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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第三章 ミストレーベル
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第五六話 夏の予定と生徒会選挙

 夏の予定と生徒会選挙


 五月十一日の土曜日。

 先日、極東迷路のセカンドシングルが発売され、デイリーランキングで十三位となった。

 俺としては、十位の壁を抜ける必要はないと思っているので、極東迷路が世の中に受け入れられたと考えて良い順位に着けたと思っている。

 十位よりも上は、ミュージシャン、スタッフ、関係企業を含めての総力戦をする必要があると考えているので、極東迷路を含めた俺の関係者たちに、そんな無駄な数字取りに参戦させるつもりはない。

 今はただ、この時代を皆で無事に生き抜くことを第一に考えて行きたい。

 たった数年で、時代は変わるのだから、その時までにそれなりの位置にいれば良いだけなのだ。


「……FMラジオ局から六月のマンスリーゲストコーナーってのをやらないかって言う話が来ているんだが、キリリンは、どう思う?」

「蜜柑は、どう思っていそうだ?」

「蜜柑先輩は、アルバムのことで頭の中が一杯みたいで、何とも言えないな」

「蜜柑は、俺が言うのもなんだが本物の芸術家だからな。今回のラジオは辞めた方が良いんだろう」

「俺一人でラジオなんて無理だぞ……」

「とは言っても、慶徳高校組も厳しいんだよな。水城と一緒にってのはどうだろう?」

「水城さんのシングルが六月だから、丁度良いけど、それってどうなんだろうか?」

「七瀬さん、どう思いますか?」

「悪くない組み合わせだと思います。胡桃沢の方からあちらのラジオ局に話をさせましょう。彼ならダメでも上手くやってくれるでしょう」

「それじゃ、お願いします」


 七瀬さんが、ミストレーベル企画室から出て行くと、代わりに水城と倉木が入ってきた。


「二人ともお疲れ」

「桐峯君、舞ちゃんがかわいすぎるんだけど、どうしよう」

「どうもしなくて良いからな。それより、舞の歌は、どうだった?」

「すごかった。蜜柑さんとも違うし、ミーサさんとも違うし、世界って広いよね」

「水城さんもすごいです。CDで聴くよりも本物でした」

「う、うん。本物はここにいるよ」

「本物です。桐峯さんも玉井さんも本物です!」


 この倉木舞という人物がなぜデビューしたての頃、メディアにあまり出なかったのか、何となくわかってきた。

 どうやら、少しだけ、不思議ちゃんらしいのだ。

 少しだけと言うのが、また微妙なところで、頭は良い方だし、理解度も早い。

 だが、言動がたまにおかしく、無茶なことを言い出すようなことはないんだが、ちょっとしたことで、笑い出したりする。

 良くも悪くも感受性が豊かな人物なのだろう。


 倉木は、オーディオセットのある場所に行き、マイコー・ジャックソンの妹のベネット・ジャックソンの音源をCDラックから取り出して流し始めた。

 このころのベネット・ジャックソンは、コンテンポラリーR&B系をさらに進化させていった人物だったのかもしれない。

 コンテンポラリーR&B系と言うのは、昔ながらのR&Bではなく、踊りやすさやデジタル楽器との調和を重視したR&Bのことを言うと俺は思っている。

 厳密な境目があいまいで単純にPOPとも言えてしまうのがわかりにくい。

 日本では、二〇〇〇年代前半に活躍したR&B系ミュージシャンのほとんどがコンテンポラリーR&B系だと思って良いだろう。


 音楽を聴きながら、体を左右に揺らす不思議なオブジェになった倉木を眺めながら、玉井との話を水城にする。


「……ラジオですか。良いと思います。テレビの生放送よりもはるかにましです!」

「そうなんだよな。俺たちには、生放送に耐えられるだけの経験がない。それを何とかしないとこの先辛い」

「このままっていうのじゃダメなんでしょうか?」

「高校生の間は、それでも良いのかもしれないが、この先を考えると不安なんだよな」

「キリリン、ポーンさんやこの前から来てくれているブリリアントさんたちみたいにライブハウス回りをすることになるのか?」

「中途半端に知名度がある分、東京、名古屋、大阪の三都市でライブをするとかの方が良いと思っている」

「他の都市は、どうする?」

「やれたならやりたいところなんだが、そうもいかないだろうな。今から探して丁度良いのかわからないが、夏休みに三都市が精一杯じゃないかと思う。水城は、毎回、ゲストってことで参加したら良い」

「八月なら、なんとかカジくんとクスくんも大丈夫か」

「あの二人もかなりこっち側の人間になってきた感じがするから、大丈夫だろう」

「ポーンさんたちのデビューシングルが出来ていそうなら、大阪で初公開ってのも良いよな」

「九月にシングルで十月にアルバムを出してもらう流れで話をくみ上げている最中だから、それも良いよな」

「私のアルバムは……」

「水城には、悪いが、来年の一月まで待ってほしい。それまで、シングルでつなぐから大丈夫だ」

「うん、六月の次は、十月位?」

「そのつもりだ。正直言って、俺のスケジュールの組み方の甘さの被害が、一番出ているのが水城なんだよな。すまない」

「こういう、舞ちゃんが流しているような曲も歌うの?」

「この系統は、人を選ぶんだよ。ミーサと舞なら歌えると思うんだが、蜜柑や水城には合わないと思う」

「そういう系統なんだね。いろいろ考えていてくれてありがとう」

「俺のわがままに付き合ってもらっているんだから、ちゃんと考えるさ」


 体を揺らす不思議なオブジェになっていた倉木の体が止まった。


「私は、こういう歌を歌っても良いのですか!」

「ああ。舞に向いている歌だと思う」

「なら、こういう曲を作ってください!」

「舞は、まだ勉強しないといけないことがいろいろあるんだよ。歌だけにするか、歌と作詞もやるか、編曲までやるか、どういうスタイルが自分に合っているかをこれから知って行こうな」

「うーん、桐峯さんは、お兄さんです。兄上って呼びます」

「……何かのアニメでそう言っていたのか?」

「時代劇で言っていました。なので兄上です」


 おわかりだろうか。このとおり、ちょっとおかしい娘さんなのだ。

 だが、この手のおかしさは、美鈴で慣れている俺としては、大した問題ではない。

 美鈴のように、実行力のある不思議ちゃんよりは、はるかにましだ。


 七瀬さんが胡桃沢さんを連れて戻ってきた。


「玉井君、水城さん、ラジオの件だけど、あちらからOKが出たので、よろしく頼む」

「助かりました。水城さんと頑張りますね」

「上手くいけば、レギュラー枠も夢じゃないから、ぜひ頑張ってくれ」

「はい、玉井くんと頑張ります!」

「胡桃沢さん、ラジオの件とは別件で相談なんですが、東京、名古屋、大阪の三都市でライブツアーって八月に出来ると思います?」

「桐峯君が言うってことは、極東迷路でってことだよね。曜日を選ばなければ、今からなら大丈夫だと思う。やってみるかい?」

「極東迷路のアルバム曲を中心に水城を毎回のゲスト参加ってことにして、大阪でポーンさん、名古屋と東京では、花崎をゲストにするとか、そういう感じでやってみたいんですよね」

「良いと思う。ついでに夏のイベントのどこかに参加するってのも入れてみようか?」

「極東迷路、水城、花崎は曲があるんで良いかもしれないですね。調整お願いして良いでしょうか?」

「あまり数が多くならないようにしたら良いんだろうね。任せてほしい」

「よろしくお願いします」


 夏フェスか。

 大きなのは無理でも、これも経験だと思って参加しておこう。


「兄上、私もライブに出たいです」

「うーん、コーラスなら大丈夫なのかな……。七瀬さんどう思います?」

「そうですね。高見さんに預けてある島村さんと合わせて、コーラスで参加してもらうのは、良いと思います。二人ともちゃんとしたところで歌ったことはないようですから」

「確かそうでしたね。それじゃあ、その手配もお願いします」

「はい、お任せください」



 それから、楽曲製作を続けながら、二年次の一学期中間テストを終え、再び生徒会選挙がやってきた。


「あっくん、スーは怒っています」

「今年は、ちゃんと生徒会選挙の立候補をしたぞ?」

「そう、それです。スーに一言も言わずに、副会長に立候補しようとしましたね」

「去年、そういう話になっていなかったか?」

「去年は、去年の話です。あれから一年、あっくんは、面白……立派でした」

「面白かったとか言おうとしたよな?」

「そんな、あっくんが面白かったとか言いません。面白立派でした」

「面白立派だったのか……。それで、今年は、何をした?」

「会長に立候補したことにしておきました。スーは、副会長です」

「また歌えば良いか?」

「はい、同じ歌で良いと思います。王者の風格です」

「よくわからんが、それで良いなら、そうさせてもらう」

「はい。今年のあっくんの応援演説は、届けに合った通り川端君にお願いしました。原稿も渡してありますのでご安心ください」

「スーの応援演説は、木戸に?」

「はい。木戸さんは、快く引き受けてくれました」

「木戸のことを、あまりいじめるなよ」

「いじめていません。仲良しです!」

「後な。美月から聞いたんだが、加間瀬姫子って子になんかしただろう?」

「な、何もしていません」


 わざとらしく目をそらすのは認めているつもりなんだろうな。


「スーが何をするかは、スーの勝手だが、ちゃんとフォローもしないといけないぞ。投げっぱなしはダメだからな」

「わかりました。しっかりと調教をしておきます」

「無茶はするなよ。調教とか物騒なこともダメだからな」

「はい、教育しておきます」

「日本語って便利だな……」


 それから一週間ほど経った土曜日に選挙が行われ、生徒会役員が決まった。

 俺はしっかりと去年と同じメイクイーンの名曲『ロックユー』を歌い、会長になり、スーも副会長となった。

 今年の俺の対抗馬には、去年と同じで目立ちたがり屋が立候補した。

 彼は、彼なりに工夫をしたようで、乱急のてんくに似せた髪形と独特な眉毛で現れ、乱急の曲をアカペラで歌い上げた。

 ふつうならそれでかなり受けたのだと思う。

 だが相手が悪い。

 歌で俺が負けることはなく、俺の後に歌った彼は失笑されてしまった。


 生徒会

 会長

 二年 桐山彰

 副会長

 二年 東大路美鈴

 会計

 一年 井上勝

 一年 桐山美月

 書記

 二年 水野美幸

 一年 千原美乃梨


 となっている。

 俺と美鈴は、そのままで、上杉の後輩となる勝と妹の美月が会計になった。

 二年の水野美幸は、去年の俺のクラスの学級委員をしてくれていた水野ママだ。

 獲得票数も十分だったので問題なく生徒会に入った。

 最後の千原なのだが、選挙立候補期間の締め切り間際で見つけた逸材だ。

 水城と同じで、声優歌手となった人物だと記憶している。

 同じ時期に同県に住んでいたという情報は知っていたが、俺の高校出身と言う記憶はないし、ネットでもそういう情報を見かけたことがない。

 だが、現実は、この通りなのでネットの情報の不確かさの良い例なのだと思うことにして、美月から立候補してもらえるようにアプローチしてもらった。

 時期を見て、ブラウンミュージックに連れて行こう。


 さて、季節は、梅雨だが、もうすぐ修学旅行が始まる。

 旅行先は、北海道だ。

 大きな期待はしていないが、美鈴が一緒なので、それなりに楽しめるだろう。


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