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平成楽音立志譚 ~音楽の呪縛を祝福に~  作者: 星野サダメ
第二章 新たな出会いたち

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第二二話 五月突入

 五月突入


 五月一日の月曜日、長かった四月が終わり、以前の俺の記憶にある高校生活とは、全く違う高校生活になりつつある。

 曲作りは、二曲を先行して作ったおかげで、どこをどうしたら良いのかが、何となく分かるようになっており、順調と言えるだろう。


 BMAとの契約は、事務所の担当者が、母親と契約内容を詰めてから、俺に最終確認をさせるという流れになるらしい。

 そして今、俺は、思い出してしまった記憶について、悩んでいる。


 2000年代から2010年代に活躍する声優であり、歌手でもある人物が、俺と同世代なのだ。

 彼女は、高校入学から上京して、芸能人が通う高校で有名な堀学園高校に、現在通っているはずだ。

 だが、彼女が所属する事務所は、おそらく来年、潰れることになっている。

 その後も彼女の苦難は続き、二〇〇〇年代に入るかどうかというところで、芸能人らしい仕事が入り始めるが、それでも一部のファンが支持する程度の時代が続くはずだ。


 数いる歌手の中で、彼女に注目する理由は、彼女が幼いころから歌い続けてきた音楽が演歌や民謡が多く、和風の音階をこの先の得意ジャンルとして行きたい俺との相性が、良いと考えたからだ。

 現代音楽に和風の要素を加えることは、慣れて行けば、何とかなるようなので、彼女のための曲を、ぜひ作ってみたい!


 もう一人、同じような理由で気になる同世代の歌手がいる。

 学年は、おそらく一つ下になる。

 今は、中学三年生で、大阪にいるはずだ。彼女も民謡や演歌を得意ジャンルにしていた人物で、デビュー曲は、関西限定で発売され、それなりのセールスをだして、東京へ進出してからも、順調な芸能活動を続けていくのだが、ある日突然、彼女の話を聞かなくなる。

 海外へ留学をしていたとか、結婚を前提に付き合っていた人物がいたので、活動を自粛していただとか、いろいろ憶測は、あったが、真相は、よくわからない。

 だが、ある日突然、またメディアに出始めたので、俺の知らないところで、活動していたのだろう。


 堀学園高校の彼女は、いろいろと面倒な状況に巻き込まれていたという話も聞くので、対応するなら、いましかないな。

 大阪の彼女は、まだ余裕があるが、どちらも呼べないか、話をするだけはしてみよう。



 高校に到着し、教室に入る。


 中川が、登校しなくなってから、まだ実質、二日目なんだよな。

 元中川一味たちは、虚勢を張っているが、彼らが、本来どういう性格をしているかも、未来の記憶で分かっているので、もう気にする必要もない。

 教室は、安全地帯になってしまったな。ピリピリしたあの感覚も、嫌いではなかったのだが、平和が一番だよな。


 親友三人組と同じグループの皆に挨拶をしてから、しばらく雑談をしていると、岩本先生が入ってきたので、自席に着き、本日の予定に取り掛かる。

 ホームルームの時に、岩本先生が、来週末にオリエンテーション合宿をするから、準備をしておくようにと言う話をした。

 裏口入学騒動で、大変な時でも、やるべきことはするのか……。


 本来は、入学直後にするはずのオリエンテーションを五月に入ってからやることになった理由は、しっかりある。

 この合宿で訪れる合宿所が、富士の裾野にあるのだ。

 例のカルト教団の施設が、近くとは言わないまでも、そう遠くはない場所にあり、三月末の時点で、あの地域に不安があるという理由で、オリエンテーションが延期になったという経緯があった。


 いまさらオリエンテーションといっても、盛り上がることはなく、すでに固まったグループで動くだけだ。

 一日目は、皆でハイキング的な散歩をして夜には、大学創始者が残したありがたいお話を聞く。二日目は、近所にある湿地で珍しい植物の観察会をしてから、お手軽キャンプ的なカレーライス作りをして、それを頂いてから、すぐに帰路に就くという流れだった。

 翌日は、振替休日になるが、その週からテスト習慣に入るので、来週のオリエンテーション合宿に行く前には、ある程度、テスト準備をしておかなければならない。

 はっきりいって、迷惑な日程だ!


 以前で学年議員団に入っていた俺は、この状況を創り出した理由も聞いていた。

 結局のところ、予算の問題らしい。与えられた予算をしっかり使っておかないと、次年度の入学者との不平等が出てしまうので、こんなことになってしまったとのことだ。


 正直なことを言えば、テストの方が今の俺は気にする立場なので、オリエンテーション合宿なんて、どうでも良いのだ。

 ちなみに、以前の俺は、この合宿を契機に、本格的な中川一味との対立関係が始まるので、それが起きないことは、ありがたいのだがな。


 昼休みになり、美鈴のところへ向かう。


「金曜日は、ありがとうございました。皐月さんとも、しっかりお話ができましたし、あっくんが、事務所に所属することが決まりました。スーは、とてもうれしいのです!」

「ああ、良い方向に、話が動いているようだから、俺も嬉しい。この先、紀子さんと同じように、美鈴のお祖父さまとお父様も、俺は洋一郎さん、康仁さんと呼んだ方が良いよな?」

「お父様は、それでも良いと思いますが、お祖父さまは、嫌がるかもしれません。あっくんを、本当に気に入っているのですよ」

「うーん、本人に確認する方が良いか。まあ、そのうちに、また会うだろうからその時に聞こう」


 それから、昼食を頂いてから、朝に考えていたことを、美鈴に話す。

「美鈴、おれさ、うーん、うまく言えないんだけど、ひとまずは、作曲家になるわけだ。そうなると、歌手が必要になる。それで、俺が作る曲は、しばらくの間は、和風の現代音楽が多くなると思う。それでなんだが、俺たちと同世代や十代後半の民謡歌手とかそういう流れを得意にしている人を探すってことは、できるのだろうか?」

「うちの事務所の人達は、シンガーソングライターさんが、多いので、歌だけという人たちは少ないようなのです。それに、民謡やその流れをくむ歌手の方々もいますが、同世代となると心当たりがありません。養成所では、そういう歌い方を教えていないので、そちらも無理ですね。ですので、あっくんの要望は、理にかなっていると思います」

「少し具体的になるんだが、堀学園高校に通っている生徒をBMAに連れてこれないか?」

「あの高校の芸能コースの生徒は、無所属では、入学が難しいようです。そうなると、引き抜きになりますので、お金がかかりますね」

「経営困難に陥っていそうな事務所なら、どうだ?」

「あっくんのような作曲家ならともかく、本格的に芸能活動を目指している方は、所属しているだけでも、お金がかかります。そこを交渉材料にしたなら、上手く行けるかもしれません」


 いけそうだな……。


「美鈴、今から言う名前を、なぜ知っているかを聞かないでほしい。良いか?」

「あっくんの秘密ごとは、DVDの時によくわかりました。秘密にします」

「おそらく、本名は秋山加奈、芸名は水城加奈、この人物を探してほしい。堀学園高校一年にいるはずだ」

「分かりました。早速手配します」

「それともう一人、今は、まだ大阪にいるはずなのだが、オーディションを幾つか受けているはずだから、探そうと思えば、探せなくもない人物だ。本名は、分からないのだが、芸名は島村仁美、中学三年生で、交渉が上手くいけば、堀学園高校へ進学させてほしい」

「彼女たちの特長は、何かありますか?」

「水城も島村も、演歌や民謡を得意としている。水城の特長は、背が低くて声が特徴的と、いろいろ分かるんだが、島村の方は、あまり分からない」

「優先すべきは、水城さんのほうでよろしいでしょうか?」

「そうだな。普通に売り出しても、難しい存在かもしれないから、時間を掛けて、決めていく可能性もあるか。水城を優先で頼む」

「あっくんの音楽を歌える、この水城さんは、恵まれているかもしれませんね」

「うーん、新人作曲家が、無理やりスカウトを走らせるような形だから、どう思われるんだろうな」

「大丈夫です。頬袋さんだって、あっくんのことを認めていました」

「そうだな。あの兄貴は、間違いなく本物だ。俺が俺を信じられなくても、兄貴の事なら信じても良いよな」

「もっと自信をもって欲しいですが、まだまだこれからですものね」



 昼休みが終わり、話すべきことは話した。

 美鈴が、あとは上手くやってくれることを願うだけだ。

 本当に、俺には、もったいない嫁さんだ……。



 午後の授業も終わり、今日は軽音部の部会だ。

 大江と矢沢に、今日は部会だからフォークソング部へ行けないと告げて、上杉を連れて第二音楽室に向かう。


 第二音楽室に入ると、すでにほとんどの部員が集まっていたようで、俺たちが入ると間もなく、部会が始まった。


「まずは、今回から、部長を俺こと二村が任されることになった。できるだけ、顔は出すが、足りないことも多いと思う。皆、よろしく頼む」


 拍手をして二村先輩の部長就任を歓迎する。


「早速だが、一年のバンドメンバーを発表していく。しっかり聞いていてくれ」


 俺たちのメンバーの変更はなく、ヴォーカルに、上杉を参加させてくれた。

 二村先輩が押してくれたのだと思うが、本当にありがたい。


 それからも発表は続いていく。

 三バンドが男子だけのバンド、一バンドが男女混合バンド、もう一バンドが、女子だけのガールズバンドとなった。

 男女混合バンドとガールズバンドには、キーボード担当が置かれ、全てのバンドに、ギターを二人置いてある。

 それと、マネージャーが二人、いることも紹介された。

 詳しくは話されなかったが、どうやら、バンド編成で、どうしても余ってしまった二人で、最もギターの腕が低かったため、入部を諦めるか、マネージャーをするかを迫られた結果、マネージャーになったらしい。

 本当に厳しい部活だが、メンバーが何かしらの理由で、抜けた時の補充要員でもある。

 当面は、音響や機材管理、外部イベントの日程調整など、やることは、しっかりあるそうなので、他のバンドよりも、俺は注目したい二人かもしれない。


 練習のスケジュールは、月曜日の部会の後に二村先輩たちのバンドとおれたちのバンドが入り、他の曜日も二年生と一年生のバンドが、一緒に入るとのことだった。

 土曜日については、相談会と、バンドを超えての交流会に設定されていると説明を受けた。


 四月の間、ほとんど放置されていたので、やっとスタートといった気分だが、二村先輩からは、まずは、一曲仕上げてからだ、と言われた。

 基本的には、それなりのレベルにならないと、校内のイベントにも、出られないが、文化祭までに、オリジナルを含めて数曲用意するのが、目標になるようだな。


「……、後は、持ち込みの機材だが、倉庫をつかうのは許可をする。だが、どうしても盗難騒ぎが起きてしまう。残念だが、それも含めて、自己責任で頼む。どこにでも悪い奴は、いるってことで、承知してくれ。お薦めの保管方法は、ハードケースに入れて、太いチェーンでしっかり固定をする、これが、一番らしい」


 これは、仕方がないとしかいえないな。イベントの時だけ、持ち込むか、それくらいに考えておこう。

 ああ、ギタレレを梅雨になる前に仕入れておきたい。

 フォークソング部に、アコギを持ち込むには、梅雨は辛すぎる。

 ギタレレなら、持ち運びも楽だから、梅雨はそれで乗り切ろう。


 部会が終ったが、早速、練習と言うわけには行かない。

 二村先輩たちは、演奏の準備を始めたが、俺たちは、これからどうするかを決めなければならない。


「まずは、リーダーを決めたいんだ。その、手前勝手で悪いんだが、家の仕事が入っていたり、もしかしたら生徒会選挙に出るかもしれない。だから、俺はリーダーは無理だ」

「そうか、キリくんなら、リーダーを任せても、だれも反対はないだろうから、惜しいな」


 梶原のいうことに、皆が同意をする。

 うーん、俺としては、梶原にリーダーを任せたいんだが、どう言えば良いか……。


「俺も皆のことは、顔見知りだが、今日から参加するわけだから、遠慮したい」

「スギくんの言いたいことは分かるが、ヴォーカルがリーダーでも良いと思うぞ?」


 いつの間にか梶原は、上杉にスギくんという呼び名を付けていたようだ。

 こういうところが、梶原の良いところなんだよな。


「そのだな。俺がリーダーってのが良かったんだよな?」

 皆が、盛大にうなずく。


「なら、俺がリーダーを指名してはダメか?」

「お、悪くはない。このまま話し合っても、時間が過ぎるだけかもしれないから、キリくんの意見に賛成する」

「俺も、それで良いと思う。キリくんが、何と言おうと実質のリーダーは、キリくんに、なってしまうのだろうから、サブリーダーを指名するってことなんだろう。的を射ているな」

「僕も、それで良いよ。僕を指名するのは、辞めた方が良いとだけ、言っておく」

「俺もそれで良い。桐山が、いろいろやってくれたから、俺は頑張れるんだから、桐山が指名したリーダーの言うことも、ちゃんと聞く」


 皆、信頼してくれるのはありがたいが、本当に、あまりバンド活動に積極的になれないんだからな……。

 白樺だけは、確かにリーダーにしてはいけないのは、分かる。こいつは、自由にさせてこそ、おもしろくなるタイプなんだろうな。


「じゃあ、カジくん、リーダーを頼む。理由は、軽音部とバンドのことを、深く考えていると思ったのと、ベースが強いバンドって、ギターも乗りやすくなるかなって思ったんだ」

「おう、俺か。同意したからには、リーダーをやらせてもらう。理由については、そう言ってもらえると嬉しく思う。ベースって、とにかく下を支えることだから、部活も含めて、どうしたら、支えられるのかを考えていたんだ。それに、確かにベースの強いバンドって、ギターがかっこいいバンドが多いよな」


 皆も、それぞれに、梶原をリーダーと認めてくれる発言をしてくれたので、これで一安心だな。


「んじゃ、ここからは、俺が仕切る感じで行く。なんだかんだ言っても曲を決める。これしかないよな。簡単なのが良いとか、その逆に難しいのからやろうとか、いろいろあるだろうから、まずは、好き放題に言い合おう」


 洋楽、邦楽問わず、いくつも曲名が上がって行く。

 その内に、ドラムの難易度は無視しても良くないか、とかいう発言が出始めた。

 まあ、今挙がっている曲なら、だいたいできるので、問題はないが、自分たちの首を絞めるなよ。


「……、それじゃ、悪夢の『ディアー』で決定、スコアと音源は、どうする?」

「カジくん、音源は、俺がある。スコアも、丁度良いから俺が買う」

「スギくん、無理しなくても良いんだぞ?」

「俺さ、皆より、一段落ちてるのに、このバンド入らせてもらった気分なんだよ。今はとにかく練習できる曲は、どんどんやりたい。だから気にしないでくれ」

「うーん、そういうなら、任せるけど、キリくんが連れてきただけの事はあるって、俺は思っているんだからな。その事は、忘れないでくれ」

「わかった。それじゃあ、音源とスコアは、俺が用意するけど、テープとコピー代は、徴収するってことで良いかな?」


 皆がそれで同意し、曲が決まった。


ディアーは、難しい曲なんだが、大丈夫だろうか。

 それにこいつら、本当に、ドラムのこと無視して考えたよな。

 あの曲のドラム、本当に難易度高いんだからな。


 それからは、改めてバンドメンバーとして必要な情報交換をしていった。

 それぞれの住んでいる地域にある楽器屋や貸し練習スタジオの情報は、もちろんとして、皆が個人練習で好んで使っているバンドの曲など、共有しておくと何かと便利な情報を交換しておいた。

 楽器屋は、店によって置いてある品が違うし、修理が必要になった時の対応なども考えておくべきなので、知っておいて損はない。

 貸練習スタジオは、置いてある機材によって、値段が違うのならまだ良いが、どう見てもギリギリ使える程度の機材しか置いていないのに、値段が高い場所もあるので、幾つも知っておけば、必要な機材によって、場所を変えることもできる。

 個人練習曲の情報は、それぞれの好みはもちろん、得意なフレーズやらも分かるので、オリジナル曲を作る時の参考になったり、どういう感じに演奏して欲しいなどの雰囲気でしか伝えようのないことを、伝える時に便利なので、意外に重要な情報となる。


 二村先輩たちのバンド練習を眺めながらそんな話をしていると、あっという間に時間が過ぎ、全体下校時間となってしまった。


 さて、今日も家に帰って作業だな……。


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