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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第二章 新たな出会いたち
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第二七話 ロッキュー会長

ロッキュー会長


六月一四日の水曜日の昼休み、生徒会室で昼食を摂りながら、俺は、佐々木先輩と向かい合い、話を聞き続けている。


「生徒会の仕事で、大きなイベントを挙げるなら、二つある。一つは、秋の体育祭と文化祭の祭イベントだな。もう一つが、春の卒業式、入学式、部活動の予算決め、部活紹介の入学イベントだな」

「近いところですと、リーダー合宿になるのですよね?」

「まあ、あれは、イベントと言うよりも、遊び半分の研修旅行みたいな物だな。夏と冬にあるリーダー合宿は、近隣の姉妹校と合同で、楽しく学ぶ旅行だと思っておけ」

「後は、激励会や壮行会とかでしょうか」

「その辺りは、突発的なイベントだと思えばよい。実際、生徒会が率先して動くというよりも、教師や同窓会の方々が動くことが多い」

「なるほど、イベントは、そんなところでしょうか」

「秋の体育祭と文化祭は、学年議員団から体育祭実行委員会と文化祭実行委員会を選出してもらい、実質な運営は、そちらに任せることになる。生徒会としては、資料作成と予算管理、当日の見回り、こんなところだな」

「春はどうなのでしょう?」

「春は、部活動の予算決め、卒業式、入学式、部活紹介だ。部活動連絡会が予算決めはほとんど行う。だが体育系が多く持っていく傾向があるからその辺りの調整だな。卒業式、入学式は、式の準備は、もちろんなんだが、来賓客が来るから、そういう方々への対応が主になる。部活紹介では、全体の仕切りをすることになるが、部活動連絡会が、主に動くから、トラブルが起きないように、見守るのが仕事だな」

「なるほど、他に気にするところは?」

「まあ、覚悟はしているだろうが、クレームだな。何をやろうと、大体クレームがくる。まともに相手をしていたら、話にならないクレームばかりだから、いざとなれば、教師に投げてしまえ」

「わかりました。生徒会の主な仕事は、資料制作、予算管理、来賓対応、その他準備とクレーム対応になるのですね」

「そんな感じだな。とにかく困ったら、教師に投げる、学年議員団に投げる、部活動連絡会に投げる、そんなつもりでいると良い」

「その他、注意をすることは、ありますか?」

「そうだな。生徒会活動にのめり込まないこと、成果を残そうとしないこと、変化を望まないこと、こんなところか」

「それは、深いですね。一つ目は、理解できます。生徒会から離れた時の喪失感が怖くなりそうです。成果を残さないというのは、誰かが必要以上な動きをすると、思わぬところに歪みが出ると言ったところですよね。変化をのぞまないのも同じようなところでしょうか」


保守的な生徒会運営だと思われようと、無理をして痛い思いをするよりは、堅実な考えを俺は、支持してしまうな。俺が、本当の一五歳なら、また違う考えが生まれたかもしれないが、今は、これで良い。


「そうだな。今の三つを意識していれば、問題なく一年が過ぎるだろう。もし、何かをしたいときは、高校側よりも大学側に相談しろ」

「はい、そうします。そういえば、担当教師の先生は、どなたなのでしょうか?」

「ああ、それな、校長先生が担当している。四月の終わりまではいたんだが、五月からは、なぜか校長先生になってしまった」


裏口入学騒動で、担当教師は、解雇されたか……。


佐々木先輩の話は一息つき、昼食を、美鈴から頂いて、済ませていく。


正直なところ、俺は、高校を変えようとか、そういう気がまったくない。

さすがに、悪くなるのは、こまるので、そこは現状維持か、良くさせる方向に考えるが、美鈴が暗躍しているようなので、あまり心配をしていない。


「あっくん、まずは、手を付けたいことって、ありますか?」

「そうだな、秋の祭イベントの実行委員会を一学期中に編成しておきたい」

「なぜです?」

「リーダー合宿には、学年議員団も参加するんだよ。どうせなら、この時に、同じチームで動いてもらえば、団結しやすくなると思うんだ、それに高校時代の思い出って、大人になっても印象深く残ると思うんだ。リーダー合宿に参加するメンバーは、慶大に進学する生徒が多いから、一生ものの友人を作れる機会は、大事にしてあげたい。信也君、どう思います?」

「おう、俺か。そうだな、確かに思い出作りは大切だ。お前の事もよく覚えているぞ。ぴょん吉!」

「まだ俺、ぴょん吉なんですか……」

「土曜日から新たなあだ名が、加わったぞ。ロッキュー会長、これも良いな」


ぴょん吉というのは、中学の頃に一部で広がっていた俺のあだ名だ。

中学一年の時、中学生になりたての俺は、校内探検をしていた。

そんな中で、古き良きヤンキー先輩たちが集うエリアに立ち入ってしまった。


そこで、ヤンキー先輩たちは、俺にすごんできて、何かをしろと要求してきた。

暇をしていたヤンキー先輩たちの戯れに付き合うことになった俺は、困り果てた。

そこで、おれは、なぜか昔のアニメで、ぴょん吉という名前のカエルが出てくるアニメのOPを全力の声で歌い切った。


先輩たちは、大いに喜び、ヤンキー先輩たちからぴょん吉というあだ名を頂くことになってしまったのだ。

それ以来、地元のヤンキー先輩たちとは、仲良くしている。

カツアゲやらの無茶な要求をされたことはないので、良い関係が作れていると思う。

大人になってからも、ヤンキー先輩たちとは、地元に帰った時、会うことがあったので、本当に良くしてもらっていた思い出しかない。

そして、なぜか、その場に、この信也君もいた。


ちなみにだが、俺の地元では、先輩と呼ぶことは、殆どなく、上級生には、君かさん、同級生と下級生には、呼び捨てが基本だ。

そういう経緯があるので、本多先輩と呼ぶのは、かなり抵抗がある。

一応、信也君からは、先輩呼びにした方が良いんじゃないかと言われたが、何か関係が変わる気がして、あえて君付けにさせてもらっている。

もちろんだが本人も了承しているので、問題はない。


そして、ロッキュー会長は、土曜日の生徒会選挙でイギリスのロックバンド、メイクィーンの名曲『ロック ユー』をうたった結果付いたあだ名で、この曲の印象深いフレイズに『ロック ユー』と歌う部分があるのだが、そこがどう聞いても、ロッキューと聞こえてしまうのだ。

そうして、月曜日から今日まで何人かの生徒に『ロッキュー会長』と呼ばれてしまった。


そんな様子を、しっかり見ていた信也君は、俺をからかっているわけだ。


「ロッキュー会長でも良いんですが、先ほどので、今日の議会、話し合って見ても良いでしょうか?」

「慣習ってのが、あるからな、話をしても良いが、事前打ち合わせだけは、しておけ。学年議長だけで良いと思うぞ」

「信也君の言う通りにします。今日の授業が終わった後、議会の前に学年議長の方々、ここに来るんですよね?」

「ああ、その予定だ。あっちも一言、事前に挨拶くらいはしておきたいだろうからな」


「わかりました。それと、皆さんに聞いておきたいんですが、皆さん部活ってどうする予定なのです?」

「俺は剣道部だが、月曜日と金曜日に行く予定になっている」

「私は文学部だから、自由参加だね」

「私は演劇部だから、基本は、信也君と同じかな。文化祭付近は、抜けることが多くなるかもしれない」

「俺は、部活に入っていないから、気にするな」

「私は、毎日、こちらで授業後は、何かをすると思います」

「俺は、家の仕事の手伝いをしなきゃいけないので、基本は信也君と同じにしますね」

「まあ、会長だからといって、ここに詰めておく必要はないからな。ぴょん吉の家って、店とかだったか?」

「いえ、都内で、ちょっといろいろやってます」

「そうか、まあ、昼に毎日、顔を合わすようだから、問題はないだろう」


信也君は剣道部、常ちゃんさんは文学部、和美さんは演劇部、堀江君は部活無し、美鈴も部活無しか。

この呼び方は、以前の俺が、この先輩たちを呼んでいたときの呼び名だ。

間違ったらいけないので、月曜日から徐々に慣らして、許可を取ってある。


常ちゃんさんは、下の名前を呼ばれるのが嫌いで、名字で呼ばれたい人だ。常ちゃんと呼ぶのは、何か違う気がしてこうなった。

大学に行っても、しばらくは交流のあった先輩なのだが、この先輩は、グラビアモデル並みのスタイルをしている。

内に秘められた思春期の複雑な俺の心よ、暴れてくれるなよ。


和美さんは、ここで会うことはわかっていたが、実際に会うと、いろいろと思い出してしまう相手だ。

以前の俺が、初めて付き合った人で、高校一年の秋の終わりから春の終わりまで一緒にいた。

そういう相手なので、恋人関係の以前は、和美先輩、恋人関係になってからは、和美、別れてからは、和美さんと呼んでいた。

この人とも、卒業してからも連絡を取っていた人になる。

卒業後は、関西の大学に行くので、最後に会ったのは、大学二年のころだったか。

この時間軸では、美鈴がいるので、間違いが起こることはないが、いろいろと気にしてしまう相手だな。

今思うと、和美さんの清楚系なところは、美鈴と似ている気がする。俺の初恋は、もしかしたら美鈴だったのかもしれないな。


堀江君だけは、ここでしかまともに話したことがない人で、生徒会からはなれた堀江君と話したときに、何か別人のような感覚を覚えたので、それ以来、交流が無くなっている。

悪い人じゃないのだが、スイッチの切り替えが早い人なのだと思う。


そうして、美鈴は、さっさと俺との関係を幼馴染と皆に告げ、俺をあっくんと呼び、俺からもスーと呼ぶように言ってきた。

弁当もそういう関係なので、美鈴が用意していると、さっさと告げている。

電光石火というのか、先制攻撃が強すぎます……。


一番驚いていたのは、もちろん信也君だ。

同じ中学出身なのに、俺の幼馴染の存在を知らなかった信也君は、なぜ黙っていたと軽く憤慨気味だった。


「じゃあ、今日の議会で、俺たちは、正式に生徒会から降りることになる。ここには来るが、あまり心配をかけるなよ」

「はい、できる限り、やってみます!」


佐々木先輩を交えた生徒会メンバーでの昼食会が終わり、それぞれの教室に戻る。


俺が学年議員団にいた間の生徒会は、大きな出来事は、なかった記憶がある。

むしろ、学年議員団の方に、問題があったのを覚えているくらいだ。遠足に使うバスの予約を担当教師が忘れ、電車で遠足に行ったのは、よく覚えている。

さらに、昼食は、遠足先で、だしてくれるという話で向かったら、ひどい昼食で、クレームの嵐がやってきたのは、本当に本当によく覚えている。

あの教師も裏口入学騒動でいなくなったようだな。

もしかしたら、遠足にかかる代金を、横領していたのかもしれない。


授業が終わり、生徒会室に急いで向かう。


今日の資料は、何もない。

主に俺たちの顔見世と佐々木先輩たちの交代式だけだ。

だが、俺が議題を投げかけることになるので、どうした物かな。


生徒会室に一年の学年議長の矢野が、現れた。

こいつな、顔は良いんだが、強きになびき弱きをくじくっていう性格なんだよな。幸いと言うべきか、俺の記憶では、慶大に入れるだけの学力はないはずなので、ここだけの付き合いになるだろう。


「お、ロッキュー会長、土曜日は、かっこよかったぞ」

「おう、ありがとよ。学年議員団の方はどうだ?」

「うーん、慣れてきた五月の頭に突然、担当教師が変わってな。多少混乱もしたが、今は落ち着いている。そっちは、どうだ?」

「まあ、会長になりたてだから、何とも言えないが、佐々木先輩からは頑張りすぎるなと、言われている」

実は、この会話が、俺と矢野の初対面であり、初会話である。恐ろしいコミュ力だ……。


「ああ、そういうの大事だよな。ロッキュー会長のクラスの水野、あいつすごいんだよ。一人で何でもやってしまうから、つい甘えてしまう。あいつにも頑張らないように言ってほしいくらいだ」

「うちのクラスの自慢のママだからな。だが、確かに良くないな。それとなく言っておく」

「ママか。あいつらしいあだ名だな。そういえば、美鈴様、どんな人なんだ?」

「……、私がどうかしたのですか?」


ここで美鈴様登場か。矢野、気の毒に。


「あ、いえ、何でもないです」

「矢野、他の学年議長も来てくれるはずだから、少し待っていてくれ」

「……、わかった」


それから生徒会メンバーと学年議長の三人が集まったところで話を切り出す。


「今日の議会なんですが、僕らの顔見世と、前生徒会からの交代式、それと追加で、二学期の体育祭実行委員会と文化祭実行委員会を決めたいと思うのです。どう思われますか?」

「それは、どういう意図で、提案している?」


二年の武藤先輩だったな。

「リーダー合宿が夏にありますよね。その時に、班を決めると思うんです。事前に実行委員会を決めておけば、まとまりやすいと思ったのです」

「なるほどな。悪くはない。松井先輩、どう思います?」

「うん、僕もそれで、良いと思うよ。今回で決めてしまうつもりかな、それとも、次回まで決める告知だけにするのかな?」

「そうですね。どちらが良いと思います?」

「うーん、僕は、告知だけして、次回に決めるパターンが良いかな。突然、去年と違うやり方を言われても、戸惑う人もいるかもしれないから」

「武藤先輩と矢野君は?」

「俺は、松井先輩と同じだな。告知だけにした方が良い」

「松井先輩と武藤先輩に、同意します。それで行きましょ」

「では、そうします。ありがとうございました。第二会議室に移りましょう」



第二会議室は、普通の教室に長いすとパイプ椅子が置かれた部屋になっている。

普通の教室なだけあって、広さはそれなりにあるので、生徒会室では、手狭な作業をする時もこの教室を使う。


今日は、三学年の学年議員団と各部活動の部長が集まっている。


特に何事も起きることなく、俺たちの自己紹介と、佐々木先輩たちの後退式が終わり、次回の議会で、実行委員会メンバーを決めることを告げた。

佐々木先輩たちには、花束が贈られ、こういうものは、良いものだと、しみじみ思った。

そして、一学期内で、実行委員会を決めることは、通例ではないので、少し驚かれたが、リーダー合宿の時に動きやすくするためと説明すると、むしろ歓迎された。

幸先の良い出だしのように感じる。

その他、突発的な議題もなく、議会が終わろうとしたとき、佐々木先輩が、突然、会議室にいる皆に話し始めた。


「今日で俺たちの生徒会は、解散になる。ありがたいことに、こんな花束までもらった。だが、どうせなら、もう一度、新たな生徒会長のあの歌を聴いてみたい。皆もそう思わないか?」


おい、佐々木先輩、なにいってんだ!


花束を床に置いた佐々木先輩は、ドンドンパン、をやり始めた。

他の前生徒会メンバーも、床に花束を置き、ドンドンパン、とやり始める。


会議室の皆も、同じようにやり始めてしまった。


こうなると、やるしかないよな……。

マイクがないため、のどが心配なので、比較的のどに優しい声楽風の歌い方で歌うことを決める。


「それじゃあ、歌うぞおお、ロッキュー!」


ドンドンパン!

ドンドンパン!


いつのまにか、会議室の最後列にいた校長先生まで、ドンドンパン、をしている……。


ドンドンパン!

ドンドンパン!


「……、前生徒会の皆さん、お疲れさまでした!」

「おう、ありがとよ!」


来年は、何を歌うべきだろうか……。

いや、また突然、どこかで歌うこともあるかもしれないから、アカペラで歌える曲を思い出しておこう……。


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