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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第二章 新たな出会いたち
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第三七話 未来とスイカとドバイな先生

 未来とスイカとドバイな先生


 九月四日の月曜日の昼休み、生徒会室で昼食を頂いている。


 俺の手元には、夏休みの生活態度のアンケートの集計結果がある。

 昼食を食べながら、軽く眺めているが、特筆するほどの内容ではない。

 このアンケートは、金曜日に集められその後の授業後に学年議員団が、集計してくれた物だ。

 それを、俺たちは、ただ受け取り、保存用の書類棚に納めるだけとなる。

 簡単すぎる作業だが、保存棚のどこに納めるか、知っておかないといけないので、一学期にやっていた書類整理の作業が役に立つことになる。


「ぴょん吉、何か気になることでもあったか?」

「いえ、特に気になるほどのことはないのですが、こういうアンケートが、何年か後に役に立つのだろうな、と考えていました」

「どう役に立つんだ?」

「そうですね。多分、このアンケートの内容って、俺たちが言うのも、何ですが、デタラメばかりだと思うんです。ですが、今のアンケートと二〇年後のアンケートを比べたなら、かなり違いが出ているんじゃないかと、考えていました」

「デタラメでも?」

「はい、デタラメでも、人の意識は、徐々に変わりますから、時代の流れで、内容が変わって行き、人の意識の変化の状況を知ることが可能になるのでしょうね。信也君が親になって子供たちが同じようなアンケートを書いたなら、かなり変わっているかもしれません」

「うーん、わからなくはないな。俺たちの子供世代が、高校生になった時、同じ内容のアンケートをデタラメに書いたとしても、内容は、確かに変わっていそうだ」

「和美さんは、未来を時代設定にした演劇を見たり、台本を読んだことは、ありますか?」

「うーんっとね……」


 和美さんが話した内容は、未来の博士とロボットの助手の話だった。

 小説から台本になっている物で、人と見分けのつかないロボットを博士が開発する。

 完成したロボットは、博士が亡くなるまで、博士の助手として一緒に居続ける。

 博士が亡くなった後も、博士の研究を引き継いで、世に博士の研究成果を発表する。

 だが、そこから、ロボットは、上手く行動が出来なくなる。

 今までは、博士の残した研究をするだけで良かったが、これからは、何をしていけば良いのか分らなくなってしまったのだ。

 最後のシーンは、博士が眠る墓の前で、ロボットが佇んでいる様子で、終わるそうだ。


「その後のロボットが、どうなるのかが、不明なところが良いですね」

「うん、私も、あえてその先がないのが好き」


 博士と助手を題材にした物語は、いくつかある。

 時代を超えて愛される設定を一番初めに考えた人は、偉大な人物だと思うが、その題材で、見事な作品を残した人物たちも素晴らしいと感じてしまう。

 良い設定は、人の意識や時間を超えて、残って行くのだろうな。

 俺たちと価値観が違う子供世代でも、歌い続けられる、そんな一曲を作ってみたくなる。


「あっくんは、どんな未来が来てほしいですか?」

「うーん、そうだな。3Dの映像とかゲームがあるだろう。ああいう世界の中に入って、ゲームは、もちろんとして、仕事や勉強が行えるようになっている世界が良いな。そうしたら、移動するためのエネルギーが減るから、いろいろと必要不可欠な物の入手が楽になるかもしれない。でも、経済の構造が、変わる可能性もあるから、そういうところは、上手く調整しておいてほしいかな」

「ゲームの世界に入るのですか……、楽しそうですが、難しそうな技術なのでしょうね」

「多分だが、二〇五〇年辺りまでには、試験くらいは、可能になるかもしれない」

「今から五五年後ですか。長生きをしなきゃいけませんね」

「そうだな。どうせなら、宇宙に人が住み始める時代まで、長生きをしてみたい」


 それから、書類をしっかり保存棚に収めて、昼休みは、終了となった。



 この高校には、エアコンが完備されているのだが、残暑の厳しい季節である九月上旬は、あまりエアコンの利きが良いとは言えない。

 体調管理の一貫かもしれないが、全体的に温度を下げすぎないようにもしているようだ。


 授業が終わり、軽音楽部の部会のため、第二音楽室に向かう。


「二村先輩、おつかれさまです。今日も暑いですね」

「ああ、ちょっと桐山、何か涼しくなるような曲を、ピアノで弾けないか?」

「ピアノは、エアコンでも扇風機でもないんですよ」

「わかっているんだが、何とかしてくれ」


 確かに第二音楽室の室内は、エアコンが動いていなかったようで、やたらと暑い。

 おそらく、午後に入ってからこの第二音楽室をどこのクラスも使っていなかったのだろう。

 だが、冷える曲なんて、知らないぞ……。

 でも、何か弾くだけ、弾いておこう。


「それなら、ドラムの準備が終わってから弾き始めます」

「ああ、俺が代わりにやっておくから、部員のために今から頼む」

「了解です。ドラムの方、お願いします!」


 さて、何を弾くかな。


 ピアノを開けて、軽く流す。


 冬っぽい曲よりも、あえて夏っぽい曲が良いだろう。


 そうして、軽いリズムのジャズの名曲を選んだ。


 この曲は、日本語に直訳すると『スイカ男』となる曲だ。

 本来は、『スイカ売りの男』になるそうだが、俺としては『スイカ男』と言うようなタイトルが、この曲のコミカルな雰囲気に合っていて日本人には受け入れやすい気がする。


 俺は、この曲のタイトルを初めて聞いた時、幼い日に見たテレビ番組に出ていたキャラクターのことを思い出した。

 幼い頃なので記憶はあいまいだが、有名なコミックバンドのメンバーで超一流のコメディアンが、スイカのオバケの様な姿になり、出演者たちを追い掛け回すホラー風のコントをやっていた。

 そのコントに出てきたスイカのオバケが、怖すぎて、何かに隠れながら見ていた記憶がある。

 あのオバケが一体何なのか、大人になってから調べたが、『スイカ人間』『スイカマン』『スイカ男』などと呼ばれるキャラクターだった。

 そのキャラクターは、スイカの食べ過ぎで、怪人になった姿だったらしい。


 記憶の中にあのオバケの映像は、ほとんど残っていないが、この曲のタイトルを直訳した『スイカ男』だけは、妙に覚えてしまっている。


 コミカルな雰囲気をだしながら、暑さをなじませるように、リズミカルでありながら、徐々にテンポを落としていく。

 周囲を見ると、機材の準備は終わり、部員も集まっているようだ。


 テンポを緩めながら、ゆっくりと曲を終わらせた。


「桐山、良い感じだったぞ。そういう夏っぽいのも暑い季節には、聞きたくなるな」

「俺も、この曲が好きなんで、たまには弾いてみたくなりますね」

「それじゃ、部会を始めようか」


 そうして、始まった部会では、体育祭と文化祭の話を聞くことになった。


 体育祭では、部活対抗リレーがあるそうで、部活動に関わる物をバトン代わりにして、リレーをするそうだ。

 メンバーは、二年生から全員出すそうで、直接に、俺たち一年には、関係がないのだが、全員が二年ということは、来年は、俺たちが走ることになるので、話はしっかり聞いておいた。

 基本は、バトンとなりそうな物なら何でもよいそうで、ギターやベース、シンバルをバトンにしたこともあるそうだが、無難にドラムスティックをバトンにすることになった。


 文化祭は、体育館で演奏をするバンドの数に限りがあり、二年生でも出られないバンドが出るそうだ。

 そこで、この第二音楽室を、ライブハウス風にして、演奏を文化祭の最中、ずっとやれるようにするそうだ。

 毎年の事なので、三年生も手伝い、パーテーションを使って、簡単に準備は、終わるらしい。


 他にも細かい話を聞かされたが、特に注意をすることもないようなので、二年生の指示を聞いていけば良いみたいだ。


 生徒会では、文化祭実行委員会が、承認した書類を受け取るだけなので、窓口業務の一部を受け持つだけになる。

 軽音部の話は、毎年同じらしいので、特に問題はなさそうだ。


 部会が終わり、俺たちのバンドの練習時間となる。

 悪夢の『ディアー』は、それっぽく仕上がったので、悪夢の違う曲に変更して、文化祭までに仕上げることになった。

 正直なところ、曲を覚えるサイクルが、かなりスローペースになっている。

 誰が悪いかって?

 俺が悪い!

 このバンドのメンバーでブラウンミュージックに連れて行っていないのは、白樺だけになる。


 だが、それで良い。

 明らかに、一学期の頃よりも腕を上げているメンバーの音は、皆の成果を感じられる。

 上杉のヴォーカルもここに連れてきた時よりも、はっきりとして、聞きやすくなっているし、喉のダメージもコントロールしているようだ。

 ベースの梶原の音も、キレが良くなっている。

 楠本の音は、指の動きが巧みになっているようで、反応速度のような物が、一段上がったように聞こえる。

 白樺は、元々、楠本より若干、上手い様子だったが逆転してしまったようだ。

 力の入れようの違いが、出てしまったな。


 一曲軽く流したところで、白樺が、疑問を投げかけてきた。


「皆、どうしたの。一学期と別人みたいに上手くなっているよ?」

「特訓の成果だな」

「カジくんたち、僕を誘わないで、特訓をしていたの?」

「いや、誘うというか、シラくんは、そういうの苦手かなとおもって、話に上がっていなかったようだぞ」

「うー、確かにギターを弾くのは、好きだけど、ごちゃごちゃしたのは、苦手……」

「そう、そのごちゃごちゃした感じになっていたんだ。正直なところ、俺もどうなって、今の状況になっているのか、よくわからん。キリくん、どうよ?」

「えっとな。俺が悪い。シラくん、すまなかった。誘うためにもいろいろと段取りがあって、本当に、ごちゃごちゃしているんだ」

「そんなに?」

「ああ、かなりの面倒な状況だ。俺が、家の仕事って言っていたこと、何度かあっただろ。あれが絡んでいる」

「ああ、それは、僕には、無理っぽい。なら、仕方がないと納得する」

「部活は、皆、楽しみたいんだ。だから、シラくんを除け者にすることはない。それは、絶対だ!」

「わかった。キリくんが、そこまで言うのだから、信じる」


 そうして、何度か弾いているうちに、二村先輩たちのバンドと交代することになった。


 白樺のことは、気にしていたのだが、向き不向きがあることをしているので、どうにもならないし、白樺のために、何かをするつもりもない。

 俺は、決断が鈍いのだろうな。

 常に迷っているようなところがある。

 もっと心を強くさせないと、いけないな……。



 大江と矢沢がフォークソング部の練習場としている二年一組に行く。

 梅雨時から使っているギタレレは、持ち運びに便利なので、二学期になっても使うことに決めてある。


「おいす、桐山、ちょっと見てみ!」

「どうした……、おお、Fコードを使って次のコードにしっかり繋がっている!」

「夏休みの間に、これだけは、何とかしようと頑張った」

「感動すら覚えるな。矢沢もなのか?」

「うん、僕も大江と一緒に、練習していたんだ」


 二人とも、奇麗なFコードを使い、次のコードへ繋げている。

 四月からやっていて、今頃か、と思うかもしれないが、Fコードをアコギで、綺麗につなげていくのは、本当に難しい。


「それじゃ、これからは、自由に弾くか?」

「うーん、桐山がくれたカセットテープ、あれがすごく参考になったから、また作ってくれないか?」

「少し時間は、かかるかもしれないが、また作って来る」


 秋や冬をテーマにしているような曲を、選んでおこう。

 そうして、俺もギタレレで、参戦して、二人と一緒に、ギターを弾いていった。



 全体下校時間が近くになり、帰りの準備をしていると、ドバイ先生が現れた。

 どこに行っていたのか、わからないが、一学期よりも日焼けして、本当に西アジアの人にしか見えないぞ……。


「桐山君、ちょっと良いかな?」

「はい、大丈夫です」


 手招きをしているので、教室を出てドバイ先生と向かい合う。


「一学期の初めに話していた君のお母さんを文化祭の講演に呼ぶ話がまとまった。根回しに時間がかかってしまったが、事務所側が、許可をだしてくれるなら良いという話になった。君の口から、今日にでも、お母さんに話しておいてくれないか?」

「確認ですが、あの時言った取材や妹の話は、通ったのでしょうか?」

「ああ、大丈夫だ。しっかり取材をしてもらえるようにしたし、妹さんのこともあちらの中学校に連絡を入れて、本人が望むならと言う話でまとまっている」

「ありがとうございます。あの頃と事務所が変わっていますが、日程が空いていたなら、大丈夫だと思います」

「ちなみに、どこの事務所になっているのか、聞いているかな?」

「ブラウンミュージックエージェンシーです」

「以前のところと比べると、随分な大手じゃないか!」

「そのようです。ですが、いろいろとやりやすくなったとも、聞いています」

「そうなのか。調べなおすところから始める必要があったが、桐山君のおかげで、すぐに連絡が取れる。助かった」

「それでは、今日、帰ってからすぐに話しますね」

「よろしくお願いする」


 文化祭は、十月の第四週だったか。

 母親のスケジュールは、知らないが、忙しくしている様子はないから、空いていることを願っておこう。


 それから、大江と矢沢と共に、帰路に就いた。


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