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第二話 突然の明晰夢?

 突然の明晰夢?


 ジリリリリ……

 アナログな時計のベルの音が鳴り響く。


 ベッドの上部に手を伸ばし、時計を止める。


 ん?

 俺の部屋の時計にアナログベルの時計はなかったはずだが、どういうことだ?

 ぼんやりとした頭で、止めたばかりの時計を手に取り、マジマジと眺める。

 どこかで見たような、青い縁取りに上部に二つのベルがある時計だ。


 記憶が鮮明となり、この時計が何だったかを思い出す。


 高校時代に使っていた時計だ!

 一気に目が覚めて、部屋を眺めると、学習机に、本棚が、すぐに目に入る。

 俺が寝ているのは、高校時代に使っていたパイプベッドか……。


 どうなってやがる!


 部屋を見回すと、どう考えても実家の俺の部屋だ。

 しかも、置いてある品々が、高校時代を思い出させる。


 パジャマも、記憶にある高校時代の物のようだ。

 目に入る手足も、どう見ても高校生の頃のそれにしか思えない。

 カレンダーが目に入り、まじまじと眺めてみると、『一九九五年四月』となっている。


 意味が解らん!


 いや、まて、明晰夢という夢の種類の話を聞いたことがある。

 夢を夢と自覚しながら、夢を見られるとか、そんなだったか。


 これを夢だとするなら、辻褄が合うのか。

 ひとまず、明晰夢と仮定しよう。

 だが、迂闊な行動をしたなら、現実世界の俺に、どんな悪影響が出るのかわからない。

 ここは、慎重に行動しようじゃないか。


 一九九五年四月だということは、わかったが、具体的に何日なのかわからない。

 四月三日なら、今日は高校の入学式だったはずだ。


 この部屋から出られるのかわからないが、まずは状況確認だな。


 部屋のドアノブに手をかけると、あっさりと開き、ここが、実家の二階だとすぐに理解できた。

 俺は、二階の奥の部屋を自室としていたから、この風景も納得か。


 一階に降りる階段へ近づくと、母親が料理をしている気配を感じる。

 ひとまずダイニングに行ってみるしかないな。


 一階に行き、ダイニングに入ると、母親は、俺の朝食の準備を始めたようで、一つ下の妹である美月は、朝食を食べていた。

 母親は、俺が三十歳を少し超えたころに、胃がんで亡くなったんだよな。

 生きていて、なおかつ元気な母親を見ると、思わず目頭が熱くなる。

 突然、涙を流すわけにもいかないので、ここは大人しく冷静な振りをしなければな。

 美月は、二十代後半に、職場結婚をしたんだった。

 旦那は、中々良いやつで、俺にも気を使ってくれるよくできた旦那と言う印象だった。


「母さん、美月、おはよう」

「彰おはよう。今、朝食を並べるわね」

「お兄ちゃん、おはよ。今日から高校生だね。どんな気分?」

 今日からか、ってことは、四月三日なのか?


「美月、今日は四月三日の月曜日で間違いないよな?」

「うん、緊張でもしてるの?」

「なら良いんだ。少し緊張をしているかもしれないな」


 それから、母親が並べてくれた、朝食を頂く。


 我が家の朝食は、基本的にごはんとみそ汁があり、ベーコンエッグならぬ、キャベツエッグが並ぶ。季節的にキャベツが出しにくいときは、葉野菜のお浸しと目玉焼きとなる。

 キャベツエッグは、千切りにしたキャベツを軽く炒め、その上に卵を落として、少し水を入れてから蓋をする。

 基本的に半熟だが、塩でもしょうゆでもソースでも、どの調味料でも大体いただける。


 入学式ということが分かったので、あまり朝食に時間をかけているわけには行かない。


「彰、入学式は、母さんがいくからね。一緒に行きましょう」

 我が家の主たる父親は、単身赴任をしており、年に数回しか帰ってこない。結局、俺が大学を卒業したころに、帰って来たんだよな。

 海外を含めて、何か所も単身赴任を続けた父親の心境は、わからないまま逝ってしまったんだよな。

 母親が亡くなって、間もなくの頃に亡くなったから、離れていてもそれなりに、思い合っていたのだと信じたいところだ。


「母さんが、行くってことは、車を出してくれるってこと?」

「そうね。校庭を駐車場に解放してくれるらしいから、遠慮なく使わせてもらうわ。朝食が済んだら、早く着替えてきなさい」

「わかった。準備を始めるよ」

「美月も準備を始めなさい」

「はぁい。私は普段通りだから、のんびりだよー」


 それから、歯磨きや洗顔を済ませる。

 洗面台にある鏡で、自分の顔をまじまじと見るが、やはり高校時代の俺にしか見えない。

 昨晩、寝る前に考えていたことは、東京オリンピックと音楽の呪縛の事か。

 東京オリンピックは、音楽の呪縛を久しぶりに実感する切っ掛けのような物だったかもしれない。

 それで、音楽の呪縛が、気になったのだろう。

 例えば、音楽の呪縛を、素直に受け入れた未来があるとしたならどうだったのか、それは呪縛ではなく、音楽の祝福と言えるかもしれない。

 そんな過去を夢に見たくて、こんな明晰夢を見ているのか?


 よくわからないが、この夢を、無難に過ごして目が覚めるのを待つしかないか。


 それから髪やらも整え、自室に入り、おそらく昨晩の内に準備をしてあった、壁にかかっている制服を身に着けていく。

 高校一年生は、まだ成長の余地のある体だから、制服に余裕があるようだ。

 遠い記憶を引っ張り出し、制服をしっかりと着込んでいく。


 緑のブレザーに、白いシャツ、ネクタイは、学年を表していて、俺の学年は、青色だったな。

 グレーのスラックスに、無地の白い靴下、後は、ハンカチやらもブレザーに入れて、カバンの中身をチェックする。

 いわゆる革張りで長方形の学生カバンを開けて、中身を見ると、昨晩の内に必要な書類やらはすべて準備済みのようだ。

 軽く中身の確認だけをして、記憶との齟齬がないことも確認し、学生カバンを閉める。

 その他の上靴なども確認して、準備完了となった。


 さて、カバンやらを持って、一階に行くと、母親は、入学式用の着物に着替えていた。

 そうなんだよな。この母親は、和楽器奏者だけあって、着付けもあっという間に終わらせてしまう。

 俺も、多少だが、着付けの心得はあるので、男物なら、一人で着れてしまう。


 リビングで、母親のメイクを待つ間に、新聞を流し見する。

 カルト教団からの逃亡者のネタが多いな。

 新聞にある日付は、間違いなく一九九五年四月三日月曜日とあった。


 明晰夢なら、早いところ覚めてほしいが、いつになったら目覚めるんだ……。

 このままとりあえず、入学式に行くしかないようだな。


 母親の準備が終わり、外に出る。

 記念ということで、家の前で、美月がカメラを持ち、俺と母親で、まずは一枚、次に母親がカメラを持ち、俺と美月でさらに一枚、できあがった写真は、父親に送るそうだ。

 このころは、デジタルカメラ自体は、存在していたようだが、普及はあまりしていなかったんだよな。

 ウィンドウズ95が今年の秋ごろから普及し始めるから、いわゆるIT革命直前の時期となるのかもしれない。

 この時代はポケベル全盛期だったかな。

 PHSも爆発的に普及した気もするが、すぐに携帯電話の時代になったような気もするので、このあたりの記憶は、あいまいだな。

 とはいえ、ポケベルもPHSも限られた業界では、業務用の端末としてそれなりの期間、使われていたんだったよな。


「ああ、彰、これ、持っておきなさい。文字も送れるらしいから、便利よね」

「ポケベルだね。ありがとう。大事にする」

 高校生ならあって損をする物じゃないから、この夢がいつ覚めるのかわからないが、ありがたく貰っておこう。


 それから、母親の車に乗り、懐かしの母校に向かって行った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公はかなり音楽に詳しく、そして幅広く演奏でき、DTMも趣味としているのですね。 まだ序盤ですが、音楽は大好きですので、これからの展開に期待しています。 [一言] その時代に存在したポケ…
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