閑話あるいは第五三話 美月の新生活
美月の新生活
SIDE美月
四月になって数週間が経った。
慶徳高校の雰囲気にも慣れてきて、クラスメイトたちとも上手く付き合えていると思う。
今まで、受験を理由にあまり気にしないようにして来たお兄ちゃんの様子が少しずつ見えてきた。
高校でのお兄ちゃんは、生徒会長をしていて『ロッキュー会長』と呼ばれているそうだ。
私が入部した和楽器部の先輩に理由を聞いてみると、生徒会選挙の時に、よくわからない英語の歌を歌って盛り上げたらしい。
お兄ちゃん……、何をしているのかな?
お昼に生徒会室でご飯を食べているそうなので、私も呼ばれて行ってみるとスーお姉ちゃんが持ってきていた重箱にお兄ちゃんと私とスーお姉ちゃんのお昼御飯が入っていると言われた。
これからは、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べるようになるらしい。
でも、生徒会役員じゃないとダメじゃないのかって聞いたら、生徒会に入れば良いって言われた。
文化祭の時にも誘われたけど、どうやら本気らしい。
家では、いつも防音室でピアノを弾きながら歌っているお兄ちゃんが会長をやれているのだから、私でも大丈夫なのかな。
和楽器部の先輩からお兄ちゃんの噂を少しずつ聞いているのだけど、聞き流せない噂が耳に入った。
お兄ちゃんは、同じクラスの木戸先輩とお付き合いしていると噂になっているそうだ。
木戸先輩は、お兄ちゃんが音楽活動を一緒にしている仲間だ。
話したことはないけど、綺麗なお姉さんだとは思う。
でも、お兄ちゃんにはスーお姉ちゃんがいる。
二股は良くないと思います!
木戸先輩に勇気を出して真相を聞きに行くことにした。
「あの、木戸先輩ですよね」
「はい、あ、桐山君の妹さんだよね?」
「はい、美月って言います。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね。高校には慣れたかな?」
「部活にも入って、慣れてきました。あの、質問があるんです」
「何かな?」
「気を悪くさせてしまったならすいません。お兄ちゃんと恋愛関係なんですか?」
「え……、そんな恐ろしい事、絶対にない。あのね、私は、これでも平和が好きなんだよ。入学式の後のことは、美月ちゃんなら知っているよね。あんな人達みたいになりたくない!」
「え、あ、はい。知っています。お兄ちゃんが襲われたとか。でも大丈夫だったって聞いてます」
「あの人ね。去年のクラスメイトだったんだけど、四月だけこの高校にいて突然いなくなった人なんだよ。なんでいなくなったかは、私もわからないけど、美鈴様が関わっているっぽいんだよね。そのきっかけを作ったのが、桐山君らしいの。そんな恐ろしい人たちと私は一緒にいるんだよ。美月ちゃんは、普通の人だよね?」
「えっと、普通の人のつもりです。でも、お母さんがあれなので、自信がないかもしれないです……」
「そうだったね。お母さんが桐峯皐月さんで和楽器の師匠もお母さんなんだっけ。美月ちゃんは、自分が普通じゃないことを自覚した方が良いかもしれないね」
「そうですね……。考えておきます。木戸先輩は、お兄ちゃんの恋人じゃない。これだけわかったので満足です」
「うん、美月ちゃんは、桐山君と美鈴様の関係を知っている人なんだよね?」
「えっと、多分、知っている人になります」
「私も無理やり知らされちゃったんだ。仲良くしようね……」
「はい、仲良くしてもらえると嬉しいです!」
木戸先輩は、すごく疲れた雰囲気となり、私の前から立ち去って行った。
お兄ちゃんとスーお姉ちゃん、部外者に迷惑を掛けちゃダメでしょう!
それに、美鈴様って呼ばれているスーお姉ちゃんもどうかと思う……。
お昼休みに毎日生徒会室に行っていると、クラスメイトに不審がられるので、結局生徒会選挙にでるから、その準備を現生徒会役員から教えてもらっているということにした。
こうやって外堀が埋められて行って、大人の世界へ、いつの間にか入っているんだろうな。
殆どのクラスメイトは、それで理解してくれてよかったのだけど、一人だけ自分も行きたいと言う子が現れた。
加間瀬姫子と言う子で、正直なところ、この子は苦手だ。
姫子ちゃんは、綺麗な子なんだけど、二面性が強すぎるんだよね。
人を貶めてでも、自分を良く見せたいって言う雰囲気があるので、あまり関わりたくない。
「美月ちゃんだけずるいよ。私も先輩たちに紹介してよ!」
「うーん、姫子ちゃん、この前の学力テストの順位どれくらいだった?」
「えっと……半分くらい?」
「今ね。次期生徒会役員になれそうな人たちを探しているらしいんだ。良さそうな人ならお兄ちゃんたちから声を掛けに行くらしいよ。その最低条件が、学力テストで一〇〇位内に入っている人らしい。私も生徒会室でお兄ちゃんたちが声をかけて次期生徒会に立候補する人に会っているんだ」
これは本当の話で、実際に生徒会室で、お兄ちゃんの友達の上杉先輩の後輩になる井上勝君と言う人に会った。
話した感じだと、お兄ちゃんとも気が合うようだし、私も嫌な印象を持たなかったので、彼となら、生徒会で一緒にやっていっても良いと思っている。
「美月ちゃんは、一〇〇位以内にはいっているから呼ばれているってこと?」
「そう、お兄ちゃんの妹だから、用事を言いつけやすいってのもあると思うけど、その条件にも入っているから、行っているんだ」
「うーん、なら、梶原先輩か楠本先輩を紹介してよ!」
「その二人とは、話したことがない。木戸先輩なら紹介できるよ」
「木戸先輩って、綺麗な先輩だよね。ちょっと遠慮する。やっぱり桐峯先輩が良いな」
姫子ちゃんは、桐峯先輩ってお兄ちゃんのことを呼ぶのが嫌だ。
芸能人でもあるお兄ちゃんなんだから、呼び間違えはあるし、あまり気にしていないようだけど、積極的に桐峯先輩と呼ぶ人は、あまり多くない。
桐峯は、お兄ちゃんの本当の名前じゃない。あれは、そういう役を演じているんだ。
そのあたりをわかっていないこの子は、やっぱりお兄ちゃんに紹介しちゃダメな子だと思う。
スーお姉ちゃんにも報告しておこう。おかしなことを始めたらちゃんと辞めさせないといけないからね。
そんな会話があって、すぐに姫子ちゃんのことをスーお姉ちゃんに報告をした。
それから数日後、姫子ちゃんは、別人のようになっていた。
上手に工夫をして華やかに制服を見えるようにしていたのが、入学直後の飾り気のない制服に戻し、髪もいろいろと工夫していたのが、シンプルなショートカットになっていた。
どうしてそうなったのか、聞くのが怖いのでわからないままだけど、スーお姉ちゃんが何かをしたのだけは、間違いない。
スーお姉ちゃんのことを甘く見ちゃダメなんだよ。
幼い頃からの恋心は、本物なんだ。
スーお姉ちゃんから婚約の話を聞いてから、いろいろとお兄ちゃんへの想いを聞かされた。
話したかったのはわかるけど、重すぎるくらいに重い。
でも、そんなスーお姉ちゃんが私は好きだ。
お兄ちゃんもスーお姉ちゃんのことをしっかり考えているのがよくわかって、そんなお兄ちゃんも好きだ。
私は、二人の様な恋愛は、無理だけど良い恋愛をしてみたい。
そういえば、お兄ちゃんからブラウンミュージックに遊びに来ないかって誘われているんだよね。
私の腕は、まだまだ未熟だけど、桐峯皐月の娘として遜色のない腕前は持っているつもりだ。
そういう世界に踏み出しても、そろそろ良いのかもしれない。
てっちゃんに一度相談に行ってからにしよう。
てっちゃんの婚約者のりえちゃんともお話をしたい。
私の高校生活は、始まったばかりだ。
まだまだ面白いことがいっぱいあるはずだから、楽しむ気持ちを大切にやって行こう!




