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始まりのお話

異世界もの好きというだけで人は異世界ものを書けるのか?

ゼロイチコンプレックスがコロナ禍で暇を持て余してひっそり投稿。

お目汚し失礼いたします。

はい、どうも。

東京、新宿区から異世界転移してきた八嶋楽(やしまらく)41歳独身です。

給料の良い商社に勤めていて、来年結婚を控えた人生満足系おっさんです。

そう、異世界転生とか異世界転移向きの人物じゃないのに異世界転移しちゃいました。


あ、忘れてはいけない。大切な相棒も紹介します。

こだま君!パチパチパチッ!

異世界で出会った俺の相棒。ちっちゃくて白くて、サロペットをこよなく愛するかわいいやつです。


「こだま、挨拶挨拶!」

「?」


こだまはシャイな子です。

そして、俺は今、それはそれは猛烈に憤っております。


あれは数ヶ月前のことです…。





ある日、ドアを開けたら別世界でした。

鬱蒼と生茂る木々。

長い年月を感じさせる太く真っ直ぐ伸びた幹。

見たことのないカラフルな葉。

そんなメルヘンな光景が広がっていた。

下に。


「…へ?」


勢いよく開いたドアは丁度高さマンション4階相当、太く大きい木の枝の上にあった。


「………!」


うん。

一旦ドアを閉じよう。

そんなはずはない。

その日、滅多にしない大寝坊をしてしまった楽が慌てて家から飛び出してみれば、広がる異世界。

異世界転生(今回は転移なのだが)って○貞○ートが不自然な事故死でするはずのものでは?

自分はそこそこ高給取り、彼女との結婚を控えた、順風満帆系男子だ。

彼女と住むべく高級マンションも購入しこれからバリバリローン返すぞって矢先。

正直異世界転生に選ばれるような人生ではないはずだ。

何より、きっかけが何もなかった。

事故に巻き込まれてないし、チビロリ女神にチートな能力も貰ってない。

甚だ失礼な決めつけなのだが、自分の置かれた状況を受け止められず、悪態思考を止められない。


…ハッ!

俺遅刻しそうなんだった!我に返り携帯を見ればもちろん圏外。

パソコンからメールを試みるも全て宛先不明で戻ってきてしまう。


そうなってくると次に確認すべきは外。

恐る恐るもう一度外にでてみると、変わらず太くガッチリとした枝の上にドアだけが存在していた。

部屋の中は存在しているのに、現実にはドアしか存在していない。


「まるで四次元ポケットの中、ラノベで言うところの異次元空間って感じ?」


ドアだけになってしまった我が家、驚くことに鍵を閉めるとドアがスッと消えてしまう。しかしよくみると宙に鍵穴が浮いていて、慌てて鍵穴に鍵を差し込むとドアがまたスッと現れた。開ければ変わらず存在するマイホーム。

ふぅ、肝が冷えたぜ。

鍵と鍵穴は、手で持ってみると何と持ち運び自由。ポケットにだって入れられる。ここにひみつ道具「どこでもYEAH」が爆誕した。

マジでどういう原理!?

まぁどうせご都合主義だろうから考えても無駄か。


マンションの4階に住んでいた楽は、偶然にも同じ高さの枝があったために落下することなく転生を果たしていた。偶然枝があったから奇跡的に落ちずにすんだ…だったり?などと正解を呟いていると、


「やった!!異世界転生!?ヒャッハー♪」


下からはしゃいだ声が聞こえてくる。

見下ろしてみると、ベタな魔法陣とそれを取り囲むこれまたベタなローブを纏った人々。そして中央にはテンション高めの高校生男子。制服姿にボサボサ、伸ばしっぱなしの髪、大切そうに人形?フィギュア?っぽいものを握りしめてる。

十中八九オタクでしょう。

ってか見た目まんま日本人だし、異世界転生じゃなくて異世界()()じゃね?

自分も最初間違えていたのだが、自分のことは棚に上げて痛々しい視線を高校生に向ける楽。

そうそ、ああいうのにこそ異世界転移がお似合いだ。

すかさず中世っぽい鎧を着た美女と騎士っぽい人が歩み寄りベタ祭りが展開されている。最初の大声以外、会話は聞き取ることができないが、きっと召喚イベントの最中だと思われる。程なくして、一行の姿が忽然と消えてしまった。


「…魔法?なんともベタな展開ですね?」


状況的に考えると、自分は異世界転移の範囲に入っていてうっかり巻き込まれ可能性が高い。

「電気も、ガスも、水道も活きているんだな…。どんな原理なんだ?」

テレビ、ラジオなどはそもそも持っていなかったので確認できなかったが、いろいろ確認して回った結果、ドアを開けた時点まで使えていたものは使えるようだ。ネットはもう少し探ってみる必要があるが、ドアを開けた時点までの情報は閲覧できるっぽい。そしてそれ以降の情報は更新されないようである。

35年ローン全然返してないけど、買ったばかりの家を失わずに済んだのは嬉しいが、俺の幸せ新婚生活は?

彼女とは…結婚までお預けでまだ手を出してなかったのに!!

畜生すぎるだろ。


悲しき嘆きは、誰にも届かない。

完全に知らない世界にぼっちハラスメントされてしまった。


その後、一生分の羞恥心を使って、「ステータスオープン」とか「ファイア」とかやってみたけど特に何も起こらなかった。唯一俺にあるのは「おうちYEAH」。いや、ネットが使えるから、チートな知識もあるか。


「さて、木の上にずっといる訳にはいかないし、マイハニーの為にも帰る方法を探さないと。それに、帰るまではこの世界で暮らさなきゃだから生活基盤を立てなきゃだよね?

昨日たまたま買い出ししたばっかりだったから、暫くは食材も調味料も大丈夫だけど、いつまでもつかな…。あの転生させたやつ見つけるか、町を見つけるかしなきゃだな。」


誰がいるわけでもないのに、今後の予定をひとりごちる。


早速お弁当、虫除けグッズ、一番大切な家の鍵セットとサバイバルナイフを腰ベルトのバッグに装着、冒険の準備をした。サバイバルナイフはキャンプブームで買ったけど結局使ってなかったやつだ。食事は家でもよかったのだが、せっかくなので雰囲気を楽しみたい。形から入るとワクワクするよね。結構楽観主義な楽は折角ならこの状況を楽しむことにしていた。東京育ちのマストアイテム?虫対策も忘れない。


さぁ準備が整ったら、枝からの脱出だ。縄梯子なんて便利なもの我が家にないので、キャンプのテント用ロープを再利用。一定区間で結目を作って、片方の端を大きめのカラビナでワッカを作り、枝に固定。下に垂らして、結目を足場にしながら下に降りた。

30分後…。


「し、死ぬかと思った…。」


運動不足な41歳にはかなりハードだった。正直、明日は筋肉痛で動けなくなるだろう。いや、年齢的には明後日かもしれないが…。

一息ついてから、ロープはきっちり回収。何があるか分からないから、使える道具は大切に取っておきたい。


そんな感じで森歩きを開始して早2時間。

変わり映えしない景色に飽き始めていた。なんとなくで南と決めて歩いてきたのだが、町どころか魔物にも出会っていない。魔物には出会わないに越したことはないのだが、いかんせん暇だ。


「お昼にでもするかー。」


大きめな岩を見つけて、早くも休憩をとることにする。

雰囲気重視で作った今日のお昼は、大きめの笹の葉に包まれたおにぎりと沢庵。中の具材は、唐揚げと、昆布だ。ガッツリ系と定番系の欲張りセレクション。


「うまっ!外で食べる握り飯ってなんでこんなに旨いんだろ?」


体力はおっさんだが、まだまだ上機嫌な楽。沢庵をポリポリつまみながら、2つ目のおにぎりに手を伸ばすと、


ぐぎゅるるるるるるるぅるぅるぅぅぅぅぅ


地の底から響き渡るような音が響き渡った。


「…お腹すいた。」

「え?」

「…お腹すいた。」


気がついたら横に何かいた。


「誰?」

「お腹すいた。」

「どっから来たの?」

「お腹すいた。」

「…。名前は?」

「お腹すいた。」

「…お腹すいたの?」

「うん。」

「あの…」

「お腹すいた。」


最後は食い気味。

おにぎりを差し出してみると、「うまうまうま…」と一瞬でおにぎりに夢中に。

80cm位の白っぽい小人。腰蓑みたいのだけつけてて、最低限の服装って感じ。なんかかわいい。


こだまでしょうか?


いいえ誰でも。


ま、こだまは掌サイズだろうし(勝手な決めつけ)違うかな。食べる様子を見ながら思わず思考の渦に入っていく。


「…お腹すいた。」


おにぎりをあっという間に食べ終わったが、この子、まだお腹が空いているらしい。


「もっと欲しい時は、『おかわり』って」

「おかわり」


うん、食い気味。

学習能力が高いのか、もともと『おかわり』知っていたのか…、案外賢いのかもしれない。

ってか、今更だけど言葉通じてるな。

次のおにぎりを渡すと、また勢いよくかぶりつく。無くなればまた渡してかぶりつく。結局5個全部平らげられてしまった。

小さいのによく食べること。


「…もうない。」

「全部食べちゃったからね。で、君はなんなの?」

「?…僕は僕。」

「名前は?」

「僕は僕。」

「またこのパターン?お母さんとかお友達からは何て呼ばれてるの?」

「僕は僕。」

「んー。名前ないのか。じゃ、はやお」

「ヤダ。」

「こだまと言えばはやおなのに。ってか君は、こだまでしょうか?」

「いいえ誰でも。」

「知ってる!?」

「お前そう考えてた。」

「心読めちゃうの?異世界してるぅ。」

「僕こだま。」

「それ名前にするの?」

「うん。」

「そっか、じゃ、こだま、初めまして。俺は楽。取り敢えず…食後のお茶はいかが?」

「飲む。」


なんかこいつと喋ってると幸せな気分になるな。異世界も悪くないかもしれない。

良い出会いにちょっと心が躍る楽だった。

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