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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第四章 センヤンオーディション
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第八八話 徐々に変わる世界

 徐々に変わる世界


 十月一九日の日曜日。

 十月に入り、極東迷路セイカモードのシングルとアルバムが発売された。

 シングルの方は、アニメ『剣の心』の十月からのED枠が決まっていなかったので、そこに入れてもらい、アルバムの中にある歌のないインストルメンタルの曲を、木戸が使っているエレキヴァイオリンのメーカーがCMで使いたいとのことだったので、タイアップがあっさり決まった。

 メーカーのCMでは、木戸が出演しているので、知名度もそれなりにある状態で売り出すことができた。

 シングルとアルバムの両方がランキング二十位以内からのスタートになったので、モード企画は、成功したと考えて良さそうだ。

 モード企画の継続は、未定だが悪くない結果だったので、少し時間を置いてから、またやってみるのが良いかもしれないな。


 三年の二学期中間テストが終わった。

 このテストの結果で、学内推薦が決まる。

 美鈴は、常にトップクラスにいたので、問題はないとして高校バンドで一緒だった白樺がどうなるかが気になっている。

 無事に学内推薦を取れて、慶大の入学が決まれば、白樺をブラウンミュージックに呼ぼうと思っている。


 今日は、大林ユウのレコーディングの日だ。


 デビューシングルの発売日が十一月五日なので、限界までスケジュールを引き延ばして今日にしてもらった。

 デビュー日を勝手に決めたセンヤンの大口スポンサーの伝通には、社会的に抹消できないかと真剣に考えるほどに腹が立っている。


 美鈴からの情報によると、ライバル会社の白鳳社には、すでにアプローチをしてくれているそうなので、俺の知る以前の記憶よりは、伝通の力を削げるとは思う。

 だが、こちらも未来知識があるとはいえ、綱渡りのような資産運用で乗り切っているのが現状だ。

 それほどに、この一九九七年からの経済は、混沌とする。


 東大路が韓国から生産拠点を撤収したことに反応して、他の日本企業の多くが韓国から撤退している。

 それでも、韓国側には一定の配慮をしており、撤退する時には、工場の建物や型落ちの機械をある程度残した状態で現地企業に売却をしているので、極端な悪印象を持たれているわけではない。

 韓国は、日本人にとって販売市場であり、韓国から何かを買うことは基本的にない状況になっている。

 もしかしたら、この世界では、韓流ブームは起きないかもしれないな。


 中国への投資も消極的で、台湾、東南アジア諸国、インドと南太平洋地域への投資が熱心だ。

 国が変われば人の価値観も変わるが、共通する価値観も少なくはないので、そういうところで意思統一をして行ってほしいところだな。


 日本国内では、金融系が倒れ始めたことで特許を持つ企業から特許の買取や会社自体の買収を積極的に動いてもらっている。

 この中に将来につながるスマートフォンを代表とするような、未来技術に使われる特許が混ざっていることを願うばかりだ。


 さらに、国防上で重要な拠点の周辺不動産が海外から買収され始めている。

 どこまでやれるかわからないが、東大路グループで、先に不動産の買取を進めたり、交渉が出来そうな相手なら、海外資本でも購入交渉をしている。

 経団連からみても、あまりにひどい状況なので、海外資本からの不動産購入に関する法律整備を政治家に呼びかけてくれるそうだ。

 ついでに、電力小売り完全自由化や郵政完全民営化も強く求めてくれることになった。

 以前の記憶では、このあたりの法律が、中途半端になってしまったことで、関係各社に大打撃が入ってしまったんだよな。


 東大路グループとしては、横浜自動車産業こと、ハマサンへの資本投入をどこまでやれるかが今の課題になっている。

 俺の記憶では、フランスの自動車会社が最大で四五パーセントほどの株式を保有することになっている。

 これにできるだけ近い数字で妥結してほしいところだ。

 ハマサンが作る自動車の技術については、残念ながらほとんど覚えていないが、デザインならフランスの自動車会社の物も合わせてある程度覚えているので、それを使って交渉をしてもらっている。

 反応としては、悪くないようで、作ってみたいようだが、それを作るための資本が尽きかけているのが今のハマサンだ。

 まだ起死回生の一手が考え付くと信じているところもあるので、粘り強い交渉が必要となっているそうだ。


 ブラウンミュージックの状況から、最近の東大路グループの様子を思い出しながら、レコーディングブースで、大林の歌唱風景を眺めている。

 声は何とか仕上がり、プロのレベルに到達している。

 現状の彼女の声は、瞬発力があり迫力もある。だが持続力が弱い印象だ。

 プロミュージシャンとしてライブをさせるには、やはりまだ早いとしか思えない。

 だが、デビューシングルとカップリングの二曲だけなら、何とかごまかせるか……。


 製作側と話し合ったのだが、大林だけで日本武道館を借りるのは、あまりにもひどいので、ミストレーベル所属ミュージシャンを出せるだけ出してみることになっている。

 大林には、デビューシングルとカップリングをライブ開始と共に歌ってもらい、その後はMCとして参加してもらう。

 最後に、もう一度デビューシングルを歌ってもらい、終了となるシナリオを用意した。


「どんな感じになっていますか?」

「不安定ながらも、良いところはしっかりと毎回、録れているから、シングルの方は問題ないと思っている」

「ライブは、やっぱり厳しいですか?」

「残念ながら、今のままでは、厳しいな。でも短い間でこれだけ仕上げたのだから、状況は悪いわけじゃないと思っている」

「プロの世界は、厳しいと思っていましたが、具体的にどう厳しいのかあまりわかっていなかったようです。技術とかも大事なのでしょうが、気持ちが負けないようにすることが一番大変だったのですね」

「ああ。それは確かにある。技術は、ある程度までなら誰でも上達できてしまうんだよな。ヴォーカルの場合だと、歌わない時も必要になるから、そういう時は辛いだろうな」

「歌えば上手くなると思って歌い続けているうちに喉が潰れてしまう人が多いと、てっちゃん先生から聞きました。ここの養成所の訓練生さんも勝手に歌い続けて喉を潰してしまう人が毎年いるとも聞いています」

「そうなんだよな。男も女も喉を潰すまで歌い続けてしまうから、訓練生からヴォーカリストを探せないんだ。本当に困る……」

「私も気をつけます……」

「上杉は、元々喉が弱い方だったから、今でもいろいろ注意をしていると思う。落ち着いたら話を聞くと良い」


 それから休憩をはさみながら、大林のレコーディングは続き、何とかシングルに必要な音源を全て録り終えた。


 ミストレーベル企画室に戻ると、見慣れない少女がプラモデルとライダーフィギュアが並んでいる棚を眺めていた。


 ここに入って来ているってことは、誰かの関係者か?


 よく観察してみると、彼女が誰なのかわかった。


「もしかして中川原翔子さんかな?」

「あ、はい。中川原翔子です。桐峯さんですね!」

「その人形たち好きなのかな?」

「えっと、ライダーがこの中だと好きです。この三人のライダーって映画をお正月にやるんでしたよね。楽しみです!」


 普通の小学六年生って感じだな。

 それでも芸能人オーラみたいなのは、纏っているようだ。


「他にどんなのが好きかな?」

「えと、スーパー戦隊が好きです……」


 それから、全くわからないスーパー戦隊の話が始まってしまった。

 最近はいろいろな色があるらしい。

 それに、殆どにレンジャーが付くようだ。


 それから、白紙のノートとペンを取り出し、何かを書き始めた。

 どうやら猫を描いているようだ。


「えっとですね。巨大猫が街で昼寝をしているんです。でも、この子は、頭が良い子なので、ちゃんと公園で寝ているんですよ!」


 良く見ると確かにビル街の中にある公園の中に巨大猫は丸まっていた。

 うーん、よくわからん!


 それからも謎の絵を描きながらいろいろと説明してくれた。


 確か中川原翔子は、中学になってもマイペースに謎な絵を描き続け、それが原因でいじめに遭ってしまうというエピソードを思い出してしまった。


 まずなぜ彼女がここにいるのかを聞かなければならないな。

 アイドルユニットのオーディションの時に中川原翔子のスカウトには成功したが、養成所の年度が替わる時期まで、あちらにいると言う話でまとまっていたことを思い出す。

 なら、母親と紀子さんが今、相談をしていて来春からの彼女の扱いについて相談をしていると言ったところか。


 中川原に一言席を外すことを告げて、事務所に行き、七瀬さんを探すと見当たらなかった。

 紀子さんのところか。

 代わりに九重さんがいたので、九重さんに紀子さん専用応接室に中川原翔子と共に連れて行ってもらった。

 一人でも来れるのだが、俺を東大路側の人間だと知っている者の方が少ないので、この処置をしておかないと面倒ごとが起きる可能性があるんだよな。


 ノックをして、応接室に入ると、紀子さんと迫力のある女性が話し合っていた。


「お話し中すいません。彼女の事で紀子さんと急きょ話し合わないといけないことが出来たので、紀子さんの執務室の方にお願いします」

「え、ああ、わかったわ。中川原さん、すぐに戻るので少しお待ちくださいね。彼の話は聞いておかないと後々に後悔することが多いのよね」


 中川原母も了承してくれたので、七瀬さんに中川原翔子にも何か飲み物を出してもらうように言ってから、執務室に入った。


「突然どうしたの?」

「中川原翔子のことで、思い出したことが合ったので話しておく必要があると判断しました」

「なるほど、どんなこと?」

「彼女は絵を描くのが趣味なんですが、母親の薦める私立中学に進学する予定になっているはずです。その中学校は、母親の母校でもあるので、熱心に薦めるはずなんです。ですが、絵を描くことが趣味の彼女をクラスメイトたちが異質な存在に感じてしまい、いじめに発展してしまうんです」

「全く嫌になるわ。いじめ問題ね……」

「来年から、東大路の中高一貫校が運営開始できるんでしたよね?」

「ええ、元々の経営陣もある程度残るけど、主体は私たちになるわね。そこに入れたら良いのね」

「元々芸能コースが高校にある学校ですから、少し変わった生徒がいても、一般の私立校よりは、風当たりはましになると思うんです」

「彰君の言い分は理解したわ。一応、しっかり話すけど、どうしてもってこともあるから、ダメなら中学に上がってからの彼女を支えてあげてね」

「可能な限り支えますので、安心してください」


 紀子さんは応接室に戻り、俺と中川原翔子はミストレーベル企画室に戻って、配っても良いことになっている玩具を幾つか渡し、遊ぶことにした。

 たままっちが、大量にあるんだよな……。


 後日談になるのだが、母親は、東大路グループに厄介になるのだから、東大路グループが出資している学校に行く方が、仕事をやり易くなると判断してくれたようだ。

 自分の母校に娘を入れたい母心は、わからなくはないが、今回の判断は賢明な判断だと思いたい。

 契約も無事にまとまり、小学校の卒業式が終わってから、こちらに顔出すようになるとのことだった。

 スーパー戦隊のフィギュアも並べておかないといけないな。


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― 新着の感想 ―
[一言] しょこたんが好きなスーパー戦隊シリーズは、鳥人戦隊ジェットマン、電磁戦隊デンジマン、超電子バイオマンだそうで(戦隊シリーズは〇〇レンジャーではなく〇〇マンが主流な時代もありました) 芸能界に…
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