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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第三章 ミストレーベル
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第七二話 がるばん2!!

 がるばん2!!


 二月八日の土曜日。

 今日は、俺たちの専用会議室となりかけている小さめの会議室にブリリアントカラーの四人とベルガモットの五人、それにガールズバンド企画第二弾として投入されるバンドメンバーたちが集まっている。

 第二弾となるバンドはハニービーと言う名前だそうで、面白い歌詞を書くベルガモットと違い、本格的ロックバンドと言った曲を作り上げるバンドのようだ。


 リーダーでギターと作曲担当のリコと、ヴォーカルで作詞担当のシナノの二人が目立つが、ギターのマホ、ベースのカエデ、ドラムのユカリも侮れない三人に感じている。

 リコは、重みのある曲を作るのが得意なようで、ハードロックな曲がハニービーの曲調となっている。

 シナノは、留学の経験があり英詞の歌詞が書ける。さらに、ギターとベースもそれなりに扱えるそうなので、体感は、かなり良いらしい。

 マホ、カエデ、ユカリの三人は、特出することはないが、この場に来るだけの実力を十分持っているようだ。

 才能の二人と努力の三人と言った具合で、バランスの良いバンドに思う。

 養成所のスタッフも昨年に存続が危ぶまれる問題が起きているので、十分な人材を集めてくれたようだ。


「ハニービーの皆さん、ここまでお疲れさまでした。養成所内とはいえ厳しいオーディションの結果、集まったメンバーと聞いています。これからも厳しい日々が続きますが、まずは一区切りと思ってください」

「ありがとうございます。ポーングラフィティのヨシアキさん、ブリリアントカラーのエイジさん、それにベルガモットの皆さんを桐峯さんが引き上げてくれたと聞いています。養成所の皆も、努力が報われると知って今まで以上にやる気になっていますので、私たちも養成所の皆の手本になるつもりで頑張って行きます!」


 基本は、リーダーのリコが話を進めて行く体制のようだな。


「ここからは身内として話させてもらう。養成所の皆には、可能な限りチャンスを掴み取ってほしいと思っているんだ。ハニービーやベルガモットには良い手本になってほしいと思っている。一緒に頑張って行こう」

「はい、よろしくお願いします」


 ベルガモットも一緒に頭を下げて、目が輝いている……。

 ちょっと怖いけど、こういうことも言っていかないといけないんだよな。


「それで、ブリリアントさんたちから見て、ベルガモットはどうでしたか?」

「バランスは悪くないしライブを重ねるたびに、どんどん良くなっていくから基本的には、このまま行って良いと思う。でも、歌詞がな……。正直言って厳しいんだよな」


 リーダーの奥井さんの感想と俺の感想は、ほぼ一緒か。


「歌詞の問題は、俺も気にしているんです。悪い歌詞じゃないんですよ。個性的で、ありと言えばありなんです。なので判断に迷うんですよね」

「あの……、そんなに歌詞が厳しいですか?」

「リツ、そんなに恐縮しなくても良いからな。具体的に言うと、曲は今のままで良い。歌詞は、カップリング曲として入れるなら問題はない。だがタイアップを取りに行ったり、ある程度の年齢幅に向けて売り出そうとすると辛いんだ。今の歌詞なら、低年齢向けの玩具やゲームのタイアップを取るのが精一杯になるだろうな」

「うーん。そうなると、書き直しですか?」


 そんなに不安そうにしないでくれ……。

 メンバーたちの顔が曇ってきているぞ。


「いや、俺が書くから、それを歌えば良い。でも、せっかくの持ち味なんだから、カップリングでは、今の路線の曲を使うつもりだ」

「ありがとうございます。どうしても、今の雰囲気が好きなんですよね。カップリングでも使ってもらえるなら嬉しいです」

「それに低年齢向けのタイアップの路線もあるから、そちらも一応探ってもらうつもりだ。だから、売れないバンドを強引に売り出すわけじゃないことだけはわかっておいてくれ」

「はい。いろいろお手間をおかけしますが、これからも頑張って行きます!」


 ベルガモットのメンバーから曇りが取れ、安心してくれたようだ。


「さて、改めてブリリアンさんとベルガモットのデビューの時期なんですが、いつ頃にしましょう」

「うーん。うちらは、こっちに来てもうすぐ一年が経つんだね。本格的に準備を始めるとして七月か八月のデビューが良いのかな?」

「そうですね。トミーさんたちがこちらで活動を始めたのが四月ですから、もうすぐ一年になります。今年の上半期は、去年デビューしたミュージシャンたちのアルバムを一気に出す予定になっています。ですので、夏の時期のデビューは、ありがたいですね」

「じゃあ、七月を目処に行動をしよう」

「それでお願いします」


 トミーさんの声も安定して、以前の俺の記憶にある声で歌い続けられるようになっている。

 養成所出身のエイジ君のドラムもブリリアントカラーとよく馴染んだようで、違和感がない音になった。

 今すぐにデビューの準備に入っても良いが、スケジュールが辛いのも事実なので、夏を目処にデビューと言うのは本当に助かる。


「私たちは、その後にデビューになるんでしょうか?」

「ベルガモットは、それくらいが丁度良いと思う。話してはいなかったと思うが、去年の春に強力なガールズバンドのプリティープリンセスが解散しているんだ。そこから一年は、ガールズバンドを単純にデビューさせても、プリティープリンセスの影が強すぎて比較どころか反感すら持たれる可能性があると思っていた。だから、プリティープリンセスが解散してから一年半は大人しくしていたかったんだ。秋なら丁度良いし、せっかくだからさらに余裕を見てクリスマスシーズンを目処にデビューするのが良いかもしれない」

「そんな思惑があったのですね。お話の限りでは、安全策を取るとのことのようですから、それでお願いします」

「この先のベルガモットは、ブリリアントさんたちのライブに、ハニービーと一緒に回って、ブリリアントさんたちが抜けたら、ベルガモットとハニービーで回る感じになる。ベルガモットが抜けた後のハニービーのその後は、考えておくから少し時間を欲しい」

「レコーディングは秋からになるのですね。それまではライブハウス回りを続けて行きます」


 ここまでで一区切りかな。


「何か質問などはありますか?」

「あの……、デビュー前なのに、こんなお願いを口にするのも良くないと思うのだけど、今じゃないと次の機会が、わからないから言うよ」

「トミーさん、どうかしたんですか?」

「蜜柑ちゃんや歩美ちゃんが海外留学するのはわかるんだけど、ミーサちゃんまで海外留学するのが、うらやましすぎる! 私も短期で良いので海外に行きたい!」

「桐峯君、トミーのわがままだ。聞き流してくれ」


 ああ、そういえば、この人も海外好きなんだった……。

 奥井さんは、トミーさんの暴走を、いつも止めているんだろうな。


「七瀬さん、セイカモードのコーラス録りで、ロンドンに行く予定がありましたよね。それと近い時期にブリリアントカラーのレコーディングをロンドンで録れないでしょうか。ベルガモットも一緒にレコーディングできたら、さらに良いんですがどうでしょう?」

「新人バンドのレコーディングをロンドンでしたと言うのは、話題の一つになりますのでプロモーションの役に立つでしょう。ミュージックビデオもそちらで撮れば予算も出やすくなりますので、提案だけはしておきましょう」

「え、本当に良いの?」

「七瀬さんが動いてくれるのですから、期待だけはしておきましょう。七瀬さん、ありがとうございます」

「私たちも一緒に行って良いんですか!?」

「ベルガモットも海外の雰囲気を、知っておいた方が良いから、行くなら一緒が良い」


 ベルガモットは、全員がモデル並みの容姿をしている。

 この際だから、写真集の撮影でもしてみるのも良いかもしれないな。

 写真集と言えば、水着がいるのか?

 流石に詳しくないので、要相談だな。


 その後も細かい質問は、いくつかあったが顔合わせを兼ねた会議は無事に終了した。



 ミストレーベル企画室に戻り、先日、美香と一緒に作ったガンガムと赤いサクを横目に見て、ソファーに座る。

 美香は、今まで趣味と言える物がなかったようで、プラモデル作りを気に入ったようだ。

 しかもサクのデザインが特にお気に入りのようで、白色ぽいマツナカ専用サクと朱色ぽいジェニー専用サクを細々とつくっている。

 完成したら、ここに並べるつもりらしい。

 サクは、カラーバリエーションがいくつもあり、しかも微妙にデザインが少しずつ違うので飽きない限りは、作り続けたらよいと思う。

 だが塗装に興味は持たないでほしい。あれは道具の手入れが大変だし、掃除も大変なんだよな。

 簡単に塗ることが可能なペンタイプの道具もあるが、美香は、案外凝り性のようで、満足しなさそうだ。


 そもそもミュージシャンの適性が高い人物は、凝り性なタイプが多いのだろう。

 何時間も同じ作業を苦にせずに続けられる精神力がなければ、楽器の上達なんて上手くいかない。


 そう、ミュージシャンでおかしな人が身近にいることをすっかり忘れていて、とんでもない物を用意されてしまった。


 おかしな人の前に水城と島村の活躍を整理しておこう。

 水城のファーストアルバムが一月に発売され、デイリーランキング、ウィークリーランキングでも一位になった。

 今年の一月からアニメ『剣の心』の三代目OPとして放送されている『ファントムブレード』のシングルも一週間遅れでシングルカットとしてアニメヴァージョンを発売した。

 こちらもデイリーランキングで一位となり、良く売れた。

 原作者の和樹先生と現場スタッフの押しの一曲なので、やたらと動くOPは、見ているだけで楽しくなれる。


 二月に入り、いよいよ島村仁美がデビューした。

 シングルとアルバムを同日発売にしたが、どちらもそれなりに売れているようだ。

 ありがたいことにユタカ自動車が水城の時と同じようにタイアップをしてくれたので、ある程度は確実に売れる予想が出来る。


 島村のデビュー曲は『フラックス』と言うタイトルにした。

 俺の知る時間軸での島村仁美は、関西で一度、演歌でデビューをして、全国でもう一度デビューしている。

 全国デビューの時は、グループサウンズの曲のカバー曲を歌った。

 それが、ヒットをするのだが、俺の印象では、このヒットがあまり良くなかったと思えてしまう。

 次のヒット曲もカバー曲となり、カバー曲の歌い手と認知されてしまうのだ。

 二曲とも名曲と言って遜色のない曲で、それを見事に歌った島村は、十分な評価を受けたし、俺もそんな島村本人を素晴らしいミュージシャンだと思った。

 だが、一度、カバー曲の歌い手と認識されると、他の路線に行きにくくなる。

 それほどにヒットしてしまったのだ。

 売れたことで、続けにくくなった不遇のミュージシャンだと言えるのだが、地道に活動を続けて、いくつも良い曲を残し続けた。

 それでも、やはりテレビなどで歌うのは十年経とうとカバー曲が多くなってしまう。

 そんな彼女の人生を変えたいと強く俺は考えており、彼女の事を探し続けた。

 そうして、巡り合えたのだから、オリジナル曲で、しっかり歌い続けてほしい。


 だが、それでも俺は、彼女のヒット作のことも忘れたくはない。

 そこで俺の知る時間軸でのデビュー曲のタイトルに使われている色の名を英訳して使うことにした。

 このことは、島村本人に伝えるつもりはないし、俺の曲を歌ってくれている内は、彼女には、オリジナル曲しか歌わせない。

 そんな強い意思を込めて『フラックス』と言うタイトルを名付けたのだ。


 当然、曲調は、俺の知る時間軸の曲と全く違うし、歌詞も完全にオリジナルだ。

 フラックスは、これからの彼女のイメージカラーとして使って行こうと思う。

 新たな島村仁美、これから長い付き合いをして行こう!



 そして、先ほどのおかしなミュージシャンの話に戻る。

 島村は、高見さんとの共同プロデュースなので、作詞作曲を俺がして方向性を話し合い、細かいところは高見さんに任せた。

 その結果、島村のミュージックビデオを見た時、吹き出しそうになってしまった。


 島村の路線は、タイプは違うが、水城と同じ和風で攻めることになった。

 水城が純粋な和風娘さんとするなら、島村は、妖艶な和風娘さんのイメージだ。

 水城は、顔が悪いわけではないのだが、どう考えても幼さが残りすぎている容姿にしか見えないのだ。

 それに比べると、島村は、しっかりメイクをしたなら、大人の色気すら持ててしまう容姿になる。

 そこで、艶やかさを重視して、下品にならない程度に着物を少し崩して着るのを基本と設定した。

 ここまでは、俺も理解はできる。

 もうすぐ高校二年生になるのだから、これくらいは許容範囲と思えるレベルの崩し方なので、問題はない。


 だが、高見さんは、それだけじゃ満足が出来なかったようだ。

 何を考えたのか、高見さんはボディーが梅の花にしか見えないエレキギターと一見は三味線にしか見えないエレキギターを用意してしまった。


 それを使って、島村がギターソロを弾いているシーンのあるミュージックビデオを見た俺は、吹き出さなかったことを褒められても良いと思う。

 それくらいに衝撃的だったのだ。


 高見さんと言えば、謎の羽根の形をしたギターやどう見ても弾きにくいだろうとツッコミを入れたくなる形をしたギターを使う人で有名なことを本当に忘れていた。

 完全にうっかりミスだ。


 この人にユズキを任せるつもりだったが、不安になってきた……。

 頑張れ、ユズキ!

 負けるな、ユズキ!

 俺は応援をしているぞ!


 だがこれが高見さんなんだよな。

 見習うべきところは、しっかりある人なので、これからもいろいろと学ばせてもらおう。


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