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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第四章 センヤンオーディション
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第七九話 ロリータ

 ロリータ


 五月二四日の土曜日。

 いつもの小さめの会議室にセンヤンオーディションに関わっている皆が集まって、テレビ画面に映し出されたオーディションの様子の映像を眺めている。

 数日に分けてオーディションの様子を眺めており、本日が最終日だ。

 事務所側には、七瀬さんに九重さん、鮭川さんに胡桃沢さん、そのほかにも何人かいる。

 ミュージシャン側には、俺に上杉、木戸に桃井がいる。

 チェックする必用があるのは一五〇人分ほどで、一人一人の時間は三分ほどになっている。


 一五〇人ほどの内訳は、こうなっている。

 俺が残していた人物が八〇人ほどで製作側がチェックをしてほしいと言ってきた人物が七〇人ほどだ。

 俺が残した人物のプロフィールは一〇〇人ほどあったのだが、なぜ減っているのかと言うと、会場で受け取る予定になっていたエントリーシートには、保護者の承諾を必要とする項目があり、承諾をもらえなかった人物が、それなりの人数いたためだった。

 保護者の承諾は、高校中退などが嫌いな俺としては高校卒業年齢にしたかったが、製作側は、承諾なんて後でどうにでもなると言うスタンスだったので、間を取り、渋々ながら中学卒業年齢となった。


 その結果、俺が特に目を付けていた将来有望な声優になる上井麻里奈が承諾が取れず、辞退となってしまった。

 だが、会場に本人が来て、中学のうちは学校が厳しくて無理ですが、高校に上がれば今よりもずっと自由に振る舞えるので、機会があればまたお願いします、と帰って行ったそうだ。

 残されたエントリーシートにも両親の許可は降りたが、学校側が許してくれない可能性が高いので辞退するとしっかり書かれてあった。

 こういう時のために蜜柑のサインも入った極東迷路の寄せ書きサイン色紙を何十枚も用意してあり、上井麻里奈には、その寄せ書きサイン色紙と簡単な手紙を書いて送ることにした。

 気遣いのできる人物に感じたので、いつか会って話をしてみたい。


 それはさておき、オーディションの様子を眺めているが、予想外の人物と言うのは、いないように感じる。

 芸能界のパワーバランスの何かに巻き込まれながら審査をしている気分になってきた。

 エントリーシートもここにあるのだが、気が付いたことがある。

 このオーディションには、芸能事務所に所属している人物は、受けてはいけないことになっている。

 だが、養成所に所属している人物は、受けても問題ないらしい。

 製作側から見てほしいと言われた人物のほとんどが、どこかの養成所に所属している人物ばかりなのだ。


 まあ、こうやって仕事を繋いでいくのだろうから批判するつもりもないが、気分の良いことでもないな。


「桃井さん、気になる人はいますか?」

「うーん。桐峯さんのリストの人達は、上手い人ばかりだよね。音を聞く前にこのリストを作っていたとは信じられないくらいだよ。製作側のリストの人は、あまり興味を持てる人がいないかな」

「俺もそう思う。桐山のリスト、すごいな。木戸さんは、どう思った?」

「私さ、この大林って人が気になった。ロックヴォーカリストを選ばなきゃいけないんだよね。迫力があるって言うのか、この人を押したい」

「ああ、その娘さんな。ぶっちゃけると合格者候補筆頭だ。この時点では、平氏道代って娘さんの方が総合力が高いように感じるかもしれないが、将来性を考えると大林ユウだと思う。それに俺の元々の持ち味を出すなら大林の方が合いそうなんだよな」

「桐峯さんの持ち味って言うと、和風の感じ?」

「そうですね。俺の持ち味は、元々が和の雰囲気なんで、それが使いやすい人物を選ぶことにしました」

「確かにモデル体型で着物が良く似合いそうな娘さんだよね。うん、良いと思う」


 それからも映像を見続けて、ほぼ結論は出た。

 木戸がリストを真剣に眺めながら、確認をしてくれるようだ。


「えっと、最終選考に残すのは、二〇人くらいって話だから、桐峯君のリストの人だけで良いよね。製作側の人も入れておく?」

「いや、その前の二次オーディションで落ちるほとんどを製作者側にするから、最終オーディションは自由にやらせてもらう」

「わかった。この小学生の城沢さん、最終オーディションに入れても大丈夫なの?」

「うーん、迷うところなんだが、裏で確保するつもりだし、どこかで出すんだから、最後まで付き合ってもらおうと思う」

「それで、アイドルユニットは、どうするつもり?」

「敗者復活からのサクセスストーリーってのを演出したいんだよな。最終選考の二十人ほどのうち、十人ほどを裏で確保で、残りの十人ほどでアイドルユニットかな。場合によってはもっと少なくなると思う」

「売り方は?」

「手売りで、最低ラインを決めてどれだけ売ったかとか、そんな感じで決めるつもりだ。ダメな場合は、試練を追加でも良いし、本人たちのやる気次第だが解散もあり得る」

「妥当だね。厳しいくらいじゃないとサクセスストーリーにならないんだものね」

「桐峯さん、二組作って最低ラインをこえたら両方ともデビューて言うのでも良いと思う」

「それも考えたんですよね。もう少し悩ませてください」


 結局、製作側の要望は七〇人ほど残してほしいとの事だったので、俺が推す二〇人と製作側が推す五〇人を残して、後は落選とした。


 だが、俺が落選させた人物の中には、将来の秋川康プロデュースのメンバーがいたり、別のオーディションで芸能界に入って来る人物ばかりなので、それぞれの住所に近い養成所の紹介状を送ることにした。

 さらに、鮭川さんに頼んであった中川原翔子の件は、すぐに見つかったのだが、子役専門の芸能事務所に所属していることが判明してしまった。

 丁度良く、即戦力になる人物たちのプロフィールたちがあるので、それを数人分渡すことで、中川原の交渉をしてもらえることになった。ほぼ移籍は可能だとのことなので、問題ないだろう。

 もちろん、紹介する人物たちには許可を取っているので大きな問題はない。


 この日は、流石に疲れたので解散となり、翌日、ベルガモットのメンバーと桃井を会わせることになった。

 桃井は、ミュージシャンとして契約するのではなく、アルバイトスタッフとして契約することになり、名目上はミストレーベルのアシスタントと言うことになった。

 これには、いくつかの理由があるのだが、最大の理由は、秋葉原にサテライトスタジオを作る許可は下りたのだが、せっかくなので東大路が所有する秋葉原にあるビルを立て直し、作り直すことになってしまったからだった。

 ビルは老朽化しているそうで、丁度良い話だったそうだ。

 そうなると、ミュージシャンとしての桃井と契約する意味が薄くなってしまう。

 そこで、桃井はアルバイトアシスタントとなったわけだ。

 この身分なら、従来通りの路上ライブも可能で、サテライトスタジオが完成するまで、アキバでのアイドル活動が自由にできる。

 今の桃井は、まだアキバの女王と呼ばれるほどにまではなっていないので、アイドル活動をしてもらっておいた方が、後々のために良いと、俺も考えた。


 そうして翌日、ベルガモットたちの練習スタジオに桃井を連れて行き、曲を聞いてもらったり、話し合ってもらった。

 その結果、今から原宿に行くことになった。


「え、何で原宿?」

「曲がおかしいって桐峯さんは言うけど、曲がおかしいなら本人たちもおかしくなれば良いんです!」

「おかしくなるって……」

「大丈夫です。さあ、行きますよ」


 それから、ベルガモットのメンバーと桃井と俺、七瀬さんに九重さんで、原宿のとあるジャンルの服飾店に入った。


「あ、このジャンルか……」

「桐峯さんも知っているんじゃないんですか。こう言う衣装を着て、食欲重視の歌じゃなくて、甘み重視の歌を中心にしたら絶対売れます!」

「逆に女の子すぎて狙っているように感じるんですけど、どうなんですか?」

「可愛い物が嫌いな女の子は、そんなに多くないですよ。それに男の子だって、女の子を強調しているくらいの女の子の方が好きじゃないですか?」

「まあ、可愛い女の子を見て、嫌悪感を感じる男子は、確かに少ないですね……」


 俺たちが入った服飾店は、ロリータファッション専門店だった。

 ロリータ、ゴスロリファッションの歴史は案外古く、この時代でも探せばそれなりのショップがあったんだよな。

 特に原宿では、隠れたブームになっていて、この系統の服を着たモデル並みの容姿のベルガモットが甘みをテーマにした歌を歌えば、売れる見込みが確かに立つ。

 本気になった桃井は、流石としか言いようがないな。


 うーん、確か桃井とかと同じ流れの中でこっち系統のバンドがあったんだよな……。

 妖精王国とかそんな名前だったか、ヴォーカルの名前はユイで、声優の人がキャラを作ってやっていた気がする。

 記憶をさらに掘り起こしていく……。

 名古屋だ!


「七瀬さん、鮫島さんに連絡です!」

「何か思い出したのですか?」

「名古屋にこの手のファッションで栄に出没する高校一年生か二年生くらいの女の子がいるんです。芸名があるなら卯月ユイで、声に特徴があって背は一五〇センチメートルと少しくらいだったと思います。訓練次第なのかもしれませんが喉が強くて少女のような声のままヘビーメタルを歌うような人材です」

「面白そうな人材ですね。鮫島に早速探してもらいましょう」


 それから、覚えている限りの妖精王国の情報を七瀬さんに伝え、すでに音楽ユニットのメンバーがいたなら、その人物にも声をかけてほしいとお願いしておいた。

 七瀬さんには、俺の細かい事情を話しているわけではないが、おそらく察している。

 ある程度の本音を話しても問題ないほどの信頼関係を築けていると思っているので、多少のことは大丈夫だ。


 それから、衣装をいろいろと試着して、演奏に支障がない程度のゴスロリ服に着替えたベルガモットは、確かに見事としか言いようがない出来栄えだった。


「リツ、それで、ドラムは叩けそうか?」

「細かく、外すことが出来るみたいなんですよね。どうしても邪魔になれば、腕を丸ごと抜いてしまえば良さそうです」

「ミオは、ベースを弾くときに邪魔にならないか?」

「このままだと邪魔になると思いますが、こういう具合にとめて行けば問題なさそうです」


 ミオの服には、袖をたたむことが出来るようにボタンが付いていて、七分丈まで縮めることができるようだった。


 この店は、オーダーメイドもしてくれるそうなので、店内で売っていた専門誌を一通り購入して、オーダーメイドの参考にすることにした。


「桃井さん、ありがとうございました」

「こちらこそ、アルバイト代は、しっかり貰いますので」

「何か必要な物が合ったら、言ってください。これでもバンタイの外部役員の席を持っているんです」

「え、なんですかそれ……」

「上からの頑張ったご褒美ですね」

「そうなんですか……。とりあえず、何か考えておきます!」


 そうして、ブラウンミュージックに戻って、ベルガモットが衣装を着た状態でどこまで演奏が出来るかのチェックを見てから、解散となった。


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― 新着の感想 ―
[一言] あからさまに最初から結果が決まっているとただのヤラセになるから、バラエティ番組がつまらなくなる 番組内の過程で結果が幾通りにもかえられれば、演出の範囲内。見ている側もヤラセとは思わない 「本…
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