第一三二話 愛媛の妹
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愛媛の妹
三月七日の日曜日。
この日本と言う国は、どうやら『だんご三姉妹』とやらに侵略されてしまったらしい。
歌のお兄さんたちが強すぎて辛い……。
だんご、だんご、だんごと愉快な歌がヘビロテしている俺の頭の中が心配になる今日この頃だ。
そんな中、俺が手掛けたエイコのアルバムが発売された。
シングル曲の雰囲気に合わせてプロデュースしたつもりで、良い仕上がりだと自画自賛している。
売れ行きも順調すぎるほどに順調なので、エイコのファンたちも納得してくれたと思っている。
川嶋愛菜は、エイコとの相性がかなりよかったらしく、このまま中学生の間は、付き人見習いとしてエイコから預かりたいと申し出を受けた。
エイコとしても、ある意味で場違いな中学生が近くにいることは、良い刺激になったそうで、助かっていたそうだ。
愛菜も気を許せる年の離れた姉の様な相手ができたのがうれしいようで、エイコの元でもっと勉強をしたいとのことだった。
とは言え、付き人見習いだけでは、訓練にならないのでヴォーカルトレーニング、楽器練習、作詞作曲法の勉強を平日にやってもらうことになった。
忙しい日常になるが、英才教育をしなければいけない愛菜なので、がんばってほしいと願っている。
アルバム制作中に、エイコの曲を何度も聞いていてわかったのだが、エイコはセルフコーラスやSEの使い方がとても上手く、機材の知識も豊富なのだと思う。
今回の仕事は、本当に勉強になった。
今のIT革命と呼ばれる時代は、情報技術だけではなく様々な技術が大きく向上する時代だ。
あまりに時の流れが速すぎて意識を切り替えるだけでも苦労する。
それなりの覚悟と準備をしてきたつもりの俺ですらこれなのだから、既存の形態でやってきたバンドがいくつも解散や活動休止に至るのもわかる気がする。
活動中止で思い出したのだが、ザ・イエローデーモンは、無事に事故もなく、ツアーファイナルの横浜アリーナのライブをもうすぐ迎えられそうだ。
だが、メンバーもスタッフも生きた屍のような状態だそうで、ツアーが終わったら活動休止するんじゃないかと噂が出始めている。
二〇〇〇年代で活動を休止する彼らだが、まだ数年先だったはずなので、休養期間に入るだけなのだろう。
さて、今日はかなり面倒な客を迎えることになっている。
もし胡散臭い相手に引き取られたなら、さらに面倒なことになる相手なので困ってしまう。
場合によっては飼い殺し状態にしなければならないが、まずは会ってみようと思う。
約束の時間になり、ミストレーベルの企画室のドアがノックされた。
合図を出して中に入ってもらう。
「桐峯君、連れてきたよ。面倒だろうけどごめんね……」
「水城の妹だからな。他人へ簡単に預けるわけにはいかない。気にしないでくれ」
「うん、それで……ほら、挨拶しなさい!」
「は、はい。秋山美奈です。よろしくお願いします!」
「じゃあ、まずは、ソファーに座ってプロフィールとかを見せてくれるかな」
そうして応接セットに腰を下ろし、水城が連れてきた彼女のプロフィールを眺める。
水城加奈の妹、秋山美奈のことは以前の俺の記憶の中にうっすらだがある。
確かMINAとかそんな名義で活動をしていたはずなのだが、具体的にどんな活動をしていたのかがあまり覚えていない。
現在中学三年生でこの春から美香たちが通う日輪学園の高等部普通科に進学するようだ。
姉が芸能界で成功をしたから、自分もと愛媛から東京へ出てきたのだろう。
顔も悪くないし、雰囲気も悪くはない。
プロフィールによると、民謡とピアノの訓練は幼い時からしていたようだ。
「改めてブラウンミュージックの桐峯アキラです。お姉さんとはこの業界で言うなら幼馴染で大親友って感じかな」
「はい、お姉ちゃんをすごい人にしてくれてありがとうございます。私もお姉ちゃんみたいになってみたいです!」
「美奈、桐峯君は、本当にいつも忙しいの。頼んですぐにどうにかしてもらえるほど暇な人じゃないんだよ」
「まあ忙しいのは事実だが、順番に話していこう。美奈さんは、歌手になりたいんだよね?」
「はい、お姉ちゃんみたいな歌手になりたいです」
「厳しいことを言うとお姉ちゃん、水城加奈は一人で十分なんだ。二人もいらない。どういう意味かわかるかな?」
「えっと……、お姉ちゃんと同じような歌を歌っていてはダメってことですか?」
「それもあるけど、姉妹だとどうしても声が似てしまう。その上で同じ路線の曲を歌ったならなおさらいらない。姿まで似ていたらもっといらない」
「……じゃあ、私は歌手になれない?」
「そんなことはない。まず、よく考えてほしい。一般人はこのビルのこの部屋まで辿り着けない。それで俺に会うことも難しい。まずそれだけで美奈さんは、運がある」
「運ですか……」
「えっとね。美奈。コネクションって言葉聞いたことあるかな? 美奈はコネクションを使ってこの部屋にきてお話をしているってことを桐峯君は運があるって言っているの」
「そう。俺はコネクション、コネを否定しない。使えるコネがあるなら使えばよいと思っている……」
俺が和楽器奏者の桐峯皐月の息子であり、妹が桐峯皐月の後継者になるために日々精進していること、母方の従兄にオペラ歌手でヴォイストレーナーがいることや父方の従妹に業界の偉い方に目を付けられた女優の卵がいることなどを話していった。
ついでに、姉妹での芸能活動をしている人たちを例に挙げて、その活動の難しさも説明していった。
「姉妹で活躍するのは難しいけど、コネクションは使える……、それが今の私の立場なんですね?」
「そう、いまの美奈さんがこの業界で仕事をしたいだけなら簡単に仕事をすることはできる。でも自分のやりたいことが出来るかと言えば難しい。少しでも自分のやりたいことがあるなら、自分の道を探さないといけないんだ」
「お姉ちゃんは、運があったんですか?」
「水城の場合は、運がなかったのが良かったのかもしれないな」
「うん、そうかもしれない。運がなかったから桐峯君が探してくれた気がするんだ」
それから、水城が東京へ出てきてすぐの頃、住み込みで入った師匠の家で飼い殺しになっていた話を聞かせ、そこから水城の快進撃もついでに話していった。
「お姉ちゃん、すごく苦労したんだね……。簡単に桐峯さんに会いたいって言ってごめんなさい」
「確かに東京にやってきたばかりの私は運がなかったと思うけど、桐峯君に探してもらえたのが私の一番の幸運なんだよね。タモさんに初めて会った時『君は運がある』って言われたのが印象深くて、本当に私は運があると思っているの。だから、この運は逃しちゃだめなんだといつも思っているんだ」
「そんな感じで、やる気だけでも生きていけないのがこの業界なんだ。まずは、テストを受けてもらって訓練生から始めてもらおうと思う」
「訓練生ですか?」
「美奈、訓練生ってのは、ここに勉強にきている一般の人たちのことで、ベルガモットとかが訓練生出身で有名かな」
「ベルガモットの後輩になれるんですね! わかりました。テストをお願いします!」
これでとりあえずは何とかなったか。
テストをスタジオでしたところ、あまり良いとは言えない結果が出てしまった。
音域が姉と比べて、上にも下にも狭く、テクニックでカバーしようとする癖があるようだ。
ピアノの腕も年齢からみて並みとしか評価ができなかった。
良いところは民謡歌手として評価したならほどほどなところと、声が姉と比べて素直な声をしているところだ。
これから東京でどんな経験をするかによって、彼女の今後はまだ大きく変わるだろう。
しばらくは訓練生と一緒に過ごしてもらって様子を見るしかないな。
今回のモデルの方は、ニコ動界隈から話題になった方らしく、現在はユーチューバーとしても活躍しているそうです。
動画時代の方と言う印象があり、今頃から準備をしてもらおうと思います!
それはともかく!
だんご、だんご、だんご……。
お前も団子にしてやろうかぁ!!