表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士と王国  作者: 新ノ介
2/16

戦いのまっただ中で 2

 唐突に流れが変わった。それは頭で考えてではなく、戦う体から導き出された感覚だった。とうに思考力は失われている。セグンが受けた傷は一カ所や二カ所ではなく、戦闘中という緊張感だけが、彼の意識を保たせていた。今自分が握っているのが、槍であるのか、それとも剣であるのかさえも定かではない。忘我のうちに敵を倒す。だが、戦いの流れの変化だけは、戦士としてはっきりと感じることが出来た。


「避けよ! 矢が来る!」


 不意にヤチツの大声で覚醒する。向こうの空から、黒い無数の粒がこちらへ飛んでくる。次の瞬間、風を切る音と共に、セグンの足元に一本、また一本と、放たれた矢が突き刺さる。矢は敵味方の区別なく降り注ぐ。一瞬で、味方も敵も混乱のまっただ中に突き落とされた。馬をから飛び下りて、手近な死体を持ち上げて盾にする。


 瞬くままに、降り注ぐ矢は嵐のごとく増える。セグンの馬にも数十本が突き刺さり、馬は踊りながら倒れた。倒れた上にも矢が立つ。まだ一年ほどしか乗っていない馬であったが、やっとお互い心が通い合ってきた。馬を殺された怒りでセグンは体が震えた。


 だが、動くわけにはいかない。持ち上げた死体にも、矢は次々と刺さっている。


 やがて矢の雨は止んだ。どのくらいの時間だっただろうか。ほんの数十秒の出来事だったはずだ。


 矢を防いだ死体を退かして眺めれば、敵は敗走している。敗走するために、敵は自軍もろとも矢を射かけた。そして、こちらの馬を潰した。


 セグンと同じように矢を防いだ戦士が立ち上がる。その中には当然敵も混ざっていた。だが、戦いが終わったことは明らかだった。お互い、これ以上の殺し合いは行わず、去る敵を討つことはなかった。それどころか、この矢の雨を生き延びたことに、敵味方の隔てなく、親しみすら湧いた。自分たちは存分に戦った。よく戦ったのだ。


 周りに、生き残った仲間が集まってきた。どの騎士も満身創痍であった。


 ヤチツも顔面も無残に血に覆われていた。だが、彼はそのどす黒く染まった顔から白い歯を覗かせて笑った。


「敵は敗走した。我らが勝利だ!」


 剣を高々と掲げる。


 セグンもそれに倣い剣を掲げようとしたか腕が上がらなかった。おかしい。体が自分の意志に反応しない。ついさっきまで、この腕で敵を斬っていたはずなのに。腰に力が入らない。足にも。気がつくと、肩や背中に数本の矢が刺さっている。抜こうと思うのだが体が動かない。慌てるのは頭ばかりで、体はまるで他人事。重力に引きずられるように地面に倒れた。


「セグン。戦いが終わったからと言って油断が過ぎるぞ」


 そんなヤチツ・セイルード候伯の叱責が耳にこびりついたまま、意識はふっと消えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ