始まりのお話2
食後の休憩がてら、お茶をすすりながらいろいろ聞いてみた。
こだまは生まれた時から森にいて、親とか友達もいなく、ずっと一人だったらしい。
プロぼっちさんです。
いつもは木の実や魔物を捕まえて、そのまま食べているらしい。
わぁお。ワイルドだことぉ。
俺は動物捕まえたことも、もちろん捌いたこともない。魚すら捌いた事ない。
魚はまだしも、動物捌くの出来る気がしないので食材を手に入れるためにも早いとこ町みつけないとな。
ちなみにこだまが身につけている腰蓑は狩った動物のものらしい。人を真似て身につけるようになったらしい。
「人見たってことは、町が近くにあるのかな?」
「町近い。でも楽、ただの人だから、町行かない方がいい。」
「ただの人?どうしてかな?」
「楽は、耳とか羽とかない。ただの人。しかも魔力も感じない。」
「耳とか羽とかねぇ。やっぱり異世界、獣人族とかエルフ族とかがいるのかな?あと魔力は普通あるものなの?」
「みんなある。魔力ない人見た事ない。」
ただの人=人族も他のどの種族も基本魔力があるそうだ。
でも稀に魔力をもたない人が生まれる事もあるらしい。
理由ははっきりしないらしいが、昔の時代の呪いと考えられているようだ。
まぁ、あらかた先祖返り的な事だろう。
ただ、魔力がない弱い存在は生きていくのが難しく、すぐ捨てられてしまうため長くは生きられないようだ。
何それ、怖い。子供を捨てるのは犯罪ですよ?
しかもどうやら人族は、他の種族から嫌われているらしい。
何か嫌われるようなこと過去にしちゃったのかな?
やりかねないよね。ヒャッハーな転生人とか特に。
力を手にしたらあのオタク高校生も何しでかすかわかったもんじゃない。
もうちょっとお喋りしていたい気もするがいい加減出発しないとな。嫌われてるのかもだけど、それでも町を目指さないことには生きていけない。別れを言って歩き始めると、なぜかこだまもついてくる。
一緒に行きたいの?と聞くと、お腹が空いたら困るから着いていくとのこと。
胃袋を掴んじゃったようです。
話し相手はありがたいし、かわいいやつだから良いけど。
途中めちゃくちゃ大きい猪みたいなのとか、蛇みたいなのとか、ネズミみたいなのとか、後、虫!に遭遇しては必死で逃げ、崖に阻まれて大きく迂回を余儀なくされたり、川釣りにチャレンジして辛うじて釣れた1匹を屁っ放り腰で捌いて塩焼きしたりしながらも町を目指して進んでいった。のんびりとはいえもうすでに10日以上経ってます。近いって言ってなかったっけ?
まぁ、夜は「どこでもYEAH」で快適だからいいのだけれど。
因みに「どこでもYEAH」はこだまにも大好評で、夜のお風呂が特にお気に入りのようだ。
行動を共にするようにり、文明に触れたこだまは、腰蓑から子供用のオーバーオールサロペットスタイルへと進化した。サロペットは俺が子供の頃着ていたやつだ。自分で言うのもなんだが、俺は結構いいとこの子だったので、いい服を着せてもらえていた。だから子供の頃の服で30年以上経ってるのにまだ着れる。
因みに両親は数年前に他界している。親戚付き合いも全くなかったので実家を処分した後は、実家の荷物を空いている部屋に突っ込んだままにしていた。その中に子供の頃の服もあったのだ。よく考えると俺って天涯孤独?だから異世界転移の条件に当てはまっちゃったのかな?
のんびり進んだからか、はたまた森が奥深かったからか、更にもう何日か進むと、遂に森を抜けた。
いろんな障害を避けて、何度も迂回していたはずなのだが無事遭難することなく森脱出成功。よくよく考えてみると時折こだまが道を指示してくれたので、そのおかげかもしれない。
なんだかんだで楽しい冒険でした。
森を抜けた先にはかなり簡素だが大きな街道が伸びていた。
先が見えないながーい一本街道。
「はぁ…まだ町につかないのかー…。」
うんざり気味に街道を眺めていると遠くの方にちらほら、馬に乗った人と馬車が見える。
「おぉ、第一村人発見?おーい!」
慌てて手を振り猛アピールすると、こっちに気づいたのか馬に乗った人と馬車が方向を変え、近づいて来た。馬に乗っていて、甲冑を着たいかにも騎士な格好の人が4人と馬車。
いや、尻尾が見えるから獣人族なのかな?
馬車には御者が一人前に乗っているが、中に何人乗っているかは外からは分からない。
騎士は楽に近づいて来て、馬から降りることなく上からまじまじと見下ろして来た。
そしてフッ、鼻で笑った気がした。
一向に馬から降りず見下ろすスタイルの騎士に、はて?と思った途端、サクッ、槍みたいなので刺された。意味がわからず唖然としてしまったが、遅れて肩に異常な痛みが走る。
「え…。」
訳もわからず蹲っていると、漸く馬を降りた騎士達にそれはもう盛大にボコられました。
叫んでも泣いても抵抗できなくなっても暴力は続いた。
腕を折られ、足を落とされ、目を潰され、…たところまではギリギリ意識があった。
正直死ぬのならもっと早く意識を手放したかったなと妙に冷静に思ったところで、事切れた。
どれぐらい時間が経っただろうか。
気がつくと裸でベッドの上に寝かされていた。
「人族町行かない方がいいって言った。」
声の方に体を起こすと、なぜか体が動く。
身体中確認してみると、折れていたはずの腕が元どおりになっているだけでなく、かすり傷ひとつなくなっていた。落とされた足もちゃんとある。
まるで悪い夢を見ていたようだ。
「…こだま?」
視線に気づき、あららめて声の主を見れば、こだまがちょこんと座っている。そして、ベッドの脇にはズタボロの衣服だったもの。
遅れて思い出されるリアルすぎる記憶に、思わずその場で吐いてしまった。
胃の中には何もないはずなのに、吐き気が止まらない。
胃液で喉を完全に痛めたところで、漸く少し落ち着いた。
「大丈夫?」
「傷が…。」
「傷は治した。でも汚れは魔法で綺麗にできないから、お風呂入る。」
体を動かしてみると確かに痛みはない。
しかし、部屋に充満したひどい匂いに震えがとまらない。
震える体を押さえながら風呂に飛びこんだ。
風呂の暖かさに救われつつ人生で一番と言っていいほど泣いた。
日本に住んでいてたら、見ることも、ましてや経験することなどありえない程の暴力。
それが自分に起こったという事を心が理解できない。
漸く少し落ち着き、風呂を出て、こだまに状況を確認するといろいろ分かった。
「人族って嫌われているのかな?」
「うん。みんな人族嫌い。」
「どうして?」
「昔人族他の種族に酷いことした。今も人族問題起こす。」
「そうなんだ…。こだまも人族嫌い?」
「こだまは人族に酷いことされたことない。」
「そう…。」
こだまの言葉にまた涙が溢れ出す。
もう身体に水分は残ってないと思っていた。
一頻り泣く間、こだまはじっと待っている。
落ち着いて来たかなと言うタイミングを見計らって、
「楽、ハンバーグ、元気でる。」
「はは…。そうだな。お腹すいたな。」
今はこだまの平常運転がありがたい。
おいしいご飯は体だけでなく、心を癒すのにも効果がある。と思う。
こだまとご飯を食べるべく楽は再び立ち上がる。
外に出れるくらいに心が回復するまでに、それから数日を要することとなったのは言うまでもない。