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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第三章 ミストレーベル
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第四八話 チョコと独創性

 チョコと独創性


 二月一四日の水曜日。今日は、バレンタインデーと言う厄介な日だ。

 昼休みの生徒会室には、いつもの生徒会メンバーの他に極東迷路メンバーの梶原と楠本、さらに木戸までいる。


「皆さん、市販のチョコレートは、持ち帰って構いませんが、手作りの物は、全て処分しま……、私の家の者で頂きます。もしもの時の健康被害のためだと思ってご理解ください」

「スー、処分って言おうとしたよな?」

「いいえ、そんなひどいことを言うわけありません。しっかり確認してから処分……皆で頂きます」

「処分することを隠していないよな。顔を知っている生徒から貰った手作りでもダメか?」

「残念ながら、諦めてください」

「美鈴様、私もなの?」

「はい、私が思うに一番危険なのは、木戸さんじゃないかと思うのです」

「え、何で私が一番危険なの?」

「今朝、登校したら靴箱とか机の中に、大量にチョコレートがありましたよね。女の嫉妬は、本当に怖いと思いませんか?」

「あ、わかるかも……。でも、私ってあまり目立っていないから……」

「その認識が甘いのです。この甘さ控えめと書きながらも、しっかり甘いチョコレートよりも甘いのです!」

「確かに甘さ控えめって書いてあってもチョコは甘いけど、そんなに私って甘いのね……」


 今、生徒会室の会議机の上には、大量のチョコレートが置かれていて、その中から、持ち帰っても良いと美鈴が許可を出した物だけを、それぞれが回収している。

 手作りは、ありがたい物だが、芸能人として活動を始めた俺たちが、それを食べて体調を崩したなら大変なことになるので、美鈴がこの決断をした。


 俺がミューズステーションに出たり、事前のプロモーションが成功していたようで、極東迷路のデビューシングルは、デイリーランキング一八位だった。

 水城のシングルのウィークリーランキングとマンスリーランキングも発表され、二〇位前後になっていた。

 俺たちの出だしは、快調と言って良いだろう。

 今後の期待感が重圧になるかもしれないが、なるべく予定通りに夏までは、続けようと思っている。


「ぴょん吉の母親は、有名人のようだから変わらないとして、梶原、楠本、木戸は、親戚が増えたりするっていうのが合ったりするのか?」

「会ったことのない親戚から連絡があったと父から聞きましたね。クス君のところはどう?」

「俺の家にには、親戚を名乗る知らない人から連絡がありましたね。どうやって連絡先を調べたのか謎です」

「それってかなり怖いな。木戸のところはどう?」

「私のところは、親戚関係のある家とは、ほとんど交流があるので、謎の電話が、何本か掛かってきただけですね」

「木戸は、女子なんだから身を守る方法を考えておけよ」

「いくつかチカン撃退アイテムを事務所から貰っているので、それでなんとかして見せます」

「東大路、木戸のこと、何とかならないのか?」

「木戸さんの通学路周辺をうちの警備会社が巡回していますので、不審者がいればすぐに連絡がされるようにしています」

「そうか。まあそこが精一杯か。水城加奈と極東迷路、俺も買ったからな。がんばれよ」


 チョコの仕分けをしながら、話題は部活動の予算や卒業式の話に移り昼休みが終わった。


 後日、手作りチョコレートを美鈴の使用人さんたちが調べたそうで、残念なことにいくつか異物が混入されていた。

 美鈴の判断が正しかったことを再認識したが、悲しい気分にもなってしまった。

 手作りはありがたいが、これからは注意をして行こう。

 ちなみに、美鈴からは美鈴の家の料理人さんが用意をしてくれたチョコレートケーキを頂いた。

 いつもありがたく頂いているので、生徒会室のメンバーで、これだけはありがたく頂いた。


 そういえば、九月の俺の誕生日の時、美鈴のところの料理人さんが、同じようにケーキを用意してくれたな。

 あの時は、フルーツケーキだったな。その時に美鈴からプレゼントしてもらった、シンプルながらも頑丈な腕時計は、あれからずっと俺の手首を定位置にしている。



 二月一七日の土曜日、ミストレーベル企画室で、デモテープを聞きながら頭を抱えている。

 この場には、蜜柑と玉井に来てもらっている。


「……そのあれだな。独創的って言うんだろうな」

「バンドの音は、しっかりしている分、歌詞の違和感がすごいよね」

「やっぱりそう思うよな。うーん、歌詞だけ俺が書くべきか、指導をしてもらうべきか……」


 今俺たちが聴いている音源は、女子中学生バンドのベルガモットの音源だ。

 あまり口を出すつもりはなかったのだが、提出してもらった音源のタイトルからすごい。

『ホイコーロのホイホイさん』

『メトロポリタンナポリタン』

『チーズケーキのチーズを探しに』

 などなど……。


 自由な発想で、悪くはないんだが、何かが違うんだよな。

 歌詞も当然、タイトルに合わせてあり、正直なところよくわからない。

 女子中学生の発想の恐ろしさを実感したところだ。


「でもさ、この路線でやって行ってもらうのも、悪くないんじゃないかな。この手の曲ってないから、新鮮かもしれないよ」

「まじめに面白いことを考えられる人が必要なんだろうな。キリリンそういう人の心当たりはないのか?」


 うーん、あの人なら、何か考えてくれるかもしれない。


「七瀬さん、今日ってTMレインボーの西山さん来てます?」

「少しお待ちください。事務所で確認してきます」


 そうして、七瀬さんは、西山さんを連れて戻ってきた。


「何か俺に聞いてほしい音源があるって?」

「僕が担当している女子中学生バンドの音源なんです。ちょっと聞いてみてもらえますか?」

「また面白いことをしているんだな。資料もあるんだろう。まずは、目を通す」

 西山さんにベルガモットの資料を渡してから、曲を聞いてもらった。


「……これは、確かに困るよな。コーラスでホイホイ叫んでいるところなんて、もうわけがわからん」

「そうですよね。でも、これはこれで味があるようにも聞こえるんです」

「わかる。チーズケーキのチーズを探して旅に出るとか、そんなに食べたいのかって思うよな。だが、そこが良い」

「難しいことを書き連ねるよりも、わかりやすくはあるんです。でも、これって売れるんでしょうか?」

「うーん、ライブなら良い感じに温まるだろうな。音源にすると、辛いだろうから、メインは、桐峯君が書いてカップリングをこの路線にするとかか」

「その方向で考えてみます」

「でも、こういうの俺は、好きなんだよな。昔のアニメの曲とかアニメのタイトルを叫んでいるだけみたいなのがあって、そういうのを作ってみたくなる時がある」

「ガンガンガーとか、ドドドドーンとか、歌詞に出てくる奴ですよね。意味が解らないけど、印象に残りますよね」

「そうそう、バンバンバーンとか、何でそれなのって今なら思うけど、そういうのも良いんだよな」

「そういう曲と同じだと思えば、違和感が無くなってきそうです。西山さんのアドバイス、大感謝です」

「俺もこんなの作ってみようかな。桐峯君、何か題材ないか?」

「架空の会社のテーマ曲を昔のアニメソング風に作ってみるとか、どうでしょう?」

「ああ、それ良いな。重機とか扱う会社とか運送会社とか楽しそうだ」


 それから、蜜柑も玉井もこの話題に入って来て、架空の校歌とか、架空の国歌とかを考え始めてしまった。


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