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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第三章 ミストレーベル
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第五八話 現状把握と兄心

 現状把握と兄心


 六月二九日の土曜日。

 ミストレーベル企画室で、現状把握の作業をしている。


 まずは、極東迷路からだ。

 二月と五月に発売したファーストシングルとセカンドシングルともにランキング二〇位以内に入っているので、七月に発売するアルバムもそれなりに売れる予想が出来る。

 このアルバムに収録してある一曲を『明治剣客流浪伝 剣の心』の二代目OPに使うことになっている。

 アルバム収録曲は、アニメヴァージョンとは、大きく違うアレンジにして収録し、アニメヴァージョンは、八月にシングルカットの形で発売する予定にした。

 告知もしっかりする予定なので、多少のクレームがあっても、このままで発売する予定だ。


 夏のライブツアーは、東京、名古屋、大阪の三都市から福岡と札幌が追加された。

 福岡は、鮫島さんから熱心にライブをやるように説得され、俺が目を付けている中学二年生の人物を探して連れてきてくれるならやると返事をしたら、あっと言う間に話を付けてきてしまった。

 鮫島さんの話によると彼女は、中学一年が終わるとともに、突然家庭の事情で引っ越しをすることになったらしい。

 だが、新しい中学校になじめず、元の中学校に通学しているそうだ。

 俺が望むなら、東京の中学校に編入させても可能なほどに状況は、良くないらしい。

 まずは、彼女と会ってから細かいことを考えよう。


 札幌は、珍しくと言うべきか、洋一郎さんからのリクエストだ。

 サッカーに関わる会合のついでにライブを見たいとのことで、地元の企業連合の方々と見に来るそうだ。

 オーナーからの依頼なら、断るわけにもいかないし、俺も顔繋ぎをしておくべきだと思うので、この件は、即決で了承した。


 ナツフェスは、山梨の山中湖周辺で行われるイベントに参加することになった。

 参加するミュージシャンもある程度決まっているそうでその中にヒデトを見つけた。

 彼とのファーストコンタクトがここで出来る!

 時期も八月終わり間際で、ライブツアーも終わり、俺たちの音も温まっている頃なので丁度よさそうだ。


 極東迷路は、こんな感じで動いていて、玉井と蜜柑がプロモーションで走り回り、梶原、楠本、木戸は、練習の毎日となっている。

 俺は、曲を作りながら絵コンテを描き、編曲家さんへの指示書も作り、さらにシンセサイザーを含めたデジタル楽器の操作も浅井さんたちのチームの方々に教えてもらっている。

 はっきり言って、過労でどうにかなるんじゃないかと思う。

 その上に、学校の勉強に秘密ノートの製作も続けているのだから、いつか爆ぜる気がしてならない。

 現状は、全てのテストで五〇位以内に入っているし、平均をしたなら三十位以内になっているので、推薦は大丈夫だというのが唯一の救いだ。



 水城は、六月に出したシングルがデイリーランキングで九位に入り、順調すぎるほどに順調だ。

 十位の壁を抜けてしまったが、俺たちの勢いが俺が思っている以上に強いのかもしれない。

 この成果を分析したところ、うちの母親のアルバムも六月に発売されていて、これが後押しになっている可能性が高いと言う結論となった。

 ランキングこそ上がってこないが、うちの母親のアルバムは、間違いなく売れている。

 世の中的には、水城加奈は、桐峯皐月の弟子と言う見方もあるらしく、この圧力は、かなり強力のようだ。

 確かに水城の曲には和風の雰囲気を常に纏わせている。

 タイトルに英語を使おうが、和の香りのする作りの曲ばかり選んでいるし、水城の基本の衣装は、着物をずっと使っている。

 桐峯皐月の弟子として扱われても仕方がないのだろう。


 玉井とのマンスリーでやっているラジオ番組も好評のようで、ミストレーベル全体で秋からレギュラーをやってみないかというオファーが来ているそうだ。

 玉井のしゃべりは、かなり好評のようで玉井をメインパーソナリティーにして、毎回ミストレーベルからサブパーソナリティーを出すと言う企画になっている。

 俺としては、水城をメインにした方が良いと思うので、そのあたりを調整中だ。



 そして花崎歩美だ。


 彼女のアルバムは、大いに悩んだ。

 俺の色で攻めるか、未来の名曲をアレンジするか、本当に悩んだ。

 頭から煙が上がり、火が付き、禿げるんじゃないかと思うほどに悩んだ。


 結局、現在の彼女が唄える未来の名曲の中からいくつかを選び、分解して、俺の色を入れながら再度組み上げる作業をした。

 手間はかかったが、未来の名曲の色は消えて、俺の色が強くなる曲たちが完成した。

 路線としては、この路線でしばらくやって行くことにしよう。

 歩美の曲の特長は、トランスやハイスピードミックスに耐えられる曲にしなければならない。

 そのことだけは、意識してあるので、以前の記憶にあるようなノンストップミックスもそのうち作るつもりだ。


 七月に先行シングルを発売してから八月にアルバムを出す。


 歩美は、再デビューなので、タイアップも取りやすく、それなりに売れそうだ。


 その他では、ポーングラフィティのファーストシングルを九月に出し、十月にアルバムを発売することが決まった。

 こちらは、プロデューサーとして参加することになり、販売会議に出す曲を作ってもらっている最中だ。


 ベルガモットも順調で、ポーングラフィティの前座として行動してもらっている。

 ブリリアントカラーもほとんど同じスケジュールで動いてくれているので、こちらも問題はない。

 ドラマーのヨシアキとエイジ君が、心配だが馴染んできているようで、このままいけばヨシアキは、四人目のポーングラフィティのメンバーとしてデビューすることになりそうだ。

 エイジ君も四人目のブリリアントカラーのメンバーとしてデビューするかもしれない。


 俺の知っている二つのバンドは、三人でデビューしていたが、四人になっても大きな問題じゃないだろう。


 一応、大学についての俺の考えも二人には、話しておいたが、デビューできるならこのまま大学に行かずに音楽活動に専念したいとのことだった。

 それなら、俺もそれを支援するだけなので、二人には、頑張って貰いたい。


 浅井さんのところにいる上杉は、日々勉強と言う様子で、悪戦苦闘しているようなので気にしないようにしている。

 浅井さんからは、来年の初夏の頃に浅井さんと俺の共同プロデュースで上杉をデビューさせないかと話をされた。

 悪くない提案なので、その話を受け入れ、上杉は、浅井さんのところにそのまま居続けることになった。

 秋までと言う話だったが、浅井さんが気に入ったなら、俺の言うことよりも浅井さんの言うことを優先してほしいとも上杉に伝えた。


 高見さんのところの島村は、ギターを覚えることになったそうだ。

 高見さんと言えば、ギタリストとして超一流の人なので、その流れも当然なのだろう。

 声優の養成所に通い、ダンスに歌に、ギターまでしっかりとやっている島村は、大したものだと思う。


 現状をまとめた書類を確認して顔を上げると、舞がずっと俺を眺めていたようだ。


「舞、どうかしたか?」

「兄上を見ていました」

「何か面白かったか?」

「私には、お兄ちゃんがいるのですが、兄上の方が兄っぽいです。なぜでしょう?」

「うーん、俺も妹がいるから、なんとなく思うんだが、兄は、妹に頑張っているところを見せたくないのかもしれない」

「がんばっているところを見たいです」

「家族は、特別なんだよ。簡単には、見せてもらえないんじゃないかな」

「どうしたら見せてもらえますか?」

「例えば、仕事仲間になるとかかな。俺の妹は、俺と同じ高校の生徒会に入っているんだが、そうなると嫌でも頑張っているところを見せなきゃいけなくなる。そんな場面を作るしかないかもな」

「うーん、四つ上なんですよね。学校で一緒になることはないです」

「まあ、頑張っているところを見れなくても、兄は妹を大事に思っている物だから、あまり気にするな」

「はい、兄上がそういうのなら、そう思うことにします」

「兄がいるなら、俺をわざわざ兄上にする必要はないんじゃないのか?」

「それとこれは別です。お兄ちゃんは、お兄ちゃんってかんじなんです。兄上は、兄上って感じなんです」

「その感覚って、案外皆が思ってる感覚かもしれないな。隣の家の芝生の方が良く見えるような感覚と同じなんだろうな」

「うーん、そうなのかもしれないです……」

「お兄ちゃんの事は、好きか?」

「よくわからないです。でも嫌いじゃないので、どちらかと言えば好きなんだと思います」

「じゃあ、せっかく、舞は歌えるんだから、お兄ちゃんに一曲歌ってやろう」

「え……」


 本棚に行き、歌本を取り出し、丁度良い曲を探す。


 これなら良いだろう。俺と同世代みたいだから、多分知っているよな。


「舞、この曲、知っているか?」

「えっと、ブルーヒーツの『やさしく人に』ですね。知っています」

「歌えるか?」

「多分大丈夫です」

「じゃあ、練習スタジオに行こう」


 そうして、歌本を片手に舞と二人で練習スタジオに行き、ピアノを開く。


「えっとな。普通に歌っても面白くないだろう。ジャズ風にアレンジして俺が唄うから、まずは聞いていてくれ」

「はい!」


 そうして『やさしく人に』を弾き始める。

 スイングをわかりやすく聞かして、それっぽくして弾いていく。


 テンポを調整したなら、コーラスも一人で歌えるようなので、コーラスもある程度入れて行く。


「……どうだった? 歌えそうか?」

「すごいです! 私の知っている曲と別の曲になっちゃいました! すぐに歌います。同じのをお願いします!」


 それから、何度か『やさしく人に』のジャズヴァージョンを演奏していった。

 舞が唄い慣れてきたところで、カセットテープに一発録りをして、舞の兄にプレゼントするように言った。


「お兄ちゃん喜ぶと思います。兄上ありがとうございます!」

「兄ってのはな。目の前で大喜びしない時もある。それでも、内心は、もうすごく喜んでたりする物なんだ。そういう兄心ってのもわかってやってくれな」

「はい、お兄ちゃんにやさしくします」

「そうだな、やさしくだな」


 それからさらに何曲かのジャズヴァージョンを弾いていき、録音をしていった。

 こういうちょっとした癒しの時間みたいなのも必要だよな……。


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