司祭の部屋
ティエナはセグンの部屋を出て、いらだった足取りで廊下を歩いた。これだから騎士は嫌いだ。部屋を出て行くように促し、大声で話し、その話が聞こえていたら、「感心せぬな」とはいったい何様のつもりだろうか。騎士様のつもりなのだろうか。
患者の治療を一通り済ませ、昼過ぎに司祭の部屋に寄った。
「セグン殿は司祭様にお会いになるそうです」
「そうか。ありがとう」
司祭は光の入る大窓を背にして机に向かっていた。目を落としている書類から顔を上げる。深いしわが刻まれているが、人のよさそうな目がティエナを見つめていた。
「司祭様。あの人はいったいどういう人なんですか?」
「どういう人というと?」
感心せぬな、と言われた話がティエナの耳には残っていた。ただの一騎士が、王国有数の大身、ヤチツ・セイルード候伯に対し、自分で来いとは無礼にも程がある。ヤチツ卿の家来が怒鳴るのも無理からぬ話である。
「ヤチツ卿の御家来だとは知っているのですが」
司祭は机の上でトントンと、書類の端をそろえている。縦に横に。そうしながら、なんと答えたらいいものやらと思案しているようであった。
「まぁ、一言で説明するのは難しいが、武勇並ぶものなし。彼はね、強いんだよ。見た目はあんな涼しい顔をしているがね」
強いという話は知っていた。三百人の負傷兵を収容しているが、セグンの噂は何度か耳にしたことがあった。
「司祭様はよくご存じなのですか?」
直裁的な質問は司祭を一層困らせた様子だった。
「ああ。知ってるよ」
もちろん、そんな返答で納得できるはずがない。が、司祭にとってはあたかもよく、修道士が扉をたたいて入ってきた。
「馬車の準備が整いました」
それだけ言うと、修道士は司祭とティエナに辞儀をして去った。
「ティエナ嬢、申し訳ない。出かけなければならない。今日は帰りが遅くなるから、彼には明日行くと伝えてくれ。それと、治療するにしても無言では間が持つまい。どういう人間か直接聞いてみてはいかがかな?」
司祭は書類を革で挟むと、小脇に抱えて忙しそうに出て行った。