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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第三章 ミストレーベル
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第五四話 ブリリアントな人たち

 ブリリアントな人たち


 四月二八日の土曜日。

 今日は、朝からミストレーベル企画室で、四月からブラウンミュージックと契約をしたバンドメンバーと面談している。

 このバンドの名は、ブリリアントカラーと言う。

 ヴォーカルが女性で、ベースとギターが男性の三人組だ。

 そんなブリリアントカラーのヴォーカルのトモコさんことトミーさん、リーダーでベースの奥井さん、ギターの松田さんが俺の前に並んでいる。


「初めまして、桐峯アキラです。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。トミーと呼んでください」

「リーダーの奥井です。少し年上ですが、桐峯さんの音楽がどうしても気になってここに来ました。どうぞよろしくお願いします」

「ギターの松田です。東京に来たばかりなので、緊張してますがよろしくお願いします」

「それで僕に皆さんのプロデュースを任せたいと言うのは、本当なのでしょうか?」

「私から話しますね……」


 ブリリアントカラーは京都で活動していたバンドで、秋ごろに作ったデモ音源を音楽系芸能事務所やレコード会社に送ったそうだ。

 そうして、良い反応を示してくれた会社と面談をして行ったと言う。

 この中に、ブラウンミュージックもあったのだが、魅力的な条件を各社が出してくれたので、年度内に決めることを告げた。

 年末の時点で、ブラウンミュージックとは別の会社と契約をすることをほぼ固めていたそうなのだが、年明けにトミーさんが聞いた水城加奈の曲が頭に残ってしまったらしい。

 そうして、水城加奈のことを気になりだしたトミーさんは、俺の事も知り、極東迷路の曲を聴いて、ブラウンミュージックとの契約をする気持ちを固めたとのことだった。

 そのことをブラウンミュージックの大阪支社のスカウト担当である鮫島さんに話すと、販促用にあった俺の母親のアルバムを貰えたそうだ。

 そうして、契約をブラウンミュージックですることとなり、母親のアルバムも気に入ったトミーさんは、デビューからしばらくのプロデュースを俺に頼むことも契約に盛り込んだとのことだった。


 俺のいないところでプロデュースの約束をしないで欲しかった……。


 ブリリアントカラーと言えば、トミーさんの優しい歌声に反して、ひずみの激しい音で攻めてくる個性的なバンドだ。

 あまりハイスピードの曲はないが、ギャップがすごかったのをよく覚えている。

 そして、何よりもこのトミーさんがすごい!

 トミージャニアリーと言う別名義で活動をし、優しい歌声なのに、ブリティッシュロックな曲を歌い上げる人だ。


「……わかりました。やらせてもらいます。三人組のようですが、ドラムは、どうしていたのでしょう?」

「ライブの時は、サポートを頼んでレコーディングでは、ベースの奥井君が叩いてました」

「そうなると、サポートをいれるか新しいメンバーがほしいところですよね。どちらが良いです?」

「えっと、俺が続きを話します。ドラムは俺が叩いていたんですが、あまり難しいドラムは叩けないんです。なので、できれば新メンバーとしてしっかりやれる人がほしいです」


 奥井さんがドラムを叩けると言う話は、聞いたことがないがそういう編成だったのか。


「うーん、七瀬さん、エイジ君って、今日いますか?」

「聞いてきますね」


 エイジ君と言うのは、養成所のドラマーで、高校三年生だ。

 先日のツカサの騒動の後、養成所内は、荒れに荒れた。

 紀子さんも激怒したようで、しっかりとした改善案を示さなければ、養成所を閉鎖するとまで宣言した。

 ツカサたちには、密室の出来事とは言え、浅井さんがいたのが本当にまずかった。

 浅井さんが激怒して制裁が必要だと言い出し、仕方がなく法的拘束力のある示談書を作りツカサたちは、退所して行った。

 示談書の内容は、ブラウンミュージックに対して悪意のある発言をした場合、かなりの金額の名誉棄損金が課せられる内容になっている。


 そんな中、訓練生たちの動揺を鎮めようと懸命になってくれたのが、俺のところまで来れなかった二番手のバンドのメンバーたちとベルガモットのメンバーたちだった。

 エイジ君と言うのは、二番手のバンド、クリスマスライブの時にガールズバンドの次に演奏をしたバンドでドラムを担当してくれていた人物だ。


 養成所が混乱したことを、自分が悪くないのにわざわざ謝罪に来た人物で、俺としては好印象を持っている。

 ドラムの腕前は、ポーングラフィティに連れられて行ったヨシアキと同じ程度で、特徴としては、食らいついていこうと言うスタンスが伝わってくるのが良い。

 ブリリアントカラーと一緒にやっていれば、自然とうまくなるだろうし、こちらからのサポートもやり易い人物なので、丁度良いと考えた。


 そうして七瀬さんが、エイジ君を連れて、戻ってきた。


「桐峯君、俺に用事だって?」

「まずは、紹介からする。こちらの皆さんは、四月からブラウンミュージックと契約をしているブリリアントカラーの皆さんだ。可能なら新メンバーになれるドラマーがほしいと言う話だったからエイジ君を呼んだ」

「あ、え、はい、林田英二です。よろしくお願いします」


 それぞれに挨拶をしてから、練習スタジオに入る。


「トミーさんは、英語の歌を歌うんでしたっけ?」

「歌うけど、会話がしっかりできるって言うレベルじゃないかな。桐峯さんと蜜柑さんは、英語が堪能だと聞いているよ」

「鮫島さんから聞いたんですね。蜜柑と僕の親は、海外に縁のある仕事をしているようで、勝手にそうなったみたいです」

「え、お父さんたちが同じ職場とか?」

「いいえ、全く別の職場ですね。偶然です」

「私もイギリスとか行ってみたいな。音楽で稼げるようになったら、絶対に行ってやる!」

「トミーさんたちは、絶対に売れますから大丈夫です。僕から言えることと言えば、無理をしないようにすることくらいですね」

「そうだよね、喉を壊しちゃだめだから、そのあたりは注意をするね」


 そうして練習スタジオで、ブリリアントカラーの音源を何回か聴いてエイジがある程度覚えたところで、音合わせが始まった。


 うーん、さすがと言うべきか、エイジの食らいついていく力はすごいな。

 気合だけなら玉井にも負けないだろう。


 全体のバランスとしては、ドラムを簡単に仕上げてくれているおかげで、悪くない印象だな。

 慣れて行けば、上手く行きそうだ。

 一曲やり終えたところで、話を聞く。


「奥井さん、どうでした?」

「エイジ君のドラムは、力強いし、悪くないと思う。あえて言うなら付いていこうって言うスタンスじゃなくて、俺から作って行く! て感じのドラムが良いな。そうじゃないと、ドラムをメンバーにする意味がない」

「松田さんは、どうでした?」

「悪くないと思う。無理をしないのが良いな。ライブハウスをしばらく回れば、しっかり噛み合うと感じたよ」

「私も同感だね。エイジ君は、一生懸命なのが良い。そのまま上手く伸びて行けば十分に私たちのドラムを叩いてくれるドラマーになれると感じた」

「ってことは、俺、合格ってことですか?」


 皆がそれぞれに頷き、エイジがブリリアントカラーのメンバーとなった。


「桐峯さん、俺らの音はどうでした?」

「ちょっと厳しめに言った方が良いんですよね。まずは、奥井さん、もっとベースをひずませてガツンとくるベースをお願いします。松田さんは、奥井さんのベースがさらにひずむので、それに合わせてもっとひずませてください。トミーさんは、もっと淡々と歌ってください。俺が聞いた感じだと、ブリリアントカラーの良いところは、重い音に優しいトミーさんの声が乗るところなんです。感情を込めるのは、もちろん良いと思いますが、感情の振れ幅を少なめで良いと思います」

「えっと、すごいんだと思った……。一曲だけで、そこまで聞いていたんだね」

「ああ、流石って感じだ。桐峯さんに頼んでよかった」

「俺もそう思う。それじゃあ、音を作り直してもう一度やろう」

「えっと、俺は?」

「エイジ君は、今の曲を頭の中でトレーニングな」

「了解だ。イメージトレーニングだな」


 それから、曲が終わるたびにダメ出しをして、又歌うというのを何度も繰り返し、トミーさんの声がきつそうになってきたところで、今日は終了となった。


「それじゃあ、ライブハウス回りは、ポーングラフィティってバンドが今やってくれているので、そのバンドを近いところで紹介しますね。それとしばらくは、トレーナーのところで、調整をしておいてください。トミーさんは、声楽の先生がいるので、そちらでお願いします」

「ポーングラフィティって大阪でやっていたバンドだよね。ブラウンミュージックで修業をしていたのかぁ」

「今年の夏頃にデビューしてもらうので、ライブハウス回りは、もうすぐ終わりになりますけどね」

「わたしたちもすぐにデビューしない方が良い感じがする。一年くらいライブハウスを回った方が良いのかな?」

「うーん、仕上がり次第ってところですね。デビューの時期は、タイミングもありますから様子を見て行きましょう」

「それもそうだね。それじゃ、これからよろしくおねがいします」

「あ、僕の事は、桐峯君で良いですからね。さすがに奥井さんたちから、仕事上とは言え高校生の僕が桐峯さんって呼ばれ続けるのは、まだ辛いです」

「それもそうか。じゃあ、桐峯君、今日は、本当に良い体験だった。これからよろしくお願いするよ」

 そうして、ブリリアントカラーの皆とエイジと別れた。


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