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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第二章 新たな出会いたち
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第四〇話 体育祭

 体育祭


 十月二六日の木曜日、明日から祭イベントが始まる。


 金曜日は体育祭、土曜日と日曜日は、文化祭となる。

 体育祭は、体育祭実行委員会がすでに用意を済ませているので、気にすることはないのだが、文化祭の準備は、今日が大詰めになる。

 今日、終わらなければ、体育祭の後に疲れた体で、最終準備をしなければならないので、今日だけは、全体下校時間を無視しているクラスや生徒がいても咎めない慣習になっているらしい。


 我が一年二組は、教室展示なので、順調に準備が終わった。


 どこに保管されているのか謎な教室展示用に使うベニア板に、展示物となる資料を拡大コピーした物をペタペタと貼って行き、それを教室に並べる。

 そして、視聴覚室の倉庫に会った数台のテレビと生徒の私物のスーパーファミコムたちを接続して終わりだ。


 簡単と言えば、簡単だが、これで良い。

 お化け屋敷やら喫茶店なんて、面倒な物をするのは、他のクラスに任せた。

 俺たちは、ダンボールに描かれたアンニンドーの名物キャラクター、マリオンが、意気揚々と、ジャンプしているイラストだけで、十分だ。


「ママ、クラスは、これで大丈夫だな」

「うん、桐山君は、生徒会に行くんでしょう?」

「ああ、ゲートを作る作業が待っている。それじゃ、行ってくる!」


 我がクラスの頼れる学級委員である水野ママが、仕切ってくれたおかげで、通常の全体下校時間になる前に、展示物は完成した。


 さて、生徒会のお仕事だ!


 生徒会室に、荷物を置いてから、校舎をでて、生徒会メンバーたちと数人の文化祭実行委員が作業をしている場所に向かう。

 作業場に到着すると、パイプを繋げていくタイプの半円状になっているゲートが組み上げられていた。


「あ、ロッキュー君、今から風船を付けて行くよ」

「松井先輩、それじゃ、俺も混ざりますね」


 内の高校では、三年生の文化祭参加は、有志のみとなっていて、松井先輩は、三年の学年議員団の中から、有志を募ってゲート作りをやってくれている。


 手動式のポンプで膨らませた風船に紐をつけ、ゲートのパイプに縛り付けて行く。

 幾つか付けていると、それっぽい雰囲気になる。


「ふと思ったんですが、この風船の空気って、土日まで持つんですか?」

「あ、そのあたりの事考えていなかった……」


 おいおいおい、どうすんだよ!


 全員の作業を止めて、緊急会議となった。


「まず、土日まで持つと思えない人、挙手!」


 ほぼ全員が手を挙げてしまった。


「代替え案を考えるか、土日も同じ作業を続けるしかないですよね?」

「ロッキュー君、ごめん。考えが浅かった」

「いえ、松井先輩だけが、悪いんじゃないんですから。俺も気が回らなかったんで、今は別の方法を考えましょう」

「わかった。代替え案なら、どういうのがあるんだろう……」

「和美さん、演劇部の衣装って、服飾部が作っているんですよね?」

「うん、私たちも作るけど、服飾部と協力しているよ。布でも巻いてみる?」

「それか、残り物の紙テープを貰ってきて使うとかでしょうか」

「紙テープは、危ないかな。これって夜も外に置いておくんだよね?」

「なら、服飾部に行きましょう」


 そうして、和美さんと服飾部に行き、部長に事情を話すと、端切れの布を大量に譲ってくれた。

 こういう端切れの布も繋げて行けば、使い道があるのに、申し訳ない……。


 それから、ゲートの作業場に戻り、借りてきた裁縫ばさみで、丁度良い大きさに切って行き、それをゲートに縛って行く。


「和美さん、白いパイプのゲートのままで良い気がしてきました……」

「そうかも。布の色が、ごちゃごちゃしててあまり良くないかな」

「色の統一感をだすなら、風船を空気を入れないで、そのまま巻いてしまいましょうか……」

「そっちの方が、まだ良いのかも」


 ためしにいくつか風船を巻いてみると、ゲートの元々の色が白なので、こちらの方が、よく合うようだ。


「こっちですね」

「そうだね。こっちだね。端切れの布と裁縫ばさみ、私が返してくるよ」

「和美さん、お願いします」


 それから、空気の入っていない風船を適当に巻いていった結果、悪くない仕上がりになった。


「何とか終わりましたね」

「もう全体下校時間を過ぎているね。後片付けは、僕らに任せて、生徒会メンバーは、校内巡回に行っておいでよ」

「そうさせてもらいます。さすがに、いつまでも残しておくわけにもいかないですからね」


 そうして、生徒会メンバーは、二人づつに分かれて、学内を見て回ることになった。


「あっくん、夜の学校は、何かわくわくします」

「そうだよな。この時間まで残っているのは、初めてだよな」

「オバケが出ても、スーがやっつけます!」

「その時は、任せる」


 すでに、午後八時近くになっていて、殆どの生徒たちは、帰宅している。

 時間を無視して良い慣習があるとは言え、いつまでも残っていて良いわけでもないので、見かけた生徒たちに帰宅を促していく。


 松井先輩たちがいる作業場も見て、先輩たちが帰路についたことも確認してから、生徒会室に集まった。


「僕らも、このまま居続けるわけには行かないので、後は先生方に任せて、帰りましょう」


 そうして、後は教師たちに任せ、生徒会メンバーも帰宅した。



 翌日、体育祭当日になった。


 この日は、ジャージで登校してよいので、制服を置いて高校へ向かう。


 体育祭実行委員と、大会本部やらの設営に音響関係のチェックなどをしてから、ホームルームを経て、校庭に移動する。

 俺は、基本的に大会本部に常駐することになるらしいのだが、何をしていれば良いのだろうか?


 そうして、校長先生の話が始まり、選手宣誓を体育祭実行委員の中で決められた二人が行い、体育祭が始まった。


 体育祭のチーム分けは、三学年の同じ組で一チームとなり、それぞれのチームで競い合う。

 スポーツ特待生のいるチームが強くなるかと言えば、そういうこともなく、明らかに差が出る生徒は、その運動能力が、上手く使えない種目に登録されている。


「スーは、何の競技に出るんだったか?」

「学年別クラス対抗リレーです」

「ああ、それ、俺も出る。うちのクラスは、やる気がないから、スーに勝利を譲ろう」

「リレーなんですから、全力で走ってください」

「ほら、俺って、文化部だからさ。運動は苦手……」

「嘘はいけません。あっくんは、夏の人間ドックの結果、少し高いくらいの運動能力があると判明しています」

「うーん、玉入れで、俺は十分だよ……」

「玉入れってありましたっけ?」

「ないな。棒倒しも、騎馬戦もないな」

「借り物競争と二人三脚がありますね」

 美鈴は、パンフレットを見始めた。


「借り物競争か。うちのクラスは、木戸がでるぞ」

「木戸さんは、とても面白い方なので、スーは、お友達になれてうれしいのです」

「そういえば、バックチークの皆さんが、俺らの曲のレコーディングを始めてくれたようだ。木戸もコーラス録りをしなきゃいけないな」

「あっくんも、ピアノのパートを録るのでしょう?」

「ああ、さすがに、俺のパートは、自分で録りたいからな。シンセサイザーも録りたかったが、まだ難しいようだ」

「アクスの浅井さんが、教えてくれたりはしないのでしょうか?」

「あの人も、忙しいからな。今は西山さんのデビューシングルの大詰めらしい」

「皆さん、動き出したのですね」

「そうだな。ポーングラフィティもライブ活動を始めたようだし、訓練生バンドも動き出した。一度、動き出すと、停められないから、ここからが大変だ……」

「皐月さんも明後日の日曜日に、講演会に来てくれるんですよね?」

「ああ、俺も演奏することが決まってしまった。音合わせは、終わっているから、当日で失敗しないのを祈るだけだな」

「ちゃんとしたところで演奏するのは、小学生以来になるのです?」

「そうか、そうだよな。プロの方々に音を何度も聞かせていたから、久しぶりの本番って言う気がしない」


 その後も、美鈴と、のんびりと会話をしているうちに、午前の最後のプログラムになる学年別クラス対抗リレーに出る時間になった。


 体育祭は、種目もそれなりにあるが、距離を変えたりもして、何かの競技に一人一回出れば良いように調整されている。

 そういうことになっているので、俺は、今から走る学年別クラス対抗リレーが唯一の出番となる。


 アンカーは運動部のクラスメイトがやってくれるので、俺は中盤で走る。


 スタートのピストルの音がして、リレーが始まった。


 どこのクラスもやる気十分と言うわけではないが、無駄に手を抜くこともしないので、それなりに盛り上がっている。


 二人目が走り出し、次が俺になる。


 コースに出て、さあ、来いと、身構えていると、一位の生徒がやって来てバトンが繋がれた。

 内のクラスは、よく頑張っているというべきか、三位で俺のところに繋がった。


「ロッキューさん、行けー!」

「会長、頑張れー!」


 などのありがたい声援を受けながら、走り続ける。


 一応全力は、出したつもりだったので一人を抜いて次につなげられた。


 終わってみれば、一位は、美鈴のいる一組で、美鈴が、かなり距離を稼いだようだ。

 あいつの運動能力こそ、人間ドックと言うか、どこかで調べた方が良いと思う。

 二位は俺たちで、やる気のないクラスメイトたちのわりには、上出来すぎる。

 三位は、梶原と楠本のクラスになる五組だった。

 二人ともリレーに出ていたし、俺が思っている以上に、あの二人は、良い友人関係になっているようだな。


 午後は、完全に観客気分で見ていた。

 教師のリレーでは、我がクラスの岩本先生が良い走りを見せ、中々の健脚ぶりをアピールしていた。


 借り物競争に出た木戸は、予想外と言っては失礼かもしれないが、他のクラスの生徒たちから声援を送られ、なぜか上杉を連れてゴールをした。

 後で、どんな借り物の内容かと、尋ねたら『妹大好き』と書いてあったらしい。

 上杉は、確かに『妹大好き』だが、木戸が、そのことを知っていることの方が意外だった。

 養成所でも、一緒にいる時間があるから、よく話しているのかもしれないな。

 木戸と上杉の関係は、そんなところだと想像もできるが、『妹大好き』と書いた実行委員の趣味が気になってしまった……。


 部活対抗リレーでは、二村先輩が、走ったが、あまり走るのは、得意じゃなかったようで、やはり、運動部の圧勝となってしまった。


 最後は、組別対抗リレーで、学年を超えて、リレーをする。

 我がクラスは、こちらでも二位になり、組別総合二位となった。


 そうして、閉会式となり、体育祭は終わった。

 それから、実行委員会と生徒会メンバーで後片付けをして、明日の文化祭に備えることになる。

 土曜日は、生徒のみで、日曜日は、学外からの来場者がやって来る。

 俺の母親の講演会は、日曜日の予定だ。


 ほどほどに頑張って行こう!


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