入り口を氷で塞ぎます。
「違げぇ!!」
慌ててボウガンを氷に放ち、縄を掴む。同時にエティは楽の背中にしがみつき、2人は縄にぶら下がり状態へ。なんとか縄を伝って入り口に這い上がりとりあえずエティを殴っておいた。
「?」
「はてなじゃねー。あそこは穴に入るために氷の道を出すところだろ!?」
「おぉ、楽頭いいな!」
頭を殴られてもケロっとしてるエティにため息つきつつ、共に奥へと進んでみることに。そこは石を削り出して作った石畳のトンネルになっていて、奥に行くと所々光石がはめ込まれていて明るさもしっかりと確保された明らかなる人工物だった。
「楽、扉があるぞ!開けて開けて!」
突き当たりにあったのは1枚の扉でした。しかし引いても押してもびくともしません。
「壊す?」
「いや、きっと壊そうとすると罠が作動すると思う。」
「おぉ、さすが楽!名推理だぞ!」
「まぁ、あからさまな穴が空いてるからな…。」
そう、扉の真上、天井にはあからさまな丸い穴が均等に開けられている。矢尻の先端見えてるしね。
他にも仕掛けがないか観察してみると、扉の中央に薄ら文字が刻まれていた。
ホコリで埋れていてぱっと見では気づかなかったが、払ってみると「開けるべからず」と確かに描かれていた。
ガラガラガラ。
迷わず扉を横に滑らせると呆気なく開いた。開けるなって言われたら開けたくなっちゃうよね。そう、文字は日本語で書かれていた。もしやと思い試してみれば、予想通り扉は引き戸ってだけだった。
「さすが楽だぞ!」
喜び勇んで進んでいくエティに続いて入ってみると、グニャグニャと曲がっては分かれ道になる巨大な迷路のようなところだった。どの行き止まりにも何かしらの部屋?があったのでもしかしたら考えなしに増築した末路なのかもしれない。
「楽!変な仮面あったぞ!」
「へぇ〜何かの民族でも住んでたのかな?うわっ裏面気持ち悪!変な模様びっちりじゃん…。」
「楽!ちっちゃい人落ちてたぞ!」
「え゛…?おぉ人形か…。コピーできるロボットみたいだな。」
「楽!楽!人も落ちてるぞ?」
「えぇ!!?わぁ…。」
エティが見つけたのは白骨化した人の骨だった。まさか迷路に迷って行き倒れた…なんてことないよね?その後もぐるぐるぐるぐる回り続けたが一向に出口が見えない。そして戻り方も…分からなくなっていた。
「ほらぁ。お前が考えなしに進むからぁー。」
「オ、オラ迷ってないぞ!任せろ、こっちだ!」
「こらこらこら!そっちは今戻ってきた方向だぞ。あーもう疲れた。今日はもう休もうぜ。」
何時間も歩き続けもうヘトヘトです。こういう時こそ際立つありがたさ、「おうちYEAH」。今日は帰れなさそうだけど、こだま達は大丈夫だろうか?
「さて、俺たちはダイエット中です。」
「オ、オラは成長…。」
「じゃかーしい、認めろ!しかしだ、エティお前はついてるぞ。俺たちにはこれがある!」
家に帰り、机の上にあるそれをエティに見せる。それは、見まごうことなき豆腐だった。
「本当は味噌汁のためだったが…【ひよこまめの豆腐】作っておいて良かったぁ。」
「とうふ?」
「そうだエティ。これはダイエットのために作った人類の叡智だ。」
いや、そんな訳はないのだがそう思いこむ楽。因みに【ひよこ豆の豆腐】はにがり要らずで作れるお手軽豆腐だ。
【ひよこ豆の豆腐】
材料
・ひよこ豆
・水
必要なのはたったこれだけ。水で6時間以上戻したひよこ豆に水を加えてミキサーで混ぜ、布巾で絞って豆乳を作る。鍋に豆乳を入れヘラで混ぜながら加熱する。しばらくすると固まり始めるので容器に入れて冷やすだけで完成だ。
ハンバーグだって、卵焼きだって、お好み焼きだって、豆腐で作ればダイエットバージョンに。最高ですね。
その日はエティと仲良くご飯を食べて就寝した。寝るまでは一応ドア開けっぱなしにしてたけど、こだま達現れなかったな。こだまはダイエット食では誘い出せないか?
一方その頃、こだまとリアはと言うと…
じゃがいも食堂で舌鼓を打っていた。おいしいところにこだまあり。まさに食人です。
孤児院は始祖様が来たと大盛り上がり。何故なら孤児院の繁栄はこだま(と楽)が現れたところから始まったのだから。楽は極力身を潜めていたため、こだまが崇拝対象となっていた。
「こだま兄さん、こちらもいかがですか?」
「うまうまうまうま」
「兄さん、これも新メニューです!」
「うまうまうまうま」
楽達のことは今のところ気になっていないようです。




