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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第三章 ミストレーベル
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第七一話 赤いプラモデル

 赤いプラモデル


 一月六日の月曜日

 今日から高校二年の三学期なので、始業式などを終わらせて自宅に帰ってきた。

 クラスメイトたちも生徒会メンバーたちも特に問題はなく、何よりだ。

 だが、一つだけ気になることがあった。

 一年から親交を深めている親友たちの様子には変化がないのだが、以前の俺の親友であった安田が登校していないらしい。


 以前の記憶でもこの高校二年の三学期から登校をしなくなる安田なのだが、この時間軸では、トラブル要因たちが排除されているため、不登校になる理由がないはずなのだ。

 だが現実に安田は来ていない。

 このまま、俺の知っている通りの流れになれば、三年次に上がるときに安田は高校中退をしてしまう。

 トラブルに巻き込まれた結果、中退したのだと思っていたが、別の理由があるのかもしれない。

 俺たちは、積極的な付き合いをしようとはしていなかったが、無視をしていたわけでもない。

 距離感を気にしていただけで、お互いに不利益になるような関係ではなかったと思う。

 本人の問題として、気にしない方が良いのだろうか。

 いまさら友達面をして、世話を焼くのも違う気がするので、どうしようもないのかもしれない。


 そんなことを考えながら、バンタイの社員さんから頂いてきたマスターグレードのプラモデルを持って玄関前に行く。

 プラモデルを積極的に作って楽しむ方ではないのだが、ガンガム好きとしては衝動的に作りたくなる時がある。

 今回は、せっかくバンタイが東大路のグループに入ってくれたので交流のつもりで訪ねて行き、お土産に主人公の乗るガンガムとライバルの乗るサクのプラモデルを頂いて来たのだ。

 バンタイの扱いは、ゲーム機などのことで大きな方針だけは、示させてもらったが基本的に資本投入だけにして、自浄作用で再起を目指してもらうことになった。


 俺の記憶を掘り返したところ、後にバンタイから派生するランテスと言うアニメと関わりの深い音楽系の会社があるのだが、この会社を作ってもらわなければならない。

 この会社は、派生先のバンタイと合流して声優歌手やアニソン系ミュージシャンを抱えるレーベルになる。

 あえて言うなら、アニソン系音楽の最大の功労者集団と言っても良いほどの存在になるのだ。

 そんな彼らの会社が生まれるのを阻止してはならないので、バンタイには、適度に自由にやってほしいと考えている。


 バンタイでは、デビュー一年目で結果を残した俺の事を高く評価してくれているようで、外部役員に選出されたことも頭の固い人物が来るよりは、はるかにましと言うスタンスだったようだ。

 さらに俺からも、大きな要求をすることもなかったので、仲良くやって行けると思えた。


 セダとスクーアソフトも東大路からアプローチをしてくれたようで、ソフトの提供に対しての反応は悪くはないらしい。

 だが、セダは、自社製開発の据え置きゲーム機の開発が進んでいるようで不安の残る体制のようだ。

 スクーアソフトには、一つ思い出したことがあり、そちらからアプローチをしてもらうことにした。

 俺は、大学時代に何人もの教授と親交を持っていたのだが、その中の一人にラストファンタジーシリーズのチーフディレクターをしている人物を息子に持つという教授がいたのだ。

 教授の専門は経営学なのだが、能動的経営理論と受動的経営理論の相対性と言う物を専門としていた。


 経営者が自らの直感やアイディアを持って方向性を示し経営をして行くのを能動的経営とするなら、社会的世論を良く聞いて経営者が方向性を決めて行くのが受動的経営となる。

 もっと言うならば、良い物を作れば必ず売れると考え、顧客のニーズを聴かずに製品の開発をして行くのが能動的経営ともいえる。

 逆に、顧客のニーズを聞きすぎて、様々な場面で使えるが何にも特化していない製品を開発するのが受動的経営ともいえる。

 結局のところ、どちらもどちらで短所も長所もあると言う話にもなるのだが、これをうまく使い分けて行くことが出来れば、ビジネスチャンスを生かしやすくなるという話にもなる。

 例えば、ソニーズのゲームステーションは、ゲーム業界からしたら能動的製品となるが、一般顧客からしたら音楽プレイヤーとしてもつかえるゲーム機と言う認識になる。

 これは、ソニーズがしっかりと受動的製品を意識して作った証拠ともいえる。

 だが、バンタイのアピンは、世の中に受け入れられたと考えたインターネットを重視した製品だったが失敗している。

 これは、受動的製品と思って開発したが、結果は能動的製品だったと言うことになる。

 では、能動的製品は売れないのかと言えば、そんなことはない。

 ギャンブル性が高くなるだけで当たれば大きいのが能動的製品の特徴となる。

 良い例に、たままっちがそれに当たるかもしれない。

 それに、水城加奈の音楽も本来は、二〇〇〇年代に受け入れられる音楽のはずが、ちょっとしたきっかけで一九九〇年代でも受け入れられてしまった。

 能動的経営は、イノベーションを促すためには、必要なことで、これを恐れずにやれる経営者たちは、国から積極的な支援をするべき存在とまで言っても良いくらいだ。


 こんな具合の研究をしているのが俺の何人もいる恩師の一人である村井教授である。

 早速、村井教授にバンタイの外部経営顧問の就任を打診してみたが、当然のように断られてしまった。

 だが、そこまでは、織り込み済みだ。

 その後に、スクーアソフトに行き村井チーフディレクターに会い、あんたの親父さんに仕事の依頼を断られたんだが、あんたは受けてくれるよな、とすごむわけだ。

 人情と言う物は厄介で、村井チーフディレクターは、すんなりとソフトの提供を受諾してくれた。

 村井教授の経営理論は、とても面白く有意義な物なので、今度は、息子さんの方から時期を見て外部顧問の打診をしてみるつもりだ。


 さて、そんなことを考えているうちに、ガンガムのパーツがいくつか組みあがってきた。

 マスターグレードは、塗装をしなくてもある程度の色が再現されているそうなので、完成が楽しみだな。

 ヤスリを使い、ニッパーで切れなかったところを削りながら、少しずつ作業を進める。


「お兄ちゃん、何をしているのかな?」

「美月も作ってみるか?」

「私は、遠慮しておく。それはガンガム?」

「いろいろあって貰えたから作っている」

「お仕事の関係ってこと?」

「うーん、そう言われたらそうなるのかもしれない……」

「なら、止めないけど、ちゃんと掃除をしておくんだよ」

「おう、大丈夫だ。掃除をしやすくするためにここでやっているんだからな」

「それと寒くない?」

「まあ、少し寒いけど大丈夫だ」

「ヒーターを持って来るから、冷やし過ぎちゃダメだよ」

「助かる」


 それから、ヒーターを美月が持ってくると美香が現れた。


「兄さん、美月姉さんを困らせちゃダメだよ。私も手伝おうか?」

「好きでやっているからな。美香も興味があるならやってみると良いと思うぞ」

「うーん、なら少しやってみる」

 美香には、ライバルの乗る赤いサクのプラモデルを渡す。


「全部一人で作ろうと思わなくて良いからな。やれるだけやれば良い」

「わかった」


 それから二人で黙々とプラモデルを作り続ける。


「こういうのって、男の子の玩具って感じがあるから、いままで作ったことなかったけど、パズルみたいで面白いかも」

「ああ、設計図のあるパズルって感じはあるな。のんびりぼんやり作って行くのが丁度良いんだろうな」

「この赤いのが、何となく好きになれそう」

「また赤いの貰ってこようか?」

「まだ赤いのあるの?」

「確かあったはずだぞ。聞いてくる」

「うん。あったら欲しい」

「そういえば、来年の事なんだが、美香は、高校の近くで下宿する予定なんだが、俺もこの家を出ると思うんだ。このホームステイスタイルってどう思った?」

「兄さんがいるのは、すごく安心する。美月姉さんも皐月母さんも優しくしてくれるから、何も困らない。みんな好き。だから、ここにいられるならずっと居たいけど、そうもいかないのも知ってる」

「そうか、別の家でホームステイスタイルで住んでみるのは、どうだ?」

「私の知っている人の家?」

「うーん、第一候補は、てっちゃん先生の家だな。でも、あそこは、そろそろ結婚しそうな気もするんだよな。第二候補が美鈴の家だな。豪邸だが、慣れると住みやすいと思う。俺も来年からは美鈴のところで下宿するかもしれない」

「美鈴さんって、お嬢様の人だよね。兄さんと一緒にいる時が多いけど、下宿までするの?」

「うーん、まあそうだな。あまり広めていない話なんだが、俺と美鈴は婚約をしているんだ。もう半分くらいは東大路の人間って言う扱いに俺はなっている。だから、東大路の屋敷に住んでも本人や家族同士では違和感がないんだよ。突然の話だから驚いただろうけど、内緒の話な」

「え、婚約!?」

「ああ、婚約だ。美香は、俺にとって美月の下の妹って感覚だから、話すことにした。それだけ大事に美香の事を考えていると思ってほしい」

「それは、嬉しいけど、早くみんなに話した方が良いと思う。歩美さんとか案外惚れっぽい人だと思うんだ」

「何て言うかな。プロデュースとかをしていると、心の深い部分を触らなきゃいけない時があるんだ。そういうことを何度も繰り返していると、恋愛感情に変換されてしまうのは、気が付いている。水木も危ないし、蜜柑も危ないかもしれない。歩美もそうなんだろうな。これはさ、俺が良い男だからとかじゃないんだよな。そういう仕事をしているってだけで、冷静になれば冷えると思ってる」

「そっか。そのうちに冷めるんだね……。私が兄さんを兄さんって思うのも、仕事の影響なのかな?」

「うーん、全くないとは言えないだろうな。でも、兄妹って言う関係で考えてくれているのは、本当に助かる。俺も美香の事を美月と同じように本当の妹のように思えるんだよな」

「兄さんは、ずるい。恋愛感情とは違うけど、私だって兄さんの事を好きなんだからね。だから、ずっと妹で居て良いみたいなことを言われると、嬉しすぎる!」

「まあ、美香は、ずっと妹で良いんだ。それで下宿の件に戻るが、どう思う?」

「美鈴さんとお話をしないといけないと思うけど、美鈴さんが受け入れてくれるなら、妹としてついていきたい」

「わかった。その方向で調整をして行こう」

「それと、私のデビューは、本当にずっと先で良いの?」

「ああ、その件な。自分で言うのもなんだが、俺だって全員にチャンスを配っているわけじゃないんだ。待っても良いと思える素材と、待たなくても良いと思える素材は分けて考えている。例えば、島村仁美は、爆発的に売れるとは思っていない。それでも長く活動が出来るミュージシャンになれると思う。逆に俺たちのレーベルじゃないが貝原朋美は、あまり長く活動は出来ないだろうな。もし貝原が俺に助けを求めて来ても、今の時点なら断ると思う。逆に安室奈美が助けを求めて来たらすぐに助ける。俺の好き嫌いじゃなくて素材の問題なんだよ」

「うーん、よくわからないけど、兄さんなりの基準があって選んでいるってことなのかな」

「そういうことだな。はっきり言ってしまうと、今の美香は、綺麗な声のまま長く歌えないタイプになる。でも、俺は美香の声が好きなんだ。だから、多少時間をかけてでも、長く歌えるように美香の中身を変えて行かなきゃいけないんだ」

「……改造される?」

「そうだな。改造中ってことだ。てっちゃんたちみたいになる必要はないが、体を大事にしながら長く歌えるようになろうな」

「わかった。時間は味方って思う」

「俺がどこまでやれるかわからないが、桐峯アキラの最終兵器とか呼ばれる存在になってくれると面白いかもな」

「うん、最終兵器中島美香になる!」


 美香や水城は、訓練をした結果、強力な存在になる。だが、天然物も世の中にはいるんだよな。

 蜜柑なんて、天然ものの代表みたいな存在だ。


 センヤンのオーディション企画の内容で、変更があった。

 完全に年齢不問にしてみてはどうかと提案され、それを受け入れた。

 高橋さんには、美香と舞の歌は刺激が強すぎたらしい。

 二人と同じレベルの逸材を探すには、小学生からでも募集をしてみても良いのではとなってしまったそうだ。


 まあ、好きにしたら良い。

 ある程度俺の知っている流れになるだろうから、その中から選ぶだけだ。

 オーディションの参加者に天然ものがいると良いのだが贅沢は、言えないよな。


 そうして、美香が赤いアズナル専用サクの下半身をくみ上げたところで、今日のプラモデル作りを終えることにした。


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