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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第二章 新たな出会いたち
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第四四話 クリスマスライブに行こう!

 クリスマスライブに行こう!


 一二月二四日の日曜日、いわゆるクリスマスイブと言う日になる。

 そんな日の昼下がり、新宿のとあるライブハウス近くに集まっている。


 この場には、極東迷路のメンバーと俺の予定よりも少し早く会うことになった人物が来ている。


「うち、ライブハウスなんて初めてです。すごく楽しみです!」


 彼女の名は、島村仁美だ。

 冬休みに入るとすぐに、両親と東京に出てきて、四月からの島村の生活環境や高校の様子を確認しに来ている。

 もちろん、ブラウンミュージックとも話し合いの時間を取っている。


「流石に中学生だと、ライブハウスには、行きにくいもんな」

「そうなんです。どんな雰囲気なんですか?」

「うーん、この中でライブハウスに行ったことがあるのって、俺に蜜柑とタマちゃんだけか?」

「俺は、ないな。クスくんもないんじゃないか?」

「カジくんと同じで、俺もない」

「キリリンはあるんだな?」

「軽音部のイベントで一度だけライブハウスで演奏をしたことがある。だが、身内のイベント過ぎてあまりライブハウスでやったって気がしなかったけどな」

「キリリンは、ピアノのコンクールの経験もあるから、初めてって気がしなかったのかもしれないな」

「私、ヴァイオリンでコンクールの経験は、そこそこあるけど、身内ばかりでも緊張すると思う……」

「静香ちゃんは、桐峯君と違って普通なんだよ。あんな化け物と一緒にならなくても良いんだよ」

「そうだよね。蜜柑さんの言う通りだ」

「デビューしたら、お前ら全員、世間様からしたら化け物扱いなんだからな、すこしはその辺り考えておけよ……」

「キリくん、俺とクスくんもなのか?」

「当たり前だ。ちょっと楽器の上手いだけの人間が、簡単にデビューまで行けると世間様は、思っていないんだからな」

「それもそうだよな。腱鞘炎になるくらいに練習する……。カジくん、一般人は辛いな」

「えっと、皆さんの半分が初めてってことになるんですか?」

「そう言うことになる。本当なら、今頃は、ライブハウスで修業をしていたかったんだけどな」


 極東迷路は、新宿のライブハウスを全て回るくらいの気持ちで、活動をしたかった。

 俺のスケジュールの読み方が、本当に甘いのがよくわかった。

 今後は、もう少し余裕を持ってスケジュールを組んでいかないとな。


「蜜柑、ごめんな。新宿のライブハウスで、蜜柑と極東迷路の知名度を少しくらいは上げてから、デビューをしたかったんだが、考えが甘すぎた」

「惜しい気持ちもあるけど、すごく良い曲を私に歌わせてくれるんだから、気にしちゃダメだよ。桐峯君が作ってくれた『極東シャンソン』は、私たちのテーマソングみたいな感じがしてすごく好きなんだ。あの曲は、タイアップをあえて取っていないんだよね?」

「極東迷路のための曲だから、タイアップは取らないことにした。演奏の難易度が少し上がったが、あれくらいの演奏をしないと、この先が辛いからな」

「うん。私も初めて歌う曲調だから、すごく楽しい」


 極東迷路のデビューシングルに入る二曲が正式に決まり、すでにレコーディングも済んでいる。

 メインは、蜜柑の作詞作曲の『ここでキスを』で、カップリングと言うことで、俺が作詞作曲した『極東シャンソン』と言う曲が入る。

 蜜柑の曲は、俺の知る以前の記憶でも同じ曲が発表されている。

 この曲は、FMラジオ局で二月のヘビーローテーション曲に採用されている。一か月しかヘビロテされないが、夏にアルバムを出すつもりの極東迷路の出だしとしては、悪くない出だしだと思っている。

 短期決戦を考えている極東迷路としては、二月、四月、七月にシングルをリリースし、七月の後半にアルバムをリリースする予定で考えて行けば良いだろう。

 俺が作った『極東シャンソン』は、シャンソンをベースにして、極東迷路でも演奏可能なように作り上げた物になる。

 どちらも、蜜柑の世界観に合っていると思っているし、蜜柑も満足しているようなので、俺も満足だ。

 そうして曲の話をしていると、追加の二人が現れた。


「お待たせです」

「皆、お久しぶりだね」

「水城、歩美、よく来てくれた」

「歩美さんは、一人で歩かせておくと心配になるから、一緒に来れて良かったです」

「なんで、私は、危険物扱いっぽいのかな?」

「ほら、この中で一番芸能人オーラを出しているのは、どう考えても歩美だろう。目立つんだから認めるしかないよな」

「うーん、納得したくないけど、もうすぐ皆もこちら側になるんだからね。それより、あの水城ちゃんのミュージックビデオ、良すぎだよ!」

「あれを見たのか。その反応なら上々ってところのようだな」

「何度も見た。あれの絵コンテも桐峯君が描いたんだってね。本当にすごいよね」

「絵コンテは、読み取ってくれる監督さんがすごかったんだ。また機会が合ったらあの監督さんと仕事をしてみたいと思っている」

「そうだよね。ああ言う監督さんとも交流を持っていかないと、この先の芸能界は、大変だよね……」

「本当にそう思う。少しずつだが、ああ言う人材も集めて行かないとな」

「えっとね。桐峯君に、報告です。サンシャインミュージックとの契約を来年の三月末に解除することが正式に決まりました。その後はブラウンミュージックにお世話になることも決まりましたので、よろしくお願いします!」

「俺のところで、良いんだよな?」

「うん。そのつもりで移籍の話もしたから、問題無しだよ」

「それじゃあ、ミストレーベルにようこそだな」

「ああ、水城ちゃんから聞いた。桐峯君のチームのレーベルなんだよね。そっか、私もミストレーベルの仲間になるんだね」

「この子も、来年の四月から俺たちの仲間だから、仲良くしてやってくれ」

「あ、はい、島村仁美です。今日は、広島から下見とか契約とかのお話に来ました」

「私は、花崎歩美って言います。どうぞよろしくね」


 島村と歩美の初対面の挨拶が終わったところで、丁度良く最後の待ち人が現れた。


「私が最後のようですね。皆さん、こんにちは」

「美鈴様も来たのね」

「木戸さん、来ちゃいました。あっくん、皆に私を紹介してください」


 どこからともなく、ぬっとあらわれたような気がしたな。

 タイミングを見計らっていたような気がしてならない。


「東大路美鈴だ。俺の幼馴染で、隠すことでもないので言うのだが東大路グループの御令嬢って立場の人間だ。だが、あまり気にしなくて良い。少し変わっているだけで、無害だから仲良くしてやってくれ」

「知っている方もいらっしゃいますが、改めて名乗らせて頂きます。東大路美鈴と申します。あっくんとは、小学生からの幼馴染です。皆さん、仲良くしてください」


 皆は、全力で首を上下に振るしかないよな。

 美鈴の相手は、木戸にしてもらおう。


「それじゃあ、行こうか」


 美鈴と一緒に来てくれた七瀬さんの紹介もしてから、移動を始めた。



 今回のライブは、ポーングラフィティが、訓練生バンドの存在を知り、ブラウンミュージックと掛け合った結果、開催されることになったライブイベントだ。

 未成年が中心なので、夕方になる前には終了する。

 そこからは、夜の本格的なライブイベントが開催されるらしい。


 このライブに参加するバンドは、ポーングラフィティを入れても四組しかいない。

 そう、訓練生バンドで十二月末まで残ったのは、三組だけなのだ。

 さらに、かなりのメンバーチェンジが行われ、なぜか上杉がヴォーカルを勤めるバンドが誕生している。


 上杉から話を聞いてみると、おおよその成り行きがわかった。

 事務所側や俺たちから見た上杉は、桐峯アキラがどこからともなく連れてきた、そのうちにデビューさせる予定の卵と言う扱いになっていた。

 だが、訓練生からは、少し違う。

 てっちゃん先生の特別ヴォーカルレッスンを受けている上杉以外の全員が、デビューが決まっている。

 そう、上杉以外が、デビューが決まっているのだ。

 スカウトしてきたが、持て余しているのか、力不足なのか、そう言うように思われていたらしい。

 そこで、上手く行っていなかった訓練生バンドの一人が、上杉に声をかけて予定を聞いたところ、何もないと聞かされ、そのままバンドに誘われたらしい。

 そこからは、意気投合し、やる気のある訓練生たちでバンドを再編成して、新たなバンドが誕生したのだ。


 ライブハウスに入り、様子を伺うと、中々の客の入り具合のようだ。

 しばらく待っていると、ライブが始まる。


 一つ目のバンドは、ここまで意地で残り続けたメンバーのバンドのようで、悪くはないんだが、自分たちしか見えていないような感じがある。

 良く食らいついたことは、十分に評価されるので残ってほしいが、多分無理だろうな……。


 二つ目のバンドは、ガールズバンドで、初めに会った二つのガールズバンドから選抜して出来たバンドらしい。

 一言で言うなら、真面目なメンバーのバンドのように感じた。

 自分のパートをしっかりと担当しているのだが、あくまで自分のパートだけをやっている感じが強いんだよな。

 一生懸命なのは良いのだが、まとまり感が弱い。

 さらに、致命的なのがヴォーカルの声だ。

 歌うのが好きなのは、十分伝わるのだが、レッスンをまじめに受けていなかったのか、自分は、本番に強いタイプだと思っているのか、声の出し方が悪い。

 あのまま歌いつづけたら、すぐに喉を悪くしてしまう。

 彼女の事は、事務所にも報告する必要があるな。


 いよいよ、上杉がヴォーカルを担当するバンドが出てきた。

 確か上杉を誘った人物がリーダーになっていて、名前だけを名乗り、ツカサと言う名で活動しているんだよな。

 上杉もそれに合わせて、イクトと言う名で登録している。


 上杉の声は、さすがにてっちゃん先生に調整されているだけの声なだけあって、先の二バンドと比べたなら圧倒的だな。

 ツカサは、ベーシストのようで、高校生レベルから脱していないが、中々の腕のようだ。

 さらにバンマスとして、上手くメンバーに視線で合図を出しているようで、責任感も強そうだ。

 上杉との息もあっていて、この二人を残して、メンバーを組み直しても良いかもしれないな。

 ドラマーは、玉井より一段程落ちると言ったところなので、玉井が入れば、良いバンドになるだろうが、すでに玉井は、ポーングラフィティのサポートに入っている。

 そんな玉井は、俺たちと一緒にライブハウスに入ったが、すぐにバックステージに行ってしまっている。


 ギターの二人は、並みなんだよな。下手ではないが上手くもない。個性も強いわけでもなく淡々と弾いている。

 一つ目のバンドのほうが、ギターリストは、上かもしれない。


 うーん……。


「七瀬さん、一つ目と三つ目のバンドのプロフィールって持っていますか?」

「はい、すぐに出しますね」


 そうして見せてもらったプロフィールを確認していくと、一つ分かったことがあった。

 上杉ことイクト、ツカサ、ドラマーのヨシアキの三人は高校一年生で、ギターの二人は、高校二年生だった。

 一つ目のバンドは、ギターリストが二人とも一年生で、あとは二年生だった。

 バンド編成をしたときは、年齢を考慮してもらっていたが、選抜した時に混ざったようだ。

 高校のレベルを確かめると、一年生たちは、全員がレベルの高めの高校に通っている。

 他の者は、様々といったところのようだ。


 行けるのかもしれないな。


「七瀬さん、一つ目のバンドのギターリスト二人と、このバンドのギターリストを交代できますか?」


 七瀬さんもプロフィールを見て、考え込む。


「……なるほど、一年生と二年生で組みなおすのですね。これなら提案もしやすいです。最後は、本人たちの意思になると思いますが、近日中に話しておきましょう。ちなみに、桐峯君は、やはり上杉君がヴォーカルを勤めるバンドを押していますか?」

「その通りですね。バンドのレベルとしては、もう一息といったところですが、悪くないと思います」


 上杉のバンドは、これで良い。

 後は、本人たちの問題だ。


 いよいよポーングラフィティが登場する。


 ヴォーカルの岡田さんの声は、以前よりも喉の負担が少ない歌い方になっているようだ。

 他のメンバーも以前より一段腕が上がっている。

 玉井のドラムも良くなじんでいて、良いバンドに成長しつづけているな。


 ポーングラフィティは、地力があるから、もう一年くらいライブハウスを回っていてもらっても良いかもしれない。

 しっかり固定ファンを付けてから、デビューしたほうが、安定するのは確実なんだよな。


 一度、ポーングラフィティのメンバーと話し合った方が良いかもしれない。


 そうして、ライブが終わり、ポーングラフィティのデモテープを購入しておいた。

 言えばもらえそうだが、たまには、ファンっぽいこともしてみたくなった。

 俺は、ポーングラフィティが好きなんだ!

 好きだと思えるバンドやミュージシャンが今、増え続けていて、とても楽しいんだ!


「それじゃ、今日は、現地解散と言うことで。俺は美鈴と島村さんをブラウンミュージックに送って行く」


 それぞれに別れの言葉を言い合い、帰宅していった。


 俺たちもブラウンミュージックで島村を両親の元へ届けてから、これからの事を考える。


「あっくん、どこかに行ったりはしないのですか?」

「うーん、クリスマスイブだからと言ってもな。イベントっぽいことをしているところは、人が一杯だし、何か食べるなら、東大路の本家に行けば、並みよりは、おいしい物が食べられるだろう?」

「それもそうなんですよね。あっくんを我が家に招いても、美月ちゃんが心配するでしょうし、いろいろ考えるのは、大学生になってからでしょうか」

「今日は、四谷がこちらにいますので、高速道路から見える夜景だけでも楽しんでみては、いかがでしょうか?」

「そうですね。それくらいなら、丁度良いかもしれません。四谷さんお願いします」


 七瀬さんの提案に乗り、四谷さんの運転で、都内の高速道路を軽く流してもらった。

 渋滞をしている箇所もあったが、そう言うところでは、ビルや街のイルミネーションを堪能できたので、これはこれで良い体験となった。


「スー、今年は、ありがとうな。来年は、今年よりも忙しくなるかもしれないけど、一緒にいような」

「はい、スーは、あっくんとずっと一緒なのです。来年も再来年も一緒なのです」


 そうして、俺たちもそれぞれに帰宅した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の性格や行動は、自分は割りと好みです。 [気になる点] 読点が多すぎると思います。文節毎に打つのではなく、一纏まり毎に打つ方が読みやすいと思います。 変なところに読点があると違和感…
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