プロローグ かくれんぼマスター忍!
かくれんぼって何だろう…かくれんぼはどうしても遊びの域から越えることができず、サッカーや野球のような競技になることもない。
かくれんぼを現実で極めたところで何にもならない、ブランドとして付かないため就職活動の面接で学生時代何をしていたの?と聞かれて「かくれんぼを極めました!」と答えても大した決定打にならないだろう。
もしも鬼ごっこであるなら陸上と同じように足腰や体力を身に着けた証拠になるかもしれないがかくれんぼには何もない。つまりかくれんぼは無駄な才能なのだ…
そんな無駄な才能を極めた男が何故か異世界に行く物語が今幕を開けるのである…!
高校のチャイムが鳴る、これから放課後だということを示すチャイムだ。学生によって部活動をするもの、これから遊びに行くもの、そのまま家に帰るもの、様々である。校門に出る学生の大群の中一人の学生がため息を付く。
「はぁ………」それは高校三年生男子、「霧島 忍」だった。
霧島 忍、容姿は普通の男子であり髪色も黒、剃ることもなく伸ばすこともなく短髪ストレートである。
彼は一般の家庭に生まれ小学生に入るまでは幸福な家庭であった。しかし父の会社は倒産し無職となった同時に金持ちの女と不倫し蒸発という名のかくれんぼしてしまった。
母はヒステリックを起こしいつも息子である忍を否定をする、忍はそんな母と二人で生活しており気が付いたら何もかも自信を無くしてしまい勉強もスポーツも何もできなくなってしまった。
そんな忍が唯一自信も持ち実力を証明することができるものがあった…それは「かくれんぼ」である
忍がかくれんぼに参加するとどの昼休み、どの放課後のかくれんぼでも彼を見つけたものは誰一人おらず忍が鬼になった際も時間内に隠れきったものは誰一人といなかった。
次第に忍は周囲から「かくれんぼマスター」と評されるようになり勉強もスポーツもできない忍の唯一のアイデンティティとなり、かくれんぼをするときは必ず忍が呼ばれるようになった。
毎回呼ばれるあまり、忍はかくれんぼを開花させていき気が付けば空気を操るかの如く気配を消し、見つからない為の呼吸法、あらゆる隠れ方を身につけるだけでなく「擬態」までできるようになってしまった。
それだけではなく鬼になった際の隠れたものを見つけ出す眼、数えている際に誰がどこに隠れたかを感知する耳までも手に入れた。
忍の中に隠れていたかくれんぼの才能の原石が、何度もかくれんぼをするうちに知らぬ間に綺麗に磨き上げられ超人的なかくれんぼマスターへとなっていたのであるッ…!
しかしかくれんぼマスターとしてちやほやされていたのは小学生までの話、中学生になると周囲は「かくれんぼは幼稚な遊びだ」と言い誰一人かくれんぼをするものはいなくなっていた。
高校も同じであり誰もが皆かくれんぼは幼稚だと思っている、忍はかくれんぼをやろうと声を掛けることができず、それでも一人はいると信じて教師に「かくれんぼ部」の設立を申し入れたがあっさり断られてしまった。
「はぁ…でもそうだよな…大人になるってことはきっとそういうものなんだよな。子が親離れするかのようにみんなかくれんぼ離れするんだ。俺だけだ、過去の栄光にしがみついてかくれんぼ離れできてないのは…」忍はそう呟いた。
「それだけじゃない、それ故に俺はかくれんぼしかやってない男だ。勉強もスポーツもできない…」
更に彼はこれからを考えなくてはならない高校三年生だ、大学に進学するにしても勉強が苦手なうえ母と不仲である為入学金を出してもらえるとも思えない。
就職活動もかくれんぼしかやってなかった男を採用してくれるのだろうか、仮に超人的な能力を持っているとしてもかくれんぼをして身につけたと答えて誰が信用してくれるのだろう。
「かくれんぼの自信はある、このかくれんぼによって身につけたこの超人的な能力も…というか眼とか耳とかならわかるけど擬態でどうやって社会貢献するんだろうな…はぁ、こうして俺は自信の才能を活かせないまま社会に埋もれていくんだろうな…っはは」
だが忍のかくれんぼに付き合ってくれる者も一定数はいた、かくれんぼ盛りの小学生達だった。
その小学生グループはかくれんぼが楽しいのか、よく公園やその周囲でかくれんぼをしている。
そして小学生グループに忍者のような身の潜め方や擬態を見せたらウケたようで忍をかくれんぼ仲間として認め、時間があれば忍も小学生グループのかくれんぼに参加している。
「そろそろあいつらも公園でかくれんぼしている頃だよな、よしっ…公園に行くか!」そういい忍は公園へと向かう、かくれんぼが関わる彼はとても生き生きとしていた。