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第一三四話 時間逆行者

 時間逆行者


 三月十一日の木曜日。

 年度末と言うことで、ブラウンミュージックも東大路グループも忙しくしている。

 そんな中でマギカのホムラが一人でミストレーベル企画室に訪ねてきた。


「あの……、桐峯さん、今良いですか?」

「ん、大丈夫だ。困りごとか?」

「ぬこぬこ動画って名前が胡散臭いって思うんです……」

「ゲホッ……ブホッ……」


 この時点では、まだ登場していないはずの名前を唐突に聞かされ、むせてしまった。


「ぬこぬこ動画が何か知っているのか?」

「まだ登場していない動画共有サイトですよね」

「もしかして……、ホムラは時間逆行者なのか?」

「そういうことになります。桐峯さんもですね?」

「ああ、俺も時間逆行者だ。何が目的で自らが時間逆行者であることを打ち明けたのかわからないが、友好的な関係になれるのならありがたいと思う」

「ありがとうございます。私も桐峯さんと敵対するつもりはありませんので友好的なお付き合いができたらうれしいです」


 話題が話題なので、ミストレーベル企画室からいつも使っている練習スタジオへ移動して会話をつづける。


「それで、改めて聞くが何が目的だ?」

「私は二〇一一年三月から一九九一年八月に時間逆行しました。時間逆行の原因は、おそらく地震の影響による津波に巻き込まれたことだと思います。桐峯さんは、いつから時間逆行したんでしょうか?」

「俺は、二〇二〇年七月から一九九五年四月に時間逆行した。原因は不明だがもしかしたらウィルス性の疫病が原因かもしれない」

「不明なのに原因がわかっているんですか?」

「ああ、俺にはテレビを見ながら寝落ちした記憶とウィルス性の疫病で入院している夢らしき記憶がある。どういうことかはよくわからないんだがどちらも現実だと思っている」

「……、複雑なんですね」

「時間逆行自体が謎な現象だからな。そんなものだろう」

「確かにそうですね。それで私は津波で亡くなっていると思うんですが、桐峯さんの記憶にもあの日の地震や津波の記憶はありますか?」

「あれは忘れられない記憶だ。あの悲劇を少しでもましにするのが時間逆行した俺の役目だと思っている。あの震災のことで何か知りたいことがあるのか?」

「私が住んでいた町とあの地震と津波の影響、可能なら私の身近な人たちの情報が知りたいです……」


 それからホムラの住んでいた街のことを聞き、地震から津波、原発や大まかな各地の被害状況など俺の知っている限りの情報を話していった。

 どうやら、ホムラの住んでいた街は津波被害が甚大だった街の一つだったようで、勤め先の同僚や一緒に暮らしていた祖父母の生存は難しそうだと思えた。


「あの時、私たちは、正常に判断をしていたつもりだったんですが、それでも地震の衝撃で冷静にはなっていなかったようで地震の後に津波がくることが意識から抜けていたようなんです」

「地震だけでも大きな衝撃だったんだ。そうなるのも仕方がないんだろうな」

「それに私が見た津波が本当に津波だったのか、今でも疑問に感じてしまうんです。それくらいに異様な水の壁だったんですよね」

「うーん、それは体験した人物、さらに言えばあの津波で亡くなった記憶のあるホムラだからこそ感じる疑問なんじゃないかな。あの津波に巻き込まれても九死に一生で生き残った人にはまた別の感想がありそうに感じる」

「確かにそうなのかもしれません。間違いなくあれに私は殺されたんですから異様に感じるのも当然なのかもしれませんね……」

「一通りは話したと思う。もし必要なら資料も集めているから見たくなったら言ってくれ。だが、気分の良い資料ではないからそれなりの覚悟を持って読んでほしい」

「わかりました。考えておきます。それにしても、あの地震は、これからの未来のことなんですよね。やっぱり起きると思いますか?」

「ああ、俺が時間逆行をしてからいくつか天災を観測したが、どれもほぼ同じに発生している。あの地震も間違いなく起きるんだろうな」

「桐峯さんが語ってくれた原子力発電所の事故も?」

「そちらは、東大路グループが全力で阻止をするように動いてくれている。絶対とは言い切れないが大丈夫だと信じている」

「東大路グループが動いているんですか?」

「いろいろあって俺と東大路の一人娘は婚約者の関係なんだ。それで東大路グループに未来の情報を流して動いてもらっている」

「それは驚きです……。私、時間逆行をした当時は、同一世界の過去に時間逆行したと思っていたんですが、桐峯さんが芸能界に現れた頃から並行世界にきたんだと思っていました」

「うーん、バタフライ効果って知っているか?」

「ブラジルで蝶が飛ぶとテキサスで竜巻が起きるとかの?」

「それだな。どうもこの世界には、俺たち以外にも時間逆行者がいるみたいで、何が影響してバタフライ効果が起きるか誰にも予想ができない状況だと思うんだ。だから同一世界でありながら並行世界でもあるって思っておいた方が何かあった時に気が楽かもしれない」

「確かにそうです。私と桐峯さんがいる時点で、まだいるのは確実だと思った方が良いですよね」

「日本では俺たち以外だと、この時間軸のぬちゃんねるの管理人マサトも時間逆行者じゃないかと思っている」

「え、ぬちゃんねるって言うとユキヒロじゃないんですか?」

「この時間軸では違うようだ。それとアメリカにCIAと関係のあるRって人物もいるらしい」

「そんなにいたら、私たちの知っている歴史と大きく変わるんじゃないんですか!?」

「俺の予想なんだが、誰もが大きく歴史が変わると困るようであまり積極的に変えようとはしていないようなんだ」

「確かに未来知識を使いたいなら、あまり歴史が変わりすぎると困りますよね……」

「それとRは、二〇一一年の地震の被害縮小と中国の躍進を抑えたいらしい。そのために東大路グループが力を持つことを支持しているところがあるように感じている」

「なるほど。それなら、東大路グループが多少大きくなっても問題はなさそうなんですね」

「そういうことだ」


 それから東大路グループが東北地方の工場などを北海道や九州に移しつつ、政治家に働きかけて災害対策を促していることなどの震災対策を話していった。


「今はまだ、具体的な人命対策ができていないんだよな。十年以上まだ時間があると言っても、そんなに悠長にしているわけにはいかないから困っているのが現状だ」

「なるほど……。手前勝手なんですが、私の祖父母が住んでいる街だけでも集中的に対策をしてみるのはどうでしょう?」

「比較的大きな街や被害が甚大になる予定の街の優先的な対策をした方が良いと言う案も出ているが、それだけでも数が多いんだよな。何の根拠もなくランダムに選ぶくらいならホムラの祖父母が住む街を優先的に選ぶのも一つの手だとは思う。東大路の者に話しておこう」

「ありがとうございます!」

「それと、折角だから聞いてみたいんだが時間逆行者が発生する原因とか推測でも良いから何か心当たりはないか?」

「そうですね……、桐峯さんの話と私がぼんやりと考えていたことを合わせると、ある程度の期間内に大人数が死亡した時に発生すると考えるのが妥当じゃないんでしょうか?」

「うーん、ホムラが亡くなったあの震災は、死者行方不明者合わせて一五〇〇〇人以上が亡くなっている。そう考えるのも妥当か」

「大人数が亡くなると時間逆行者が発生するとして、発生人数は比例しないとかどうでしょう?」

「確かに世界大戦やらの死者行方不明者の人数だけ比例したなら、かなりの人数の時間逆行者が発生していることになるが、実際は歴史を動かす程の人数は発生していないんだと思う」

「さらに言えば、アメリカのRとか言う存在は、実は秘密結社であまりにも目に余る行動をしている時間逆行者がいたら抹殺しているとか?」

「映画やドラマの中の話にしか思えないが、俺たちの状況がまさにそれなんだから、秘密結社が世界中の時間逆行者を監視している可能性も考えておいた方が良いのかもしれないな」


 それから、いろいろと現実的な話から空想としか思えない話まで、話し合った。

 正直言って、あまり時間逆行の詳細を考えないようにしていたところがあるので、ホムラの存在はこれから大きくなりそうだ。


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