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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第四章 センヤンオーディション
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第八一話 選考前選考終了

 選考前選考終了


 六月二九日の日曜日。

 数日前に、センヤンオーディションの二次選考の音源と参考資料となる映像が届けられた。

 チェックを続けていたが、やっと今日で終わりそうだ。


 二次選考では、俺が指定した曲をレコーディングスタジオで録音し、それで判断する。

 ちなみに、俺が指定した曲は『水城加奈の『レイニートレイサー』にした。

 製作側は、考え直してほしいと言ってきたが、断固拒否した。

 俺の身内は、化け物揃いだぞ。

 水城加奈の歌を歌えないで、俺のプロデュースを受けられると思うな!

 と言うことにしておいた。

 実際は、製作側が推してきた候補者たちを落としたいがために難易度の高い水城の曲を選んだだけだ。

 水城の曲は、彼女のためだけにあるのだから、まともに歌えなくても問題はない。

 たまたま二次選考の季節が梅雨の時期になったので雨をテーマにした『レイニートレイサー』を選んだだけだ。

 この曲も水城の曲らしく、早口でスピード感のある曲なのでロックヴォーカリストオーディションには良く合っている。


 参考資料となる映像は、レコーディングスタジオに候補者が入ってきたところから始まり、出て行くところまでの映像となる。

 俺たちのところに来た映像は、ノーカットだが、テレビでは編集されて放送される映像になるそうだ。

 まともに見ていたら、一人分で一時間以上があるので、先に音源だけをチェックして、残った候補者の映像を見ることになった。


 予想通りと言うべきか、製作側が推してきた候補者のほぼ全員が、ここで不合格となった。

 わずかだが気になった候補者もいたので、残りの約二十人の映像を見て行く。


 二次選考からは芸名を使いたい候補者は、許可を出しているので、漢字は同じだが読みが違っていた大林ユウや倖田姉妹などが、芸名を使ってきて助かった。


 今日は、上杉と木戸が来ていて、事務所側も数人いる。

 桃井は、アキバの仕事が入っているらしく、そちらを優先してもらった。

 一通り見終えて、ほぼ人選は固まり始めている。


「この福田さんと城沢さんだと、どちらだと思う?」

「歌のうまさは、ほぼ同じなんだよな。予想外に城沢が上手いんだよ」

「だよね」

「上杉、二人と会ってきた印象は、どうだった?」

「うーん、福田は、周囲を気にしすぎている印象があったな。逆に城沢は、初めて来たんだから、わからない物はわからないと割り切っている感じがあったな」

「最年少は、城沢で行くか。問題は、福田を最終選考に進ませるかだな」

「歌が上手い分、悪目立ちするかもしれないから、ここで降りてもらった方が良いと思う。福田さんは裏で確保?」

「いや、彼女は何となくだが気難しそうに感じるから、確保をするつもりはないな」


 てんくが残してアイドルユニットまで入れた福田だが、俺の記憶では一年ほどで抜けてしまうんだよな。

 彼女の人生は、まだこれからなんだから悪目立ちさせずにここで降りてもらおう。


「桐山、最年長の中沢は、どう思う?」

「最年長ってのが、この中だと長所になっているんだよな。社会人経験もあるようだし、アイドルユニットのリーダーをしてもらいながらサブちゃんから演歌を作ってみたらどうかって言われていたから、彼女にはそれに付き合ってもらおうか」

「サブちゃんの話なら、試す価値はありそうだね。中沢さんは、アイドルユニット参加決定!」

「上杉、実際に会って印象に残っている候補者がいたら、どんどん言ってくれ」

「そうだな。高部夏美、飯森香織、黒石彩、保田恵子、倖田瑠美、倖田美里の六人は、アイドル向きに感じたな」

「その六人に中沢と城沢に平氏を足して九人か」

「倖田姉妹の姉は、裏で確保だよね?」

「そのつもりなんだが、奇数にしてセンター争いをさせる企画とかも面白いかなって思ったんだ」

「なら、二人を裏で確保したら?」

「倖田姉妹を二人とも抜いてしまうか。姉はソロで、妹はバンドで考えてみるとか」

「それ、良いかもしれないね!」

「オーディションの合格者は、大林ユウ。敗者復活のアイドルユニットは、中沢弘子がリーダー、平氏道代、高部夏美、飯森香織、黒石彩、保田恵子、城沢美幸の七人だな。残りの数人は、ここの養成所の推薦状を出しておこう」

「やっと終わったね」

「ここからがまた大変なんだが、上杉ディレクター、後は頼んだ……。曲は、ちゃんと書くからな」

「大林って、オンオフのスイッチが激しいタイプみたいで、普段は、めちゃくちゃ大人しい雰囲気なんだよ。スイッチが入ると猛獣みたいになる」

「おう。ロックだねぇ」

「だなぁ」


 テレビ的な最終選考では、寺で合宿をするそうだ。

 この時に、デビューシングルとなる曲を覚えて来ることが、参加の最低条件になるらしい。

 滝に打たれながら歌うのだろうか……。


 この最終選考だが、流石に俺も顔を出さないといけないので、住職からありがたい説教を聞いて来ようと思う。

 オーディション企画は、当初に思っていたより、はるかに心労を感じるようだ。

 以後のユニットオーディションは、プロデュースチームをしっかり作ってやっていかないと続けられないな。


 オーディション関係の残りの仕事は、事務所の方々がやってくれるので会議室を出た。

 上杉と木戸は、残ってまとめてくれるそうだ。

 あの二人を中心にしたプロデュースチームを作るなら、悪くないのかもしれないな。



 ミストレーベル企画室に入り、ソファーに座って最近の事を思い返す。


 望月ユイのブラウンミュージックとの契約は、無事に家族にも承諾をしてもらえた。

 八月中に名古屋から東京へ引っ越しをしてもらい、九月から堀学園高校の芸能コースに通ってもらうことになる。

 このやり取りをしている中で、彼女の芸名の話になり、未来で彼女が所属していたバンドはふたつあり、名前を使い分けていたことを思い出した。

 そこで、俺が考える望月のバンドの完成形態をイメージすると海外での活動も十分可能に感じた。

 ならば、日本人らしいユイよりも、海外でも違和感の少ないもう一つのバンドで使っていた名前のカレンを提案し、望月もそれに合意してくれた。

 メンバー探しは養成所のスタッフに話を通すのは当然として、エイジ君、ヨシアキ、ガールズバンドのメンバーたちに声をかけておいた。

 妖精設定を受け入れられて、ヴィジュアル系ゴシックメタルバンドと言った感じになるバンドのメンバーだ。

 間違いなく難航するだろうな。


 ガールズバンドと言えば、ベルガモットの衣装だが、ゴスロリよりも甘ロリ風の衣装をオーダーメイドで発注したようだ。

 ゴスロリは、オカルトチックな雰囲気を作るのには向いているが、ベルガモットは、元気と明るさを売りにするようなバンドなので、甘ロリ系を選んでくれて安心した。


 そういえば、東大路グループの四半期決算が公開された。

 やたらと順調な資産運用部を筆頭に、目立つ問題は起きていない。

 東大路グループの買収工作は今年からが本番になる。

 ある程度の方向性は、洋一郎さんと話し合ってあるが上手くいくだろうか……。

 先駆けて、バンタイをグループにしてくれたことは洋一郎さんの勘が鋭いのだろうな。

 結局、アピンの売れ行きは変わらずで、セダに売却をすることになった。

 結果として小型ゲーム機の開発に力を注いでくれるだろう。


 セダには悪いが、アピンを取り込んだことで、業績の悪化を早めに起こしてもらう。

 流石にのんびりとセダが落ちて来るのを待つほどの時間を無駄には出来ないのだ。


 代わりと言うわけではないが、ソニーズと次世代DVDの共同開発を行うことになった。

 俺の記憶にある東大路グループは、ソニーズとは対立する陣営にいたのだが、現在の時点でブルーレイ一択になるのが確定してしまったようだ。

 ソニーズとの関係は、元々悪いわけではなかったのだが、東大路グループは政府に近い立場を取り続けていた。

 だが、俺の秘密ノートの存在で、独自路線を歩み始めている。

 政府とはほどほどの距離を保ちながら良好な付き合いをしていきたいところだ。


 繊細な問題として気にしていた舞の進学の話がまとまった。

 紀子さんは、いくつかの私立学校、学校法人の情報を取り寄せ、理事を送り込める先を探したそうだ。

 そのなかで、すでに芸能コースとスポーツコースのある中高一貫の学校法人に目を付けた。

 その学校のことは、俺も知っていたので相談を受けた時、理事の送り込みに賛成した。


 この学校法人が運営する高校の通信科には、将来にカルト教団事件の関係者が入学をする。

 俺の記憶にある限りでは、通信科とは言え、舞たちの在学中に入学をしてしまう。

 非常に残念な結論となってしまうが、彼女の入学は拒否したい。

 彼女が犯罪者の子供だからではなく、彼女の影響力が強すぎるのだ。

 彼女を手に入れようとしている教団関係者たちは多い。

 そんな明らかな爆弾を囲い込むほどのお人好しにはなれない。

 高校卒業後の彼女は、大学に進学をするはずなので、もし入学願書が出されたなら、代わりに大学入学資格検定いわゆる大検の案内でも送っておこう。

 厳しい判断だが、それほどの危険人物にしか思えないのだ。

 彼女自身に問題があるわけではないのが本当に心苦しい。


 彼女の入学問題は、これで良しとして、その後のこの学校法人は、別の大きな学校法人に吸収されてしまう。

 そう言う流れがあるので、東大路が手を出しても問題はないと判断した。


 この高校の芸能コースは、そのままにして成績が微妙なスポーツコースを廃止してしまう。

 そのうえで演劇コース、音楽コース、美術コースを新設してしまえば良い。

 申請に手間取りそうなら芸術コースだけを新設して、サブコースを作ってしまうのも良い。

 その辺りのことを、紀子さんと相談して、理事の席を取りに行くのではなく、学校法人ごと取りに行くことになった。


 教師の問題は、解決していなかったが、心当たりのある音楽教師が一人思いついたので、彼の情報を調査してもらった。

 名前は、新垣隆司と言う人物で、後にソチオリンピックの中で使用される曲のゴーストライターとして発覚する人物だ。

 調査の結果、一年前程からゴーストライターの仕事を始めていることがわかった。

 近い将来に音大の准教授の椅子を用意することを交渉カードとして、ゴーストライターの活動を辞めてもらい、ゴーストライター先との関係も決別することを要求した。

 もちろん、曲の権利は、全て相手先の物になるが、固執はしていないようだったので交渉は成立し、高校の音楽教師の仕事を受けてくれた。

 相手側からの抵抗も予想されたが、すぐに別のゴーストライターを探しに行ってくれたようだ。


 幸いと言うには失礼になるが、新垣は修士号を持っていなかったので、教授として招聘するには、格が足りない。

 大学の看板となる教授陣は、新垣よりも強力な人物たちを揃えなければならないな。


 俺の記憶にある新垣の未来はクラシカルな曲で目立ってしまうが、本来の彼は現代音楽が専門なので舞の指導者として遜色はない。

 美香のために用意する声楽の指導者は、てっちゃんから紹介してもらえば良いし、民族音楽に精通している俺の高校の土橋先生ことドバイ先生も招聘してもらうことにした。


 慶大との関係も重視していきたいので、新しい学校法人を作ることに手を貸してもらい、代わりにあちらの希望も聞いていくことにした。

 まずは、高校と中学に教師を数人送り込みたいとのことだったので、希望の人数をそのまま受け入れた。この中にドバイ先生も入れてもらっている。

 大学は、東京二三区外にしてほしいとも言われたので、その方針で大学も探すことになった。

 舞と美香の卒業までに大学を探さなければならないので、これはこれで結構な問題なんだよな。

 その他にもいろいろと希望を言われたが、殆どを受け入れて、実質の慶大傘下の学校法人状態にした。

 餅は餅屋と言うべきか、東大路がどれだけ理念を掲げようと慶大の学校運営のノウハウには敵わない。それなら初めから白旗を上げて、協力を願った方が良い。

 将来的には、経済力が違うのだから、こちらの方が規模は大きくなる。

 何か、理念を体現したいのなら、それからで十分だ。

 これで、舞のことも美香の事も安心だ。

 二人ともそれ相応の学力と専門技術を身に付けてくれるだろう。


 梅雨が明けたら、夏休みか。

 今年はイギリスに行くんだよな。

 イギリスの食事はなかなか厳しいと聞いているが、真相を見に行ってみようじゃないか。

 その前にオーディションを終わらせないといけなかったな……。


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― 新着の感想 ―
[一言] アイドルオーディションに寺で合宿する辺り、テレビのバラエティやなぁ、と思います。滝行なんて精神修養にはなっても、それで歌が上手くなるわけじゃないし イギリス留学。まあメシマズ帝国が気になる…
[良い点] 今更ながら桃井引き抜きは反則ですよ(褒め言葉です) 彼女を引き抜いたなら以前懸念したヲタク連中の感情問題はなんとかなりそうですね。 あの感想を書いたあとで「そうか。この時代はインターネ…
[良い点] おもしろいです。 [気になる点] 福田さんをメンバーに入れないのは分かります。 それならば問題発言が多い、あの姉妹の姉をなんで確保するのが気になりました。 長期間活動してるし、人気も実力…
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