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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第四章 センヤンオーディション
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第八五話 妖精姫がやってきた

 妖精姫がやってきた


 八月二五日の月曜日。

 ロンドンから日本の空港に到着すると、美鈴が待っており、すぐに人間ドックに連れていかれ、毎年と同じスペシャルコースを受けて今年は異常無しと言われた。

 だが、過労と言うほどではないが全体的に疲れが見えるようなので、休息時間をしっかり取るように言われてしまった。

 病院から自宅に帰って、数日間を大人しくしてからブラウンミュージックに再び通う日々が始まる。

 俺が休んでいても仕事は、溜ってしまうんだよな。


 ロンドンからまとめて送っておいた『ヘンリー・ポッター』の原書を土産として、お世話になっている方々に配った。

 狙い通りと言うべきか、皆がすべて英語で書かれている中を見て顔をしかめてくれたので、大変満足だ。

 この本は、日本でも話題となりハリウッドで映画化もされる。

 数年後に、この原書を貰ったことを思い出してくれたら良い。

 この作品の権利獲得も考えたが、世界中の多国籍企業と渡り合いながら長い時間を戦いつづけなければならないので、コストがかかりすぎると断念した。


 ミストレーベルとしては、一月に水城加奈、二月に島村仁美、三月に上杉イクトことトワイライトアワー、四月に極東迷路、五月に花崎歩美、六月にポーングラフィティ、七月にユズキがアルバムを出していて、その前後にシングルもだしている。

 全体的にランキングは三十位以内に入っているし、初動が鈍かったトワイライトアワーもオーディション企画に上杉が出るようになってから伸びている。

 ユズキは、四月からすぐに調整に入り、そのままレコーディングをした。

 ジルフィーの皆さんが付いているので、心配はしていなかったが販売前に聞かせてもらったところ、俺の記憶に残るユズキの『夏空』よりも落ち着きのある音に仕上がっており、かなりの完成度に感じた。

 実際にシングルもアルバムもランキング十位以内からのスタートになっている。


 八月は、TMレインボーこと西山さんのアルバムが発売され、こちらも大ヒットしている。

 後の夏の定番ソングになる曲が入っているアルバムなので、無事にヒットしてくれて一安心だ。


 ロックヴォーカルオーディションは、大林ユウの優勝で幕を下ろした。

 同時にアイドルユニット企画が発動して、敗者復活組に召集をかけて、参加の意思を問うたところ、全員が合意してくれた。

 早速、アイドルユニット用の曲のデモ音源を渡し、練習に入ってもらっている。


 九月までにアイドルユニットの名前を考えなければならない。

 一応、過去のアイドルグループリストを見せてもらい、参考にしてみたのだが、最後が娘、組、隊、姉妹、シスターズなどは、定番と言えるほどに使われているようだった。


 ロンドンに行き、あちらの郷土料理をいくつかいただいていて知った事なのだが、イギリスの郷土料理にはパイが多いらしい。

 そこで、最後に『パイ』の付く名前にしたなら、この先に続くアイドルユニットとの関連性がわかりやすくなるので良いと思えた。

 最初の一組である彼女たちには『ミックスパイ』と言う名を名乗ってもらおうと思う。

 二つ目のアイドルユニットにも『パイ』を付ければ、妹分とすぐにわかるだろう。


 ロンドンで録音して来た音源たちは、音響の皆さんに調整をしてもらっている。

 蜜柑と録った『アコースティックイン ロンドン』は、音量を調整してノイズを少し調整する程度なので、九月中に発売できそうだ。

 十月には、極東迷路セイカモード、ブリリアントカラーは十一月で、十二月の初めにベルガモットがデビューをする。

 毎月、皆のシングルも発売されるので、大忙しだ。


 そんな中で、大問題が一つ浮かび上がってきた。

 大林ユウのデビュー日をセンヤン側が十一月五日に決めてしまったのだ。

 ただ決めただけなら取り消しが出来るのだが、翌日の六日に日本武道館でデビューライブまで決めてしまった。

 流石に日本武道館の日程を取り消すことはできず、この日程で仕上げるしかなくなってしまった。

 大林には、この夏のうちに堀学園高校へ転校してもらっている。

 十一月までは、殆ど授業に出ることができないが、プロの世界でやっていけるだけの声を作ってもらわないとならず、辛い思いをさせてしまう。

 てっちゃん先生と、この夏から入ってくれたもう一人の声楽系のトレーナーの小西永一さんこと、えいちゃん先生が付いていてくれるので、なんとかしてもらうつもりだ。


 センヤンとは、この先も良い関係でありたいが、今回の事は、あまりにもひどいのでしっかりとクレームを入れておいた。

 どうやら、あちらの大口スポンサーが決めた日程らしく、製作側も困惑しているようだ。

 センヤンの大口スポンサーは、将来に超ブラック企業と悪名をとどろかす大手広告代理業をしている会社なので、このころから、ブラックの兆しがあったのかもしれない。

 捉え方しだいによっては、東大路グループに宣戦布告をしてきたような物だから、攻撃をしたいところだが、今はもう少しこらえておきたい。

 この時期は、まだ日本経済が暗くなり始める入り口の様な時代なんだ。

 谷底の時期に、こちらから攻撃を始めれば良い具合にぐらついてくれるだろう。

 今はまだ辛抱の時だ。

 それにこの後のセンヤンは、おかしな行動には出ないはずなので、大丈夫だ。


 ミストレーベル企画室にいつからか置かれている冷蔵庫から、冷えたお茶を取り出し、コップに注ぎ、一息で飲み切る。


 ドアがノックされ、誰かが来たようだ。


「どうぞ」

「失礼する。桐峯殿、お久しぶりだな。東京の夏もやはり暑いな」


 低めの女性の声で、誰かと思ったが、声色を変えたゴスロリ衣装の望月だった。


「お久しぶりですね。望月さん、引っ越しは終わったのですか?」

「うむ。引っ越しは終わった。だがな、桐峯殿。我は、望月などと言う名ではない。妖精姫のカレン・イブラル・アルバインと言う名だ。忘れずに覚えておいてくれ」


 えっと、あれだ。妖精姫設定でキャラ作りをしているわけか。


「わかった。カレン殿。ところで、妖精の国への入り口は、東京にもあるのだろうか?」

「ないな。名古屋だけだな」

「やたらとローカルなところにしか入り口はないんだな」

「ああ、妖精の国だからな。そんな物だ」

「ヨーロッパには妖精の国の入り口はないのか?」

「あ……、あるぞ。うん、ある」

「そうか。妖精は世界中にいるんだな」

「妖精は地球世界のどこにでもいるぞ。それよりもだ、今度会ったら、桐峯殿に言いたかったことがある。我の事は、カレンと呼び捨てにすることを許す。我は、貴殿を、アキラと呼び捨てにする。問題はあるか?」

「問題ないな」

「それで我と一緒に活動をしてくれる人間たちは見つかったのか?」

「えっとだな。キャラ作りなのは、わかるし頑張ってくれているのも伝わった。だが、真面目な話をするから普段通りに戻してくれ」

「あ、はい、キャラ作りどうでしたか?」

「良かったと思う。我と呼ぶところとか、名前をカレン・イブラル・アルバインとするところも良かったと思うし、しゃべり方や声色の変え方もおもしろかった。声優の養成所に行けばもっと指導をしてもらえるから、今は、設定だけ考えるだけにしておこう。おかしなことをして喉を傷めてしまったらいけないからな」

「それもそうですね。じゃあ、普段はアキラさん呼びにしますね」

「ああ。呼ばれ方とかには、無頓着な方なんだ。それと身内には、乱暴な言葉使いになってしまう時があるが、信頼の証とでも思って欲しい」

「わかりました。それで、バンドメンバーなんですが、どうなんでしょう?」

「何人かここの養成所から候補を挙げてもらってはいるんだが、ここの訓練生の一部にスカウトで来た若手を嫌う傾向があって、あまり良い人材は見つかっていないな。それでもベースだけは確保した」

「スカウトからの人って嫌われているんですか?」

「以前は、本当にひどかったんだが最近はましになってきたな。それでも、一部には、まだおかしな雰囲気が残っている。嫉妬と思えば良い。そういう感情は、どうにもならないからな」

「嫉妬なら、わからなくはないですね……。アキラさんなんて嫉妬がすごそうです」

「酷かったな。養成所の存続危機ってくらいの大惨事になったな」

「そこまでひどかったんですね」

「今でも嫌っているのは少数派なんだが、男子の方が多くて、今回のバンドは、設定があるから余計に難しくなっているようだ」

「簡単には集まらないのですね……」

「ギターを二人欲しいんだが、一人は多分大丈夫だ。もう一人とドラムが未定だな。十二月に入るまでには、活動をできるようにしておくから、まずは、こっちの生活に慣れて欲しい」

「わかりました。あの……デビューの時期っていつ頃になるんでしょうか?」

「カレンは大学で勉強をしたいか?」

「せっかく、面白い設定で活動できるのですから、ドイツ語辺りを勉強して妖精のことを学んでみたいです」

「わかった。ある程度の活動実績があれば、大学に入れるようにしてくれるようだから、遅くても来年の夏前にデビューかな。花崎歩美と同じスケジュールになると思う」

「頑張ってみます!」

「何か要望はあるか?」

「さっきドラムが決まっていないって言うお話でしたよね。確かアキラさんはドラムが叩けると聞いたことがあるんですが、アキラさんじゃだめなんでしょうか?」

「それも考えたんだよな。今やっているオーディション関係の話が落ち着けば少しは余裕ができるかもしれない。それに、極東迷路のメンバーにもプロデュースをできるようにして欲しいと思っているんだ」

「なら、アキラさんがドラムをやりましょう!」

「今は良い返事ができないが、しっかり考えておく」

「はい、お願いします」


 それから、カレンに名古屋で音楽の街を作るとしたなら、どこが良いかと尋ねることにした。

 幾つかの情報を聞いて整理した結果、金山・熱田エリアとNR千種駅・今池エリアの二か所が良さそうに感じた。

 金山、熱田エリアの金山駅にはNR東海道本線、中央線、地下鉄、名愛鉄道こと名鉄が乗り入れていて、交通の便が良く熱田エリアには熱田神宮がある。それに、ハウジングパークというのか住宅展示場があり、そこを買収出来たらまとまった土地が手に入る。

 さらに、夏には熱田神宮の祭で賑やかにもなるそうなので、狭いエリアにいろいろと建てるのではなく、広いエリアに分散して建物を作って行けば汎用性も高そうに思えた。


 NR千種駅・今池エリアは、中央線が千種駅に入っていて地下鉄も入っているそうだ。今池にも地下鉄はあるので、金山ほどではないが交通の便は悪くはないらしい。

 このエリアには、古い建物が多いらしく、いつかは再開発をしなければならないエリアのようだった。

 また、今池には元々ライブハウスがあるそうなので、地元民と協力ができそうだ。


 この音楽の街計画は、洋一郎さんたちに話さなければならないな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 桐山アキラが妖精風キャラ付けしたらどんな感じになるんだろうかw かつて東京の蒲田が映画の街であったように、「名古屋の〇〇と言えば音楽の街」と出来ればいずれはソコが音楽の聖地と呼ばれるように…
[良い点] 音楽系企業が電○を敵に回すのは大変そうですが今後の展開が楽しみになります [一言] そのうちスターゲイジーパイというキワモノグループができそう
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