マチュール王国・王都
ステータスという概念は一応あったようです。
「ようこそギルドへ。」
一瞬楽を見て驚いた顔をしたが、人族が王都に入れるわけはないと思い直し、営業スマイルを取り戻す受付。
プチイラっとしつつ入ったギルドとやらは、大聖堂みたいな作りだった。階段を登って入り口に入ると車座に5種類の受付場がありそれぞれに2人づつ職員らしき人が配置されている。なんとなく優しそうなウサギ耳の受付嬢を選んだのだが冒頭のような顔をされてしまった。まだ文字には自信がないが、目的別で受付が変わっているようで、冒険依頼受付、依頼完了受付、商業関係受付、学術・医療関係受付、その他で別れているようだ。身分証登録はどの窓口か分からなかったので適当だが、ベーシックなことはどの受付でもいいようだ。因みにうさ耳がいる受付はその他だった。
「パタタから来た。こだまたちの身分証ちょうだい?」
「パタタには身分証発行する施設ないですものね。わかりました。
それでは皆さんこちらの水晶を順番に触ってください。」
チッまたあの水晶だ。
もちろん魔力ゼロで生暖かい目線をむけられ、続いてリア。
リアが水晶に触れると、おぉと歓声が上がった。
リア
26歳
種族…エルフ族
HP…3680
MP…12500
魔力適性…風・水
魔力、能力値が非常に高いらしい。
しかし一般的な数値が分からないからピンとこない。
誰か相場教えてくれませんか?
そしてこだまが触れると、さらに大きい歓声が上がる。
こだま
5歳
種族…該当なし
HP…56700
MP…189500
魔力適性…風・水・土・火・氷・雷・光・闇
ひゃーチートぉ。分からないけどきっとチートぉ。
こちらも魔力、能力値が相当高く、さらに属性というのも全て持っている稀有な存在だそうだ。
こだまってそんなすごかったんだな。幼児?のくせに。
一瞬で注目をかっさらい、魔力ゼロで蔑まれずに済んだのは良かったけど。
ってか種族お前も該当なし?元プロぼっちだからデータがないのかな?
「素晴らしい才能です。どんな職業でも選びたい放題ですよ。」
興奮気味の受付うさ。
「では、皆さん何で登録しますか?」
「あの、何でといいますと?」
「はい、冒険者、商人、鍛治師、魔術師、医療術師、学者、どんな職業をする人かを選んで登録するんです。登録以降は冒険者は1番2番の受付、商人、鍛治師は3番の受付、魔術師、医療術師、学者は4番、それ以外はこちら5番受付での対応となります。」
「おぉ冒険者憧れる。」
「魔力ゼロはちょっと…」
「商人は?」
「どこの商派の所属ですか?」
「鍛冶士とか。」
「どなたが師匠ですか。」
「学者とか。」
「基本魔術の研究ですよ。」
「教師とか。」
「魔法教えられませんよね。」
「ぐぬぅ。」
「楽は料理人。こだまは食人。リアは狩人。」
飽きたのか、こだまがさっさと決めてしまう。ってか、食人ってなんかニュアンス違くないですか?
「では、楽さんは家事見習いですね。」
「え、そこは料理人なのでは?」
「どちらで修行されましたか?」
「いえ、どちらも。」
「では家事見習いですね。」
ぐぬぅ。それって無職と同意語だと思うんですけど。
「こだまさんは職人ですね。」
「あの、こいつが言ってるのは食人では…?」
「こだま、食べるの好きだからそれでいい。」
「そして、リアさんは、狩人っていう項目がないので冒険者として登録しますね。」
「えー…。」
こだまのズレた主張を聞き逃した受付さんにより、こだま職人で登録されちゃってるよ…。まぁいいのか?
竈作れるし。
そして俺は家事見習いF。
Fってなに。無職にランクあるんですか?
やる気だだ下がりのままギルドを後にし、遅い昼食をとることに。
王都だし、さぞかしうまいのだろう。期待は反比例して爆上がりですよ。
今なら美しいグラフが描けることでしょう。
王都で一番人気ありそうな、豪華なレストランを見つけて入ることに。
初王都、折角なので奮発しちゃいます。
しかし入店と同時にゴリラみたいな店員に上から下までジロジロみられ、分かりやすく不満顔。
ゴリラ、悪口じゃないですからね。ゴリラの獣人っぽい大男です。
「この店は高級店、あんたらみたいなど庶民は入店不可だよ!」
摘み出されました。
ちらっと食べてる人たちみたけど、偉そうな態度の人ばっかでこっちを見て鼻で笑ってやがった。
どんな大層なもの食べてるのかなと覗いて見たが、そんなに美味しそうじゃなかった。お前らにはお似合いだな、と心の中で悪態をついて溜飲を下げておいたことは言うまでもない。
因みに、リアは席を薦められてた。
顔ですか?ど庶民顔も審査対象ですか!?
プリプリしながら他の店を探したが、どうにも入れてくれる店はなかった。
仕方なく今日もみんなでおうちご飯。
こっちの方が絶対うまいからいいんだけどさ!
王都2日目。
こだまリアペアと俺は別々に行動することに。
パタタでも割と別行動を心がけていたのだが、旅はずっと一緒だったし、ここいらでリアの心のストレスを緩和してあげなければ。俺は気の利く男でもあるのさ。男は顔じゃない!
昨日を引きずりつつ、人族の情報を得るため、まずは本屋を目指した。
地図をゲットして、あわよくば人族の国の場所を聞けたらという目論見だ。
こんな大きい街なのに本屋は1軒しか見つからなかった。
しかもすごい寂れた店。
入ってみるとものすごく埃っぽい。
滅多に客が来ないのかもしれない。
カウンターの中にはまん丸に丸まったアルマジロなおじいちゃんが背中を丸めてじっとしている。
丸まっているのは、年だからか、アルマジロだからかはちょっと判別不能だ。
寝てるのかな?と思って顔の前で手を振ってみると。
「うるさい。腹が減るから余計な動きさせるな。」
「えーっ。」
「なにか用か?魔術書?それとも魔術書?やっぱり魔術書をお探しかな?」
「魔術書一択になってますよ?いえ、地図を探してるんです。」
「ちっ上客じゃないか。地図はその辺じゃ。」
心の声オープンすぎやしませんか、アルマジロじいさん。
いやアルマジロじじい…アルマじじいでいいや。
顎でさされた付近を探してみると、確かに地図を発見した。
「これってこの国の地図ですか?」
「…」
「あのー…」
「うるさい、動いたら腹が減るじゃろ!」
ぐごごごごごぉ。
じじい、それ最初からお腹減ってたでしょ。
「それみたことか!お前のせいで腹が減ったじゃないか!」
「えー、それ元からなのでは…」
「これだけ客がこなかったら当然じゃ!」
「自慢げに言うことでもないと思いますが!はぁ…サンドイッチ、食べます?」
こだまにねだられて作ったお弁当を鞄から出すと一瞬で消えた。
「うまい!うますぎる!」
どっかの饅頭屋のCMみたいに大げさに声を上げるアルマじじい。
次のサンドイッチは…出す前に消えていた。
卵焼きと厚切りベーコンを挟んでケチャップとマヨネーズで味付けした腕白サンドイッチ、ちょっと楽しみだったのに。
まぁいい。アルマじじいの必死な食べっぷりに哀れみを感じたから許してやる。
俺は心も広いからな!
喉につかえて、窒息死しそうになってたから、食後のお茶も振る舞ってあげた。
「今食べたやつ、お前が作ったのか?」
「そうですよ。」
「うちの娘より上手じゃ。誇って良いぞ。」
「娘さん料理上手なんですか?」
「小さな食堂をやってるんじゃが、客が全くこん。」
「それじゃ、褒め言葉になりませんけど。」
「客がこんから、食べるのも一苦労じゃわい。」
「まぁそうでしょうね。」
アルマじじいは、娘と孫の3人家族。
食堂も閑古鳥、本屋も閑古鳥で、生活苦らしい。
「で、何か質問してなかったか?お礼に答えてやろう。」
「すごーく恩着せがましさを感じるんですけど。この国はこの地図のどこに位置してるんですか?」
「そんなことも知らないのか。この辺南一帯がここマチュール。東南の国がゼィロック、東の国がイルーヴァント。北の国がトラムンターナ。西の国がワノナじゃ。」
大陸の中央に魔素が濃く危険生物の多い魔の森が鎮座し、魔の森が分断する形で東西南北に国ができているそうだ。
魔の森を開拓するのは危険が伴うため、国同士の領地争いが絶えない。
とくに、西の、人族の国ワノナはことあるごとに侵略しようとしてくるらしい。
人族の国早速発見。
それにしても、開拓が大変だから侵略って、なんとかファーストってやつですか?
自分さえよければいいって子供的発想だし、モテないですよ。
あ、嫌われてるのか。
自分勝手なやつが異世界召喚したって、まずい使い方しちゃうんじゃ?
そんな事を考えていたらリアが飛び込んできた。
「こだまが楽連れて来いって。」
「緊急事態?」
「お腹が空いたって。」
「全然緊急事態じゃねぇ!」
「いや、緊急事態じゃ。ほれ、いくぞ。」
「ってかまだ食う気か、アルマじじい!?」
「失礼な呼び方するんじゃない。いいから、いくぞ。」
やべ、思わず声に出してた。
なんとかごまかしつつ、リアとアルマじじいに引っ張られながらこだまの元へ向かうことに。