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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第四章 センヤンオーディション
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閑話あるいは第八四話 リっちゃんロンドンへ行く

 リっちゃんロンドンへ行く

 Sideリツ


 八月某日の某曜日

 ロンドンにやってきて数日、蜜柑さんがマネージング委託をしているMEIミュージックエレクトロインダストリーのスタジオで毎日、レコーディングをしている。

 MEIとは、私たちベルガモットが所属しているブラウンミュージックが設立された頃からの業務提携の関係があるらしく、レコーディングは順調だ。

 言葉の問題があるため、ロンドンのスタッフの手を煩わせてはいけないと、レコーディングの打ち合わせを日本で入念にしてきて本当によかった。

 それに、どう言うわけかMEIのスタッフは、私たちの事を気に入ってくれているようで、このままイギリスでデビューしないかと言う話まで出てきているらしい。

 桐峯さんやスタッフの皆さんも乗り気のようで、どうせ売り出すならと他のミストレーベルの皆の中から何組かを同時に売り出そうと言う計画に発展してきているそうだ。


 秋葉原で活動をしている桃井さんが私たちのところに来てから、いくつか指示が出され、食べたいお菓子の曲や年相応のかわいらしさを表現した曲を作って欲しいと言われた。

 ご飯の曲は好きだけど、桐峯さんから難しいとも言われていたので、自分たちの曲だけでデビューができるのなら、この指示に従って曲を作ってみよう、となった。

 私たちの方向性を活かした売り出し方を一生懸命に考えてくれた桐峯さんたちのためにも、個性を殺さずに曲を何曲も作っていった。

 その中で、特に良いと思った曲を桃井さんと桐峯さんに聞いてみてもらったところ、これなら勝負ができると太鼓判を押され、すごくうれしかったのは良く覚えている。

 それにロリータファッションも気に入っている。

 でも、真夏の日本ほどではないが、ロンドンでも、夏はやっぱり夏で、この衣装のままでプロモーションビデオとブックレット用の写真の撮影に入るとすごく暑くて疲れてしまうのが問題だ。


 ロンドンの有名な観光地を周りながら撮影は続き、町中の小道を散歩するような映像も撮られている。

 国会議事堂として使われているウェストミンスター宮殿とその周辺にあるウェストミンスター寺院や時計塔のビックベン、テムズ川沿いにある大観覧車のロンドンアイやタワー・ブリッジにも行った。

 女王様が住んでいるというバッキンガム宮殿に行ってみると、女王様は避暑地にお出掛けしているらしく、中も見ることができた。近くにあるセントジェームス公園では、しっかりと撮影をしてもらった。

 他にも、ロンドンタワー、トラファルガー広場、セントポール大聖堂にも行き、毎日、どこかに行き撮影をしてもらっていた。

 日本では見る事の出来ない建物をたくさん見ることができて幸せだった。

 今回は日程の都合で、大英博物館などには、行くことができなかったので、もう少し大人になってお金もしっかり稼げるようになったら博物館を見に来ようと強く思った。


 毎日すごいところに連れて行ってもらったが、これでも私たちはミュージシャンなので、絶対に行きたいところがあった。

 そこはアビーロードスタジオだ。

 桐峯さんたちも同じ気持ちだったそうで、ザ・ビートルのレコードジャケットで有名な横断歩道で撮影をしてもらい、なんとスタジオの中も見学をさせてもらえた!

 蜜柑さんとトミーさんたちが、涙を流しながら見学をしていたのが印象的だった。

 このアビーロードスタジオもMEIの持ち物だそうで、特別に見学をさせてもらえたが、流石にスタジオを借りるには、いろいろと複雑な手順やお金の問題もあるので、私たちでは無理だったそうだ。

 いつかアビーロードスタジオでレコーディングができるような身分になってやる!


 少し大変だったのが食事だ。

 知ってはいたけど、ロンドンの水は、日本人の体質に合わないらしく生水はもちろん白湯でもレモン水にしてから飲むように徹底的に言われた。

 さらに普段の食事もホテルで出された物しか食べてはいけないと言われ、例外的に日本人スタッフが出してくれたお菓子だけは食べても良いと言われた。

 滞在日数が少ないので、一日も無駄にはできないから、こうなったのはわかるのだけど、窮屈に感じてしまった。


 そんな中で、イギリスの伝統料理を出してもらえた……。

 いろいろと見たことのない料理が並ぶ中で、特にインパクトが強かったのは、ウナギのゼリー煮だった。

 日本で言うところの煮凝りと似た料理らしいのだが、見た目から辛い。

 そのままでは流石に無理なので、正しい食べ方を教えてもらい、勇気を出して何とか口に運んだが、とても美味しいとは思えない料理だった。

 ソースの味がきついので吐き出すほどではなかったが、これが美味しいと思う人は何かがおかしいと思った。

 どうやら、現地の人でもあまり食べない料理だそうで、騙された気分だ。

 詳しい話を聞いてみると、ロンドンのテムズ川には。うなぎが多く住んでいたそうで、いろいろなウナギ料理が開発された中の一つらしい。

 食糧難が来た時の非常食としてもウナギは食べられていたらしく、美味しくはないが、食べられなくはないという微妙なところなので、非常食というのなら納得ができた。

 でも、日本のウナギの蒲焼と比べたならひどいの一言になってしまうのが辛いところだった。


 そんな楽しい日々を送りながらも、唯一、これだけは羨ましいと心から思ってしまったことがある。

 蜜柑さんと桐峯さんだけは、現地の人達と当然のように英語で会話をしているのだ!

 トミーさんも少しは話せるようだが、二人ほどではないようだ。


 それに比べて、私たちはコーディネーターさんと辛うじてしゃべれる程度のスタッフさんたちと一緒じゃないと何もできない……。

 中学校や高校で勉強している英語と違う気がして、蜜柑さんに聞いてみると、私たちが勉強をしている英語は、アメリカ英語が基本で、さらに文章を書く時なら使えるが会話となると難しいらしい。

 イギリス英語は、アメリカ英語と比べたなら、日本で言う方言の様な違いがあり、言い回しから違う時もあるので、そう言う時は文法も変わるそうだ。

 さらに、発音も少し違うので、桐峯さんのように自然に使い分けている日本人は珍しいとのことだ。


 桐峯さんが化け物だと極東迷路の皆さんが言っているのが良く分かった気がする。

 蜜柑さんも桐峯さんの事を、頭がおかしいと言っていた。


 そういえば、蜜柑さんだが、当初は極東迷路セイカモードのコーラス録りだけの予定だったが、ロンドンに来てから書き続けていた曲の中からアルバム一枚分を、桐峯さんと二人で、アコースティックバージョンとしてレコーディングを急きょすることになっていた。

 桐峯さんもいつの間にか、その曲たちのピアノ付けを終わらせていたそうで、私たちのレコーディングが終わる前に全て録り終わっていた。

 本当に桐峯さんは、すごいと思う。

 出来上がった曲を少し聞かせてもらったのだが、曲の始めと終わりに二人の英語での会話が僅かだがほとんどの曲に入っていた。

 これはこのままで良いそうで、トミーさんたちもなるほどと納得をしていた。

 私たちもこう言う作り方があるのだと感心した。


 そうして、レコーディングも残りわずかとなったころ、桐峯さんが『ヘンリー・ポーター』というタイトルの本を買ってきた。

 同じ本を数冊買ってきたらしく、蜜柑さんとトミーさんたち、それに私たちに配ってくれた。

 当たり前のように英語で書かれた本で、何が書いてあるのか殆ど良くわからないがフクロウがやってきて手紙を届けたとか、そういうのを読み解けた。

 桐峯さんが言うには、魔法使いの少年が活躍する児童書で、謎解きの要素のある面白い本らしい。

 今年の六月に発売されて、イギリスで話題になっているそうだ。


 私たちより、一足先にレコーディングを終えていたトミーさんは、必死に読み始め本の世界に没頭してしまった。

 よほどに面白い本のようだ。

 桐峯さんは数年先に、日本でも翻訳書が発売されるだろうから、それが発売される前に読み終えると原書と訳書の違いがわかって面白いかも、と言っていた。

 確かに数年後に日本語訳の本が発売されるのなら、頑張って読み解いても良い気がする。

 ヘンリー! 覚悟していろ。必ず読み解いてやる!


 そうして、レコーディングは無事に終了して、私たちは再びロンドンに来ると誓い、帰国する飛行機に乗って行った。


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