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第九八話 望む未来

望む未来


 三月八日日曜日

 先日、三年間通った慶徳高校の卒業式があった。

 卒業生代表の答辞は、美鈴が行った。

 生徒会長を二年間続けた俺だが、音楽活動を重視するようになった俺の成績は、上位とは言え、美鈴と比べたならお粗末な成績だったので学年主席として美鈴が答辞を引き受けてくれた。

 俺が答辞を引き受けると、厳粛な卒業式がおかしなことになるかもしれないという心配もあったのだろう。

 そうして卒業式は、何事も起こらず無事に終わり、今後の交流を続けたい者たちとの連絡先の交換などを済ませ、芸能活動をしている軽音部の皆と木戸たちと早々に高校を後にした。

 長くいると、取材に来ていた芸能関係者たちに捕まってしまうので、これも仕方がないことだと割り切った。

 後日に仲の良かった者たちと卒業祝いのパーティを開く予定もあるので、これで良いのだと思う。

 もちろん、大江や矢沢たちとは、今後も可能な限り交流を続けるつもりだ。


 それから数日が経った今日、都内某所にあるホテル内の一室で、とある人物たちと待ち合わせをしている。

 正直なところ、今から会う人物たちは、俺が望む未来に必要不可欠な人物なので、かなりの緊張をしながら、その人物たちが現れるのを待っている。


 ドアがノックされ、待ち人たちが来たと七瀬さんが知らせてくれた。

 そのまま、入室してもらい、挨拶をする。


「初めまして桐峯アキラです。本日は、お呼び建てして申し訳ありません」

「初めまして、松木ヒロトです。兄のヒデトのマネージャーをしています」

「僕も始めましてだよね。ヒデト君と一緒に仕事をしているイネです」

「まずは、そこのソファーにどうぞ」


 ヒロトさんは、元クロスジャパンのヒデトの実弟で、兄のマネージャーとして活動している人物だ。

 イネさんは、サウンドエンジニアをメインとしているが、幾つもの楽器を使い、作曲も行うマルチプロデューサーであり、ヒデトの主宰するユニットのメンバーとしても活躍している人物で、デジタル系に特化したミュージシャンだ。

 ヒデトの実弟のヒロトさんはもちろんとして、イネさんは、公私ともにヒデトとかかわりの深い人物と聞いたので、この場に来てもらった。


 今から話す内容が内容なので、お互いのことを知るために少し雑談をしてから本題に入ることにした。


「……、兄からも君のことはよく聞いています。今じゃなくてもっと先の音楽を桐峯君は常に模索しているようだと話していましたね」

「ヒデト君とは違うベクトルを持っている人物だと僕も思うな。機会があれば、一緒に仕事をしたいと思うよ」

「ありがとうございます。ヒデトさんともイネさんともいつか仕事を一緒にしたいですね」


 それからも、音楽に関わる雑談を続け、話題が途切れたところで本題を話すことにした。


「……、唐突ですがお二人は、未来視のような能力について、どう思いますか?」

「そうですね……、兄のような人間と一緒にいると不思議な感覚を持っている人物に何度か会ったことがあります。念動力のようなあからさまな超能力を持っている人物にはあったことはありませんが、人の感情を読むことに長けている人物や、音を色として変換している人物などはいました。そういう人たちをある意味では、超能力者なのだと私は思いますね」

「僕も同じかな。あからさまな超能力者にはあったことはないけど、未来視でもしているんじゃないのかって思うような人物にはあったことがあるね」

「そうですか……。まずは、これを見てください」


 高校名がいくつか書かれた紙を二人に見えるように取り出す。


「これは、今年の春のセンバツ高校野球の準決勝の組み合わせ、決勝の組み合わせ、優勝校になります。僕が未来視で見た結果なんです」


 二人は、紙をのぞき込み、真剣な顔になった。

 この年のセンバツ高校野球は、怪物と言う異名を持つ坂松大輔選手が活躍する大会だったことを思い出し、今回の話に利用させてもらうことにした。

 彼は、日本のプロ野球選手として活躍し、アメリカにわたっても活躍をする選手なので、よく覚えていたのだ。


「えっと……、この優勝校になる横浜学園高校は、今でも話題になっている坂松大輔選手がいる高校ですよね。優勝校がこの高校になるのは、未来視じゃなくてもわかるとして他の三校もわかったのですか?」

「はい。大会が終われば、この結果が真実かどうかわかると思います。今はただ信じてもらうしかありません」

「桐峯君、これを僕たちに知らせて何の意味があるのかな。未来視ができることを知らせることは、デメリットしかないと思うんだけど?」

「未来視は、完全な物ではないと思っています。それにイネさんのおっしゃる通りで本来なら、自分のこの能力を知らせるのは、デメリットしかありません。ですが、それを知ってもらってでも、停めたい未来が見えてしまっているんです」

「その止めたい未来に僕たち二人が関わっていると?」

「その通りです。正直なところ、今から話す話は、数年前から見えていた未来でどうしても止めたいと考えていました。ですが、僕一人では止められるとは思えなかったので、お二人に協力をお願いしたいのです」

「なるほど……。今からその止めたい未来を聞かせてくれるんだよね?」

「はい、それでは、お話しします……」


 今年の五月二日の未明、ヒデトが自宅マンションで事故あるいは自殺で死亡する。

 この未来をどうしても止めなければならない。

 これは、俺のわがままだが、どうしても変えたい未来なので、手段を選んではいられない。

 誰に話すべきかの人選を徹底的にして、この二人なら協力をしてくれると信じることにしたのだ。

 そうして、知っている限りの情報を、二人に話し続けた。


「兄が……」

「マネージャーで実弟のヒロトさんなら、自宅マンションに入っても不自然じゃないとおもいました。イネさんは、ユニットとしてのテレビ出演がその直前にあるので、事前に何らかの方法で対応ができないかと考えたんです」

「わかった……。まずは、そのテレビ出演を辞退するところから始めようか。当日は、どうするべきだろう……」

「今は、この話を信じてもらえるだけでありがたいです。時間はまだあります。高校野球の結果を見てからでも、対応はできると思いますので、どうぞお願いします」

「私としては、桐峯君の話は、完全に嘘だとは思えないのです。だから、まずは起きる未来として高校野球の結果を注視しながら、対応策を考えたいと思います」

「僕もヒデト君がこの世からいなくなるなんて、信じたくないけど、桐峯君が冗談で僕たちを呼び出したとも思えない。ヒロト君と同じで、対応策を考えながら、高校野球の結果を注視することにするよ」

「ありがとうございます。僕は、ヒデトさんの音楽が大好きなんです。この先も彼の音楽に触れていきたいんです。よろしくお願いします」

「ああ、それと、桐峯君の未来視のことは、当然、僕たちだけの秘密にするから安心してほしい。ヒロト君もそれで良いよね」

「もちろんです。真実かどうかは別にして、兄の音楽を愛してくれている桐峯君のことを邪険にはできませんから」

「ありがとうございます。」


 それから、さらに深い話を続け、俺の能力を把握している人物に東大路本家が関わっていることや、すでに東大路の協力を得られる約束を取り付けていることなども話していった。

 二人からは、ヒデトのシングルの発売予定などの話を聞くことができた。

 俺の知っている通りの流れの発売スケジュールのようなので、何とかなりそうに感じる。


 そうして、この日の出来事は終わって行った。


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