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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第四章 センヤンオーディション
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第九七話 歌姫たちの帰国

 歌姫たちの帰国


 二月二一日の土曜日。

 ミストレーベル企画室には、久しぶりの人物たちが姿を見せている。

 蜜柑、歩美、ミーサがそれぞれの留学先から帰国した。


「二人とも、お帰り。けがや病気、何かトラブルに巻き込まれたりはしなかったか?」


 この場には、蜜柑と歩美だけがいて、ミーサは東京に寄らずに、地元の福岡に帰っている。

 改めて四月からの東京での生活の準備のために戻っているそうだ。

 まだ新学期が始まるまで一か月以上あるが、早めに東京での生活の雰囲気に慣れたいのだろう。


「私は、夏に桐峯君と会っているし、メールのやり取りもしっかりしてもらっていたから安心して生活が出来ていたよ」

「蜜柑ちゃんは、夏に桐峯君とトミーさんたち、それにベルガモットの皆に会っているんだよね。羨ましかったよ。せめて桐峯君だけでもロサンゼルスに一度くらいは来てほしかったな」

「歩美のほうにも行こうとは思ったんだが、当てにしていた人が、大変なことになっただろう。あれで行く機会を失ってしまったんだ」

「ああ、ヨキシさんだよね。クロスジャパンの解散は、流石に衝撃的だったよ。その後はどんな感じなの?」

「うーん、連絡は一応取れているんだが、まだ彼の復活には時間がかかりそうだ」

「そっか、あちらでの生活を始めた頃、一度だけ、ヨキシさんのお家を訪問したんだけど、解散の予兆なんて、全然感じなかったから本当にびっくりだった」

「クロスジャパンは、俺の中で大きな存在だから、また活動再開を願うばかりだな」


 歩美のいたロサンゼルスにも行ってみたいとは思っていたが、時期が悪かったのは事実だ。

 進路が実質決まっていたとしても高校三年生が、頻繁に海外にいくのもあまり良くないと思っていたのもあった。


「蜜柑、ロンドンの雰囲気は、どう感じた?」

「うーん、音楽をするには良い環境だと思った。それに日本で聞いたほど食事も不味いわけじゃないんだよね。家庭料理は、ちゃんとした料理ばかりだったし、私も料理は覚えてきた」

「食事の事はともかくとして、ザ・ビートルの地元の国なだけあって、施設も充実しているのかもしれないな」

「桐峯君が使っていたスタジオもしっかりしたスタジオだったでしょ。ああいうのがあちらでは普通の環境だと思ったら良いと思う」

「MEIのスタジオを借りていたが、確かに良かったな。あれが標準的なスタジオなら、確かに良い環境なのだろう」

「それで、ザ・ビートルのドラマー、オレンジスターに会った感想は、どうだった?」

「何ていうか気さくなおじいちゃんって感じだった。それでもやっぱりドラムは超一流だよね。派手なドラムよりもすごい安定感があって安心するドラムだった」

「なるほどな。俺が一番なりたいタイプのドラマーだな。彼のパフォーマンスを見るためだけにイギリスへ行ってみたくなる」


 蜜柑は、MEIのはからいで、オレンジスターのライブの楽屋に連れて行ってもらったそうなのだ。

 本当に羨ましいが、自分の芸名をオレンジスターから取った蜜柑にとっては、本当に充実した時間だったのだと思う。


 それからも二人の話を聞いていった。

 興味深い話はいくつもあったが、特に気になったのは、ロサンゼルスの語学学校には、政治家や旧華族のご子息ご令嬢が、それなりの人数いたらしいのだ。

 さらに、名のある企業や芸能人のご子息ご令嬢もいたらしい。

 歩美が通う語学学校なので厳選はしたが、内情がそんなことになっているとは、予想外だった。

 その歩美は、恐れ知らずなところがあるので、そんな彼ら彼女らとも仲良く交流し、日本での再会を約束して帰ってきたそうだ。

 花崎歩美、恐ろしい子!


「……それで、これからの予定なんだが、まずは、歩美から話す」

「うん、今年から大学生に改めてなるわけだし、どんな感じになるのかな?」

「今年の上半期にシングルとアルバムを一枚ずつ発表するつもりでいてほしい。俺と浅井さんの共同プロデュースで、作詞作曲ともに俺が担当した曲がすでに用意してある。まだ会議には出していないから、歩美の自作の歌詞があるなら、それもできれば使いたいと思っている。とりあえず、用意した楽曲を聞くところから始めてほしい」

「桐峯君の楽曲の歌詞を私の歌詞に差し替えてくれるってこと?」

「それでも良いし、どうしてもしっくりこなければ、新たに曲を作っても良いとも思っている。歩美の判断に任せるってところだな」

「わかった。とにかく用意してくれた曲を聞くところから始めるね」


 歩美の方は、これで良し。次は蜜柑だな。


「極東迷路は、去年にだしたセイカモードの売り上げが好調だったんだよな。それでミカンモードで作って行きたい。具体的に何が変わるのかって話になると、今までは俺が全面的にプロデュースしていたが、これからは極東迷路でセルフプロデュースをしたい」

「楽曲は、今まで通り、私と桐峯君の曲で半分ずつで良い?」

「そのあたりは、悩んでいるところだ。蜜柑の曲を多くしたい気持ちも強いんだが、俺の曲もそれなりに人気があるらしいんだよな」

「そうだよね。私も桐峯君の曲は好きだし、今まで通りで行きたいかな」

「メンバーたちには、浅井さんのところで、プロデュースの勉強をしてもらっているから、改めて皆で相談をしよう」

「了解、その方が良いよね」

「個別の話はここまでで、共通している話をする。今年は出来る限り分かれて全国ツアーをしたいと思っている。それで、夏の予定なんだが、二つ大きな予定がある。一つは、全国ライブツアーだ。場所は、五か所以上はやると思っていてほしい」

「単独ツアーってことは、私、一人でツアーをすることになるの?」

「いや、完全に一人ではなくて、歩美の方には、ハニービーや大林ユウ、それに舞もデビューできていそうなら参加させるつもりだ。極東迷路の方には、エーデルシュタインを入れようと思っている。エーデルシュタインは、デビューをしていないが、極東迷路のメンバーが二人、入っているし実力はあるから何とかなると思う」

「カレンちゃんは、まだ会っていないんだよね。どんな感じの娘なんだろう」

「蜜柑と気が合うと思う。独特の世界観を作るのが上手いやつだな」

「私の方は、大林さんだけしらないのか」

「歩美よりロック調の強い曲を歌ってもらっている。人気は、これからって感じだから、いろいろと気にしてやってほしい」

「わかった。会えるのを楽しみにしている」

「二つ目は、俺たちは、特にやることはないんだが一応気にしておいてほしい話になる。ハニービーのデビューも今年の上半期か夏前にしたい。それに合わせてミストレーベルのミュージシャンのほとんどと、ブラウンミュージックのミュージシャンの一部の楽曲を、MEIを通して、イギリスだけじゃなく欧米各国で売り出すことになった。どんな結果になるかわからないが、あちらも本気らしいから、できる限りのことは、こちらからもしたいと思っている。突然、あちらに行くこともあるかもしれないから、覚えておいてほしい」

「蜜柑ちゃん、すごいね。皆で世界デビューだよ!」

「う、うん。イギリスで、私の曲が流れると思うと、ちょっと感動しちゃうかも」

「まあ、上手くいかない可能性もそれなりにあるんだから、頭の隅に入れておく程度にしておいてくれ」


 それから、細かい話し合いを続け、夕方になったころ、二人は帰っていった。

 この二人、しばらくの間、ホテル暮らしなんだよな。

 早いところ、住処を用意してもらいたい。



 暗くなり始めた夜の街を眺めながら、ぼんやりと考える。

 先日見た夢の話を洋一郎さんにした。

 反応としては、いくつかある未来の可能性を見たという予知夢という見解に賛同してくれた。

 その結果、東大路が運営する病院があるのだが、規模を拡大して、ウイルス性の病に対しての研究に力を入れてくれることになった。

 その中で、洋一郎さんが言った話に興味深いものがあった。


 ウイルス性の疾病と言うと、エイズやエボラ出血熱などの絶望的な病を想像してしまうのだが、最も危険な疾病は、風邪だと言うのだ。

 風邪は、様々な病原体を体内に取り込んでしまった状態で、高熱や咳などの共通する症状があり、風邪と総称されているだけらしいのだ。

 もし、薬が効かない風邪が生まれたなら、どうなるか。

 確かにこの世で最も恐ろしいのは、風邪なのかもしれないと思った。

 風邪の研究をしている学者の方々には、頑張ってほしいと心から思う。


 ドアが開き、四谷さんが迎えに来た。

 今日は、この後、美鈴と夕食の予定になっている。

 もしかしたら、東大路本家に泊まることになるかもしれないが、もう一か月もしたらあの屋敷に住むことになるので、泊まることくらいは慣れなければならないな。


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