ご飯は人助けにもなる
我が家ではお好み焼きはオーロラソースでいただきます。珍しいでしょうか?
「なんじゃ、娘の食堂じゃないか。」
着いた先はアルマじじいの娘の店だった。こじんまりとしていて簡素なテーブルと椅子が並んだ、いかにも田舎町の安い食堂って感じの雰囲気だ。ここ王都だけどね。お皿もコップも手作り感あふれる木製で統一されていて居心地の良さを感じる。しかし、昼時だというのにお客さんは全くいない。
テーブルの一つにこだまとアルマジロ女性、その娘であろうアルマジロ少女が座っていた。
こだまに話を聞いてみれば、空腹で行き倒れていたアルマジロ女性とその娘をみつけ、2人に持たせていたサンドイッチをあげてしまったらしい。だからこだまのお腹が空いたと。お腹が、空いたのだと。
…はいはい、飯を作ればいいんでしょ?
「とりあえず、うちの子がお腹空いてるみたいなんで調理場お借りしてもいいですか?」
店の台所を借りると、古いけれど手入れの行き届いた良い炊事場だった。
しかし、食材がほとんどない。
ちょっとしなびてきているキャベツとたまねぎ、人参、にんにく。調味料も砂糖・塩しか見当たらない。卵だけはそこそこあった。
あと、カッチカチのパン。
「えっと…この店どんな料理を出す店なんですか?」
「…今はピュアオムレツ。あ、でも、食材が安く手に入った時は具入りのオムレツも作ります。」
「ピュアオムレツって…オンリー卵のオムレツってことね。あの、お金払うんでキャベツと玉ねぎ、卵、あとにんにく少しいただいてもいいですか?」
「卵はうちで取れるんで大丈夫ですけど、キャベツも玉ねぎもしなびちゃってますけど、いいんですか?」
「まだ痛んでないし、しなびてても火を通しちゃうんで大丈夫です。じゃ、いただきますね。」
調味料も全くなかったのでケチャップとマヨネーズで作るか。
本当は中濃ソース欲しいけど作ろうにも素材が手に入らないから諦める。
これでオーロラソースもどきを作ろうと思う。
実は我が家ではお好み焼きにはオーロラソースだった。
少数派だけど、俺は結構好きだった。
そう、【お好み焼き】を作ろうと思っているのだ。社会人なりたての頃の懐かし貧乏飯。
【貧乏お好み焼き、オーロラソースもどきを添えて】
材料
・キャベツ
・とうもろこし
・小麦粉
・卵
・豚肉
こだまに追加で小麦粉、とうもろこしを出してもらい、千切りキャベツ、卵を混ぜる。
貧乏時代よくコーン缶入れて嵩増ししてたので、懐かしくってとうもろこしをチョイスした。
当時は納豆とかツナ缶とか結構アレンジしたなぁ。
小麦粉に、水、卵を少しずつ玉にならないように入れながら混ぜていく。
本当はここに出汁入れたいところだけど今日は水のみ。
そこに千切りキャベツとコーンを投入。
豚肉をフライパンに敷き詰め、その上からネタを流し入れ、あとは焼くだけである。
ここで、得意の皿のっけひっくり返しが活躍。
どんどん焼いてお皿にもりつけ、オーロラソースをたっぷりかける。
こだま、リア、アルマジロ3人の前にサーブしたら、すごい勢いで食べ始める。
「うまい!うますぎる!」
うわぁアルマじじい泣きながらがっついてる…。
あなたたちサンドイッチ食べませんでしたっけ?何その食欲。
まだまだ足りなさそうなのでどんどん焼いてあげた。
たっぷりめにつくったのにオーロラソースもきっちりなくなってしまった。
「あの食材でこの旨さ、お前天才か?」
「こんな美味しいもの初めて食べました。」
「おじちゃん、おいちかった!」
アルマジロ三重奏。
作ったかいがありましたね。
こだまたちも満足げに今はお茶をすすっている。
「よし、お前をうちの料理長に任命してやる。」
「いえ、結構です。」
「むむ。しょうがない店長でもいいぞ。」
「いえ、結構です。」
「仕方ない、社長は?」
「いえ、仕事間に合ってるんで…。」
「じゃ、じゃあこの店はどうすればいいんじゃ…!」
むちゃくちゃ泣きつかれてるんですけど。
しかも、断る度にリアさんまで悲しそうな目を…。
はぁ、助ければいいんでしょ、助ければ。
「あ、アイディア位なら…。」
「そうか!助けてくれるんじゃな!さすがわしが見込んだ男じゃ。」
一瞬で泣き止みケロっとした顔で背中をバシバシ叩いてくるアルマじじい。
え、いつ見込みました?あと背中バシバシやめて。
しぶしぶこの店の状況など色々話を聞いてみると、そもそも庶民派の食堂というのは王都ではかなり珍しいらしい。いやこの1軒だけと言っても過言ではないらしい。貧乏な人は食堂に行っても食わせてもらえないから基本自炊。あと我慢。我慢!なにそれ、それ死んじゃうよ!
そんな状況を打破しようとお店を開いたはいいけど全く客が来ない。しかも貧乏人は食材を買うのにも苦労するため結果家でとれる卵料理しか提供できなくなったらしい。
王都も大概だな…とため息つきつつ、とりあえずリサーチを兼ねて食材探しに行ってみることに。
市場へ乗り込んでみると、さすが王都といった活気の良さ。
そして町で見たことのない野菜もたくさんあって、ワクワクする。
パッと見価格は町と比べると倍くらいするようだ。値段も王都価格ってわけね。
平均月収とかも大分違うんだろうな。
後で親子に聞いたら、王都の平均月収は15~6万リロらしい。
ここでも経済格差問題があるようです。
そして経済格差の影響か本当に貧乏な人が入れる店が存在していなかった。買い物している人もそこそこ余裕がありそうな人ばかり。俺たちも店に入ろうとするとシッシッとあしらわれてしまい入れてすらもらえない。
しかし試しにこだまとリアだけで入店してみれば問題なく対応してもらえた。
顔ですか!?俺が庶民顔だからですか!!??
いじけながらもこだまの魔法で遠隔からラインナップを見させて貰えば、さすが王都取り扱う食材は豊富だった。あったら買おうと思っていたローリエ、シナモン、唐辛子などの香辛料はもちろん、町にはなかった魚屋を見つけたら、なんと乾燥昆布を発見。しかも魚はすごくお高いようですが、昆布はなかなかお安い。昆布人気ないのかな?
「それは、王国の南西の町、ケルプ産だよ。疲れた時に小さく切ってしゃぶる携帯食さ。」
「お魚は高価なのに、昆布は安いんですね。」
リアが尋ねると、
「そりゃ、魚はアイテムボックス持ちがいないと仕入れられないが、昆布は乾燥してるから誰でも運べる。輸送費の差だな。それに、昆布は携帯食としてはそんなに人気もないしな。腹持ちを考えたら干し肉の方が断然人気だ。ただ、快便になるからって一部の女性陣には人気だぞ。」
あら、昆布人気なかった。便秘対策くらいの立ち位置なんて。
でも昆布に出会えるなんてラッキーすぎる。
南西の町ってことは、人族の文化が少し入ってきているのかな?
もしかしたら人族の街に行けば醤油や味噌も手に入るのでは?
ますます早く行かなければだな。目的が若干ぶれているが人族の街を早く目指そうと心に誓う楽だった。
ありったけの昆布を買い占め、次の店に行くと、王都最大の出会いが待っていた。
なんと!
なんと!
米が売ってるじゃあーりませんか!
食文化とかヨーロッパ寄りのこの世界。でも確かに、ヨーロッパにもリゾットとかパエリアとか米料理あるもんね!パエリアとかリゾットとかに使えるのは日本のジャポニカ米と違ってジャバニカ米。ジャポニカ米に比べて大きく、粘りなどは少ない。この世界の米は…タイやインドのタイ米、インディカ米とジャバニカ米の間くらいでパラパラ系だ。水の加減は慣れたジャポニカ米より難しそうだが全然ありだ。しかも、パサパサ感が人気がないのかかなりお安い。しかし庶民向けだからか量はそんなになかった。この世界でも庶民の味方は米なのだが、ターゲットでない庶民用はそこまで卸さないらしい。
「王国の南東の町、アロス産だから味は確かだよ!」
はい、アロス絶対行く町リストに追加決定。
しかも、こんなに早く米に出会えるなんて僥倖だ。
さすが王都。王都万歳!