修道院2
気持ちのいい目覚めだった。体調だけではなく、窓から覗く澄み切った空も、この目覚めに貢献していた。
また明日来ます。その言葉通りに、昨日の修道女が現れた。彼女が入ってくると同時に陽の匂いも入ってきたような気がした。
「気分はいかがですか?」
「悪くない」
「それは何よりです」
彼女はベッドの横のテーブルに、薬壺や水差しを並べた。
明るい部屋で見ると、彼女の肌の白さがひときわ目立った。まだ二十歳にも満たないのではなかろうか。端正な顔立ちだった。ただ、瞳の奥にひっそりとある軽蔑の色を彼女は隠そうとしていなかった。
「昨日この部屋の前を担架が通った。死んだのか?」
「はい。あなたと同じ戦場から運ばれてきました」
「名前は?」
彼女は申し訳なさそうに首を振った。
「この特別室だけで二十名いまして、お名前までは。調べてきましょうか?」
セグンは首を振った。そこまでしてもらうのが気が引ける、というよりも、誰が死んだかを確認することに気が引けた。死んだ仲間の弔いは、自分がここを出て再び戦えるようになってからだ。ここで、こうして寝ているだけならば、自分も死者と選ぶところはない。
「でも、あなたのお名前は存じ上げてますよ。騎士セグン」
「光栄だ」
彼女は少しムッとした様子で、
「ここランキエヌ大聖堂では負傷兵三百名を受け入れています。多くの兵があなたの働きを賛美しておりました」
「ほう。どのように?」
「たくさんの敵を……」
「敵を?」
「……殺したと」
軽蔑のまなざしの意味はそれなのだろうか。だが、自分はただ、
「戦ったまでのことだ」
「存じ上げております。我らが王のためのお働きだと」
純粋に、戦ったまで、なのだ。誰のためというものはない。戦場とはそういうものだ。戦いに到るまでは、なにか目的が存在しているだろうが、戦いに到れば、戦う以外の思念はもうない。
その説明は上手く出来そうにないし、どれほど上手く説明できたとしても戦場にいないものには伝わらない。そう思うと、彼女と自分との間に、急に冷たい壁が築かれてしまったようで、その壁を見ない振りをするように、セグンは寝返りを打って壁を向いた。
彼女は静かに薬の調合を始めた。
壁がたたかれた。
「セグン殿のお部屋はここで間違いあるまいか?」
入ってきたのはセイルード家の執事だった。