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閑話あるいは九九話 東大路本家への引っ越し

 東大路本家への引っ越し


 side美香

 三月某日某曜日

 兄さんの卒業式から一週間遅れで私の卒業式があった。

 こっちに来て、友達も何人もできたし、修学旅行やいろいろなイベントも楽しく参加できた。

 鹿児島にいた頃のただただ辛いだけの日々は、もう悪い夢だったと思うことにしている。

 私が中学校で無事に過ごせるように気を配ってくれた、兄さんと美月姉さんには本当に感謝の気持ちで一杯だ。


 そうして、今日、兄さんと一緒に桐山のお家から東大路本家に引っ越しをする。

 昨晩は、皐月母さんと美月姉さんに送別会を開いてもらった。

 いつもよりも少し豪華な食事と卒業式から帰ってきた時に、桐山のお家の前で撮った桐山家の三人と私が写された写真の入ったフォトフレームを貰った。

 私の二つ目の家族たちの写真だ。

 ずっとずっと大事にしたい。


 引っ越しの準備は、元々、鹿児島からこっちに持ってきた荷物が、あまり多くなかったのであっさり終わった。

 兄さんの方は、幾つも機材があるので苦戦していたようだったが、なんとかなったようだった。

 私の機材と言えば、兄さんに買ってもらった電子ピアノだけなので、気楽と言えば気楽なのかもしれない。


 そうして、朝から楽器類を専門に扱える引っ越し業者さんがきて、兄さんの機材を丁寧に運び出していき、私の電子ピアノも一緒に運び出された。

 兄さんと私の私物も一緒に運んでくれるそうなので、ついでに詰め込んでもらって、業者さんのトラックは、私たちより一足先に出発していった。


 それから、皐月母さんの運転する自動車に兄さんと美月姉さんに私も乗り込み、桐山のお家から離れて行った。

 皐月母さんは、私のこっちでの保護者なので私を最後まで見届けるとのことだ。

 美月姉さんは、何も問題が起こらなければ、来年に東大路本家に私たちと一緒に下宿をすることになるので、少し早めの下見をするとのことだった。


 そうして、一時間と少し、自動車に乗って移動し、東大路本家に到着した。


 東大路本家は、外から見ると白い壁に囲まれた和風の大きな二階建てのお屋敷に見えるが、中に入ると現代風の住宅になっていた

 引っ越し業者さんは、すでに運び込みを始めているが、私たちはサロンに通されて、そこで東大路家の皆さんに挨拶をすることになった。


「中島美香です。これからお世話になります」

「うむ。何度か会ったことがあったな。私が東大路洋一郎だ。自分の家だと思って気楽にやりなさい」

「はい、ありがとうございます」


 東大路洋一郎さんは、東大路グループの会長さんですごく偉い人だ。

 何度か会ったことはあるけど、ちゃんとお話ししたことはない。

 七十歳が近いらしいけど、まだまだすごく元気に見える人だ。


 他の東大路家の皆さんにも挨拶をして行く。

 東大路康仁さんは、東大路グループの中核企業の社長さんで美鈴さんのお父さんだ。

 洋一郎さんと比べたら、ちょっと迫力がない人だけど、美鈴さんのお父さんなんだから普通じゃないんだろうな。

 東大路紀子さんは、美鈴さんのお母さんでブラウンミュージックでよく見かける人だ。

 私には、この人が一番身近な人なんだと思う。

 最後に東大路美鈴さん、兄さんの婚約者で御嬢様の人だ。

 まだまだよくわからないところのある人だけど、兄さんの婚約者さんなんだから、今まで以上に仲良くなりたいな。


 皐月母さんと兄さんが東大路の皆さんとお話をしている中で、私と美月姉さんは、挨拶だけして、大人しくしていた。


「それじゃあ、二人が住む部屋を案内しようか。美鈴頼んだ」

「はい、あっくん、美香ちゃん、行きましょう。美月ちゃんは、どうします?」

「私も来年になったら、こちらでお世話になるから、スーお姉ちゃんと一緒に行く」


 四人で、屋敷の奥に行き、それぞれの部屋を美鈴さんが案内してくれた。

 兄さんの部屋は一階で、私と美月姉さんの部屋は二階だった。

 舞ちゃんも二階になるそうで、どの部屋も綺麗な洋室だった。

 ちなみに、ベッドや勉強机、本棚にクローゼットなどの家具類がすでに置かれてあった。

 私の荷物と電子ピアノも運び込まれていたので、すぐに荷解きができそうだ。

「それじゃあ、次は、防音室がある棟に行きましょう」


 美鈴さんに連れられて、渡り廊下を超えた先に一見、蔵にしかみえない二階建ての建物があり、そこが防音室のある棟らしい。


 中に入ると、吹き抜けのエントランスがあり、出入り口は広く作られていた。

 楽器は、運び込むのが大変なので、これなら安全に運び込めそうだ。

 一階には、大きな防音室があり、兄さん専用の防音室になるそうだ。

 いろいろと運び込まれているみたいだけど、よくわからないのでセッティングが終わったら兄さんに見せてもらおう。

 二階には、小さい防音室が三部屋あり、二部屋には、すでにアップライトピアノが入っていた。

 私と舞ちゃんの専用室で、残りの一部屋が美月姉さんの部屋になると美鈴さんが教えてくれた。

 さらに、地下には、倉庫があるそうなので、いろいろと運び込んでも大丈夫らしい。


「スー、防音室は二部屋って言っていなかったか?」

「そのつもりだったのですが、美香ちゃんや舞ちゃんがいなくなっても、あっくんがここにいる限りは、また下宿をする人が現れると思ったんですよね。それに美月ちゃんが自由にできる部屋もあった方が良いと言う話にもなって、こうなりました」

「なんか手間ばかり掛けてしまって申し訳ないな」

「良いのですよ。一番乗り気になっているのがお祖父様ですから」

「洋一郎さんには、改めてお礼を言っておこう」


 引っ越し業者さんが、運び込みを続けているので、邪魔になると良くないので早々に移動することになった。

 それからも美鈴さんが、屋敷の案内を続けてくれたが、この家には使用人さんが何人もいるらしく、今までとは全く違う生活になるのが予想できてしまう。

 お金持ちのお家に下宿することは、思っていた以上に大変なことなのかもしれない……。


 それからお昼近くになり、舞ちゃんと舞ちゃんのお母さんも到着した。

 サロンで舞ちゃん親子も挨拶をしてから、もう一度美鈴さんがお屋敷の中を案内してくれることになった。

 美鈴さんは、少し変わったところのある人だとおもっていたけど、すごく優しい人なのかもしれない。


 舞ちゃんの案内が終わると、食堂に通されて、オムライスを頂いた。

 ふんわりとろとろのすごくおいしいオムライスで、美鈴さんの好物らしく、兄さんもこのお屋敷に初めて来た時に頂いたそうだ。


 それからは自室で荷解きを始めた。

 あまり時間をかけると良くないので、細かいところは後にして、基本的な生活に困らないように整理をして行く。

 美月姉さんと皐月母さんも手伝ってくれたので、夕食の時間までにはある程度荷解きを終えて、整理をすることができた。

 舞ちゃんのところには、舞ちゃんのお母さんがお手伝いをずっとしていたようで、舞ちゃんも夕食の時間の前には終わっていた。

 兄さんは一人で荷解きをしていたようで、終わらなかったようだ。


 それから夕食の時間に食堂に集まり引っ越し蕎麦と天ぷらの盛り合わせを頂いた。

 桐山のお家では、料理のお手伝いもしていたけど、こちらでは料理人さんがいるのでお手伝いはできないみたいだ。

 料理は、美月姉さんの趣味だったから、いろいろ教わったのにちょっと残念に思ってしまう。


 夕食の後、皐月母さんと美月姉さん、舞ちゃんのお母さんは帰って行った。

 ブラウンミュージックに行けば皐月母さんに会えるし、来年になれば美月姉さんもここで一緒に暮らせるのだから、寂しくない。

 それに兄さんも舞ちゃんも一緒にいる。

 高校は、舞ちゃんとハニービーの皆が一緒だから、あまり心配はしていない。

 精一杯、これから始まる新しい生活を楽しもう!


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